……ウマ娘とかいうのに転生した件について。   作:稗田之蛙

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ディオスの行動:
(5) 約束を違えて前方を狙う(逃げ・先行)
(58) 約束通りに後方を陣取る(差し追い込み)

⇒約束通りに後方を陣取る(差し追い込み)


ONE TO ALL

 オレ達を称えるファンファーレの音が聞こえる。もうじき試合が始まる。

 そしてその熱意の矛先は、全てゴールへと向けられている。

 人数は12人。その中には六年生の中でも私以上に体躯の良さが突出した子もいれば、まだ四年生の身の上で年上達を蹴散らして決勝にあがってきた小さな勇者も混じってる。

 キングヘイローやセイウンスカイ以外に負けても、それどころかこの中の誰もが一着を取ってもおかしくない試合。

 大丈夫か? オレよ。

 

「……大丈夫。その人達にかっ攫われたって私は恨み言は言わないよ。それでこそ正々堂々の真剣勝負」

 

 そうさ。勝っても負けても、ここが私の人生のメイクデビュー(初舞台)だと決めたんだ。

 

ウマ娘とかいうのに転生したと思ったらキングヘイローの取り巻きになるのも危ういかもしれない件について。

 

 決して、スマートな勝算があるとかじゃない。でも全員の予選をちゃんと観ていたから、それぞれがどんな戦い方をするか、ちょっとだけ知ってる。

 私の武器は、他の子よりレースへの考え方がずる賢い事だと思う。あと格上にだって通用する直線での足の速さ。

 

 勇敢なファンファーレは粛々と演奏されていく。そのリズムに合わせて、心臓の鼓動が熱を帯びていく。

 私は、短い時間の間に周囲を見渡す。

 ゲートは6番のど真ん中。本来内側が好きなのだけど、今回に限っては逆に良い位置だと思えてくる。

 

 先頭が大逃げないしハイスピードの展開にすると、必然的に群が縦に伸び易い。

 その展開で一番最悪なのが、その群の中団内側に位置取ってしまい、四方八方を他の子達と柵で取り囲まれる事だ。

 いつ接触するか分からないプレッシャーと、強制的に周囲のハイスピードに併せなきゃいけない二重苦。先に行きたくてもスピードを出せないし、疲れてもスピードを緩められない。

 

 群の少し斜め後ろで、息を潜めながら抜き去るタイミングを探るのがベストだろうか。

 最初は、やはり『後方群から様子を見た方がいい』という考え方は変わらない。差しなり追い込みなり。予選とは逆に、執拗に内ラチを狙う必要性は薄いのだろう。

 

「……」

 

 一つの懸念は、いざ勝負する時に眼前の選手達の立ち回りに運命を左右される事があるという事。率直にいえば、進路を塞がれたら大きく外側に舵を切らざるを得ない。最悪は頓死。こればかりは、追い込み型の宿命でもある。

 ……キングちゃんは、差しで来るだろうか。先行で来るだろうか。大穴で逃げっていう可能性もありうる。

 優勝出来なかったとしても。せめて、彼女よりは前に行きたい。

 

 ファンファーレが鳴り止む。スタートの予兆。私は、前傾姿勢をとった。

 その直後、ゲートが開く。

 観客席からの熱と歓声が、まるで地鳴りのように私の体を揺さぶった。

 

 私は、スタートダッシュを華麗に決めたつもりだったけど。

 他の選手達も、私より一瞬早く動き出していて。

 出遅れた子が一人もいない事もあって、私が前方に躍り出るなんてのは難しそう。でもそれは想定内だ。

 後方を走る子の後ろにつく形で、最後方からレース展開を伺う事にする。

 セイちゃんは私との約束通り、大逃げの兆候を見せた。

 

