学校が休みで、なおかつポニークラブが休みの日も、日々の鍛錬を怠るべきではないと思っている。
だから休日も友人と共に訓練すべく、今日も身支度を調えて――。
いや、言い訳を並べ立てるのはやめよう。セイちゃんから「久しぶりに一緒に遊ばない?」と短いメッセージで誘われ、私はそれを二つ返事で了承した。
「…………」
待ち合わせの場所へ行く最中、ペットショップのガラスを鏡のようにジッと見つめ、身嗜みがおかしくないかのチェックを入念に行う。
上は女の子っぽさを強調した白いフリルブラウス。しかし下はデニムを履いて、お嬢様っぽさをカジュアルに打ち消している。お嬢様一辺倒は私に似合わない。アレはキングちゃんの領分だ。
……うん。我ながら悪くない。今日に至るまで服選びはほとんどキングちゃん頼りだったけど、今日の服装に関しては私一人でちゃんと選んで購入したヤツだ。
ガラスの前でニヤニヤとしていると、ガラス越しの猫や犬が奇異なモノを見る目でこちらを見つめ返していたのに気づいて、そそくさその場を立ち去った。
たぶん、ペットショップのお客さんや動物達からしたら私の行動は奇異に映っていた事だろう。一人でニヤニヤしているんだもの。
そんなこんなで待ち合わせの公園へ足を進めている。待ち合わせの時間より、30分早い。万が一にもセイちゃんを待たせるわけにはいかない。なんたって、今度こそ間違うわけにはいかない。
とはいえ、30分も早く到着すれば、待ち合わせた相手はいるわけもなく。ひとまず緑化された広場を散策する。
「……ここでよく一緒に遊んだりしてたっけ」
一周回って記憶通りの場所へ。その記憶が今でも思い出せる事を喜ぶべきなのか。それは最早、定かでないけれど。
「¡Encantada!」
懐古に耽っていると外国語が耳に飛び込んできて、手を握られた。驚いて振り返ると、そこには私より背の低く、覆面を被った女の子がいた。
「……エルコンドルパサー?」
長い黒髪とキレイな青い目が見えたので、そう口に出してみると、その覆面の子はニカッと笑いながら元気よく頷く。
「¡acierto m! お久しぶりデス、ディオース!」
エルコンドルパサーが、エセっぽい外国人訛りのある日本語を喋りながら、満面の笑みで手を掴み振りながらはしゃいでいる。
「えぇっと……」
……オドオドした臆病な女の子な印象があったけど、引き続き別れ際の演技ぶった振る舞いを続けている。
だけどそれは不快のものではなく、ゴールデンタイムに出てくるマスクマンのプロレスラーのように観る者を楽しませようとする意図が感じられた。
「うん、久しぶり。今日は公園でトレーニング?」
エルコンドルパサーの行動を予想しつつ、訊いてみると否定するように首を振る。
「ペットショップで動物を眺めながらニコニコしていたのを見かけたので、この前のお礼を言いに来ました!!」
腰に手を当て、ふんすと自信ありげに振る舞うエルコンドルパサー。見られていた事実を告げられ、固まってしまう。
「……そ、そうなんだ。わたし、猫とか、犬とか、鳥とか、可愛いのが、好きだなーって……。あはは……」
しどろもどろになりながら、ペットショップでの奇行を誤魔化そうとする。実際、動物は基本好きではある。前世が牧場暮らしというのもあって。
そんな事を露とも知らず、エルコンドルパサーはキラキラと目を細めて微笑む。
「¡también! エルも同じデース! マイホームでは、鷹を飼ってイマス!」
そう言って、鳥用の飼料が入った買物袋をこちらに見せてくる。
「へぇ、鷹かぁ。かっこいいね」
セイちゃんが来るまでの合間、道案内のお礼を言われたりお互いの身の回り事の軽い事など、他愛のない雑談を続けていく。
初対面に近い関係でも、案外会話は弾んだ。推定『マルゼンスキーの再来』である彼女と元々何かしらの縁を繋ぎたかった私としては願ったり叶ったりで、何故か彼女の方も友好的に接してきてくれた。
「そうだ! これから一緒に、一走りシマショウ! エルの実力、トコトン見せてあげマース!」
トレセン学園への入学を目指しているやら、足の速さやらがどうだという話でエルコンドルパサーは、そう提案してくる。
