セイちゃんとどうやって遊ぶかは、現地についてから決めようかと思ってた。お互い、それくらい軽いノリで、遊びの約束をしてたのだろう。
だから私の方が運動着を着てこなかった事への嫌味皮肉は一つも飛んでくる事なく、逆に私は彼女が運動着を着込んできた事に対しても不服と一切思ってない。
とはいえ、別の部分で思うところはある。
「遊びって手を繋ぎっぱなしにする事なの?」
ベンチに座って何も言わずに数分間、ぎゅっと手を繋がれたままだと、少し落ち着かなくなってきた。
セイちゃんは「あー」とぼんやりした声色で目を動かしながら答える。
「セイちゃんの方はもう少しこうしていたいんだけど……だめ?」
「…………」
ダメかと問われると、ダメなわけではなく。ただこうも他人と手を繋ぐ事に執着するのは、なんというか、セイウンスカイらしくない。
私は何を言うべきか迷う。彼女がそれを望むなら、そうするべきだとは思うけれど。ジュニア大会の失言の手前、複数回傷つけられてなんでこういう機会を与えてくれるのか未だ分かっていない。
――『貴女はネガティブな事や難しい事を考えずに"お姉さんぶってる"のがお似合いなのではないかしら』
キングちゃんの言っていた事が頭の中に思い浮かぶ。
「――うん、いいよ。もう少しこうしていよう」
謝意を形にする為にも、仲直りする為にも、彼女の望みは叶えたい。
その意図を現すようにセイちゃんは私の手を握り直す。セイちゃんの方は、逆に驚いた顔をしている。
「払いのけられるかと思ったけど」
私は首を横に振る。セイちゃんは意外そうにこちらの顔を見上げてくる。
「今は、セイちゃんがやりたい事をやろう。再戦をするなら今からでも着替えてくるし、釣り竿を借りて釣り堀で一緒に魚を釣るでもいい」
私は言葉が足りなかったり、言わないべき事を言わず、黙ってたり。そういう事が多かったんだと改めて思ったから。
聡いセイちゃんが相手の時は尚更だ。だから行動で示すしかないと思った。
「ありがと」
小さくそう言って、セイちゃんは私の肩に頭を置いてきた。彼女の髪から、海潮のかすかな香りと、なんてことはない子供用のシャンプーの匂いが鼻をくすぐってくる。その香りはどこか懐かしい。
エルコンドルパサーの時と違って、世間話に言葉を交わす事もなければ、冗談を言い合ったりする事もなく、手持ち無沙汰に空を眺めたり、雲の流れを目で追ったりしている。
「ねぇ」
セイちゃんがふと口を開く。私は彼女の方に顔を向けて、「なぁに?」と訊く。
「エルコンドルパサーって子。可愛いよね。明るくてさ」
「そうだね。今まで付き合った事ないタイプかも」
そんな風に相槌を打って、彼女の続きの言葉を待つ。セイちゃんは少し言葉を詰まらせた後で、続ける。
「ディオスちゃんはあぁいう子が好きなんだ?」
その問いかけに、顎に手を当てる。好きかどうかといえば、好きな方だ。初対面では臆病なところがあったが、今は妙に自信家に振る舞っていて、世間話をしているだけでも気分が良かった。
「うん。わりと好きだよ。明るくて、話してて楽しいし」
そう答えると、セイちゃんは私の肩に頭を置いたまま「……そっか」と呟く。
「あんまりとっかえひっかえしてると、キングちゃんが妬いちゃうよ~?」
友人関係か。はたまたライバル関係の事か。少なくとも『とっかえひっかえ』しているつもりはない。
「そもそもそういう関係って複数居ちゃいけない? キングちゃんに打ち明けたら、そういう対象を複数持つ事は了承してくれたし……」
宇宙の真理を悟ってしまった猫のような表情をするセイちゃん。
「……念のため言っておくけど恋愛関係じゃなくて友情関係とかそういう方面ね?」
「あ、うん。そうだよね!!? キングちゃんは絶対二股とか許さないタチだよね!!」
………………キングちゃんと同じ勘違いをしている気配がする………天丼ネタにするほどの話題でもないだろうに……あと私は二股しそうなタチなのか……。
さすがに一人の女性として傷つく部分はあるので、ため息を吐いて手で顔を覆う。
「……そもそも、私、恋愛対象は男の子でさ、女の子を恋愛的にとっかえひっかえするような趣味はないって……ホント……」
「今の恋人さんって女の子じゃなかったっけ?」
「あの子の為にも同性の私を恋人としてカウントすべきじゃないと思う」
何か言いたげなセイウンスカイを横目に、私はそう答える。
「……じゃあさ、初恋とかはどんな男の子だった? もしかして幼稚園の先生とか」
「あー、いやー。幼稚園の先生は頼れる男性だったとは今でも思ってるけど。恋心とかいえば――」
今生における初恋といえば、思い出そうと思えばすぐにでも思い出せるような。
――だいじょーぶ? 怪我はない?
