……ウマ娘とかいうのに転生した件について。   作:稗田之蛙

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もっとも解決すべき目標
(5) エルコンドルパサーを探す
(23) ボブヘアちゃんや猫目ちゃんに謝る
(35) セイウンスカイと仲直りする
(14) キングとの親交に注力する
⇒セイウンスカイとの仲直りを意識する
次点:ボブヘアと猫目ちゃん


【重要事項】
 お知らせであった通り、ハーメルンで大規模なDOS攻撃があったようで、現在ユーザー全体で挿絵機能が停止しています。
 挿絵機能が再開するまで、あとがきに一時的に挿絵を送付したツイッターのURLを張っておきます。
2024年6月29日追記:挿絵機能回復した様子なので本編に挿入しました。


優先順位

 授業が終わり、下校時間。私はいつもの校門前で佇んでいた。

 以前は、キングちゃんか猫目ちゃんか、ボブヘアちゃん。四人ないしそのいずれかと帰るのが常だったが、今は違う。

「おねえちゃーんっ!」

 校門から走って出て来た、我が弟が私に突進してくる。

 ウマ娘の私はそれを難なく抱き止めると、軽く抱き締めてから離す。そして、頭を撫でた。

 ふと弟の後ろを見ると、件の恋人ちゃんがこちらを見つめていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ……あんまり意識してなかったけど。美人だなぁ。この子も。

「片手が空いてるからおいでー」

 私が手を差し伸べると、パァっと明るい顔をして、彼女も私に突進してきた。

 彼女を抱き留めた後、頭を撫でた。彼女は少しくすぐったそうにした後で微笑む。

 彼女はプレゼントした髪飾りを、大事そうに着けている。

 元々、セイちゃんにプレゼントする予定のモノを押し付けた形だから、そういう部分でも罪悪感がある。

 

「……どうしたの?」

 私があまりに神妙な顔をしていたせいか、彼女は少し不安げな顔をする。弟の方もそうだった。

 私は首を横に振ってから……精一杯の笑顔を見せる。

「ちょっとだけみぞおち打っちゃった……!」

 そんな風に誤魔化して、彼女達の頭をクシャクシャに撫でてやった。

 

 

 

 ジュニア大会の失策を経て、ボブヘアちゃんや猫目ちゃんとも完全に仲違いの状態になっていた。

 ポニークラブでの練習や下校中に顔合わせする時はあれど、彼女達とは一言も交わさずに日々を過ごしている。

 それ以上に最悪な状況なのが、セイちゃんとの関係で。今となっては彼女が何をしているのかすら分からない。

 

 ……いずれ彼女達との関係は直すべきで、いや直せなくとも謝意くらいは伝えるべきなのだろうけど。

 

 そんな事を考えながら下校路を歩いていると、手を繋いでいた恋人ちゃんから袖を引かれる。

 彼女の目は、少し不安げだった。

「…………」

 私が、そんな目をさせてしまっていた。

 私は、彼女の頭にポンと手を置いてから……またクシャッと撫でる。

 そしてそのまま、恋人ちゃんをお姫様抱っこで抱え上げた。

「このまま家まで送っていくよ!」

 彼女は驚いたような顔をするが、すぐに私の首に腕を回す。

「うん!」

 彼女を送り届けた後、男の子である弟にまでお姫様抱っこをせがまれたのは言うまでもなく。

 

 

 家に帰り、夕食を食べ終えた私は宿題を済ませて私はスマートフォンを弄り始める。キングちゃんや、他の仲の良い女の子とのDMのやり取り。

 楽しかった事。悩み。悲しい出来事。話題はそれぞれなのだが、1~2日の間に数件程度のやり取りを交わす事は共通している。

「セイウンスカイ」

 四年生で起こった台風の日以来、止まったままのDMをタップする。

 

『髪飾りありがとう。大事にするね~』

 ブックマークとしてピン留めしておいたセイちゃんからのDMが専用タブに燦然と映っていて虚しくなった。

 

「……当然DMなんてブロックされてるだろうなぁ」

 眺めていても悲しくなるだけだと思いつつも誰かから『セイウンスカイとの仲直りを最優先にすべきだ』と諭されてる気がして、DMの画面を閉じるに閉じれなかった。

 

 ここに至って仲直りなんて、容易くはないだろう。

 ボブヘアちゃんの二の舞にしない為にも、もはや他人に頼れない。

 セイちゃんも仲直りしてくれる気持ちだったのに、私はその手を撥ね除けて彼女をこれ以上ないほど傷つけた。

「…………もうどうやったって、仲直りなんて出来っこないよ。神様」

 何も思い浮かばず、全角空白だけを送信してみる。

 

『 』

 

 何ら問題なく送信される。

 ………………ブロックされてない?

