後始末14日目。ついに後始末を続けてちょうど2週間となった。島のインフラのうち、電力が復旧されたことにより、後始末は更にスピードアップすることになる。
建物があるあらゆる場所で電力を使用することが出来るようになったのは非常に大きく、集落の家屋では掃除機が使用出来るようになった。これにより、毎日でも掃除をすることが可能となり、より清潔感を保てるようになっている。
ここからのインフラ整備は水道設備を主に触れていく。集落で使用する水道管を清潔にし、浄化槽を点検し、清潔でどれだけでも使える水を提供することで、生活水準を更に向上させることが目的だ。
家で飲み水にありつけるようになるのは絶対的に必要なこと。それさえあれば、料理も出来る。ラ級姉妹に頼り切ることもなくなるため、負荷が大きく減るのだ。
子供達ばかりだとしても、ここから料理に目覚める者が現れるかもしれない。そうなれば、生活はどんどん潤う。
「あたし達は相変わらず地下施設の掃除でいいよな」
「なのです。あそこはあそこで、ちゃんと整えておかないといけないのです」
屋上でのライブによって地下施設内にも深海棲艦発生抑制装置のエネルギーが送り込まれるようになったものの、穢れがまだそこにあるという現実は変わらない。
インフラ整備を工廠班に任せている以上、後始末屋はその穢れを取ることを優先するべきである。むしろ、安全なうちに専門家が徹底的に掃除するのがいいだろう。
今ならば、地下施設全域でも電力を使うことが可能だ。後始末屋の作業で電力を使うモノというのは無いのだが、何かをしたいときに咄嗟に扱えるというのは割と便利である。
「んじゃあ、あそこ、やるか。一番深いところ」
「だねぇ。あれでしょ、深雪がぶっ壊したのを妖精さんが直したところ」
「戦闘中だったんだから仕方ねぇだろ。お前だってそこにいたらぶっ壊してるぞ」
「だろうね。そこに阿手がいたんでしょ。壊さない理由ないね」
ケラケラ笑うグレカーレに、深雪は呆れるしか無かった。あの戦いの中では誰でも間違いなく部屋を破壊してでも始末する。電であっても、あの場では容赦していなかった程だ。
「しかし、その部屋は既に何方かが清掃に入っているのでは?」
白雲の疑問はごもっともである。後始末を始めて2週間も経てば、あの場所にメスが入ることは間違いない。実際、つい昨日に明石達があの部屋を調査して、小さくないと入れない通信設備なんてモノも見つけているのだ。
あの時はそれを発見しただけですぐにインフラ整備に向かっているが、今考えれば、その部屋は穢れまみれになっていると容易に想像がつく。なら、そこは今のうちに掃除しておいてもいいだろう。
「昨日見つかったばっかりだし、明石さん達が見つけたところは掃除しといていいんじゃないかなって思うぜ」
「変なところ触って壊さないようにしなよぉ?」
「それはマジで気をつける」
精密機械のオンパレードだろうから、後始末にも神経を使うことになるだろう。だが、だからといって、やらないわけにはいかない。
優しく丁寧に、時には妖精さんの力を借りて作業することで、徹底的に穢れと阿手の痕跡を排除する。
地下施設の最も深い場所、広間から枝分かれした通路の先。天井を掃除している護衛棲姫に挨拶をし、深雪達は最終決戦のあの部屋へと赴いた。
今の所、まだ誰もここに来ていない。一番乗りという言い方が正しいかはわからないが、掃除の手が行き届いていないというのはそれでわかる。
とはいえ、隠し部屋以外はしっかり片付けられており、最後に残っていたはずの阿手の亡骸も、その痕跡は何処にも見えなかった。
「さて、ここの奥にあったんだよな、電力を制御してる場所が」
「戦ってる時は気付かなかったのです」
阿手と対面した時は、その小さな身体に驚き、そして余計なことばかりを言う苛立ちで周りが見えていなかったが、実際はよく見ればわかるかなというくらいの部屋がそこにあった。