「あぁ、今は待ち合わせしてて……ごめんね」
セイちゃんとの待ち合わせ中なのはさすがに忘れてはない。エルコンドルパサーは残念そうにしながらも、ふと、企んだような笑みを浮かべてからこう言った。
「カレシ、ですか?」
想定外の質問に、少し咳き込む。私はぶんぶんと首を横に振った。
「違う。カレシじゃない。お友達」
「¡ビエン! それは失礼しました。ディオスはボーイフレンドがいそうな子だから、てっきり」
ぴえんと悲しみを表現するなら、嬉しそうな笑みをやめて泣きマネをしてくれた方がそれっぽいのだけど。
私の方も件の人物が「男の子だと勘違いしてひとめぼれした相手」だというのもあって、なんだか後ろめたさがある。
「……でも、そうなりたかったかな、なんて」
誤魔化すように、冗談っぽく呟いた。
「なにがそうなりたかったんですかぁ~?」
後ろから声がする。振り返ると、セイちゃんが人当たりの良い笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
ちょっと気になるところは……「遊ぶ」という話だったのに、運動着だったところだろうか。
「あ、これ? 遊ぶっていったら、ほら。この前の勝負。どうせなら1対1の正々堂々でやり直し――」
私の視線の意図に気づいたのか、運動着を引っ張って見せびらかしながら、私の服装を眺めて、目を細めた。
「――とはいっても、ディオスちゃんは。"女の子女の子"した遊びを想定していらっしゃられたようで~、いやはや……」
セイちゃんは、
「前言撤回」
それに応じるように私はそっぽを向いて、全部答えたつもりでこれ以上の追求を避けた。
「ところで」
と、セイちゃんはエルコンドルパサーの方に視線を向ける。手を握りながらベンチで隣に座っている彼女に、セイちゃんは品定めするように上から下まで視線を往復させる。
「いやぁ……お熱いですなぁ~。新しいクラスメイトさん?」
茶化すような言い方をして、私とエルコンドルパサーを生暖かい目で見つめている。
「あぁ、いや、違くて。最近、知り合った子。ほら、ウララと同じような理由」
新年正月に神社探しで道に迷ってたウララの例をあげて、彼女もそういう縁なのだと説明する。彼女自身も、ベンチから立ち上がり一歩進み出る。
「まいねーむいず。エルコンドルパサー!」
いかにもエセっぽい受け答えで自己紹介をするエルコンドルパサー。それに対してセイウンスカイはニコリと笑い。
「My name is Seiun sky」
流暢な自己紹介で、受け応えてみせた。なんか、演技ぶった態度は二人とも得意そうだから、少し乾いた笑いが浮かんだ。
「――And ex」
そこで、エルコンドルパサーは噴き出す。「アンド エックス」という言葉の何がそんなに面白かったのか分からないが、エルコンドルパサーはカラカラとひとしきり笑った後に、私の手を改めて握り締めながら短く発する。
「Esta es mia」
エルコンドルパサーは手を離してから、私達にひらひらと手を振った。
「ディオス! セイウンスカイ! またお会いシマショウ! ¡adiós!」
大きな声で別れを告げてから、彼女は公園を出ていった。
私はその去りゆく姿を見届けながら、大きく手を振って見送り、セイちゃんの方に向き直る。
「………………」
彼女もまた、笑顔のまま何も言わず、手をひらひらと振りながらエルコンドルパサーを見送っていた。
「セイちゃん。今のなんて言ってたか分かる? 私、日本語以外さっぱりで」
「いやー、セイちゃんもスペイン語さっぱりで。ゼンゼンわかりませんね」
彼女はそう言いながらニコニコ笑って、おもむろに私の手を握ってきた。
これからやって欲しい小説の方向性(感想アンケート。世界観に影響なし)4番補足「イケメンショタムーブかますウマ娘達にメス心がドキドキして「そんな趣味は私(オレ)にはない!」と繰り返すバカノリのディオスちゃん」
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