「告白ね、告白! 受け入れてもらったの!」
「ほー、よかったねぇ」
少し日が経って、2月上旬。卒業していく六年生への御礼巡業が四年生と五年生の間で徐々に広まり、個人でもそんな事が行われつつあった日々。
授業が終わってその成果を報告されながら、クラスメイトと下駄箱に向かっている。
靴を入れている場所は個人毎に一つ一つ区切られた箱になっていて、なおかつネームプレートが張り付けられており、誰が使っているか一目で分かるようになっている。
[Dios]
私の名前も張り付けられている。上下左右の靴と取り違える事もない。いつも通り、靴箱の扉を開く。
「……ん?」
下駄箱の中には、私の靴ともう一つ。ラッピングされた丸い箱があった。
「どしたのー?」
先まで話し合っていたクラスメイトものぞき込んでくる。つられて、他のクラスメイト、はたまた男子ーズまで私の靴箱をのぞき込んだ。
ラッピングされた丸い箱を手に取り、蓋を開ける。鼻孔をくすぐるチョコレートの甘い香り。中に入っていたのは手で摘まめるようなサイズの、ピンク色のアルミに包まれたハート型。
「お」
クラスメイトの男子ーズの一人が、そのハート型をつまみ上げた。
「バレンタインデーチョコじゃん」
「え?」
私は思わず聞き返すと、彼はにんまりと笑った。
「やーい、女同士で告白されてら」
「男女(おとこおんな)ー」
クラスメイトの男子ーズがそれにつられて、キャッキャッと私を弄って茶化してくる。
「んなわけない。カエセカエセ」
おちゃらけたように言いながらチョコを奪った男子を、いつもやってるように羽交い締めにする。ギャーギャーと手足を振り回して暴られるが、大した抵抗になっていない。
本気で奪い取るつもりもなかったのだろう、早々に返してもらって、再び箱に視線を戻す。
差出人が書かれているわけでも、メッセージカードが付いているわけでもない。ただ、ハート型で包まれたチョコレートが何個か入っているだけ。
[……ウマ娘とかいうのに転生した件について。]
「で、結局誰から?」
下校路を共にする猫目ちゃんがそう聞いてくる。私は少し迷いつつも、「わかんない」と答えた。
「他の男の子の箱のと入れ違えた可能性の方が高くない? だって、バレンタインデーが近いっていっても私は歴とした女の子だよ」
そう猫目ちゃんに説明する。……視線を落とす猫目ちゃん。
「そうだね。立派な女の子だよね。やんちゃな男子ーズが喜ぶくらいだし」
「なんの話?」
私が聞き返すと、猫目ちゃんは明後日の方向へ口笛を吹いて答えてくれなかった。
彼女に腕を伸ばそうとしたが、腕に何か引っかかった感触をして止める。我が恋人――件の小学生一年生の女の子に、人差し指と親指で袖を引っ張られていた。
「……」
「……」
互いに無言で見つめ合う。……何か、言いたい事があるのだろうか。
「……ディオスちゃん。そりゃ、他の子からバレンタインデーチョコ貰ったって話したらさ。妬いちゃうでしょ。その子は」
猫目ちゃんから指摘が飛び、私は思わず顔をニコニコと愛想笑いを浮かべ、恋人様のご機嫌を取ろう四苦八苦した。
「ディオスちゃんってそういうとこ鈍いからなぁ」
「う……」
猫目ちゃんにズバッと言われて押し黙るしかない。
「……だれにもらったのー?」
と、恋人様が袖をくいくいしながら聞いてくる。うーん。嫉妬してるのが伝わってきて、可愛い、物凄く可愛い。
「うーん、男の子宛のチョコが間違ってお姉ちゃんのとこに入っちゃったのかなぁ。アハハ」
とは改めて言うが、恋人様はそれが納得いかなそうである。猫目ちゃんも首を横に振った。
「それないと思うよ」
「なんで?」
「理由は二つ」
猫目ちゃんはハンドサインでピースを作りながら、理由と言葉を告げた。
「まず一つ目。女子と男子ーズの靴箱は区分けされてる。ディオスちゃんは男子ーズの区域から離れてるから」
その説明を聞いて、確かにそうであると心の中で感心した。それだけなら、周囲への女子宛という可能性もありそうだが。
「二つ目、名札」
「――あぁ」
そう指摘されて、それはそうだとも思った。靴箱を見分ける為に正面に貼り付けられてる名札は、普通の生徒なら「田中」とか「鈴木」とか名字だけ。クラスメイトに複数人いる場合は下の名前も小さく追記する。
ただ、私はウマ娘だから名札もそれに準じて「Dios」と名前のアルファベットが表記されてる。もちろんクラスメイトに複数人どころか学校にも同じ名前の子はいない。
「そんな靴箱見間違えるはずないじゃん」
「……じゃあ、やっぱりこのチョコレートは私宛?」
「そう考える方が妥当じゃない?」
猫目ちゃんはそう教えてくれる。恋人様は私達の顔を見上げながら小さな口を開いた。
その顔に笑顔はない。そしてモゴモゴとした口調で絞り出すように言ったのは。
「ほかにすきなひといるの……?」
たった一言だった。それを聞いて私がひゅっと息を呑む一方で、猫目ちゃんはゆるりと微笑んだ。
「ちゃんと安心させてあげたらー?」
そんな事を言う猫目ちゃん。私は促されるまま、恋人様の小さな身体を、そのまま抱きあげた。
「えっと、居ない居ない。他に好きな人なんて」
ややおっかなびっくりに話す。言葉が伝わってるかわからないが、しばらく固まって、それからイヤイヤと身体を捩って抱きしめ返したから、まぁ、とりあえず抱きあげたのは間違った行為じゃなかったと思いたい。
子供特有の金木犀のような甘い匂いと柔らかい感触を味わいながら、猫目ちゃんへ視線を向ける。彼女はニヤニヤとした笑みを崩さなかった。
家に帰って、即冷蔵庫に直行。
「冷蔵庫に入れてあるやつ。届け先間違ってるかもしれないチョコだから食べないでね」
「は~い」
相変わらずテレビの中のウマ娘のレースにご執心な弟は素直に返事。お母さんは、意味ありげに微笑む。
「お母さんも若い頃は、年上のお姉さんにチョコを贈ったわね……」
「お母さん……アレ冗談じゃなかったの……?」
思い出話がからかってるのか本当なのかよく分からない。
自分の部屋に帰ってきてゆっくり考える。チョコレート、誰が靴箱に入れたんだろう。
……残念ながら、全く思いつかない。
「男だったら何か思い浮かぶんじゃないの~?」
冗談ぶって自分自身に問いかけてみる。相変わらずそっちの思考は落ち込んでるのか、何も思い浮かんで来ない。
まぁ前世もバレンタインデーなんて文化に携わった事なんてなかったから当然か。
――誰かに相談してみようかなぁ。
締め切り:10月16日0時
相談相手(セイちゃん枠に二つ目のキングヘイロー入れてしまっていたので取り直し)
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キングヘイロー
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エルコンドルパサー
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猫目ちゃん
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セイウンスカイ
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ボブヘアちゃん