後始末屋の特異点   作:緋寺

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地下に響く声

 後始末11日目も終わり、12日目に向かおうとしている夜。もう日を跨いでいるくらいの時間で、深雪は少し目を覚ました。当然ながら、電達は眠っている。深雪もふと意識が戻っただけで、すぐにでも眠れそうなくらいに睡魔が目の前をチラついている。

 だが、そのほんの少しの覚醒で、気になることがあった。部屋の窓に水が当たる音。雨が降っている。それが少しの時間でもわかるくらいに、音が聞こえた。

 

「……雨かよ……」

 

 独りごちる。後始末の最初の方にあった土砂降りとは音的にも違いそうだが、それでも雨が降るというのは少々気が滅入るというもの。地下施設での清掃には雨なんて関係ないのだが、それでもそこに移動するまでは雨に打たれることになる。

 傘を差していけばいいものの、じゃあそれは何処に置いておくだとか、そもそも後始末のための道具を持っている中で傘を差せるのかという問題も出てくるため、やはりなんだかんだで億劫なことは多い。

 

「……朝までに止んでっかな……」

 

 ゴニョゴニョと呟きながら、深雪はそのままもう一眠りに入って行った。次に目を覚ました時には、雨も止んでからっとした天気になってることを願いながら。

 

 

 

 

 後始末12日目の朝。本日はみずなぎが休みの日。1日おきに行われる、深海棲艦発生抑制装置の起動のため、学校屋上でのライブが行われる日でもある。

 

 深雪の深夜の願いは生憎叶わず、その日は朝から雨。前回あった土砂降りとは違うものの、しとしとと降る雨が海面に波紋を作り、目を凝らして見る必要もないくらいに世界を覆っていた。

 天気予報では、雨は午前中が緩やか、午後からは少し激しくなり、夜には止むという予報。後始末終わり際には、激しいか、止んでいるかのどちらかになると考えられる。

 とはいえ、予報は予報。それを完全に信じることもない。もっと早く上がるかもしれないし、夜も降り続けているかもしれない。ともかく、今降っているというのが問題である。

 

 そういうところもあるので、本日は外で作業することになっていた者達も、全員が地下施設の掃除に参加することになっていた。

 深海棲艦の部隊による人海戦術は、さらにこだかやうみねこの面々を迎えることによって規模が大きくなり、地下施設の清掃はより早く終わることになるだろう。

 

「雨が降っているから、出入りする時にそこが汚れてしまいそうだけれど、そこの掃除は明日以降にすればいいわ。どうせ汚れるんだもの」

 

 地下施設に繋がるエレベーターは、外との出入りが続くので、足下が大きく汚れることになるだろう。それをその場でいちいち綺麗にしていても、出入りがあるたびに汚れるのだから、雨が止んでから綺麗にした方がいいと伊豆提督は皆に説明。そりゃあそうだと全員納得。

 

「あと、少し前に救った妖精さん、かなり回復してきたわ。予断を許さない状況が続いていたけれど、それも峠を越えたみたいでね。今は完治に向かって治療が続いているわ」

 

 地下施設で発見された薬漬けの妖精さんは、明石と主任の献身的な介抱のおかげで、治療に目処がついたという。まだ薬の影響が完全に取り切れたわけではないにしても、命の危機は去り、あとは定期的な治療と安静があれば、時間が解決してくれるくらいのところまで来ていた。

 これには皆大喜びである。これもまた、この島で行われていた非道な実験の痕跡を消すことに繋がる。後始末の一環として、先に進めているのだから。

 

「ここからは私も地下施設の整備に参加します。妖精さんが安定したなら、主任に任せることも可能でしょう。特に、今日はライブでしたね」

「はーい♪ 午後から妖精さんに向けたライブだよ♪」

「出来ればそれまでに、地下施設の装置との接続をやっておきたいところですね。簡易的であっても、動いてくれれば地下の危うさが多少は取り除けますからね」

 

 妖精さんにかかりっきりだった明石も、今日から再度参戦。ダウナー飛行場姫と『量産』を使ったフレッチャーだけでは賄えない部分を、明石の力も使って拡張していき、なるべく早く屋外屋内全てに発生抑制装置の影響を与えたいところ。

 どうしてもその整備には時間がかかるだろうが、今日は簡易的に接続して、以降はより強固な設備に改良していこうという話である。

 

「中継設備などもいろいろ作っていくつもりです。あの地下施設でも生活が出来るように、インフラ整備もしていきたいと思います。どうしても時間はかかるかもしれませんが、ご協力のほどよろしくお願いしますね」

 

 明石の『工廠』の力を最大限に発揮して、地下施設を生活空間に変えてやると言い出した。そのための要望も聞いておきたいとまで。

 そこで出てきたのは、やはり通信設備と時計の件である。作業していても、連絡も出来なければ外の時間もわからない。それは本当に困ると。明石はそれに関してはすぐにどうにかしようとやる気満々である。

 

「それじゃあ、雨の日だけれど、みんなよろしくお願いね」

 

