『夜になりまーす♪ お仕事終了でーす♪』
作業中に那珂の声が地下施設に響き渡る。時報の最後には那珂の言葉が放送されることになり、仕事の時間がいつまでかがわかるようになっていた。
今の外の時間はおおよそ夕暮れ時。もうすぐ完全に日が落ちるという段階。仕事終わりとしてはちょうどいいくらいの時間である。
「昨日だったらまだまだやってたもんな。教えてもらえるの、かなり便利だぜ」
「学校から放送してくれているのですよね。なら、お天気も教えてくれるかもなのです」
空部屋の穢れをひたすら掃除していた深雪達なら、頃合いになるまでやり続けるため、まだまだ終わるつもりは無かったのだが、この放送が入ったならば、まだ途中であってもそこで中断。ある程度はオーバーしたとしても、全部終わるまで篭るということはしない。
本来よりも多く仕事をすれば、その分疲労は溜まる。そういうところでも、きちんと線引きをすることで、明日への影響を最低限にしておく。
『さっきまで降ってた雨は、今は止んでるよー♪ 今のうちに帰ってきた方がいいかも? いつ通り雨が来るかわからないからねー♪』
電が予想した通り、那珂は天気も教えてくれる。昼過ぎから少し激しくなっていた雨も、今この時間で止んでおり、外に出るなら今だと報せた。
それもあり、作業をしていた者達は続々と仕事の手を止め、地下施設から帰るために行動を開始した。
「あたし達がここから出てっても、玉棲姫とかがこういう放送はするんだろうな」
「なのです。でも、1人だけだと負担が凄そうなのです」
「その時にはまた誰かが受け持つのかもな。あの王様とかはやってそうじゃね?」
深雪の言葉に納得しかなかった。王の言葉を放送で流し、働く者を労ったりするのは想像に容易い。
そのためにテミス自身も少し早めに仕事を切り上げるようになるのだから、島民としても望むべき結果になりそうである。
「この放送、全部いい方向になるのです。工廠班のヒト達にも感謝ですね」
「だな。あたし達には出来ないことだ。やってもらえてマジで良かった」
この小さくても大きな文明レベルの向上は、島の在り方を更に良いモノへと押し上げてくれるだろう。
作業を終えて戻り、うみどりに到着する頃には、空にはまだ赤みが残っているものの、殆ど夕暮れから夜に変わっていた。
「オ疲レ様。今日ハ野菜タップリノ肉ジャガヨ」
セレスが出迎え、夕食の提供。ラ級達もその手伝いをしっかりとこなし、作ることの喜びを堪能しているようである。
そして、そこには一仕事終えたアイドル達の姿もあった。高嶺の花ではなく、いつでも出会えるアイドル。那珂と舞風、そして深海玉棲姫。ライブの後の放送もあの仕事終わりの時報で終わっているため、仲間達と共に夕食を摂り、後始末屋として談笑をしていた。
「那珂ちゃん、お疲れさん」
「お疲れ様ー♪ 今日は遅くならなかったね♪」
「那珂ちゃんが時間を教えてくれたおかげだ。ちゃんとみんな帰ってきてるぜ」
今地下施設に残っている者はもういない。ギリギリまで作業をしていた工廠班も、最後尾で戻ってきている。
その工廠班、今回は非常に大きな報告も持って帰ってきた。最後に出てきたのはそれを全員の場で話すためでもある。
「王様もここに戻ってきていますね。なら、ここで発表してしまいましょう」
リーダー格となっている明石が一歩前に出た。皆が食事の手を止め、明石に注目する。
「皆さんの協力のおかげで、これ以上深海棲艦が発生することもなく作業することが出来ました。ご協力ありがとうございます。その結果、地下施設の発電施設から経由する中継設備の設立、そして、学校屋上のライブ会場、深海棲艦発生抑制装置のエネルギーを、地下施設にある同装置に送信するケーブルの設置が完了しました!」
この報告は何よりも大きく、そして嬉しいモノだった。これによって、地下施設に突然深海棲艦が現れるということは無くなったということに繋がるのだ。
それが起きないように早急に掃除を進めていたところもあり、不要とは言わないが、焦りなどはもう無くなる。いつ生まれるかわからないというヒヤヒヤした状況は、これにてもう考えなくてよくなったのだ。
「本日のライブで生み出されたエネルギーは、既に地下施設の装置にも送り込まれています。そのため、既に地下施設も営業範囲内です。とはいえ、緊急的にエネルギーを使ったので、本来保つはずであるエネルギーが枯渇する可能性があります。那珂ちゃん、可能であれば、明日もライブをしてもらえないでしょうか」
ここで明石からのお願い。それは、楽しいエネルギーの拡充のため、二日連続でのライブだった。
地上も地下も、どちらも埋め尽くすエネルギーが必要になるわけだが、今日の分で足りているかはわからないのと、地下施設に確実に通すためのエネルギーがあるかもわかっていない。
そのため、まず本来なら不要である2日連続のライブによりエネルギー効率の確認をしたいという。
その頼みに対して、那珂の返答は、言うまでもなかった。
「いいよ♪ 毎日だってやれるくらいだもん☆」
