小学生時代の三学期。冬休みが終わって、春休みと六年生の卒業まで三ヶ月足らずの短い時期。
「もうすぐ卒業する六年生に向けて、寄せ書きかぁ」
自分に回ってきた色紙をしみじみと見つめながら、私は呟く。
クラスメイトのみんなは「勉強教えてくれてありがとう」「一緒にいて楽しかった」とか、ありきたりな言葉ばかりが書かれている。実際、学年が違うと合同授業以外で接する機会もさほどないからそんなものだと思う。
「………………」
かと思えば、キングちゃんは、熟考に熟考を重ねるように、思い悩んでいた。私の服を選んでくれる時以上に悩んでる。
「テキトーでいいじゃん」
なんとなしに私は言う。キングちゃんはじとっと私を睨み付けてくる。
「あら、来年は私達が貰う立場なのよ。そんな心掛けでは四年生の子達に示しが付かないのではなくて?」
まぁ、猫目ちゃん辺りに「寄せ書きなんてドテキトーに書いた」って言われたら私は結構落ち込む。キングちゃんの言う事も正しい。
とはいえ、接した機会がそう多くない六年生多数に対して何を書けばいいだろう。
「テキトーでいいんじゃない?」
時間変わって、下校中の買い食いにファーストフード店に連れ添った猫目ちゃんに聞いたみた。返ってきた言葉は私がキングちゃんに言った言葉とほぼ同様。
「まぁ、でもキングちゃんが言う事が正しいとは思う」
私がそう言うと、「アタシもそう思うけどさ」としたり顔で頷く。
「あたしだってディオスちゃんやキングちゃん個人相手なら、書く事たくさんあると思うよ。でも大人数相手に贈る言葉だと、合同授業とか昼休み時間に面倒見てくれた事のお礼とかしかなくない?」
猫目ちゃんはそう言ってから、ストローをガジガジと噛みながら頬杖をついた。
「そん時まではさ。ボブヘアちゃんとは仲直りしといてよ。ホント」
私は「ヴ……」と言葉に詰まってしまう。
「……セイちゃんとはたぶんうまくやれそうなんだけどなぁ……」
「えー……こんな早く仲直り出来そうなんてあたしさえ予想してなかったんだけど……」
疑うような目でそう返された。ちょっと傷つく。
「心配なさんな、セイちゃんとは頭撫でたり手繋いだりしてさ、仲良く買い物出来たんだから着実に仲直りには前進してるよ」
「え、なにそれ、怖……」
「なんでッ!?」
ガチトーンでそう返された。マジで傷つく。
「だって――」
「仲直りできてるみたいでよかったね! ウララも、心配だったんだよー」
猫目ちゃんが何か言おうとしたところで、隣の席に座ってハンバーガーを食んでいたウララちゃんからそう声が飛んできた。一緒の大会に出場した手前、決勝のトラブルは彼女にも目撃されていたから、彼女にも叱られでもしないか心配していたけど。相変わらずの態度で接してきてくれる。
「……マルゼンさんにも目撃されてんだろうなぁ……」
自分の保護者や弟からは日数が経ってからやんわり「一緒に走った子と何故喧嘩していたのか」と問われ、キングちゃんに促された事もあり、素直に事情を打ち明けてもいる。家族から叱られる事はなかったが、私やセイちゃん達の心境についてひどく心配していた。
頭を冷やす時間を得てから、保護者や知り合い含めた大勢の前で大喧嘩した過去にひどい羞恥心が芽生えているのも事実。その中では特に、マルゼンスキーさんにどう思われたかがひときわ気になっていた。
私の微妙な表情を察したのか定かではないが、ウララちゃんは私の手を取り、にぱっと笑った。
「だいじょーぶ! ディオスちゃんは親切で優しい人だから、ぜったい二人と仲直りできるよ!」
嫌味などでなく、ただ純粋にそう信じているのだろ。ウララの笑顔に、そんな感想を抱く。
猫目ちゃんの方を見てみると、ウララちゃんに毒気を抜かれて先の言葉の続きを言う気も失せているようで。ニマニマ笑っている。
「ウララちゃんにも手を出しそうだよね、ディオスちゃん……」
「ウララちゃんをそういう目で見るの禁止」
そう言いながらテーブルに目を移す。ファーストフードの他には、卒業生へ手向ける言葉の候補が書かれたメモ帳。猫目ちゃんと一緒に考えた言葉がツラツラ並んでる。
「ウララちゃんは卒業生に対してどんな事書いた?」
学校が違うが、やる事は同じだろうと思いそんな話題を振ってみる。ウララちゃんは嬉しそうに、語り始める。
「えっとね、えっとね、色紙に書く前に何を書くか決めておく用紙にね。言いたい事書いてたら、いっぱいいっぱい書いちゃって……先生やお友達に『ウララちゃんの言葉で色紙一枚使っちゃいそうだね』って言われて~!!」
笑い話のように聞こえるが、その語り口は明るい。そこから周囲もウララをバカにした物言いではなく、微笑ましく見ていたような雰囲気が感じ取れる。
「でもウララちゃんからだったら、たぶん嬉しいよねぇ。そういうの」
