後始末屋の特異点   作:緋寺

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より楽しく

 地下施設に音響施設が配備されたことで、作業の効率が少し上がることになる。実際に作業をしてくれるわけではなくても、定期的に時間を教えてくれるだけでもありがたく、さらには合間合間に歌やトークを入れてくれるため、作業も楽しみながらすることが出来た。

 歌は那珂の他にも、深海玉棲姫の練習の歌声も交じっている。自信満々に人々を鼓舞する那珂の歌声とは違う、健気で一生懸命な歌声は、それだけでも癒しになった。盛り上がり方が別のベクトルとなっているのは、それはそれで楽しめる。

 トークは今のところ那珂やバックダンサー舞風が行うラジオ形式なショー。初めての試みだというのに、お手紙が届いておりますから始まったことで笑いを誘い、これまでのアイドル活動の話や、第二世代ならではの話などを繰り広げた。

 

 これはむしろ、外で作業をしていると聞こえない、地下施設作業の特権。雨の降る今は、作業者が全員、地下施設に入っているため、癒しの提供としては完璧な采配となっている。

 午後になればライブの音も流されるということで、地下施設を清掃している者達はそれを楽しみに作業を進めていた。

 

「ライブ会場のメンテナンスはおおよそ出来ているので、今日は地下施設のインフラ整備をメインにしましょう。地下に抑制装置の影響を与えるのが最優先ですけど」

「そうだね。このスピーカーは先にやっちゃったけどさ、最優先はそっちだわ。出来れば、中継設備とかも作りたいんだけど」

「確かに。では、部屋をいくつかそういう用途に使わせてもらいましょう。通路の端に配線を這わせていってますよね」

「当然。ど真ん中置くほどバカじゃないよ。足引っかけられたらだるいし」

 

 声と歌を聴きながらも、自分達のやることは止めない。明石とダウナー飛行場姫が協力しながら、地下施設の整備に取り掛かっている。

 

 最優先は当然ながら、深海棲艦発生抑制装置の起動だ。ライブにより妖精さんを楽しませることにより発生するエネルギーを地下にまで送り込めるようにしなくては、掃除をした後だっていつ深海棲艦が生まれてしまうかわからない。今でもギリギリだというのに。

 その合間、もしくは並行して、この施設のインフラを確実なモノとする。通信設備などの拡充も、今は割と欲しいところ。この地下施設での作業を進めるにあたって必須事項とも言える。スピーカーは終わらせたが、それ以外にも必要だ。何処かの部屋に基地局を作っておくのが妥当かと明石も話す。

 

 殺風景でも暮らしやすく。それが今の方向性だ。掃除をして綺麗になっただけでは、生活とまではいかない。明石には無い一般人的感性をダウナー飛行場姫に頼り、島民が求めるモノをなるべく用意するというカタチで作業を進めた。

 

 

 

 

 昼、まずは地下施設の全体放送で時間を知らされ、ここで自分達がどれだけの時間働いていたのかを知り、一斉に休憩。

 相変わらず廊下に腰掛けての昼休みとなるのだが、何処もかなり綺麗にされているため、そんな休憩にも抵抗が無くなり、和やかな時間になる。

 

「時間わかるってだけでも、大分違うな」

「なのです。お腹が空いたからとか、疲れたからとかじゃなくて、ちゃんとお仕事してるって感じになったのです」

「それがいいことかどうかはわかんないけどねー。でも、終わりを教えてもらえるんだから、やっぱ時報は嬉しいねぇ」

「はい、那珂様の歌声も聴ける、まこと穏やかな休憩時間ですね」

 

 この昼休み中も、まるで放送部の音楽放送のように穏やかな曲が流れている。那珂の生歌だったりするので、概ね好評だ。

 

 特に、この島で暮らしていたカテゴリーY達は、意図的に文化を取り上げられていたということもあり、この作業中に那珂のファンになる者が続出。時折作業が止まってしまいそうになる者もいる始末である。

 また、テミス率いる深海棲艦達も、歌という文化を知ることで、より穏やかな思考になっているようだった。耳を傾けて、リズムを取っているネ級改や、意味は理解していなそうだが、触手を蠢かせている忌雷など、見た目は人とは違えど、歌を共通文化として受け入れ、楽しんでいる姿が散見されるようになる。

 

『みんなー、今日は雨だけれど、屋上の舞台は屋根付きにしてもらったよ♪ 妖精さん達、みんなが快適に見てもらえるように、明石さん達がいろいろやってくれたからね♪』

 

 こういう放送が入るのも、これまでに無かった楽しみ。単調な作業に少し違うモノが加わるだけでも、メンタルの面で癒されるというもの。

 そして、那珂はこういう時にはポジティブなことしか言わない。わざわざ嫌なことを言ってネガティブな空気を作り出すようなことは絶対にしない。だからみんなが楽しく作業が出来る。

 

『今日のライブは、お昼休みが終わってすぐ! 余裕がある妖精さん、是非観に来てねー♪ 席もある程度は用意してあるし、立ち見もOK! 妖精さんだけではなく、艦娘や深海棲艦のみんなも、見れそうなら来てね♪ 観れなくても、ライブ中の音声はずっと流し続けるから、それでもたのしんでねー♪』

 

