時間にして2時間ほど。那珂が主催となる、妖精さんに楽しいと感じてもらうライブは大盛況で幕を閉じる。
深雪達の後にも妖精さんは訪れて、観客としての妖精さんは10人を超え、艦娘や深海棲艦はそれ以上。
本来のライブとしては非常に少ないと思われるのだが、この島で、後始末の合間に、仲間達がそれを見るために来てくれているということが嬉しくて、楽しい。
演者側が楽しくなければ、観客が楽しめるわけがない。那珂の信念はそこにある。故に、舞風や深海玉棲姫と共に、全力で楽しんだ。
「ありがとー!」
「ア、アリガトウ……!」
那珂と深海玉棲姫が観客に向けて一例。舞風も踊りながら優雅に頭を下げると、そこにいた者達からの拍手喝采を受け取ることになる。
「マジで凄かった……那珂ちゃんのライブ、こうやって観るのは初めてだけど、すげぇとしか言いようがねぇや」
「まだ胸がドキドキしてるのです……!」
深雪も電も、ライブを全項目屋上の会場で観る方が出来たことで、モチベーションなどが爆上がり。妖精さんの楽しいエネルギーに貢献出来ないのが悔しい程に、楽しむことが出来ていた。
グレカーレや白雲も、このライブを心から楽しんでいた。第二世代だろうと、カテゴリーMだろうと、関係ない。歌は、その心に強く響いている。
「……素人とは思えませんね。つい最近学び始めたと聞きましたけど」
「そうだね、まるで最初からアイドルになるために生まれたかのようだよ。ここでこれを聴けてよかった」
梨田夫妻も絶賛。推しになったということは一旦置いておいても。本当に深海棲艦が人間の文化をまともに継承出来るのかは不安だったところがある。だが、それは杞憂だったと理解した。
深海玉棲姫の歌声は、まだ少し拙い部分があった。それでも、一生懸命さが伝わってくることで、強く印象に残るモノとして認識している。
それを聴けばわかる。この深海棲艦は侵略なんか考えておらず、こうして観客を楽しませることを楽しむ、真のアイドルとしての道を歩いていることを。
「これなら、僕らも証人になれる。深海棲艦に島を持たせ、援助することに対しての意見は、人間と同様の文化を構築しているとして、共に手を取り合うことが出来るとね」
「ええ、そうですね。私もそのように話をしましょう。絆されているとかではなく、提督と艦娘としての立場から、争う必要がないことを」
深海棲艦はやはり、人類の敵という認識がかなり強い。うみどりのように、七色の艦隊と自称出来るような組織で無ければ、簡単に容認なんて出来るものではない。
だが、ここまでハッキリと見たならば、大丈夫と言えるだろう。それこそ、つい最近までは他の部隊と同様に、深海棲艦は敵であり、排除せねばならない存在と認識していた他の部隊なのだから。
「これは、平和の象徴として受け入れてもらいたいモノだね」
「人間と、艦娘と、深海棲艦が、手を取り合える場所として、何処よりも平和な島として」
梨田夫妻の穏やかな表情は、その先の未来を見透かしているかのようだった。
ライブを観終わり、再び地下施設の掃除へと戻る深雪達だが、地下施設の雰囲気は非常に良いモノだった。
スピーカーから先程のライブの音声が流れ続けていたこともあり、那珂と深海玉棲姫の本気の歌声を聴いてテンションが上がっている者が多くいたのだ。
中には那珂派、玉派という話題を出す者もいるが、どっちの方がいい、どっちの方が悪いとかではなく、どちらもいい、どちらが好きかと言われたら、自分はこちらだなという意見で落ち着いている。
それもこれも、テミスの考え方が影響している。テミスはどちらのことも褒めはするが貶めはしない。いいところだけを語り、悪いところは何も言わない。それがいいところである。
「すげぇ盛り上がりだな。やっぱ那珂ちゃんはすげぇ」
「なのです。玉さんも大人気なのです」
「でもさぁ、現場で見ないとわからないこともあるよねぇ。マイカゼのダンスとかさ」
グレカーレの言葉が誰かに聞こえたようで、目がキラリと輝いた。
「ダンス!? 歌だけじゃないの!?」
そして食いついた。歌は耳があれば聴けるが、ダンスはそこに行かないとわからない。ライブは現場の良さがあることを改めて思い知らせる。
結果、カテゴリーYの子供達は、次は見たいと言い出した。それに対してテミスはというと、
「ヨカロウ。ダガ、一度ニ全員ハ無理ダ。会場ガソコマデ大キナモノデハナイ。順番ニ観ラレルヨウニシヨウ」
全員が観られるかはわからないが、そういう娯楽があるというだけでもやる気が出るのならば、順番制にしてライブの度に誰かがお呼ばれ出来るようにしていく。
その順番で争いになりそうなのだが、テミスはここで更なる一手。
「順番ハ、余ニ従ウト言ッタ順トシヨウカ」
