後始末13日目。本日は本来取れていた休暇が半日で無くなってしまったうみどりの休暇の日。そのため、深雪の朝はまたいつもよりも少し遅い時間から始まった。
「休みの日は、結構ガツッと寝ちまうな」
「なのです。自分でも気付かないうちに、とても疲れているのかもしれませんね」
「だな。やっぱちゃんと休んどかねぇと、いざって時にヤバいよな」
充分に寝てスッキリした深雪と電は、食堂でもモリモリと朝食を摂る。グレカーレと白雲も、朝から元気な2人を見て、安心しながらの笑顔である。
この長期の後始末もそろそろ2週間となるが、幸いにも誰一人として倒れることはなかった。キツい場所も多かったが、体力をギリギリまで使うようなこともなく、怪我をするようなこともない。時間はかかるが、安全な作業を心がけてここまでやって来れた証左である。
「今日はどうするー? 前みたいに島中散歩する?」
グレカーレの提案に深雪はどうするかなと頭を捻る。昨日の雨の影響で、整備されている道路以外は少々歩きにくい状態。土砂降りの時とは違うものの、危なくないかと言われれば否定は出来ない。
休暇は疲れを取るための時間だ。散歩はメンタルの癒やしに使えるが、それ以上に疲れてしまっては意味がない。
「今日はぐーたらしててもいいんじゃねぇかな。寝足りないってことは無いけど、たまには何もしないでゴロゴロしてりゃあさ」
「それもまたお姉様のためになるでしょう。気を張りすぎて倒れてもいけませぬ」
「無意識に気ぃ張ってるかもしれないしな。今日は久しぶりにのんべんだらりとしようぜ」
結果、深雪達は今日はうみどりから出ないことを選択。これまでに溜まっている疲労を取るため、うみどりの中で適当に過ごすことに決めた。
同じようにまったりを選択する者が多い中、それでも作業に動いている者も存在する。それが那珂達アイドルと、明石達工廠班である。休む暇が無いというよりは、こうしている方が癒されるということから、動き続けることを選んでいる。
那珂達は深海棲艦発生抑制装置の稼働のためにお願いされているというのもあるが、本人達もそれを楽しんでいるため、何も文句はない。明石達も島のインフラ整備がようやく始められるということでやる気充分。
「では、まず何が必要かを書き出していきましょう。はい皆さん、何か欲しいモノはありますかー?」
明石が行なっているのは、インフラ整備をするにあたって、島民が現在特に欲しいと思っているモノを聞き出すこと。リサーチをしつつ、必要なモノから順に作っていくことが島のためになる。
それもあるため、テミスに頼んで今の島民全員を一箇所に集めてもらっている。勿論、テミスも必要だと思うモノがあればバンバン言ってもらいたいと伝えている。
「余ハ民ガ楽シク生活出来ルノナラバ、何ヲシテクレテモ構ワン。ダガ、作ッタモノノ整備ヲ自分デヤルコトヲ考エテ頼ムコトダ。うみどりガ永遠ニコノ島ニ滞在スルトイウコトハ無イノダカラナ」
うみどりがそのうちこの島から去ることは、テミスも理解している。それもあって、欲しいモノを好きに伝えるのはいいが、それを維持するのはあくまでも自分達なのだということも自覚させた。壊さないように使う、壊れてしまっても自分で直す、それを念頭に置いて、真に欲しいモノを伝えるようにと念を押した。
すると出てきたのは、やはり集落側への電力の供給。今の集落の夜は、電気が通っていないため、真っ暗闇となっている。広い場所で焚き火をすることで、その近隣だけは少し明るいが、それ以外は闇の中だ。
そのため、島民の夜は非常に早い。やることをやったらすぐに眠る。そして日が昇れば目を覚まし、活動を開始する。王であるテミスですら、同じような生活を続けているくらいである。
「そうですね。やはり集落のインフラを整えるなら、電気を再び通すところからでしょう。そうすれば、個別に使えるモノが増えますからね。冷蔵庫とかも使えるようになりますし、生活がより良くなるでしょう」
そもそもが集落にも電気が通っていたはずなので、それを復活させるというのが優先順位高めの作業になる。
「民家や商店の掃除は終わってるんですか?」
「アア、オオヨソ終ワラセテアル。臭イガキツイトコロモアッタガ、ソコモ今ハモウ綺麗ニナッテイルゾ」
「なら住みやすくなっていますね。電気が通れば尚更住みやすくなります」
別に夜更かしがしたいというわけではないが、電気が無いとどうしても不便なところが出てきてしまう。それの解消は急務。
他に出てくるのは、風呂のことや食事のこと。この辺りは現在、全てうみどりを頼っている状態なので、うみどりが去った後でも安定した供給が欲しいと願う者が多い。
