「いや~、偶然だねぇ。まさか同じ大会に出場するだなんて」
セイウンスカイは、そう言ってオレに笑いかけてくる。今日は彼女と昼食を共にしていた。
彼女が言う大会とは、今冬行われるジュニア大会の事だ。小学4~6年生が対象で、予選を挟んで出場者の規模は100人以上。
年代のせいもあって可愛いポニーちゃん達がひしめき追い駆けっこする絵面だが、ジュニア大会とて侮るなかれ。歴とした大会ゆえに、トレセン学園に入学する折に評価点となり得るから本気で訓練しているウマ娘達が集うのだ。
それもあってセイウンスカイが「まだ中央トレセンには行くつもりなのは変わってなさそうだ」と安堵すると共に、機嫌の良さそうな彼女を前に自然と口がほころんだ。
正直、こうして二人で昼食を摂れるような状況に戻れるとは思っていなかった。
「ちょっと。他人のポテト取っちゃだめでしょう?」
「ち、ちがうよキングちゃん! 食べきれないって言ってたから私が代わりに食べてただけで……」
…………いや、うん。二人っきりじゃなくて。ポニークラブや学友の中から、大会に出場予定のウマ娘達と囲んでるだけだけど。キングと猫目も相変わらずいる。
ボブヘア曰く、『これが私がつけてあげられる段取りの限界』らしい。
とはいえ、自然とテーブルが別れたから。こうやって対面して話せる。ありがたい話だ。
他のウマ娘達がわいのわいのと談笑しているのを横目に、オレはセイウンスカイに改めて話しかけた。
「私だって、本気でトレセン学園目指してるんだもの。こういう機会でセイちゃんやキングちゃん相手に見せつけてあげないと、ね?」
そう訊ねると、セイウンスカイは少しだけ驚いたような表情を見せた。だがそれは以前に見せてくれた柔らかい微笑みに上書きされた。
「あはは、ディオスちゃんって、やっぱり面白い子だよねぇ。てっきり自分より小さい女の子を可愛がるのがシュミのお姉さんだと思ってたけど」
「…………いや、私、恋愛は男の人としたい、かな……」
その辺りについては微妙な表情でそう答えると、セイウンスカイは朗らかに笑い始めた。
なんだかいたたまれない気持ちになったので本題を出す事にする。
「……以前みたいな付き合い方がしたい」
正直な心持ちを口にすると、セイウンスカイは優しく微笑む。
「恋愛は男の人としたいんじゃなかったっけ?」
食んでいたポテトが変なところに入って、むせた。
ケラケラ笑うセイウンスカイを横目に、息が落ち着いてからオレは再び口を開いた。
「以前みたいな、友達同士の付き合いがしたい」
セイウンスカイの耳がぴくりと動いた気がした。
「もちろん、キングちゃん達も一緒に!」
オレは、キングヘイローも視界に入れて、ハッキリと声を出してそう言った。
セイウンスカイはこちらを相変わらずの笑みで見つめていたが、すぐに頷いてはくれなかった。
「まぁ、たかだか数ヶ月じゃ変わりませんよね。そーゆー友人想いなところ」
何か言いたげにそう言って彼女は、ポテトを一本口に運ぶ。
「じゃあさ、こうしよう。ジュニア大会で順位が下の方が、上の言うことをなんでも聞く、っていうのは」
そんな提案を、セイウンスカイはオレに投げかけてきた。
「…………えっと、じゃあ。私が勝ったら、以前みたいな付き合い方、戻る?」
「そーだね。でもセイちゃんが勝ったら、どーしよ~かな~?」
彼女は企むようににっこりと笑いながらそう言って、こちらの反応を待っている。
「その条件、買った。元々、負けるつもりで挑むつもりはない」
それが、オレの偽りない本心だ。彼女は、そんなオレの反応を見て満足そうに頷く。
「ようやく、真っ当にこっちを見てくれそうだね」
彼女は、そう呟いた。……オレは、ずっと彼女を見ているつもりなのだが。
「そんでさ。もしセイちゃんと対戦するとしたら――どういう策戦で行くつもりですか?」
セイウンスカイは、そう訊ねてきた。オレは少し考え込んだ後、口を開く。
「手の内明かせって事?」
さすがに大会前日の内に、そういう事を話し合うのはよくない気がする。
オレは、少し考え込む事にした。
大会会場は本格的な競技場で、距離は1000m。競技場全体のおよそ半周とちょっとを使う。コーナーを一度だけ挟む短距離の区分。上り坂も下り坂も平坦な優しい部類。体力的にも配分的にも、へばらないようにするのが予選突破の最低条件だろう。
自分も、キングも、もちろんセイウンスカイも、そこは問題なくクリア出来るはずだ。
ならば問題は、どういう走り方でいくか、だ。「自分の一番好タイム出す走り方でいけばいい」なんて言うのは簡単だが。ライバルが複数人いるともなると、そういう訳にもいかないだろう。
