神様、私はキングちゃんなら何か知恵を貸してくれるんじゃないかと彼女に相談する事にした。
「別に、考えずに食べてしまってもいいんじゃない」
翌日の昼休み。理知的な彼女にしては、素っ気ない返事だとは思った。
「そうはいっても、誰が入れたのかわからない物を食べるのはちょっと」
学校に部外者が入り込んで、無作為に入れた毒物なんて可能性も一応ゼロじゃないとは反論して、キングちゃんはようやく「まぁそうだけど」と腕を組んで考え込む。
……なんだが、先のやり取りや仕草で彼女には誰が靴箱にチョコを入れたのか、なんとなく推測が付いているように感じた。
「もしかして、キングちゃんは誰が入れたのか分かってるの?」
直接問いかけてみると、キングちゃんは考え込んだ表情を崩さないまま、私の事をじっと見つめる。
ゆっくりと瞬きをし、視線を逸らしたかと思うと小さくため息をついた。
「知らない」
短くそう呟く。
キングちゃんにしては、怒っているというよりも呆れているような。そんな口調だった。
これ以上しつこく追求すると、反感を買ってしまうような。そんな気がしたから、それについては何も聞けなかった。
……とりあえず頭の中で状況整理してみる。
入れられた当日。昼休みは校庭に遊びに行ったから、その帰りに当然靴箱の中身は見た。その時は入ってなかった。
五時限目が始まる時間ギリギリまで遊んだから13:30。六時限目が終わる15:15に下校。その間の『1時間45分』にあのチョコは入れられた事になる。
「まさかキングちゃんがチョコレートくれたの?」
念のため確認してみた。……すると、ちょっと不機嫌そうに睨まれた。
「渡すとしても学校の外で渡すわ。男の子達に見つかって、貴女との関係を恋愛だのなんだの茶化されるのは面白くないもの」
……まぁ友チョコでも男子ーズはからかってくるよなぁ。男子の中には、好きな女の子にイタズラしちゃう子もいるらしいし。特にキングちゃんはモテる。……牡馬視点でも女の子視点でも、好きな子をいじめたがる男の子の気持ちはよく分からない。
そもそも、私が恋愛感情ありきでバレンタインデーチョコを貰う? ないない。私は別にキングちゃんみたいにモテないし。
――考えてみればそうか。靴箱に入れられていたアレは『友チョコ』の可能性もあるのか。と、今更ながらに気づく。
「うーん……友チョコでも、私の靴箱に入れてくる相手ねぇ……」
……全く思い浮かばない。仲の良い女の子、あるいは少数の男友達は思い浮かべど。ウチのクラスメイトの子達――というより五年生の年代の子は、なんというか恋愛絡みをからかわれる事に敏感だから、贈ってくれるとしてもキングちゃんの言うように学校の外で渡すのがベターだ。
「渡してきた相手がそんなに気になる?」
少し真面目な顔で、そんな風にキングちゃんは聞いてくる。
私は素直に頷いた。
「そりゃあ、知り合いが贈ってきたとしたら。お返しとか考えないといけないし……」
キングちゃんは私の答えに小さくため息をついた。
「そういうところは律儀よね。あなた」
そこは感心してくれているのか、先のように不機嫌な節は見られなかった。
私は、キングちゃんへ向き直る。
「うん、だから。もし思い当たるなら、誰が私の靴箱に入れたのか教えてほしいなぁ……って……」
キングちゃんは私の言葉を聞いて、しばらく目を閉じて考え込んでいた。
「帰りの会が終わったら真っ直ぐ靴箱に向かったのよね?」
「うん。一年生の――あの、なついてくれてる女の子。あの子待たせてたし」
私が答えると、キングちゃんは納得したように頷いた。
「じゃあ、四年生から六年生の子の線は薄そうね」
「……なんで?」
キングちゃんの話に耳を傾ける。彼女は一呼吸置いてから、口を開いた。
「下校時間が一緒だから。四年生から六時限目になるでしょう? だから、四年生から六年生の子が贈り物を入れたのなら貴女やクラスメイトの子に目撃される可能性が高い」
成る程。でも、目撃されても構わないから入れる、という考えも出来なくはないだろうか。
そう考えていると、私の思考を先読みしたかのようにキングちゃんは言葉を続けた。
「贈り主すら書いてないのは、誰が贈ったか何かしらの理由で悟られたくないから」
それは、なんというか。寂しいものを感じる。中学校が舞台の少女漫画で、"憧れの男子生徒に送り主を書かずにラブレターを書く"というシチュエーションもあったから、多少分からなくもないが……。
「――あるいは」
キングちゃんは言葉を区切って、私へ視線を向けた。
