後始末屋の特異点   作:緋寺

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見えた終わり

 午前中はクロトによる供養の儀式に参加していた深雪達は、午後からはまだまだ掃除しなくてはならない場所が沢山ある地下施設へと赴く。半日だけでも作業をしていかねば、すぐに終われそうなところもなかなか終わらなくなるからだ。

 なお、フレッチャーは午後からはダウナー飛行場姫の手伝いをするために、すぐに明石の『工廠』をコピーして動き出している。出来れば今日中に配線を終わらせたいらしい。

 

 とはいえ、部屋を掃除するとなると、丸一日かけてやらねばならないくらいのところもあり、午後入りの者達は、そういうところは控えて、通路をメインに掃除を開始しようと考える。

 

「すげぇな、人海戦術」

「なのです。みんなの力を合わせたら、こんなに綺麗になるのです」

 

 見ていくとわかる、掃除の行き届き方。広間に行くまでの通路に穢れは殆どなく、少し残っている場所も巡回している者がすぐに拭き取って綺麗にしていた。

 天井も隈なく掃除されており、つい最近までの汚れ方が嘘のようである。眼鏡を通す前後で、見た目が変わらないというのを、この島の中では初めて見たのではと思えるほどである。

 

 それもこれも、うみどりだけでなく、テミス率いる深海棲艦とカテゴリーYの連合軍、島民達の尽力のおかげだ。

 心を入れ替えた子供達が特に力を発揮しており、これまでとは違う仲の良さも現れていた。和やかな雰囲気の中で、楽しく掃除しているというのが特に作業の効率を良くしていた。

 

「お、うっす、姐さん。もう用事は大丈夫なんすか?」

 

 その中でも特に活躍していたのが春星。戦艦棲姫の艤装を持ち出し、それに乗りながら天井の掃除を実施中。

 春星以外にも戦艦棲姫の身体を与えられた者がいるため、そちらも今回は艤装の使用を許可され、それを掃除に使っている。

 テミスの指揮下に入った者達は、艤装を返したからと言って叛逆を企てるようなことはもうしない。むしろ、艤装を生活のために使う。今の使われ方がいい証拠だ。

 

「ああ、終わったよ。すげぇなそれ、めちゃくちゃ効率いいじゃねぇか」

「天井もやらないといけないって聞いたんで、許可貰って使ってるんですよ。そのおかげで、捗る捗る」

「はは、そりゃあいいや。つーか、全員分残されてたんだな」

「最終的には全部無くすつもりだったらしいんですけどね。念のため残しておいたらしいんですよ。あの厳つい提督が」

 

 昼目提督がそう采配したようである。海上の後始末は基部さえあれば海上移動が可能なため、攻撃可能な艤装は全て取り上げられていた。反抗的な者達に武装なんて渡すわけにはいかない。解体してやったと嘘を伝えて反抗の意思を削ぐ。

 改心したならば、信用出来る状態になったならば、真実を伝える。実は艤装は残してあり、本気で後始末を手伝いたいなら使えばいいと。

 そしてその結果がこれである。誰もが真剣に後始末に向かい合っているため、艤装を有効的に利用して、この地下施設をより綺麗なモノにしていこうと躍起になっている。

 

 戦艦棲姫、戦艦水姫の艤装に乗りながら、通路をのっしのっしと歩き、そのまま天井を拭き掃除。強くこびりついているところは、足を止めて念入りに拭く。これを繰り返した結果が、深雪達が先程見た、とても綺麗な通路である。

 

「ただ、この艤装結構デカいんで、入れない部屋とかあるんすよ」

「あー、扉を通れないのか」

「そうなんすよね。なんで、オレ達は通路専門っす」

「充分すぎるぜ。マジで助かるし、頼りになるな」

 

 ベタ褒めされて、照れくさそうにニッと笑う。春星だけでなく、掃除を続けているカテゴリーY達も、褒められるのは気分がいいようで、深雪の激励に笑顔が絶えない。

 

「掃除が楽しいんですよ、今、みんな。これまでのこと思い返して、ふざけたことやらされてたなって思って、でもこれからは自分達の力で、深海棲艦のみんなと力を合わせて、ここで生活していく。その基盤を作れるのが、なんかすげぇ楽しいんです」

「そうそう、秘密基地作ってる気分なんだよねー」

 

 春星の後ろから出てきたのは、あの駆逐水鬼だ。モップ片手に床を拭き、汚れを徹底的に排除している。

 

「おう、お前もよくやってるんだな。あたし達の仕事が無ぇじゃんか」

「別にいいでしょ。無いなら無いで身体休めなよ特異点」

 

 ケラケラ笑う駆逐水鬼。その掃除によって心のわだかまりも洗い流しているかのようだった。

 

「ああ、秘密基地作ってる感じ、めっちゃわかるな。言われたらそんな気してきたぜ」

「でしょ。だから捗るんだよコレ。片付いて、そこを自由に使っていいって言われたら、そりゃやる気も出るってもんだよ」

「違いねぇや」

 

 一時期、険悪な仲だったこの2人も、駆逐水鬼が心を入れ替えたこと、掃除に対して真摯に向き合っていることで、その仲違いも解消しているようである。それでも春星は謝らなかったようだし、駆逐水鬼も自分が悪かったのだと謝罪を拒んだようだが。

 

