私は『マルゼンスキーの再来』という異名を持つ子を知っているかどうか、少し考え込んだ。
「……わかりません。マルゼンスキーさん自体は知っていますけど」
前世で噂に聞いた名馬達の名前をいくらか覚えてる私でも、異名ともなると思い当たらなかった。
前世関係なく今生の世界でそのような傑物のウマ娘が出てきたという可能性もある。
「あはは、そうだよね。ライスも、最近知ったんだ」
ライスシャワーは、そのように笑ってから、その話の経緯から語ってくれた。
去年マルゼンスキーが有馬記念を未出走のままトゥインクルシリーズから引退する事が発表されたのち、『マルゼンスキーの後継になろう』とするウマ娘がいくらか出始めたらしい。
「あぁ、マルゼンスキーさん。『アタシの走りを参考にしてくれた"某(なにがし)の後輩ちゃん"が日本ダービーを勝ってくれるんじゃないか』とかなんとか言ってましたね……」
私はその事を思い出して、そう答えるとライスシャワーさんも頷いた。
「……ライスも、もしトレセン学園に入学出来たら日本ダービー目指して頑張るつもり」
彼女の細く笑んだ目は、決意に満ちているように見えた。今生の世界において、どれだけのウマ娘がマルゼンスキーの言葉によって日本ダービーに駆り立てられているのだろうか。想像するに難くない。
――――ライスシャワーさんならきっと日本ダービーに出場出来るとも思ったが……前と違い、今は言わない方がいいと判断してそこは黙っておいた。
運ばれてきたランチを突きながら、ライスシャワーさんの話を聞き続ける。
「それでね。ライス達みたいに、トレセン学園を目指すウマ娘達の多くがマルゼンスキーさんを目標とする中で、大人の人達も『マルゼンスキーさんみたいになれるようにがんばれー』って、応援する時があるのは想像できるでしょ?」
喩え話のように例をあげられて、容易くそれが想像ついたのでまた頷く。私がそのように発破をかけられたら……それはそれで士気が上がりそうだ。
「でもね、そんな子の中には……大人の人も驚いちゃうくらい速くて、『マルゼンスキーの再来』って、大勢から呼ばれてる子が居るらしいの」
彼女の言葉に、私とライスシャワーさんは少しの間だけ沈黙した。
「…………その口ぶりから、トレセン学園の在校生じゃありませんよね」
私は静かにそう訊ねる。ライスシャワーさんは小さく首を縦に振って肯定してくれた。
「ふふ……ディオスさんは賢いね。そう。その子は、まだ小学生なの」
ライスシャワーさんはそう言うと、私は軽く深呼吸をして言葉を続ける。
「五年生の子ですか?」
六年生の子なら入学目前だし、ライスさんが他人事のように語るのは違和感がある。
私がそう言うと、彼女はまた小さく笑った。
「うん、五年生の子。ディオスさんと同い年で、最近アメリカから日本に来たばかりなんだって」
「……」
私はライスシャワーさんが何故そんな話をしたかを察して、少し考え込んだ。
「…………"その子に打ち勝つ事も目標にしろ"という事でしょうか?」
私がそう訊ねると、ライスシャワーさんは笑顔で頷いてみせた。
彼女はそんな私を見て、優しく微笑んでくれた。
「ディオスさんなら、きっといい目標になるんじゃないかな、と思って」
彼女はその優しい笑顔のまま、私に対してそう言ってくれた。
………………。
『マルゼンスキーの再来』という噂のウマ娘に対して打ち勝つ事も目標にするかどうか
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そのウマ娘に勝つ事も目標に入れる
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拒否してキングヘイロー一筋で考える
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選択を保留する