後始末屋の特異点   作:緋寺

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島は平和か

 後始末11日目はあっという間に終わる。地下施設の掃除をしていると、外の時間が見えないため、気付けばかなりの時間が経過していたりするのだ。

 深雪と電は、いろいろと見て回って、手が足りないところに力を貸すという方針で午後は進めた。必要ならば深海棲艦化もして、サポーターとして午後を使い切り、キリのいいところで地下施設を出ると、もう外は夕暮れ時も越えて暗い時間になっていた。

 

「うわ、こんなに暗いのかよ。結構遅くまでいたんだな」

「気付かなかったのです……電達が最後じゃないですよね?」

「ああ、まだ中で作業してるもんな。こりゃあ、声かけといた方がいいかもしれねぇや」

 

 深雪達が外に出たのは学校の配膳室のエレベーター。Uターンしてまだ作業している者達に、外が暗いからもう切り上げろと言って回るのもやっておくべきかもしれない。

 そういう点では、地下施設は不便だと実感する。せめてわかりやすく時計があるといいのだが、それすらないためにこういうことが起きる。

 

「時計くらいなら、作ってくれって言えば作ってくれるかな」

「電波が届かないので、電池で動く時計とかになりますかね?」

「発電施設から直接電気引っ張るとかどうよ。あの地下の広間にでっかい時計塔みたいなの建ててさ」

「地下に塔なのです!?」

 

 そんなロマンを語りながらも、一度乗ってきたエレベーターに再度乗り直す2人。

 

「外から中に言葉が伝えられるスピーカーとかあってもいいよな」

「その方が建設的かもなのです。もし外で何かあった時、時間とか関係なく伝えられるのはいいことなのです」

「あたし達の作業が終わって、テミス達だけで生活するようになっても、ここは多分ずっと使われるだろうからな」

「なのです。学校の放送室とかからだといいですかね?」

「だな。まぁ、あたし達にはどうすればそれが上手く出来るかはわからないけども」

 

 今無くて、あったら欲しいモノを次々と話していく。時計、スピーカーの後は、もう少し入りやすい出入り口や、各部屋に排水溝、ここにもキッチンや風呂など、生活するために必要なものが次々とアイディアとして出てくる。

 あくまでも研究施設という点が強い地下施設であるため、そんなモノは無いと言われればそれまでなのだが、そういうカタチでもこの場の在り方を覆すことで、これまで使っていた者のことを忘れ去ろうとしていた。

 人々に対して害しか与えていない場所を、島民のための場所に変える。それだけで、この島はより良くなることだろう。

 

 

 

 

 地下施設内に声掛けをしてから戻ってくると、より夜は深まっていた。日が変わるなんてことはないが、普段なら夕食も終えて風呂にでも入るかと考えるような時間である。

 すっかり暗くなった帰路に就く深雪と電は、しみじみとこれまでの後始末を振り返っていた。

 

「最初はどんだけかかるかと思ってたけど、終わりが見えてきたんだよな。協力してくれる人も増えて、こんな大人数で片付けをするなんてこと無かったし」

「なのです。あの海賊船の時も、こうはならなかったのです。あの時も1週間かかりましたけど、今回はそれ以上ですし」

 

 これまでで一番長く大変だった後始末は、やはりあの海賊船の後始末。自爆した船を全て片付けるという厄介極まりない作業は、どうしても心に残っていた。

 今回はそれ以上。しかも、合間合間に特殊なイベントも差し込まれて、ただ掃除をし続けるというだけではないというのもある。疲れる暇すらない。

 

「これまでとは勝手が違いすぎますけど、でも、上手くやれていると思うのです」

「だな。ちゃんと綺麗になってる。それでも無くならない穢れはあるけど、それも今は抑え込めてるもんな」

 

 表面上の穢れはかなり失われている。近海の海水も、最初と比べれば驚くほどに浄化されている。だが、土壌に染み込んだ穢れはどうしても取れない。定期的に薬を散布しても、奥の奥まで浸透してしまっている穢れには、どうしても届かない。

 穢れがあれば深海棲艦が生まれてしまうわけだが、それも抑制装置により抑え込むことが出来ている。その技術が敵の技術なのが腑に落ちないところはあるのだが、利用出来るモノは利用して、この島を安全に平和にしていくのが今の最善。

 

「土の中の穢れは、もうこの島に住むテミス達に任せるしかないよな」

「なのです。うみどりもずっとここにいるわけにはいきませんし、最後はお任せすることになると思うのです」

「やり方だけ伝えて、後はよろしく、だよな」

 

 土壌の穢れを浄化するには、何年もの月日が必要であろう。うみどりもそれしかやらない部隊ではない。この海には、まだまだ後始末をしなくてはならない場所が沢山ある。

 せめて今の戦争、第三次深海戦争が終わってからでなければ、この島に滞在して穢れの浄化に専念するなんてことは出来ない。

 ならば、この島を我が国とするというテミス達に、やり方を教えてやってもらうことの方が確実だろう。

 

 そこで、ふと電は思うところがあった。

 

「電は、この島は何処よりも平和な場所だと思うのです。でも、この島を無くそうとしてくるヒトも、いるんじゃないかって、思っちゃうのです」

「……だよな。見た目だけなら、深海棲艦が占拠してる島だ。そこに艦娘まで交じってんだから、ここだけは何かおかしいって思うヤツ、絶対いるよな」

「なのです……テミスさんが最強艦隊を作るって考えるのも、あながち間違いじゃないのかも、なのです」

 