「掃除が終わったら、料理とかも勉強してみようかな。ほら、うみどりのさ、ラ級ちゃんだっけ。あの人達だけに任せてたら、手が回らないでしょ。ここ結構な人数いるし」

「だな。慣れてるセレスが中心にいるから全員に提供出来てるだけだし、いちいちどっかに集まらないと飯食えないのは面倒だろ。せっかく自分の家とかも貰えるんだから、やり方くらい知っといてもいいと思うぞ」

「だよね。あ、でも電力の問題があるかな……まだ集落の方って、電気が通ってないんだよ確か」

 

 地下施設にある発電施設に関しては、現在もダウナー飛行場姫が調査解析中。だがその前に、深海棲艦発生抑制装置の接続が優先される。電力も大切だが、それ以上に更なる危険の発生を防がなければならない。集落に完全に電力が行き渡るのはその後。

 だが、生活には不自由していないというのが現状である。灯りが無くても大丈夫。文化から隔絶されたメリットとして、電力がなくて出来なくなってしまった趣味などもなく、焚き火を囲んで談笑したり、暗くなってしまってもさっさと寝てしまったりと、悠々自適な生活に繋がっている。

 

「まぁそこはおいおいどうにかなるでしょ。今は何やってても楽しいって感じかな」

「そいつは良かった。楽しめてるなら何よりだぜ」

「意固地になってた自分が馬鹿みたいに思えるからね。全部……王様のおかげかな」

 

 しみじみと話す駆逐水鬼に、深雪も電も、穏やかな気持ちになれた。

 

 

 

 

 通路に掃除を手伝うような場所は無さそうなので、2人はその足でそのまま地下広場の方へと赴く。そこではあの護衛棲姫が艦載機を使った天井掃除をせっせと進めていた。

 テミスとテイアが供養の儀式に参加していたため、午前中は一人で、いや、忌雷や特機達と一緒に、黙々と掃除していた様子。そして今はというと──

 

「……なんかやたらリラックスしてないか」

「っ……そ、その、はい……立ちっぱなしは疲れるだろって、用意してもらえて……」

 

 そこに置かれている簡易的なベッドに寝転がって艦載機の操作をしていた。

 

 天井掃除ということは、ずっと立って上を向いていなくてはならない。それだと、脚は疲れるし首も疲れる。それを解消するために、ベッドで寝ながら天井を見て、ただ集中しているだけ。

 護衛棲姫だけ見てるとサボっているようにしか見えないが、その実、誰よりも高度なことをやっているという面白い状況。

 

「首も痛くないですし……あまり疲れませんね……眠くはなりそうですけど」

「そんなこと言いながら、寝ることは無いんだろ」

「……当たり前です……笑い物にされる方が嫌なので……」

 

 実際、今の作業風景は、他の者達からは遊んでいるようにも見えかねない、だが、全員が理解者だからこそ、これを許されている。

 昨日でカテゴリーYの中でも特に人気者になっている護衛棲姫がやっていることなのだから、こうして疲れないように仕事をするのも効率の問題だと皆が容認である。その仕事っぷりにむしろそれくらいしておけとベッドの使用を強制するレベル。

 

「手伝えそうなことはあるか? 今だと無さそうだけど」

「そう……ですね、ごめんなさい、今は何も。煙幕で穢れと汚れ、取れません?」

「管轄外だ。悪いな」

 

 深雪と電が天井を眺めると、確実に穢れが失われていることがわかる。流石に通路のような速さで掃除が出来ていることは無いのだが、その全てが穢れに覆われていたような場所が、しっかり見えるようになっているのは、テミスでなくても素晴らしいと絶賛出来るほど。

 

「すげぇな本当に……」

「なのです。電達も出来ません」

「私は足場を作ってるだけなので……」

「それがあたし達には出来ないことなんだよ。もっと胸張れ。それだけの価値はあるんだよお前は」

 

 護衛棲姫は、特異点にすらベタ褒めされて、ほにゃっとした笑みを浮かべた。自分の価値をこれだけ多くの者に認められることは、やはり気持ちのいいことである。

 

「んじゃあ、何かあったら言ってくれよな」

「はい……その時は、よろしくお願いします……」

 

 最初はずっと怯えて、殺さないでくださいが語尾になりかけていたことを考えると、護衛棲姫の現状は、非常に前向きになったと言えよう。寝そべってはいるが。

 

 

 

 

 地下施設の清掃は想定以上の速さで進んでいる。このまま行けば、あと数日のうちに終わるのでは無いかと予想される。

 屋外や学校の清掃は残っているが、地下施設を掃除している面々が同じように力を合わせれば、そちらもすぐに終わることだろう。

 

「長かった掃除も、終わりが見えてきたな」

「電達も、もう一踏ん張り、ですね」

「ああ、とりあえず今からやれる仕事探すか」

「なのです!」

 

 深雪と電も、改めて気持ちが入った。最終決戦が近付いてくるという緊張感もあるが、それ以上にこの島の後始末の終わり、達成感に向かう意気込みの方が強かった。

 




仕事はまだまだありそうだけど、本当に終わりが見えてきた。どうしても穢れが全て取れきれないかもしれないけれど、生活する中で浄化することも出来るでしょう。島民は頑張ろうと思えるだけの気持ちがある。


えー、ついに1000話です。4桁突入。ちょっと長く行きすぎてますね。それでも最終決戦が始まっていないあたり、まだまだ続きそうです。
それでも終わりに向かっています。今後とも、よろしくお願いいたします。
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