「こう、最後はばーっ、って走り込んでてさ。我ながら最高にカッコイイ場面だったと褒めてやりたいくらいだぜ」
「はいはい、ちゃんと観てたわよ」
予選翌日のクリスマス。お揃いのパーティードレスに身を包み、オレはキングヘイロー相手に自分の走りについて熱弁していた。雪降る街中でもレースの熱を冷めやらぬ。
キングヘイローに感想を聞きたかった。彼女はオレというヤツをよく理解してくれているから、走りについて客観的な意見をくれる。
「行儀のいい走り方とは言えないわね。勢い余って進路妨害なんかしたら、降着モノよ?」
……実際、その意見も正しい。相手の品行方正に漬け込んだラフファイトで勝ったようなものだ。ゆえ、オレはぐうの音も出ない。
「でもそうならずに一着獲れたのは褒めてくれたっていいじゃないか……」
そう、オレは唇を尖らせて不満げに言う。キングヘイローは考え込んだ顔をしてから、フッと笑うように言った。
「そうね。……六年生相手にやってのけたのは、上出来よ」
オレは思わず顔を綻ばす。
「だろ? もっと褒めてくれてもいいぞ?」
「調子に乗らないの」
そうキングヘイローは一喝して、そっぽを向いた。
今日のクリスマスは、昨日遊べなかった分の穴埋めでもある。
特に猫目は、毎年イヴにボブヘアやキング達と遊ぶのを楽しみにしていたようで。『クリスマスは四人でどこか遊びに行こう』とキングの方から持ちかけると、二つ返事で了承してくれた。
「そういえば去年のイヴはディオスさんは居なかったわね」
「まー、吹雪で飛行機出られなかったからな」
オレは肩を竦めた。去年牧場で出会ったウマ娘の事まで話を広げられそうだったが、その事について思い返したくなかったのでやめておいた。
「キングもセイちゃんも予選勝ってたな」
キングヘイローが出走した予選は、当然の如く一着を勝ち取っていた。身体能力に格上であろう六年生が何人も混ざっていたのにも関わらず、だ。
「一流のキングにとって勝利は当然ですもの。お~っほっほっほ!」
オレが褒めるとキングは高笑いする。調子に乗るなと言った手前でコレである。実際、すごいと感心出来る事だから野暮な突っ込みはしない。
その高笑いが収まると、オレは神妙にため息を吐いた。
「ポニークラブでの練習や個人的な遊び除けば、公の場で対戦するのはこれが初めてか? その、オレとキングの試合」
そう言ってオレは顔を向ける。キングヘイローはしたり顔の笑顔でこちらを見ながら、意味ありげに呟く。
「緊張する?」
オレは、キングヘイローに向き直る。そして、彼女の目を見て、言った。
「いや、すげー楽しみだ」
そう言葉にすると、キングヘイローがちょっとだけ嬉しそうにしている様子が見えた。
「貴女は私相手にメイクデビューで決着つける事にこだわっているけど、私は別にジュニア大会からそれを始めても構わないのよ?」
キングヘイローはそんな風に言う。
「貴女にとって、前世のキングヘイローへの惜敗はそれだけ大きなものだったって事は理解しているつもり」
キングヘイロー――彼女は、オレが前世のキングヘイローに対して並々ならぬ感情を抱いている事を知っている。
そして、その感情に区切りをつける為に、今世では『"メイクデビューで"キングヘイローとの勝負にリベンジをつけたい』というオレの思惑も理解している。
だからこそ、今の今まで練習や遊びでの一勝一敗を大きく取り上げてこなかった。お互いに。
「それで何かが変わるわけでもないだろう」
オレはそう返す。
「そうかしら?」
キングヘイローは、目を細めてオレの顔を見据える。
「そうさ。遊びや練習含めたら対戦戦績は470戦中、50戦はボブヘアと猫目。200戦はオレの勝ちで――」
「199戦」
「…………」
オレはキングヘイローの訂正に、思わず口をつぐむ。
「420戦内199勝221敗。そこに一戦加わるだけ。違うか?」
オレが訂正通りにそう申告すると、彼女はまた意味ありげにこちらを見つめてきた。
「その一戦は、私にとって大きく意味があるものだわ。とてもね」
そう、キングヘイローは淡々と告げる。そこに怒りの感情は感じ取れなかった。ただ、彼女が思っている事を語っているのみのだろう。
オレは、彼女のその態度が意外だった。
「たぶん、セイウンスカイさんにとっても」
なんか付け加えられた。
「……なんでそこでセイちゃんが出てくるの?」
オレの問いかけに、彼女ははしごを外されたように驚いた顔をする。
そうして、盛大なため息を吐いてから、頬を軽くつねってきた。
「い、いたひ」
彼女は、無言でつねるのをやめない。オレの情けない声でますます不機嫌になっていくようだった。
どうやらオレは本当に言葉を間違えたらしい。
「……なんの為に一年下の子に頼み込んだというの? 貴女は」
そう言って、彼女はつねるのをやめた。
つねられていた頬を軽く擦っていると、彼女は真剣な顔でオレを見つめて、口を開く。
「仲違いした友人と仲直りする二度目のチャンスがあるだけでも奇跡なのよ。言葉にはよく気をつけなさい」
まるで親のように、彼女はそうオレを嗜めた。
オレはまた口を閉じる。言いたいことが沢山あるのに、言葉が見つからない。もどかしい気分だった。
思えば、もう仲直り出来たような気分になっていたが。事態はボブヘアに頼む前とそう変わっていない気がする。
「セイちゃんには一つプレゼントでも買ってみようかなぁ」
オレはウマ娘向けの洋服店を視界に入れながら呟いた。太陽の髪飾りなんて、また買ってみても良い気がする。
「そういえば、ディオスさんはそろそろ耳飾りを見繕ってもいい時期じゃないかしら」
キングヘイローがそう切り出す。オレは自分の耳に手をやって、耳元を撫でた。
「あー、そういえば昨日もそんな事考えてたな……」
キングヘイローは、そんなオレの仕草を見て、少し笑う。
「この後四人で買いに行く? セイウンスカイさんへのプレゼントだって、その方が建設的かもしれないわ」
「あー、そりゃ助かる。どんなもんが流行りで喜ばれるのか自信ないから」
オレは、そんな事を語り合いながら、ボブヘア達との待ち合わせの時間までキングヘイローと店内を軽く見回る。
「うーん……プレストちゃんへのお祝いに何を買えばいいかしら……」
…………なんかひいじいちゃんもといマルゼンスキー居た。