 慌てて、その空白文章を削除しようとするが、その空白文章に『既読』がついて、「セイウンスカイが返信中」というシステムメッセージが表示される。

 

『なになに~? セイちゃんにナニか用事ですか~?』

 

 軽い文面で、そんな返信が返って来た。

 ……私は思わず、その画面を二度見する。そして、震える指で謝罪の文章を打とうとする。

 

 ――何を言ったってまた傷つけるだけじゃなかろうか。

 

 思わずアプリを閉じようとしたところで、そんなイトマもなく――携帯のメロディが鳴った。アプリを通した画面通話の許可に応じるか拒否するかのボタンが表示される。

 その画面を数秒睨みつけた後で、私は通話の許可ボタンをタップした。

 するとスマートフォンの画面に、セイウンスカイと表示された着信相手の姿が映し出される。

「やー、こんにちはディオスちゃん♪」

 彼女はいつもの調子でそう挨拶してきた。

 私は思わず画面の彼女に視線を移した後、数十秒間画面を見つめる。

 沈黙が流れた。そしてそれは……私が口を開くまで終わらないことを私は確信していた。

「ごめん、なさい」

 私は……絞り出すようにそう謝罪した。

 すると、彼女は少しの沈黙の後に口を開いた。

「へ? 何が?」

 まるで、期待していた言葉とは別だったような顔で言われる。

 ……私は、彼女からの問いかけに対してすぐに答えることが出来なかった。

 彼女をひどく傷つけた事についてだった気がするが、謝罪に対する答えとしてはズレている気もしたから。

 あるいはどんな言葉を選んでも、自分の言葉が彼女をまた傷つけてしまいそうで怖かったからかもしれない。

 そんな風に逡巡する私を前に、彼女は言葉を続けた。

「別に、さ。罠に引っかけたのはこっち側なんだから、謝るとしたらこっち側でしょ」

 彼女はそう笑い、私は眉を潜める。痛い時に撫でてもらってた左足も、久々に嫌な疼きを覚える。

「ごめんね。ディオスちゃん」

 セイちゃんは、そう謝った。

 

 酷い動悸がする。頭がぐらぐらする。鉛を詰め込まれたとか生優しい事が言えないくらい気持ちが悪い。

 いくらバカな私でも、これは仲直りする為の「ごめん」じゃなくて、諦めの謝罪だと察しがつく。

「セイちゃんは、ディオスちゃんを恨んだりなんてしてないよ。だから、もう謝らないで」

 彼女は、そう続ける。私は、何も言えずにただ画面を見つめていた。

「ディオスちゃん。セイちゃんはね――」

 彼女は、そこで口ごもる。出来る限り優しい言葉選びをしようとして、それを断念して率直に伝えようとしているような顔だった。

 

「――目を逸らさせなんてしない。いつか、ディオスちゃんの本心から私を認めさせてみせる」

 

 そんな風に、真剣な眼差しで彼女は宣言した。私は……二重にショックを受けて呆然とする。

「……だから、泣いて俯かずにさ。上向いて大好きな空でも見ながら頑張ろうよ。お互いにね」

 セイウンスカイは、そう言うとニカっと笑いかけてくる。その笑顔が、ムリに演じてるようにも、本心で言ってるようにも受け取れて……私にはよくわからない。

 

 ただ、理解出来たのは。「認めさせてみせる」という言葉が、感情的な批難の言葉よりもずっとずっと重くて。

 たぶん、セイちゃんの強さを論じて「昔からセイウンスカイを認めていた」なんて言ったところで、今となってはうわべだけの言葉でしかない。

 

 ネガティブな心が振り払えない中、頭の中で「セイウンスカイとの仲直りに注力しろ」という考えもあり、今はそれに従うことにした。

「……謝らないでって言われたけど。それでも、ごめん。『卑怯者』だなんて罵って。本当に」

 私は、そう謝った。セイちゃんは「謝らなくていいってば~……」と不機嫌そうに唇を尖らせる。それでもキングちゃんやライスさんとのやり取りの中で、伝えなければならない事が分かっているから、私は続けた。