「余ガ城トスル学校ハ、今ハアイドルノ舞台トナッテイルガ、ソレ以外ノ場所ニ浴場ナドヲ作ッテモイイノデハナイカ?」
「アトハ、アノ地下施設ダヨネ。アレダケ広イシ、チャント排水出来ルナラ、アッチニ作ッテモイインジャナイカナ」
テミスだけでなく、テイアも風呂については意見を出していた。綺麗好きというわけではないが、風呂を気に入っている様子。
大きくて足が伸ばせてみんなで一緒に入れるような、銭湯のような場所をご所望のようである。
大きな場所として使えそうなのは、2人が言うように学校や地下施設だ。後者は排水の面で大きな改修が必要になるが、前者ならばその辺りをあまり気にせず、すでにあるモノを改良しつつ、本来ならあり得ない大浴場を作り上げてしまおうということになる。
「学校をあまり改造したら、王様の住む場所が無くなりかねませんよ」
明石の言葉に、テミスはケラケラ笑い出す。
「ソレナラソレデ構ワン! 余ハ王ダガ、住ミ方ニハ固執センヨ。今モ民ト共ニ集落デ暮ラシテイルノダ。ムシロソノ方ガ落チ着クマデアル」
「えらく庶民派な王様ですね」
「庶民ヲ知ルコトデ、島ヲヨリヨク管理出来ルデアロウ」
自分の生活基盤に何も拘りの無いテミスだからこそ、このような案が次から次へと出てくる。ある意味、自己犠牲の王様に見えなくもない。実際は犠牲にしているのではない。
自分の力を誇示する必要もなく、ただいるだけで島の象徴になれていることを自覚して、民と同じ視点でいることを選択しているだけ。それがまた、島民に大きく信頼を寄せられる理由にもなっているのだが。
「わかりました。学校にも大浴場を作りましょう。それに、集落にも銭湯なり何なり必要でしょうから、そちらも考えていくことにしましょうかね。ただ、一日二日でどうにか出来るわけじゃありませんし、まずは電気です。それがなければ、欲しいモノは何も手に入りません」
「ウム、余ハ貴様達ノ技術ガ何モワカラン。故ニ、貴様達ガ何ヲシヨウト文句ハ言ワンヨ。余程不要ナモノヲ作ッタナラバ、苦言クライハ呈スルガ」
明石だって技術者だ。そういうところで遊びを入れたりはしない。楽しく生活出来るようにするため、真剣にそこに取り組む。
「まぁ任せてくださいな。島のインフラ整備は、地下施設の清掃よりも簡単なはずですよ」
「任セタゾ、工作艦。我々ノ出来ナイコトハ頼ラセテモラウカラナ」
「はい、過度な期待をされると困りますが、欲しいモノは確実に用意しますから。地下施設に時計とかも用意しておきますよ」
「ソレハ本当ニ頼ム」
外の時間がわからないのはテミスも困っていたようである。少々食い気味に来たため、明石は笑うしかなかった。
『はーい、今日も那珂ちゃんが時間をお報せするよー♪ 時間は始業の時間! お休みはうみどりでーす♪ それでは、お仕事始めてくださーい♪』
時報は地下施設だけでなく、一部外にも聞こえるように。スピーカーを外側にも付けることで、その声が学校を中心に島中に届くようにされていた。
元々集落には緊急放送用のスピーカーが設置されているため、電力さえ供給出来るようになれば、これが本当に全域に届くようになるだろう。
今も地下施設の清掃は続いている。うみどりがいない今日は、島民が中心となって働いているのだ。そこにこだかのメンバーも加わっているのだから、時報は必須。
今は那珂がいるからそれがやれるが、うみどりが去った後は深海玉棲姫がそれを担うことになるだろう。
「さて、私達も作業を始めましょう。インフラ整備は一日にしてならず。今日からしっかりやっていかなくちゃですね」
「はいはい。手を抜いたら逆にだるいからね」
明石と共に、ダウナー飛行場姫も休むことなく働きに出ていた。どちらかといえば島民に属することもあり、島民が働いているのなら自分もやるかと、だるいだるい言いながらもキチンと仕事をこなしていた。
「まずは電力っしょ。それは割と簡単かもね。前までのシステムを復旧させるだけだし」
「はい、その通りです。これまであったはずの、集落に電力を供給するシステムが、地下施設の何処かにあります。それを探しましょう。と言っても大体見当はついてますけど」
「制御は多分、地下の一番深いとこだよね。広場から枝分かれしてるところにある部屋の何処か」
この辺りも予測出来ているため、仕事は早く進みそうである。
だが、それよりも先に、この島に少し変化が見られるようになった。
「……あれ?」
「どうしたの明石。だるいことでもあった?」
「いえ……実は……」
明石が地下施設に向かう前に、何かを見つけた。
「……
まずは電力。そして水道関連。