 何も知らない者からしてみれば、この島は戦争の火種になりかねない場所だ。本来なら争う者同士が共存しているのだから。

 

 真の平和は戦わないこと。水に流せとは言いにくいが、命の奪い合いをしなければ、少なくとも痛いことにはならない。わざわざ干渉し、自分達の要求を押し通そうとするから戦いになる。

 この島は、若干閉塞的かもしれないが、外に対して侵略をしようとすら考えていない、完全な平和主義の1つの国だ。それを見た目だけで敵だと決めつけて排除をしようとするのは愚の骨頂。干渉しないこの島に、わざわざ干渉しようとする方がよろしくない。

 

「……出洲は、この島のことをどう思ってんのかな」

 

 そこで、自分の考える平和像を持つ出洲のことが頭を過ぎる。戦いが避けられない、特異点の敵。

 人々を全員高次に引き上げることで、争いを起こさないようにしようと画策する出洲にとって、テミス達は高次と言えるのだろうか。また、争いを起こそうともしない者達でも、攻撃をするようなことはあるのだろうか。

 

「電は、ですけど……多分、おそらく、手を出さないんじゃないかと、思うのです」

「理由は?」

「あの人は、あくまでも人間を堕落させる特異点が世界の敵と言っていたのです。でも、ここにいる人達は、別に人間の成長を妨げてるわけじゃないのです。独自の文化で、独自の生活をしているだけ。堕落になんて紐付かないのです」

 

 深雪からしてみれば根拠のない言い分だが、出洲は特異点の存在を、万能性によって人間を堕落させる存在だと断言して、世界の癌だと排除を目論んでいる。人間を成長させて平和を実現しようとしている者からすれば、成長を妨げる存在は確かに不要だろう。勝手に決めつけること以外は、言っていることもまだわからなくもない。

 この島は、誰かにそれを強要するわけでもない。高度な思想というわけではないかもしれないが、この島で、平和に楽しく生きるという、ただそれだけの思想の下で今を生きている。それを邪魔だと排除するだろうか。

 

 電は、しないと考えた。そして、深雪も。

 

「むしろ、今ここにアイツの目指す平和があるんじゃないか? 誰も戦いたいと思ってない。王様ってのが嫌かもしれねぇけど、みんながそれを良しとしてるし、その王様自体が滅茶苦茶協力的だ。島を統べるなんて言ってるけど、ふんぞり返ってるわけでもねぇもんな」

「なのです。この島は、世界の中でもすごく小さいかもしれないけれど、何処よりも平和な場所だと思うのです。それこそ、みんなが目指すべき平和って感じが、するのです」

 

 これを平和と見做さず破壊しようとする者は、悪とは言わずとも、非難されて然るべき存在であろう。

 もし出洲がそれをしようとしたならば、これまでの平和論を全てかなぐり捨てるような行為に他ならない。

 

 だから、島を見過ごさずに滅ぼす、なんてことはしないと言える。あちらにはあちらの信念があるわけで、この島はそれに属することもなれけば、反することもない。ならば、干渉しないが正解であろう。

 

「まぁ、あくまでも憶測だから、あんなこと言ってても結局は気に入らないから島を潰すなんてことしてこないとは限らないな」

「そうあってほしくはないですけどね……」

 

 それは、優しい願い。しかし、特異点の力を持ってしても、叶うとは思えない願いである。

 

 

 

 

 港に辿り着き、うみどりも見えてきたところで、今日の仕事は終わりだと一息吐く。そこでは相変わらず、工廠厨房が繁盛しており、先に戻ってきていた者達が笑顔で夕食にありついていた。

 今日はどうも作業していた全員が時間を忘れていたようで、いつもよりも遅い時間の食事になっている様子。

 

「お、やっと帰ってきたよー。ミユキ、イナヅマ、仕事しすぎー!」

「お姉様、電様、お帰りなさいませ。お疲れ様でございます」

 

 出迎えたのは、カレー片手に手を振るグレカーレと白雲。どうやらギリギリまでここで待っていたようである。

 

「悪い悪い。でも、あたし達が最後じゃないだろ」

「だねぇ。王様はまだ地下にいるみたいだし、これで半分くらいじゃないかな」

「みんな熱心なのです」

 

 ラ級が盛り付けたカレーを貰い、礼を言ってから頬張ると、身にも心にも染み渡るような温かさに癒された。

 

「終わり、見えてきたよな」

「だねぇ。ホント、厄介なことばっかりだったよ。実際完璧に終わるわけじゃないしさ」

「だよな……でも、後は任せたってところまでは行けるな」

 

 続々と戻ってくる仲間達を出迎えながら、深雪達は残りの作業のことを考える。あとは数えるほどしかない作業。1つ1つが大きすぎるくらいだが、それでも指折り数えておしまいと行けるところまでは来ている。

 

 充分な成果だと、笑いが溢れた。

 

 

 

 

 戦いは、次のステージへ。特異点にとっては、因縁の戦いに向かう。

 




この島は、間違いなく平和だと思います。が、それは見る者によって変わるモノ。
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