……ウマ娘とかいうのに転生した件について。   作:稗田之蛙

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予選

 クリスマスイブ。世間では恋人達だとか、家族と過ごす日だとか、そういうイメージが強い。

 オレ達にとっては違う。今後の岐路にも関わるかもしれない闘いである。

 同世代やその前後との実力を測る大会。その前哨戦だ。

 ジュニア大会の予選が執り行われる。そこから一着の者ずつ、本戦出場の切符を手に入れる。

 同じ予選に出る者達は、いわばライバルだ。睨み合って火花を散らし、啖呵を切っても許されるだろう。

 

 

 

「はーい、笑って。撮るよー!」

「は~い!! えへへ~♪」

「ディオスちゃんもわらって、笑って! ほら!」

 

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 ………………なんでそんなライバルと手を繋いでスタッフさんの記念撮影に興じてるんだろうオレは。

 

「っていうか三人揃って同じ衣装ってどうなのよ」

 体操服に準ずるものならある程度自由とはいえ、示し合わせて衣装揃えるのはハズい。猫目の楽しみを潰した手前だから聞き入れたけど。

 

 …………いや、まぁ、ウララのおかげもあってか。この子の多少気が紛れたようでよかった。

 

 そんな事を考えていると、猫目はオレの文句にやれやれと言いたげな顔をする。

「髪飾りもウララちゃんと一緒のにしよー、って言ったのに」

「同じアクセサリーってなんだか仲良しっぽくていいよね~♪」

 猫目とウララが自分の頭につけた白いリボンとピンクのイヤーカフ。そして赤いハチマキを指差して言う。

「二人とも髪色が近いのもあって似合ってるね」

「でしょ?」

「えへへ~♪」

 オレが感心したように言うと、ウララは嬉しそうな顔を見せた。

 オレは思わずため息を零す。確かに可愛らしい。そこは否定しない。

 

 だが、オレに可愛いのは似合わない。タッパがデカいからそういうキャラではないし、そもそもそんな器用さはない。

 オレの気持ちなど知る由もなく、猫目もウララも「今からでもつけてみようよ~」などと笑い合っている。

 その提案におおいに悩む素振りで視線を泳がせ、他の予選グループに目をやった。体躯の小ささから、四年生が固まったグループだろう。

 

 

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「…………お洒落なヤツが多いなぁ」

 耳飾り。頭飾り。いわれてみれば、それぞれ個性あるアクセサリーを付けている。

 なるほど、アイドルという側面もあるからファッション性への意識が高そうだ。着けてない自分の方が稀なのだろう。

 あの子達くらい洒落っ気を意識すべきなのかもしれない。そう思い、猫目やウララの方へ向き直った。

「「……♪」」

 二人ともニコニコしながら、可愛らしいイヤーカフやリボンを手に構えていた。やっぱ、可愛いのはオレには無理。ごめん。

「私達のどっちかが勝ったらディオスちゃんも着けてね~?」

 なんか賭けが増えた。

 

 

 

 そうして他のグループの対戦が終わり、自分達の番が来る。

「それでは、ジュニア大会予選、第8グループ。ゲートに入場してください」

 係員の誘導に従い、ゲートに入る。

 ゲートの中に入り、スタッフの演奏する戦いの始まりを奏でるファンファーレが鳴り終わるのを待つ。

「はわわ、緊張する~……」

 同じくゲートに入ったウララの方から、小さな声が聞こえてくる。ウララは、ゲートを使った本格的なスタートに慣れてないようにうかがえる。

 ゲートの隙間から見える様子や、息使い。身じろぎ音。短い時間でそれらを調べられるだけ、調べる。

 

 自分のゲート左右にいる子は猫目含めた四年生。この子達もゲートを使った訓練をまだ慣れていないだろう。土を掻いたり息が荒かったりと、集中出来ていない。緊張している。

 そりゃそうだ。四方金属に囲まれて閉所に押し込められている状態だ。タイミング間違りゃ鼻頭を鉄柵にぶつける始末だってあり得る。よほど豪胆なヤツじゃなきゃ、慣れてない内は怖くて当然。オレは彼女達が情けない事だと思わない。

 

 ――――初速は様子を見るより、突っ走り気味にやった方がいい。

 

 だが情けないと思う事とは別に、シリアスに、直感的にそう思った。そしてファンファーレの演奏が終わり、スタートの予兆。ゲートが開くと同時に、オレはゲートの外へ一歩飛び出す。

 

「うわわっ」

 ウララが驚いて小さく悲鳴をあげる声が聞こえた気がした。しかし五年生、六年生はそれが要因で出遅れたといった様相はない。特に六年生組は、初動の先頭争いを繰り出し始めた。

 

 ――クリスマスムードも構わず競走大会出る勤勉な先輩がたなだけあってスタートが堅実だなクソ!!