「そもそも、セイちゃんがやったのはルール違反じゃないのは元から理解してたはずなんだ。なのに、あんな事を言ってしまったのは」

 私は、そこで一度言葉を止める。そして、大きく息を吸ってから続けた。

 この本心だけは、ウソをついちゃいけない。誤魔化しちゃいけない。……だけどこの一言は、本当に言うのに勇気が要る。

 

「私は、あの一戦を大切なモノとして認識してたから、キングちゃんやセイちゃん相手に十分に力を出して戦いたかった。"ちゃんと二人と戦いたかったから、盤外戦術なんて、持ち込んでほしくなかった"」

 自分の口を突いて出たその一言に、自分で胸がギュッと苦しくなった。

「……同時に、真剣勝負においてそれは私のワガママだって理解してる。キングちゃんや六年生達の子のように、実力や知恵があれば対抗出来た場面で……いや、違う。もっと正確にいえば。セイウンスカイが、そんな事をやってのける格上達に少しでも抗う為の手段だったから……」

 そこまで言って……私は、また言葉が出なくなった。

「とにかく。卑怯者だなんて言って、ごめん。自分のやりたかった事含めて、あれは私の自分勝手だ」

 なにも、"罠を仕掛けられたのは自分だけじゃない"んだ。実力者だらけの戦いだったから、セイウンスカイが何かしらの策戦を巡らせるのは当たり前の事なのだ。

 

「あのね、セイちゃん。まだ隠してる事一つだけあったんだ」

 不意に、セイちゃんがそう言った。私は再び彼女の方を見つめる。

 彼女は、私の視線が彼女に向くのを見てから口を開いた。

 先の笑顔はどこへいったのか。今度は少しだけ、涙を浮かべてる。

「ディオスちゃんにだけは、レース中に序盤だけ大逃げで走る事。レースの直前に打ち明けようかとも思ってた」

 彼女はそう言って、また少しだけ笑顔を作って見せた。

 私は、その告白をただ黙って聞いていた。そして、彼女の言葉の続きを待った。

「……ポニークラブでディオスちゃんとよくやってたみたいに。純粋な身体能力の比べっこみたいな、嘘偽りない走り方で、ディオスちゃんと戦う事も捨てきれなかった……」

 彼女は、そこで言葉を切ってから。少しの沈黙の後に口を開いた。

 

「でも、ディオスちゃんに『大事な記念にしたい』って言われてさ。……大事な一戦で、そんな贔屓出来ないよ。あれがセイちゃんなりの本気の戦い方だったから」

 そう弱々しく言葉を続けてから、また彼女は唇を噛む。

「……どうすればよかったんだろうね、ホント」

 ボロボロと、セイウンスカイは涙を流した。私は、彼女の言葉を聞きながら。少しだけ返答を考えた後で口を開いた。

 

 

「私は」

 そこで言葉に詰まる。そして少しの沈黙の後に続きを話した。

 ……こんな事を言うなんて、本当に卑怯だと思った。

「あれで終わらせたくない」

 私がそう続けると。セイウンスカイは、また私を見た。

「仲直りしてもしなくても、どうせ目指す道は同じなんだ。お互い無事に入学出来たら、いずれ贔屓なんて言ってられない場面がいっぱいある。だからその時こそは」

 私が、そこまで言ってから言葉を止める。先に「ごめん」と言って期待外れの顔をされた事を踏まえながら、彼女が望んでいたであろう言葉で応えた。

「今度こそ、あなたに勝ってみせる」

 セイウンスカイを真っ直ぐ見つめながら、私はそう言いのける。セイウンスカイは、涙を袖で拭ってから、精一杯の作り笑顔で笑ってくれた。

「……やっと、こっち向いてくれた」

 彼女は、そう呟く。それから、大きくため息をついて。

「……しばらく、独りで考えさせて……私はそれだけで、もういいからさ。他の子には、ちゃんと謝っておかないとダメだよ?」

 彼女の言葉を聞いて、私は「うん」とだけ返した。

 ……それから、しばらく沈黙が続いてから彼女は口を開いた。

「じゃあね。ディオスちゃん。またね」

 そう言って通話は切れた。

 

 私はスマートフォンの画面を見つめてから、それをポケットにしまう。

 そして、大きく息を吐いた後で……オレは気合いを入れるように自分の頬を強く叩いた。

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