「私モ、大丈夫。モット歌イタイ……!」
「いいねぇタマちゃん! あたしもまたまだ踊れるよー!」
演者である3人全員がやる気満々。休息の時間も当然必要なのだが、2日連続くらいならばまだまだ行けると、声を高らかに上げる。
「こちらはこちらで、妖精さんに装備してもらう装置を少し増やすつもりです。参加してもらう妖精さんもいつもより倍にしたいと思います。明日のお休みは……何とびっくりたまたま都合よくありがたいことにうみどりですね。では、うみどりの皆さん、サポート妖精さんに協力をお願いしたいです」
深雪達は今日のライブを見ているため、次は他の面々に譲ることにする。すると、何人かは自主的に立候補したため、見る見る間に参加者は満員御礼だ。
テミスも配下となる島民達に、言った通りの順番で観覧を許可した。子供達も大喜びであり、モチベーションアップに大きく貢献していた。
ライブを直接観ることが出来なくても、地下施設ならその音は聴ける。二日連続でそれが聴けるというだけで、テンションが上がってしまっている。
「ハルカちゃん、良かったですか?」
ここまで決めておいて、最後の最後に許可を求める辺り、伊豆提督は苦笑してしまったが、最初に頼まれても最後に頼まれても答えは一緒。
「ええ、何も問題ないわ。明日はうみどりが休暇を貰える日よ。自由に心身共に癒されてほしいわ。那珂ちゃん達にはライブで負担をかけることになるけれど」
「負担じゃないよ♪ もし休暇だとしても、多分レッスンしてると思うからね☆」
これによって、正式に明日のライブとうみどりの休暇、自由行動が確定した。後始末の進行具合からして、那珂と舞風がライブに参加出来る回数もそこまで多くない。それを楽しむためにも、この休暇はより楽しめるようにと皆気合を入れた。
食事を終え、風呂にも入り、あとは寝るだけという時間となっても、工廠はまだ電気がついている。
工廠厨房は既に片付いており、セレス達は撤収済み。となると、やはりそこを本来の職場としている明石達がまだそこで作業をしているからになる。
「お疲れ様です明石さん。そろそろ休まないとダメなんじゃないですか? 私には休め休めと言ってくるんですし」
丹陽がその灯りを見て若干嫌味を含みながらも笑いながら注意をする。明石もすみませんねと軽く謝罪しながら、それでもキリがつくまでは手を止めなかった。
「何をしてるんです?」
「明日のライブのために装置の先行開発ですよ。妖精さんにつけてもらう装備の増産ですね。これは簡単なことなので、今のうちにやっておこうかなと」
ヘッドホン型の装置が、さらに3つ作られている。明日はそれを簡単に接続するだけ。これくらいならすぐに出来ると、休憩そっちのけで作っていたようだ。
「ボスも明日はライブを観に行ってみます?」
「そうですねぇ……いいかもしれませんね。席はあるんです?」
「ありますよ。基本は立ち見席ですけど、座れる席も用意してあります。妖精さんがメインターゲットですけど、艦娘にも深海棲艦にも、勿論人間にも楽しんでもらえるようにしてますから」
作業を終え、ふぅと息を吐く明石。その表情は、非常に満足げである。
「戦いのためではないモノを作るのが、こんなに楽しいとは思っていませんでした。いや、30年もそこから離れていたというのもあって、思い出したと言う方が正しいかもしれません」
「……そうですね。工作艦冥利に尽きますか?」
「はい、本当に。いやまぁ、ボスの面倒を見るのが嫌ってわけじゃあないので安心してください。貴女のメンテナンスは最重要事項ですから」
丹陽も少し穏やかな顔で明石の側に。
「これが明石さんの本当にやりたいこと、なんですかね?」
「かもしれませんね。この戦いが終わったら、ここに永住するつもりなんですよね。私、割と賛成ですよ。戦いから離れて、皆さんのために工作艦としての力を振るう。割とこれ、幸せなカタチですよね」
戦いの後のことを話すのは死亡フラグだと、明石は急いで訂正する。しかし、口から出てしまったモノは仕方ない。そのフラグを叩き折ってやりますよと軽口を叩き、笑顔を見せた。
「なら、それを実現させないといけませんね。私も、この島でなら終わりを見てもいいかなと思いますから」
「……そうですね。ボスがこの島に対してそう思ってくれるのなら、王様も喜ぶことでしょう」
阿手の残滓が残り続けるこの島は、丹陽にとっては心に嫌でも棘を刺し続ける場所になるだろう。それでも、この島が快適であり、心身共に休まる場所として認識してもらえるのならば、それはようやく吹っ切れたことにも繋がる。
阿手の思想を引き継ごうとする者は、もう罰せられることが決まっている。子供達も反省し、改心し、島のためになろうと働いている。もう、グダグダと言うところはない。
「明石さん、改めて、今日もお疲れ様でした。島の未来を作ったのは、間違いなく明石さんですよ」
「皆さんの協力があってこそ、ですよ」
工廠班の尽力によって、ついに地上にも地下にも発生抑制装置の力が行き届くようになりました。後始末屋の作業も、残りは少ないと言えるでしょう。