 伊豆提督の言葉に、艦娘達は大きく返事をして、作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 海の上で作業をするなら、傘なんて差していられないため、濡れ鼠になりながらの作業となるだろうが、今は陸の上、かつ屋根のある場所での作業。その場所に移動するまではやはり傘を差していくことになった。

 学校側の道は比較的整備されているため、足が泥で汚れるということもあまりない。それもあってか、こちらの道を選択する者はかなり多め。配膳室のエレベーターは満員御礼である。

 

「掃除も済んでいるから、保健室のリフトも開放しといたよ。地下に降りる時はそちらも使って」

 

 と話すのはダウナー飛行場姫。作業の片手間に、そちらの整備も行なっていたらしい。戦いの時は、忌雷まみれの部屋に向かわせる罠だったあの部屋も、今では移動に使いやすい新たなエレベーター扱いとなっている。

 出入り口は多いに越したことはない。今日もそうだが、大人数が出入りするなら余計に必要だ。

 

「すみませんが、先に行かせてもらいますね。もっと出入り口が増やせそうなら、そちらも優先した方が良さそうですから」

 

 先陣を切るのは、そのダウナー飛行場姫と明石、そしてフレッチャーである。ここでの作業により、地下施設もより生活しやすい場所へと変えていきたい。

 

「前に私が陣取ってた、役場のところあるでしょ。あそこもリフトになってるから、あっちも使えるようにした方がいいね。ただ、多分今はリフト自体が雨曝しになってるからなんとも言えないけど」

「使えるようにするだけでも充分でしょう。外装とかは後からでもどうとでもなります。まずは生活基盤をどうにかしなくては」

 

 このコンビは島の技術者として非常に優秀である。ただ直すだけでなく、使いやすさを重視するのだから。

 デザイン性は明石にはどうしてもない部分になるのだが、そこをダウナー飛行場姫がサポートすることで、生活という点に適したモノが次々と出来上がることになるのだ。

 

「あ、そうそう、どうせだからさ、作業しやすいように、いろんなところにちょっと手を加えておいた。最終的には必要になることだけど、明石に何も言わずにやっちゃったよ」

「貴女がやることで非難するようなモノはないでしょう。おそらく」

「まぁね。私だって、後から直すとかだるいし、今やれることはさっさとやっただけ」

 

 その手を加えた部分というのは、すぐにわかることになる。

 

『あー、あー、みんな聞こえてるかなー? 艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー♪』

 

 地下施設内に、突如那珂の声が響き渡ったのだ。

 

 通信とかではなく、優先で施設内にスピーカーを配線して、一部聞こえそうな場所に接続したというだけのようだ。特に地下の広場には響き渡るくらいの音になっている。

 抑制装置の配線をしている最中に、ちょちょいと手を加えたらしい。ダウナー飛行場姫は、そういうところでも才能を発揮している。なお、作り上げた配線を広場に広げたのは、護衛棲姫の力もあったりする。掃除の合間に、あの艦載機コントロールによって天井にスピーカーを接続したとか。

 

『そちらの様子が見えないのはちょっと残念だけど、那珂ちゃん達の声はみんなに届くようになったんだよね。だったら、作業中でも、那珂ちゃん達の歌声、届くよね♪』

 

 一方的な言葉ではあるものの、ファンサービスを忘れないアイドルの鑑。今はまだライブをしているわけではないのだが、リハーサルなどの音や声などを地下施設内に流して、少しでも単調な作業に刺激を与えるようにしていた。

 

「こりゃあいいや。那珂ちゃんの歌聴きながら作業出来るとか、すげぇ贅沢だよな」

「なのです! やる気が漲るようなのです!」

「作業も捗るってもんだぜ。聴き入っちまって手が止まらないように気をつけないとな」

 

 これまでとはまた違った空気での作業になり、モチベーションは大きく上昇。妖精さんに楽しんでもらうという設備は、ここにいる者達全員に拡がるモノとして確立された。

 合間合間に入るトークは、まるでラジオを聴いているような気持ちになり、たまに本当に手が止まりかけるモノの、作業効率は格段に上がっていた。また、せっかくだからということで、那珂の声で現在時刻も放送される。これならば、時計がそこになくても、ある程度の時間はわかるようになる。使われるのは今日だけかもしれないが、充分すぎるほどの面白さ。

 

「ホウ、コノヨウナヤリ方モアルノカ。実ニ素晴ラシイナ、人間ノ文化トイウノハ。イイゾ、モットヤルガイイ。余ハ全テ許可スルゾ!」

 

 テミスからも大絶賛である。王が許したのであれば、もうそれは国が許した公共事業。地下施設を生活の一部に変えるため、次から次へと改造に次ぐ改造を施すことになるだろう。

 

 

 

 

 これもまた、島の大改革。本当なら無くしてしまいたいような設備でも、楽しめるモノに変えてしまえば、それと共存することも可能だろう。

 




ダウナーちゃん、またまたやらせていただきましたァン。抑制装置側から配線を伸ばすついでに、まずスピーカーを繋いじゃうという大胆な発想。
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