出来る事ならば逃げや先行で行きたいところだ。差しや追い込みだと、多くの実力が拮抗している可能性もあって追い越しを狙える機会が少ない。せいぜい一回限りのコーナーでその機会があるくらいか。
「セイちゃんはね、大逃げも大逃げ。1000mでもヘバりそうなくらいの"バカ逃げ"でいきますよ」
オレが考え込んでると、いつもの飄々とした調子でそんな事を言ってきた。思わず面食らう。
「ウソついて謀る魂胆でしょ」
オレがそう言うと、セイウンスカイは首を横に振る。
「ううん、最初から先頭で突っ切っちゃう。ディオスちゃん相手には日和った戦い方なんてしない。"正々堂々"。三女神に誓って、『大逃げ』で戦うよ」
…………意図が全く分からない。戦う前から策戦を明かすなんて。対策立てられて不利に働くだけだというのに。
「ウソついたと見なされる走り方だったら、その時点で私の負けでいい」
セイウンスカイは、そう断言する。……そこまで自信をもって策戦を明かす理由は何なのだろう。
だが、彼女がウソをついてこちらを攪乱しようとする気配は見えなかった。ならば、こちらも正々堂々とその心意気に応えない訳にはいかない。
確かに、大逃げなんてされたら大いに調子を崩されるだろう。距離を詰める機を見誤ればそのまま勝ちに通される走り方でもあろう。
たぶん、その戦法を破ってみせれるかどうかの挑戦状だ。オレは小さく息をつき、口を開いた。
「じゃあ、オレが一番得意なやり方で対決させてもらう」
そう言って、オレはセイウンスカイを真っ直ぐに見据えた。彼女は、こちらの視線に少し驚いたような様子を見せたがすぐにいつもの調子に戻る。
そして、その口元は不敵に笑った。
「追い込み、って事だね。最後の直線勝負」
オレは首肯する。セイウンスカイはそれを受けて、少し長くなった自分の横髪を人差し指に巻きつけながら少し考えていた。
そうして一分も経たずに、彼女はこちらに柔らかい笑みを向ける。
「楽しみだね。大会」
その一言だけで、オレは胸が高鳴るのを感じた。
ファーストフード店で食事を終えて、それぞれ別れの挨拶を経て帰路につく。
「ボブヘアちゃん……本当にありがとう……!」
「いえ~……」
ボブヘアは、少し困ったような。しかしくしゃっとした笑顔で返してくれた。
ジュニア大会に出場しろというのも今回の食会の算段も、全て彼女の入れ知恵だ。
キングヘイローやセイウンスカイは元々ジュニア大会に出場しそうな手合いだが、オレはそうではない。練習には打ち込んでも、そういう大会がドコでいつ開かれるという情報を仕入れるに疎い。
こんなオレに、セイウンスカイがジュニア大会に出場するという話を流して来てくれたのだ。自分達が所属しているポニークラブのメンバー複数が出場する話題の時に、自然な形で。
ボブヘアは、自分よりも一歳年下の四年生なのに本当にすごい。彼女が居なければきっと、オレはセイウンスカイとまともに話も出来なかっただろう。
そしてふと。彼女と同年の、猫目の方に目が行く。
「………………」
とろんとした目のまま、空になったジュースのストローを齧りながらボブヘアと私の話を黙って聞いている。
猫目も、ジュニア大会にエントリーするらしいが。どうにも覇気がない時がある。この様子はこの前からずっとだ。
「ボブヘアちゃん。アレ、思い当たる事ある?」
私がそう訊ねるとボブヘアは、少し考えた後、ぎこちなく笑んだ。
「あはは……大会の予選日って、クリスマスイヴでしたよね~」
「あー、うん」
そういえば、そうだった。ちょうど土曜日だから保護者共々休日の取りやすい日だが。
「猫目ちゃんと二人か、キングちゃんやディオスちゃんを混ぜた四人で遊びに行くのが毎年恒例だったから~……たぶん、それでじゃないかなぁ~……」
…………。
「……なんか、ごめん」
思わず謝っていた。ボブヘアは、そんな私を見て小さく笑う。
「いいえ~、大丈夫ですよ~。猫目ちゃんも参加して結局四人で行事参加してますし~。皆が仲良しに戻れるなら、それが一番ですから~」
ボブヘアはそう言って、穏やかに微笑んでいた。
挿絵の具合
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ヨクナッタヨ!
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フツウダヨ!
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ヨクナイヨ!
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ワカンナイヨ!