これが全員に納得させる采配となった。意固地になって島への反発をしていたことに対する、ほんの少しの罰。すぐに島を思った者に対する特典。
結果として、『舵』で従わされていた者達が優先順位が上がり、『舵』を持たずとも早いタイミングで従った春星や駆逐水鬼が次、そこから、なんだかんだで寝返った順番で優先順位が決まる。
こういうところで、自分達がどれだけ愚かしい反発をしていたかを理解させ、そしてこれからはもっと正しく生きようと思わせるだけの活力とする。これに反感を買わないのが、テミスの人柄とも言えよう。
「ライブビューイングが出来そうという話は控えておきますかね」
「もしかして、ライブに行かなくても観れたりすんの?」
「はい。映像を流すことも出来ますから。やろうと思えば」
「あー、そりゃダメだ。間違いなく作業の手が止まる。だるいことになるからやめとこやめとこ」
明石とダウナー飛行場姫のこの相談は、誰の耳にも届かなかった。せめて、地下施設の作業が完了してからだろう。そうでなければ、全員が画面の前から動かなくなってしまう。それでは終わる作業も終わらない。
ライブビューイングも順番制にすれば多少は変わるかもしれないが、その分当然ながら作業員が減る。ただでさえ早急に終わらせたい作業なのに、それで効率を落とすのはよろしくない。
なので、そこは出来てもやらないという選択肢を取る。今後のためである。
「それよりも前に、全部の配線ですよ。貴女のおかげで、今日中には接続出来そうです」
「そりゃあよかった。あんまり長々やるのもだるいだけだからね。それに、フレが手伝ってくれてたし、資材の搬入も軽々やってくれた睦月もいるし、環境は整ってたよ」
「上手くいってよかったですよ。貴女も立派な技術者ですね」
「今後はこの島のエンジニアは私だけになるかもだからね。まぁ、あそこに器用な奴がいるから引き込もうとは思ってるけど」
器用な奴とは当然、広間で寝そべりながら作業をしている護衛棲姫のこと。ダウナー飛行場姫は、あの護衛棲姫をエンジニア側に取り込もうと画策しているらしい。
艦載機コントロールの精密性がアレだけのモノならば、技術職に就かせて集中してもらえば、欲しいモノが次から次へと作ってもらえそうだと、少し悪い顔をしていた。
本人の気持ちはまだ聞いていない。しかし、護衛棲姫はそういう仕事が好きそうであるというのは確かである。一人で黙々と作業をすることになると思われるので、むしろ進んでやりそうまである。
「よし、中継設備も完成ー。フレ、配線出来た?」
「はい、滞りなく。発電設備からの通電も問題ありません」
「ほいほい、じゃあ、接続するよー」
地下から延ばした配線が、地下施設の上方に設置された中継設備に接続され、そこからも電力を取得することが可能となった。これにより、さらに発生抑制装置へのエネルギーの供給も安定化させられそうである。
「もう少しですね。そうすれば、新たな深海棲艦の発生は完全に抑制出来るでしょう」
「だねぇ。長かったような短かったような」
「短いですよ。それもかなり。これだけの大事業、二日三日で終われるようなことじゃありません。『工廠』の力があって、かつ複数人いたからこそ、これで終われたんです。それに、私達だけじゃありません。ここにいる全員が揃って、初めてここまで上手く行ったんだと思います」
明石の言うように、ここまで仕事が早く終わったのは、間違いなくここにいる者達が全員いるからだ。
着手出来る者が複数人いて、それをサポートする者もいる。その間に異常事態が起きないように掃除を進めることも出来たし、こうしてライブが出来る者がいたからこそ、更なる被害が抑え込めた。
工廠班、後始末屋、アイドル、王、誰が欠けてもこの成果は出せていなかっただろう。大人数の力が複雑に絡み合った結果、これほどまでの大きな事業を超短期間で成し遂げることが出来たのだ。
「これは誇っていいことですよ。少なからずこの島を興す最重要事項に関われたんですから」
「私はそこであんまり目立つつもりはないよ。というか、みんながだるくない生活が出来るのは、私がだるいことしたくないからだからね。どっちかといえば、みんながおこぼれだよおこぼれ」
「まぁそうしておきましょう。アレですね、楽したいから努力する」
「そーゆーこと。今がしんどくても後が楽になるなら、多少は頑張るって話だね」
ダウナー飛行場姫はニッと笑って、作業を進めた。今日中には地下の深海棲艦発生抑制装置は起動するだろう。そうすれば、島内の安全は地上も地下も全てが保証されるはずだ。
島の未来がさらに見えてきた。明るく楽しい島の完成は近い。
ライブビューイングを出来るようにするなら、それこそ地下広場に大きなディスプレイを備え付けることになるかな?