顔が猛烈に熱くなって、繋いだ手を離してベンチから思わず立ち上がった。
「……」
心拍数がうるさいくらいに跳ね上がって、何か言い知れぬ感情に胸の中が支配されている。
「ディオスちゃん?」
文字通り"肩すかし"を喰らったであろう、セイちゃんが私の顔を覗き込むように見上げる。
「いや、何でもないよ。なんでもない」
誤魔化すように小さく咳払いをするが、それで察しがついたのか問い詰めてくるでなく。
「あー……」
セイウンスカイは、私の初恋の相手について思い当たったらしいが。それを口にはせず、「そっかー」と納得しているようだった。
「"女の子女の子"してる服装でやってきた理由って、もしかしてそういう……」
「ちが……」
否定しようとしたが、違わなくなかった。まだあの時期の関係性が忘れられないでいる。
――あんだけ酷い事繰り返して今更何を言うんだって思うけどさ。
卑屈な自嘲が頭に浮かぶが、またキングちゃんの「ネガティブな事や難しい事を考えずに"お姉さんぶってる"のがお似合い」という言葉で打ち消された。
「いや、そうかもしれないね。セイちゃんには女の子扱いされたかったのかも」
そう答えた。そもそも、建前上は既に私には新しい恋人さんがいるのだ。一年生の。つとめて、"とっかえひっかえ"と思われないように誠実に振る舞わなければならない。
私の方が慌てふためいて否定しないのが意外だったのか、セイちゃんは口を小さく開き、「へっ?」とだけ言う。
「なーにそれ。ディオスちゃんのそういうところ、本当にずるいよねー。そうとしか思えなくなっちゃうじゃん」
それで惚気てくれるなど甘い事はなかったが、少なくとも悪い気分ではないらしい。
「まぁ、再戦は今度改めて運動服なりなんなり、ちゃんと準備してからやるとしよっか。じゃないと、あれで終わりはたまらんでしょ~。お互いに」
確かにその通りである。皆にとって良い終わりに迎えるように私も務めたい。
「あ、でも」
そこでセイちゃんは何かを思い出したように呟く。
「今日の遊びのネタ持ってきてなくてさー。ディオスちゃんだってセイちゃんと手を繋いだり引っ付いてばっかりだと、ほら、飽きるでしょ」
セイちゃんは軽い調子で口にする。言葉で返すより、彼女の頭を撫でた。彼女はきょとんとして、私の方を見上げる。
「飽きないよ。友達と触れ合うのは楽しいし。今日は、前々からのお詫びに、セイちゃんのやりたい事をやろう。何でも付き合うよ」
本当の事だ。友達と触れ合うのは楽しい。しばらく無言で撫でられていたセイちゃんだったが、不意にぷっと小さく吹き出すように笑みを漏らす。
「じゃあ、今日は、釣り具屋さんをはしごしたりとかさ。仲良く手繋いでいってくれる?」
おずおずと手を伸ばしてくる彼女の手を、私は今度はちゃんと握り返した。
なんでこのように機会を与えてもらえているか、難しい事を考えるのは後でいい。
「ところでさ」
「なに?」
「エルコンドルパサーに自己紹介してた『アンドエックス』って何? 英語だって事は分かるけど」
「…………」
「セイちゃん? どうしたの?」
「正体不明。未知の存在の意だよ。数学でXって未知数とか表現するから」
「へー、なるほどー」
カッコいいなー。あとでキングちゃんに自慢しちゃおう。
『ex』
接頭語
1.~から外へ。exit ; exclude
2.外(側)の。exterior
3.外に追い出された、元~、前~
4.全く
転じて、
「元カレ」「元カノ」
これからやって欲しい小説の方向性(感想アンケート。世界観に影響なし)4番補足「イケメンショタムーブかますウマ娘達にメス心がドキドキして「そんな趣味は私(オレ)にはない!」と繰り返すバカノリのディオスちゃん」
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陰鬱ネガティブ/シリアスギスギス友情
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スポ根シリアス
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ほのぼの友情/ギャグ日常
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ガールズラブ寄りの恋愛日常