猫目ちゃんも同じ事を思ったのか、ウララちゃんにそう言った。私も頷いた。まだ十歳にもなってないウララちゃんに運動会の練習を教えてあげたり、屋外授業で昆虫観察やドッジボール遊びを教えるのは、上級生にとってさぞ可愛かったろうと想像つく。
「ざんねんだなぁ……色紙に書きたい事いっぱいあったけど、ウララ一人で色紙独り占めしちゃうわけにもいかないし」
ウララちゃんはそう言いながら、ため息をついた。人懐こい彼女の事だから、少しでも世話になった先輩達に感謝を伝えたい気持ちはきっと強いのだろう。
そう思うと、自然と彼女に対する助言を考え。そしてすぐ答え出た。
「それ昼休みとかに伝えに六年生の教室行くとかどう? お手紙でも言葉でも」
「あ、そっか! 色紙じゃなくても、ありがとうって言葉は伝えられるもんね。ディオスちゃんあったまいー!」
私の提案に、ウララちゃんは表情を明るくさせて賛同する。別に頭良いってほどでもないような気がするけど、ウララちゃんに褒められて悪い気はしない。
ウララちゃんは嬉々として「どうありがとうって伝えようかな~♪」と、卒業生それぞれに伝える言葉を一つ一つ考えながらハンバーガーを食べる事を再開する。
ふと、猫目ちゃんが頬杖ついてこちらの顔をじーっと見つめている事に気がつく。
「なに」
と、ぶっきらぼうに言い返す。
「あたし達もその案使えるんじゃない?」
「あ」
猫目ちゃんの指摘に、自分も声を漏らした。
翌日。昼休みになって、クラスルーム前にやってきた猫目ちゃんがぶんぶんと手を振ってくる。
「ほらー! 早く行かないと校庭遊びにいく子増えちゃうよー!」
猫目ちゃんは五年生達の注目を集めるが、当人は特に気にしない。私も彼女の元へ行こうとすると、キングちゃんに呼び止められた。
「あら、他のクラスルームに行くの?」
キングヘイローが問う。昼休みは同じクラスメイトと遊ぶ事が多いから、他のクラスルームに行く事はちょっと珍しい。
「うん、色紙とは別に、六年生の人それぞれにお礼言いに行こうと思って。ほら、特に世話になった先輩もいるから」
「あら、いい案じゃない。貴女の方が先に思いつくなんて、珍しいわね」
「はは、ひどい言い草」
キングちゃんは、私の言う事に納得したように頷いた。そして机から立ち上がり、一言。
「私もついていってもいいかしら?」
意外な申し出だった。あれだけ色紙の内容に悩んでいたものだから、てっきり色紙で伝えるものだと思っていたけれど。
断る理由もないから、私も頷く。
『キングちゃんが行くなら私も! 兄ちゃんの友達に御礼言いたいし!』
『あ、オレも。ウマ娘の姉ちゃんに徒競走で早くなる走り方教わったし』
他のクラスメイト達も、自分達の案に乗っかってくる。
……なんだか、個人個人で特定の六年生に寄せ書きで伝え切れない事があったらしい。やはり纏め役のキングちゃんがやるとなれば羞恥心も薄れるのか、ついていく人数も二桁と化し御礼行脚の一団と化した様相でもある。
「あ、じゃあ四年生の子にも行くかたずねてこよっと」
更に大所帯になりそうな気配。先生の方に一応目配せすると、ニコニコと笑顔を浮かべて「いってらっしゃい」と言わんばかりに眺めていてくれた。
……幼稚園の頃から思うが、教師って人種は前向きな行動に対して優しいんだなと常々思う。予定外の事を邪険にしないのは心が広い。
「よーし! それじゃあ、みんな行こう!」
メンバーが整ってから私と猫目ちゃん先頭にして、一団となって六年生の教室へ向かう。道中、お礼を言いたい相手の事を明るく言い合ったり、どんな世話になっただとか、珍しいものだと恋心を告白するだとかもあったり……。
「……ボブヘアちゃんは何言いにいく?」
猫目ちゃんがそう言ったのが聞こえて、背筋がちょっとだけ強ばった。
「……えっと~」
四年生同士でコショコショと、ボブヘアちゃん含め六年生に言う言葉を相談し合ってる。それを見つめていると、ボブヘアちゃんと目が合った。
「……」
相変わらず言葉は交わさなかったし、その勇気もなかった。
けれど、少しだけ。彼女の表情は柔らかかった、と思う。
「……一年後には言われる側だといいわね」
キングちゃんが口元に笑みを浮かべながら、そう言ってくれた。
実験的に作品に関するBGM造ったので、よろしければこちらもよろしくお願いします。
【挿絵表示】
https://suno.com/song/4e55a6c9-3023-40ec-be9b-54d10be90dfe
セイちゃん
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かわいそうなのは可愛い
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報われてほしい