 

 スタートダッシュに慣れてない後輩の出遅れに囲まれず、突っ走り気味にそこを抜け出す。

 内気味に入り、目の前に見える先頭と二番手。体躯のよさから六年生か。先頭争いで二人でイチャイチャ競り合って、ぐんぐんと後続を引き剥がして距離を空けかけている。

 あの先輩がたが考え無しのバカで後半へばってくれるのならそれでいいが、息が乱れている様子がまだ見えない事からして、単純純粋確実に実力巧者。1000mのスタミナ配分も覚えてるであろうか。

 

 ――いくら後半戦に自信あろうが、真後ろ気味につかないと巻き返し無理だなコレ。

 

 即座にそう判断して、二人の後ろに取り付けるように加速する。

 同じく判断しただろう同年が横につき、後ろにつき。そうして六年組先頭争い、五年組先行ポジションといった形で序盤のレース展開が作り上げられつつあった。

 先頭争いを抜け出した六年組二人が、右回りのコーナーに入っていく。六年生側のペースが思いのほか速かったのか、横についていた外側の五年生がスピードをあまり押し殺せず、外へと大きく膨らむ。

「――――――ッッ!!!」

 それを視界に入れながらオレはギギギ、と歯を食いしばり。曲がろうとする第一歩、左足にメイイッパイの負荷をかける。内側の柵スレスレ、肩をぶつけそうになるほど貪欲に張り付く。

 

 ――スピードを出来る限り落とすな! 内ラチを譲るな!!

 

 真後ろに張り付いているであろう同年の輩が虎視眈々と狙っている気配をビシビシと感じるぜ。一回限りのコーナータイミング。変なタイミングで体をねじ込まれれば、下手すりゃそのまま頓死が目に見える。

 左足が痛む。軋む。そりゃそうだろう。こんなガキ同士の駆けっこでも自転車以上のスピードが出てんだぜ。頑丈堅牢なタイヤのゴムが摩擦熱で溶けて、アスファルトにその負荷の証を刻み込むのと同等かそれ以上。可愛い可愛いポニーちゃん達の細足にかかってんだよ。コーナーを曲がる時とブレーキかける時に顕著にソレを感じられる。クソが!! 馬の時に蹄に鉄つけられてた理由がよくわかるぜ!! 比較的整ったフワフワ芝生の上でさえコレかよ!! 野良レースとか体でアスファルトの上で何十キロも出す姉ちゃん達は気でも狂ってんのかッッ!!

 痛みに顔を顰める。後続の足音が大きく聞こえる気がする。脚に力が入る。踏み出す一歩が、芝を踏み砕いてそのまますっ転ぶじゃないかという勢いで蹴っ飛ばす。

 

 ――まだ六年生組の真後ろ。まだ先頭争いは続いてる。まだ三番手。まだコーナーは続いてる。我慢だ、我慢しろ!!

 歯を食いしばり、痛みに耐えながらコーナーを曲がり続ける。

 

 コーナーが終わりに入る頃、六年生の先輩がたが二人っきりでの勝負を謳歌し、まるでこのレースの主人公が自分達であるかのような振る舞いを見せている。

 実際、この先輩さん達の走り方は優等生そのものだ。ぜってーにここからガス欠なんてしない余力さえ感じ取れる。

 小学生の一年差でこんなに身体能力の差が開くかよ、ってな感じだ。成長期真っ只中って半端ねーぜ。マジに純粋な直線勝負なら何のやりようもなく負けてただろうよ。

 

 

 コーナーが終わるその瞬間。横並びになっていた先輩がたはゴールに向けて"綺麗に曲がるはず"だ。

 曲がるタイミングこそは、優等生だからこそ"極端すぎるインコース"なんて狙わない。んな事してレース全体ブチ壊して後続に迷惑かけるなんてダセぇ真似はアンタらしないって信じてるぜ。

 だから"決め打つ"。一芸しかない若駒が格上に勝つにはそれしか方法がない。

 

 

 コーナーが終わり、内側を走ってる先輩と柵の間に一人ねじ込める隙間が開いたのが見えた。

 

 

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そこだ。

 

 

 オレは前へ進む足を思いっきり踏み切りながら体を前に倒しこむ。一瞬前傾姿勢になった時、コーナーの終わり際、遠心力で体が外に持っていかれそうになりつつも、それを耐えて耐える。

 スペースを抉り込むように、オレは内側へ一歩突き進む。後方で息を呑む気配がした。オレがその狭い隙間を潜り抜けようとするその瞬間、先輩がたは接触しないように気を配ってくれてる気配すらあった。