 観客がどよめき、またも歓声があがる。それはセイウンスカイへ向けられている。二番手の子と何馬身も差をつけようというぶっ飛んだスタンドプレーに沸いた。

 予選落ちした子達ならそのままわけもわからず取り返しのつかない距離を稼がれてしまうのかもしれないけれど、さすがは勝ち抜いてきた猛者達だ。

 彼女を行かせまいと、それぞれが速度をあげていく。

 ここからは、バ群が縦並びになっていく展開のはず。私は道の真ん中の位置をキープし、速度を皆に合わせながら彼女達が整列するのを待った。

 

 

 ……おかしい。

 

 私がそう思ったのは、1ハロン(200m)を走った目印が目に入り、コーナーの直前に入りかけた頃だ。

 大逃げするセイウンスカイのすぐ後ろ、それを逃すまいとキングヘイローが控えている。

 それはまだいい。彼女の実力なら大逃げ一辺倒で好き勝手させないだろう。他の皆も後方に食らいついている。

 ジュニア基準の1000m。コーナーに入る直前ならば、それぞれが自分の得意な好位置を陣取ってる頃合いだ。大逃げでポジション狙いが乱れた? いや、そうだったとしてもペースが速いから縦には伸びる。

 最初のコーナー曲がって、2ハロン。

 その合間に何人かが大きく膨らんで、おそらく外から追い上げる事を狙い始めている。この段階でそれをやるなんてそれなりのロス行為であるはずが、先行組とそんなに距離は離れていない。

 いや、むしろ横一線に――。

 

 

【挿絵表示】

 

 

  

壁。

 

 最終コーナーの曲がり角――もうすぐ3ハロン突入。遅い!

 何秒で到達した?

 ハイペースじゃない! むしろ超スローペース!! 

 確かにセイウンスカイはバカ逃げをやってみせた!

 最初だけ!!

 ふっかけられて釣られてるヤツと速度に気づいたヤツで縦に伸びずに群が別れた!!

 スタミナ切れで失速?

 "あのセイウンスカイ"が200m程度のバカ逃げでそんな事が有り得るわけない!!

 そんな訳がない!!

 

オレやキングヘイローが掛かり気味で暴走した時でさえ2か3ハロンまでは持つ!!

 その程度は"セイウンスカイのスタミナなら余裕でやってのける"

 だからこのレースは最初から最後まで大逃げでやりきるつもりがなかった!!

 何の為だ!

 何の為にそんなまどろっこしい事を!!

 

 

 

『ううん、最初から先頭で突っ切っちゃう。ディオスちゃん相手には日和った戦い方なんてしない。"正々堂々"。三女神に誓って、『大逃げ』で戦うよ』

 

 

 

 なんで、オレに明かした?

 何故、オレにだけ打ち明けた?

 そりゃ、大逃げなんて宣言されたら――場が大荒れになると思うから、最大限その被害受けない最後方に――。

 

『……私は忘れてないよ。"大逃げ"でやるっていう約束』

 なんで念押しした?

 

『でもね。こっちが勝手にそうやるだけだから。そっちは約束通りじゃなくても、負けじゃないからね』

 

 なんで、こっちが約束通りにやらなくても、負けじゃなくてもいいって、言った?

 

『じゃあさ、こうしよう。ジュニア大会で順位が下の方が、上の言うことをなんでも聞く、っていうのは』『ようやく、真っ当にこっちを見てくれそうだね』『そんでさ。もしセイちゃんと対戦するとしたら――どういう策戦で行くつもりですか?』 『セイちゃんはね、大逃げも大逃げ。1000mでもヘバりそうなくらいの"バカ逃げ"でいきますよ』『ウソついたと見なされる走り方だったら、その時点で私の負けでいい』『追い込み、って事だね。最後の直線勝負』

 

『楽しみだね。大会』

 

 盤外戦術。

 セイウンスカイが勝負を仕掛けてきたのは、このレースが始まった時じゃなくって。

 あの時に、お互いの戦術を話し合ってた時から、もう始まってて。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがと。ディオスちゃんの大事な戦いにセイちゃんを混ぜてくれて』

 

 

 

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