「あ、あはは。これさ、スポーツ漫画にありそうな展開だよね。……こういう、競技の対する主義主張で一旦喧嘩するのってさ」
あの後、三人で閑散としたベンチに移動してから。猫目ちゃんそんな事言い出した。空元気が丸出しの、無理した笑顔で。
ボブヘアちゃんは、ただ黙って彼女の横で座っている。
「でもさ、そういうのって。大概、こう、なんか良い感じに仲直りするじゃん!!」
猫目ちゃんがそう言って、私に顔を向けてくると、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、私に訴えかけるように続けた。
「こう、キングちゃんもさ! 一回大喧嘩しちゃったけど、でもあん時は仲直りしたじゃん!! だからさ、セイちゃんとも、きっと!!」
猫目ちゃんは、そう言ってボブヘアちゃんに同意を求める。ボブヘアちゃんは、ただ黙って猫目ちゃんの手を握った。
「……どうしてですか~?」
ぽつりと、ボブヘアちゃんがそんな事を呟いた。猫目ちゃんはキョトンとした顔で、その声を聞いている。
ボブヘアちゃんは続ける。
「……なんで、こんな結果になってるんですか~?」
わなわなと、ボブヘアちゃんは肩を震わせている。今まで見せた事もないような表情で。
私は、何も言い返せなかった。たぶん、キングちゃんが「私は賛成できないわ」と危惧していたのは、こういう展開に対してだったのだろう。
確かにそうだ。ボブヘアちゃんは、優しい子だから。ヘマを打った時は、彼女にこんな顔をされるって予想すべきだった。
軽蔑。失望。そんな生易しいものじゃないかもしれない。
ボブヘアちゃんは、私に対して強い怒りと悲しみの感情を抱いているようだった。
「…………なんで、何度も人を傷つけて、平気なんですか~?」
ボブヘアちゃんはギリギリと歯ぎしりをしながらそう言った。涙がぼろぼろと落ちるのに、彼女はそれを拭う事もしない。
たぶん、私をわざわざ大会に招いたり。仲立ちしたりしなければこんな事にならなかったという自責の念が彼女を苦しめているんだろう。
いっその事、彼女の気が済むまで罵ってくれたら、私だって彼女に対する罪悪感は薄れるかもしれないのに。
予想通り、優しい彼女はそれ以上罵ってくるわけでもなく、殴りかかってくるわけでもなく。ただ20秒ほど睨み付けてから、私に背を向け、そのまま立ち去っていった。
「あ……え……あ…………」
猫目ちゃんは。ただ口をぱくぱくとさせて。私とボブヘアちゃんを交互に見て。最後に、私に目を向けた。とても悲しげな目で。
「……ごめん!」
猫目ちゃんは、ボブヘアちゃんを追って駆け出した。
「あ、おねえちゃーん! まだきがえてないのー?」
会場外の駐車場の方で待ち合わせていたはずの弟が、お母さんとお父さんを連れ添って迎えに来てくれた。
その傍らには、少し前から付き合いがある一年生の女の子がいた。その保護者の母親もいる。
「ふふふ。お姉ちゃんはね、きっと疲れてるのよ」
お母さんがそう言って、弟を抱き上げた。弟はお母さんの腕の中で、私に向けて手を振っている。私はそれに手を振り返した。
女の子の方が、彼に負けじと私の所まで歩み寄ってきて、足に抱きついてきた。
「わたしたちね。いっぱいね、いっぱい! おうえんしたんだよ!」
そう言って、女の子は私に笑いかけた。私はその可愛らしい彼女に笑顔に返す。
「そっかぁ……ごめんねぇ。せっかく皆が応援してくれたのに、お姉ちゃん。掲示板にも入れなかったや」
私は、女の子の頭を撫でた。彼女は嬉しそうに目を細めると、また私に向けて笑いかける。
「謙遜しないの。予選通るだけでも、ものすごいんだから」
お母さんは、私の事をそう言って励ましてくれた。
「あぁ、そうだ。お姉ちゃんね、可愛い恋人さんにクリスマスプレゼント買っちゃったんだ~」
私は、そう言って。予め用意しておいた包装された小包を取り出して女の子に手渡した。
「ほ、ほんと?」
彼女はそれを嬉しそうに受け取ってくれた。弟はびっくりしながら、何か言いたげにこっちを見ている。
「あはは、そっちにはクリスマスの時に渡したでしょー」
そう言って、弟の頭を撫でた。弟は渋々納得したのか、それ以上何も言ってくる事はなかった。
女の子は、包装紙を丁寧に開けて、中から出てきた小箱を取り出した。女の子はその箱を慎重に開けると、蓋を開けた瞬間に中身のソレを見て目を輝かせる。
「かみかざり!」
箱の中に入っていたのは、髪飾りだった。男の子に見間違われ易いって気にしてたから、こういう髪飾りがやたら嬉しいらしい。
私はその髪飾りを、私は彼女の髪に付けてあげた。
彼女は嬉しそうに笑ってくれた。そして、私の足に抱きつきなおしてまた笑った。
思えば、何の因果か。この子もセイちゃんに引き合わせてくれた一人だったか。
「ねぇねぇ、これなんておハナなのー?」
女の子が、髪飾りの指さしながら私に聞いてくる。私はそれに答えるべく口を開いた。
「さつき」
保護者の母親が、少し申し訳なさげに訊ねてくる。
「でも、よろしいのですか? ちょっと高そうな……」
「あぁ、いいんですよ。フラワーパークにご招待してくれたお礼って事で。へへへ。いいんです」
もう、いいんです。