 こんな無謀な選択をする者が居ると思ってなかったのだろうよ。強引にこんな狭ぇ隙間入り込んで来る危なっかしいヤツがいるなど思ってもなかったんだろうさ。

 そりゃ、そうだろう。ポニークラブのコーチはそんな走り方教えねぇし、自発的にやってくる輩もほとんどいねぇ。だからアンタらがビックリするのは当たり前だろうさ。やらかすオレがここにいる。

 オレはその狭ぇ隙間を無理矢理潜り抜けた。自分の足に感じた痛みを無視し、加速する。レース全体を通して、一番得意な直線勝負。

 前方に障害物なし。視界良好。横には格上二人。最後の直線勝負だ。

 最終直線1ハロン(200メートル)。オレは息を思い切り吸って。吐き出すのも忘れて。ひたすらに足を前へ前へ。

 無理な急加速に肺が悲鳴をあげる。頭がハイになって視界が軽く明滅する。――気持ちが良い。この瞬間が好きだ。ランナーズハイっていうのか?

 コーナー終わり際の無茶なムーブで稼げた有利はおそらく2馬身(0.4秒)。着差に置き換えれば実力負けした時に生じるような大きな差だ。

 

 それが、稼げた。序盤に生じた差が、埋まった。

 

 あと、100メートル。頭ン中に思い浮かぶのは、四年生が固まったグループが皆が楽しそうに走る姿だ。

 あのように走れればどれだけ可愛げあるだろうか。死に物狂いで走っている姿は、他人からはどんな風に映っているのだろうか。

 レース中にも関わらずそんな事を考えてしまったのは、視界の端に映る先輩がたの顔がオレを一着と争う「敵」として見なしてくれていたからだろう。

 

 ――たまらなく、嬉しい。

 

 胸中でそう呟き、オレは走る。脚が軽い。いつもより速いかもしれない。

 ゴールのゲートが見えた。残り50メートル辺りだろう。最後の最後まで競り合った末の決着だ。接戦だったからこそ、格別なものがある。トレセン学園での公式戦でなくとも、価値がある勝負だと感じた。

 

 歯を食いしばったままゴールラインを通過する。三人の内、誰が一着だかなんて確認する余裕はなかった。そのまま勢い余って前のめりに倒れ込みそうになる。レースの疲労と、最後の無茶な加速の所為だろう。

 速度を緩めて、横を見るそこには同じく息も絶え絶えな六年生の先輩方がいた。オレと同じく、ゴール後のクールタイム中のようだ。

「…………」

 行儀の悪いコーナリングに叱られるとバツが悪くなってきたが。先輩がたはオレを見て、レースの結果には触れず、ただ一言だけ――

「コーナリングすごい上手だったね! キミ!」

 その一言に、オレは思わず毒気を抜かれる。嫌味無しの賞賛に。ただ走り方についての褒め言葉だけがかけられた。先の四年生グループのように。楽しげな笑顔で。

 

 ――ああ、そうか。このウマ娘達にとって……本気で競い合う事ってそういうものなんだな。

 

 その時、オレはそう理解した。速度を緩めた歩行をしながら、彼女達へ大きく頭を下げた。

 予選だと侮らずに、本気で走っていて良かった。

 そうして、息を整える内にウララ含めた他の者達もゴールに辿り着く。

「も、もうムリぃ~…………」

「つかれたつかれたぁ~~!」

 ……なんか猫目とウララが弱音を吐くような事を言いながらヘロヘロとゴールラインに辿り着いてるのが見えた。

 たぶん、配分間違えたんだな。あの二人。

 ウララは地面に倒れて喚きながらも、掲示板を視界に入れた。不満げな顔が、パッと明るくなる。満開の笑顔。

 

「みて、猫目ちゃん!!! 一着!!」

「えー、私らは一着どころか掲示板入りなんてしてな――――」

 

 猫目はウララの歓声に反応して、掲示板を見て自分の順位を確認する。

 そして一着の欄の番号。同じように満開の笑顔になっていく。

 

「おめでとー!! ディオスちゃーん!! 一着だってーー!!」

 二人は満開の笑顔でそう喜び、ウララは立ち上がりながら満面の笑みでこちらに近寄ってくる。

 オレは、拳を突き上げて、歯を見せて笑った。

 

 ……気分爽快だ。トレセン学園での公式戦ではないとはいえ、やはり勝つのは気分が良い。

挿絵の具合

  • ヨクナッタヨ!
  • フツウダヨ!
  • ヨクナイヨ!
  • ワカンナイヨ!
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