「贈り主自身が誰がプレゼントしたのか、貴女が推理して気がついて欲しいのかも……なんてね」
いくらか余裕ぶったような。お姉さんぶったような。そんな自信家な態度でキングちゃんは言った。
その態度を見て、「誰が贈ったのかおおよそ分かっているが教えるつもりはない」という意図を私は汲み取った。
私としては、まぁ贈り先を間違えたり学校に部外者が入り込んで毒物を仕込んだなんて事でなければなんでもいいのだけれど。
授業が終わり、今日も学校から帰って、例のチョコレートが入った丸箱を冷蔵庫から取り出す。
ピンク色のアルミで包まれたハート型のチョコレート。冷蔵庫に入れてたせいか、指先がひんやりする。……3時過ぎだからか、お腹が鳴る。
「たべないのー?」
弟が上目遣いに聞いてくる。私は一旦チョコレートと丸箱をテーブルに置いて、弟に改めて向き直る。
「そうだねー。お姉ちゃん宛だって分かったら食べられるんだけど……」
そう言葉を返すと、弟はしばし思い悩んでいた様子だったが。私が顔を覗き込むようにうかがうと、急に顔を上げた。
「きっとおねえちゃんあてだとおもうよ!」
弟は自信満々に、そう発言した。私はどう返していいか分からなかったけど、弟は話を続けた。
「だからね! せっかくてづくりなんだから、もったいないよ!」
小さな体をめいっぱい使って身振り手振りをしながら語る弟。私はそっかぁ。と相槌を打ちながら、彼の頭をがしがしと撫でる。
キングちゃんが贈り主は特定していそうだったけれど。その様子から私の知人からのものだというのは違いないだろう。
「まぁ、靴箱も間違えようがないのはその通りだし。私宛と踏まえても、いいか……」
テーブルの上のピンク色のアルミの包装紙を捲って、チョコレートを口へ放り込む。
咥内に広がるイチゴミルク味に私は頬を綻ばせた。なんだかやたらに甘い。
「はは、弟の言う通り手作りだコレ」
市販品ならこうも甘くないだろう。手作りのチョコレートだからか、やたらに甘い。今時、女の子ならチョコなんて自作するのは珍しくない。けど、この甘さに少し面食らった。
「一年生の恋人ちゃんがお母さんと一緒に頑張ってくれたのかなぁ……」
とは思えど、先日のチョコに妬いている様子が自作自演によるものだとしたら。大女優なのだけど。
「わっがんね」
苦笑しつつ、チョコレートをまた一つ口へ運ぶ。喉が渇いてくるくらい甘い。けどおいしく感じるし、嬉しい。
「食べる?」
弟の方にも一つ差し出してみるが、フルフルと首を振るだけ。……そんな時、弟がウマ娘のレースを観る為につけっぱなしだったテレビがワイドショーを映し出す。
バレンタインデー特集で、チョコレートを用意する方法から手作りする場合の注意点なんかがアナウンサーによって話された。
『チョコレートを溶かす時は、絶対に直火でやってはだめですよ。油分が分離して風味が落ちたり、焦げ付いて苦くなったりしちゃいますから』
との事。市販チョコを溶かして再形成するだけと思っていたが、それだけの作業でも温度管理を徹底しないと油浮き出て斑なチョコレートになってしまうという映像が映し出されていた。
やたら甘いチョコレートを一つ手に取り、かざしてみる。油が浮き出ているという事はなく、溶かすのも再形成も、砂糖の量はともかく、ここは上手くやってのけたと見てとれる。
「んん……」
大変な作業だったのだろうと考えながら、もう一度チョコレートを口へ運ぶ。甘い余韻に浸りながら考える。
相手が推察ついたら、ちゃんとお返し出来るんだけどなぁ……。
チョコレートを贈ってくれた相手を推察してみる
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キングヘイロー
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猫目ちゃん
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セイウンスカイ
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ボブヘアちゃん
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エルコンドルパサー
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一年生の恋人様
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弟