 宣伝も忘れない。今日はライブがメイン。深海棲艦発生抑制装置の稼働という言い方ではなく、あくまでもイベントを開催するという体裁は変えない。

 

「お、お前も行きたいか?」

 

 この放送を聞いたことで、一部のサポート妖精さんが見てみたいと主張する、深雪の肩に乗っていたサポート妖精さんも、ライブの視聴を希望した。

 深雪がそうなら、他もそう。電のサポート妖精さんも、グレカーレのサポート妖精さんも、白雲のサポート妖精さんまでもが、ライブに行きたいと主張し始めた。

 それなら行ってみればいいと、深雪達は昼食を終えた後、屋上へと向かう。保健室のリフトを使って学校に戻るつもりで移動すると、あれと思うところがあった。

 

「ここ、阿手の側近が捕まってなかったか?」

「だよねぇ。でも、見なかったよね。運ばれたのかな」

 

 重巡新棲姫が保健室に縛られているはずなのだが、その姿は見えなかった。時雨が弄りに弄っていたのは記憶に新しいが、そこから移動させられたようである。

 出入り口に門番の如く立たれていても、深雪達的には邪魔以外の何者でも無い。ここにいないならいないでいいかと、すぐにアレのことは記憶の片隅においた。今頃、また時雨がニコニコしながらいびってるのかなと思いながら。

 

 ベッドのリフトを使って学校内へ。そしてそのまま屋上へ。学校の片付けはまだそこまで済んでいないため、今は地下施設よりも汚いと思えるくらい。それだけ地下施設の掃除が行き届き始めたということにも繋がる。

 後始末屋としては、その辺りはどうしても気になるところでもあるので、地下施設が終わったら次はこちらだなと思いながら歩みを進める。

 

「お、なんか豪華な感じになってるねぇ」

 

 屋上に来たことがあるグレカーレは、今の屋上、ライブの舞台が非常に煌びやかで豪奢なイメージに見えた。殺風景なところで歌って踊るより、やはりステージから綺麗な方が盛り上がることが出来る。

 

「わ、みんな来てくれたんだねー♪」

 

 出迎えはなんと演者である。那珂が出迎え、妖精さんを案内し、数人にはいつもの装置を身につけてもらう。今回選ばれたのは、深雪、電、白雲のサポート妖精さん。グレカーレの妖精さんは3人の隣に座り、ニッコニコである。

 

 座席自体は十数人分は確保されているため、後から誰かが来ても座れるくらいはあるだろう。

 艦娘や深海棲艦が見る立ち見席も作られている程なので、ここはこれからより一層盛り上がることになりそうである。

 

「……あれ? みずなぎの司令官と玉波じゃね……?」

「なのです。観に来たんですね」

 

 その客席。そこには本日休暇中であるみずなぎの代表である梨田提督と玉波の姿も見えた。わざわざ休みでもここに足を運んでいるのは、やはり()()()()がいるからだろう。

 

「……扇がどうしても来たいと言いまして」

「いやはや、そりゃあ一度来ておかないと。玉波とそっくりな深海棲艦が歌って踊るだなんて、観なくちゃ損さ」

「それがあるから私は少し気が引けるというのに」

「サイリウムやうちわは無いのかな」

「あっても使わせません」

 

 ノリノリの梨田提督と、呆れ気味な玉波。それでも盛り上がってもらえるならいいのだと、那珂も笑顔である。

 

「タマちゃんがお目当てとは、通だねぇ♪ じゃあ、ファンサービスしなくちゃね♪ タマちゃーん♪」

 

 那珂に呼ばれて、おずおずとやってくる深海玉棲姫。自分のために観に来てくれたという梨田提督に、小さく笑みを浮かべると、その場で握手までした。

 梨田提督は、本当に嬉しそうにしている。一方玉波はうわって顔をしたが、深海玉棲姫から同じように笑顔で握手をされた瞬間、態度が一変する。

 

「……この子は私達の娘みたいなモノです。一生推します」

「わかる、わかるよ玉波。今日が休みで本当に良かった。雨とか関係ないね」

「はい、扇のテンションはわかりかねますが、この子が尊いモノであることは理解しました」

 

 直接触れ合い、その温もりを感じたことで、玉波も深海玉棲姫のファンに。自分の同じ顔をしているということもあり、愛着が湧いたようで、旦那との間に生まれた娘というくらいにまで感じてしまっているようである。梨田提督もうんうんと頷く程。

 深海棲艦かもしれないが、ここにいる者達の言動は人間と同じと言ってもいい。しかも、アイドル活動という知恵ある者にしか出来ないことを、今この場でやろうとしているのだ。推さないわけにはいかない。

 

「頑張ってください、えぇと、タマさん」

「ウン、頑張ル。見テテ」

「ええ、しっかり観させていただきます」

 

 深海玉棲姫を笑顔で見送る玉波。想像されていた梨田提督の熱中よりも、玉波も熱中するというのは予想外だったかもしれないが、そうやって楽しむ者が増えれば増えるほど、楽しさは倍増していくことだろう。

 それが目的なのだから、何も問題ない。より楽しんでもらえるように、アイドル達も楽しむのだ。

 

 

 

 

 そして、ライブは大盛況となる。いつも以上に、楽しいエネルギーは滞りなく溜まっていった。

 




梨田提督は予想通り、玉波は予想外
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