「……
明石がそれを見つけたのは、地下施設に入る前。学校の中である。
インフラ整備のために地下施設の最も深いところまで行く必要があるため、今回は保健室のリフトから降りようという話となったのだが、そこに向かう途中、廊下の端にその妖精さんは立っていたのだ。
「うみどりにも所属していない妖精さんですね」
「そうなの? 私にはちょっと差がわかりにくいんだけど。服装が違うだけっていうか」
「それが充分大きな違いなんですよ。最初の役割として手に入れたモノを表しているようなモノなんですから」
その妖精さん達は、どちらかと言えば工廠にいる妖精さんに近い姿をしていた。艦娘のための装備妖精さんという感じではなく、戦いには参加しないタイプに見える。
ダウナー飛行場姫の言う服装というのが少々違い、工廠にいる者達とは違う作業着のようなモノを着ていた。まるで民間企業の工場に勤めている者のような服装。ご丁寧にヘルメットまで被っている。
「見た目からして、どちらかと言えば工廠妖精さんですね。でも、こんなところに工廠なんてあるわけないんですけど」
「強いて言うなら私達が『工廠』だね」
「ではありますけども」
そんなことを話していると、その妖精さんが小さな歩幅でトテトテと2人の前に歩いてくる。そして、ヘルメットを脱いでお辞儀をした。
明石達には妖精さんの言葉はわからない。妖精さん達もそこは最初から自覚している。そのため、お辞儀をした後はジェスチャーでその思いを伝えてくる。
真っ先に示したのは、こちらに来てほしいということ。指を差してこちらに用があると示していた。
「ん? こちらに来いということですかね」
「なら作業の前に行っとく?」
「そうですね。妖精さんが言うことは聞いておいた方が無難です。生まれたばかりでも私達より優秀ですよ」
「それはマジで思う」
その妖精さんの意思に従い、明石達は指差す方へと向かう。歩幅が違いすぎるので、明石が妖精さんを拾い上げ、方向を指示してもらうカタチで。
向かった先は、攻略戦中に調査隊が調べていたもぬけの殻の職員室。何もないことはわかっていたため、中のモノを外に出すという作業をしていた深雪達も、この部屋には触れていない。
だが、妖精さんがそこまで案内したのには意味があった。
そこには、1人や2人ではない妖精さんが待機していたのだ。
「え、これ、どういうこと?」
ダウナー飛行場姫もこの光景には驚きを隠せない。この島で過ごしていた時間はあったが、このように学校で妖精さんが集まっている姿を見るのは初めてのこと。
深海棲艦発生抑制装置の材料にされていたことも知らなかったのだから、その
「……ここ最近で生まれたヒト達であることは確実ですね。いつ生まれたかわかりますか?」
妖精さんに尋ねると、指を1本立てる。1日前、昨日と判断するのが最も妥当だが、何がきっかけかと頭を捻ると、やはりアレしかないと頷くことがあった。
「昨日は那珂ちゃんのライブですね」
「確かにそうだけどさ、ライブ自体は前からやってんじゃん」
「そうなんですが、昨日のライブは少し規模が大きかったですよ。
明石の予想はそこにある。深海棲艦発生抑制装置は、妖精さんが楽しいと思う時に発生するエネルギーを使って、島中に妖精さんの目を張り巡らすことで、誰かに見られている場所では生まれないと思われる深海棲艦の発生を抑制している。
そのエネルギー、元は妖精さんが新たな妖精さんを呼び寄せる、もしくは生み出すために使われる力だ。楽しければ楽しいほど、妖精さんは多くそこにいる。
今、まさにそれが起きていると言ってもいいのだろう。妖精さんが楽しんだ。故に、妖精さんが生まれた。装置に使う分のエネルギーを確保しつつも、装置に加わらなかった余剰分のエネルギーが、この島に新たな妖精さんを生み出したのだ。
「マジで妖精さんが生まれたってことなの? 私達の与り知らぬところで?」
「それこそ、妖精さんは深海棲艦よりも謎多き生き物ですよ。私達の協力者というだけで充分、善意で手伝ってくれているのですから、その力に感謝するだけで、深く調べる必要はないと考えています」
妖精さんに対して実験などをするなんて言語道断。艦娘もそうだが、良き理解者である妖精さんに非道なことなど、余程狂ってなければやろうとも思っていない。余程、狂っていなければ。
「薬漬けにしてまで妖精さんを楽しくさせて、無理矢理妖精さんを生み出して、あの装置に接続されている妖精さんが命を失ったら、それで生まれた妖精さんを次の道具として使っていたんじゃないですかね……」
「あり得るねそれ……だる……」
「本当ですよ、全く。技術者の風上にも置けません」
2人して大きな溜息を吐いた。
それはともかく、と話題を変え、ここにいる妖精さん達に、何がしたいか尋ねると、満場一致で同じジェスチャーをした。
「おそらく……私達と一緒にインフラ整備を手伝ってくれるようです」
解読した明石に、全員揃ってサムズアップ。正解だったようだが、ダウナー飛行場姫はこの数が生まれたばかりで突然手伝ってくれるという事態に、さらに驚くことしか出来ない。
「え、マジで? いや、ありがたいけど、急にこんなに人員増えることある?」
「あるんですよ、妖精さん界隈では。工廠で働いているとですね、何故か作業員が突然増えたりするんです。妖精さんが多ければ多いほど、その鎮守府は健全とか言われている時期がありましたよ30年前は」
「生態が謎な割には、そういうとこはふわっとでも信じるのな」
「事実ですからね」
ともかく、妖精さんが手伝ってくれるというのなら百人力である。細かい作業にも従事出来て、艦娘や深海棲艦では届かない場所も身体を入り込ませることが出来る。一度に出来ることが少ない代わりに、それ以外なら非常に優秀。人海戦術すら取れるのだから。
「では、私達でこの妖精さん達を地下に連れて行きましょう。頭や肩にも乗せてあげてください」
「はいはい。あんまり髪を引っ張らないでねー」
明石の指示に従い、ダウナー飛行場姫も妖精さんを身体に乗せていく。
今回生まれている妖精さんはざっと10人はいるため、1人5人の計算。それくらいなら何とかなると、軽々持ち上げて移動を開始した。
保健室のリフトを利用して地下施設に降りた後、その足で最深部まで移動。今日も清掃中であるため、妖精さんを引き連れて歩く姿は変に目立つ。そして案の定、テミスにもその姿を見られていた。
「ソノ者達ハドウシタ?」
「つい先日生まれたらしい妖精さんです。詳細はわかりませんが、彼女らもまた、新たな島民と考えてもらえれば」
「ホウ、新タナ島民カ。ナラバ、余ノ守ルベキ民デアルコトニハ変ワリナイナ。ヨロシク頼ムゾ、妖精達ヨ」
王自ら頭を下げることで、妖精さん達は大盛り上がり。全員がヘルメットを脱いで、礼儀よく頭を下げる。
この島で生まれた妖精さんだからか、テミスがどういう存在であるかを既に理解しており、怯えることもなく、既に仲良しな雰囲気を醸し出していた。
「王様は見回りですか?」
「ウム。先ニ余モ地下深クヲ確認シテオコウト思ッテナ。テイアモ共ニ見テ回ッテイタトコロダ」
「電力ヲ地上ニ送リタインダヨネ。ソレッポイモノガアルカナッテ思ッテ、確認シテタンダ」
島の王として、今の現状をさらに知っておこうと行動に移しているのは相変わらず。しかし、専門家ではないからただ見ているだけで終わってしまうことには少し残念そうにしていた。
そこで粘らないのもよくわかっていること。自分が素人であることを自覚し、出来ることは自分でやるが、出来ないことは出来る者に頼る。そういうところにプライドなど持ち出さない。
「サッパリワカラン。素人ハ余計ナコトヲセズ、専門家ニ任セヨウ」
「懸命です。今日からはこの小さなエンジニアも増えますからね。インフラ整備、どんどん進めていきますよ」
「ウム、ヨロシク頼ムゾ」
妖精さん達が一斉に敬礼する姿は、勇ましく、また、可愛らしいモノだった。テミスもテイアも満足げ。新たな島民を快く迎え入れ、その手腕に期待する。
「ダガ、ココカラハ妖精ガ際限ナク生マレテイクノダロウカ」
「どうでしょう……ただ、妖精さんが多くいるということは、この島は楽しいで溢れているということにも繋がります」
「ホウ、ナラバ多ケレバ多イホド、コノ島ハ平和デアルトイウコトダナ! 素晴ラシイ! 妖精ヲ養ウコトナド容易イコトヨ!」
島民が増えるということは、その分維持するための労力も増えるのだが、妖精さんは身体のサイズがコレであるため、深海棲艦1人分で、妖精さん何十人と維持出来ると思われる。
深海棲艦が増えるのはここで止めておいたが、妖精さんが増えるのはむしろエンジニアが増えるに等しいため、願ったり叶ったりと言えよう。施設の維持もそうだし、あらゆるインフラ整備を任せられる。
そして、この島の平和の象徴だと言うことならば、テミスが喜ばないわけがない。自然と妖精さんが生まれる島は、この世界の何処よりも平和と断言出来る。
「デハ改メテ、ヨロシク頼ムゾ。貴様達ノ手腕、期待シテイル」
テミスが妖精さんを気に入ったように、妖精さん達もこの島の王を気に入ったようで、しっかりとサムズアップして見せた。
島の平和の象徴となる妖精さんの増加は、今後の復興にも大きく役立ってくれるだろう。インフラ整備も、格段に速くなる。
楽しいエネルギーは本来、妖精さんが増えるためのエネルギー。たくさんの妖精さんがライブを見て楽しんだのだから、増えるきっかけは充分にあったということですね。