深雪が吹き飛ばした瓦礫は撤去され、隠し部屋と奥の隠し部屋はもう隠されておらず、筒抜けのわかりやすい大部屋として機能している。部屋に入れば制御基盤が並び、ここが集落の電力を全て管理している場所だとわかるような部屋。
そこの穢れは、驚くほど少なかった。穢れまみれの部屋にあったはずの制御基盤なのだが、民間企業妖精さんが作り直す際に、綺麗にしてくれていたようである。
また、阿手の亡骸を撤去する際に、当然ながら掃除もしているため、そのおかげでかなり綺麗な部屋にはなっていた。
「ここの掃除は軽くで良さそうだな」
「なのです。やっぱりみんな、ここは気になってますもんね」
「で、問題の……ここか」
この部屋はまだいい。しかし、問題なのは、ここから更に地下に続く通信部屋。小鬼の姿だからこそ通れる階段と通路、そして奥にある通信設備。
ここには流石に深雪達でも入ることが出来ないため、サポート妖精さんに向かってもらう。
いくら小鬼といえど、妖精さんよりは大きい。しかし、この中で一番小柄であろう電と比べても、上半身分くらいしかサイズがないため、どうにもこうにも中に入ることは出来ない。
だが、中を覗き込むことは出来そうなので、通路に頭を突っ込むようにして、中を見てみると。すると──
「うっわ」
深雪がそんな声を上げるのもわかるくらいの状態だった。埃などは無く、自分が使う場所だから自分で掃除くらいはしていたのだろうとはわかるのだが、穢れの量が半端ではなかった。他者を貶めるような実験を繰り返していた者が長く使っていただけあって、そこら中から拾い集めてきた穢れが集約されているような場所である。
ぱっと見では、出来損ないが詰め込まれていた部屋の方が余程汚かった。掃除するにもどうしたものかと考えられるくらいに物理的に汚かった。だが、この部屋は上っ面だけ綺麗で、穢れは何処よりも多いのではと思える程の部屋である。
まるで、阿手を再現しているかのような部屋である。小綺麗にはしてあるが内面はドロドロという。
「手が届くところまではここからやっちまうか。電なら身体が少し押し込めそうか?」
「ちょ、ちょっと難しいかもしれないのです。階段のところで詰まっちゃいそうなのです」
「階段の天井引っ剥がしたいねぇ。そしたら全部解決すんじゃない?」
「グレ様、余計に作業が増えそうなことはやめておきましょう」
だが実際、それだけ小さな部屋ならば、天井を剥がしてこの部屋の床と一体化させた方が掃除がしやすいのではとは思っていた。明石やダウナー飛行場姫に床を変形してもらえれば出来ないことではないのだが。
「ひとまず階段と手が届くところまでは拭き掃除出来るのです」
「奥は妖精さんに頼むしかねぇな。頼んだぜ」
サポート妖精さんは、サムズアップして深雪の手から通路の奥へと向かっていく。4人分のサポート妖精さんがテコテコと向かっていくと、奥の酷い光景に、明らかに嫌な顔をした。特にグレカーレのサポート妖精さんが。
深雪達からしたら狭い部屋だが、妖精さんにはそれなりに広い。ここを掃除していくのは、妖精さんのための掃除道具などもそれなりに必要ではとも考える。
「とりあえず雑巾で何処まで出来そうだ?」
深雪と電のサポート妖精さんが2人がかりで雑巾を持ち、奥の床や壁を拭いているものの、やはり効率がいいとは言えない。そこにある装置を綺麗にするのは、妖精さんの小回りのおかげで出来そうではある。
ある程度やってから少し戻って、難しそうだというのをジェスチャーで伝えると、そりゃそうだよなと深雪も納得。
「通信設備をぶっ壊すわけにもいかないもんな。ここからもしかしたら島にも通信とかが出来るようになるかもしれないわけだし」
「だねぇ。ここから運び出すとかは無いにしても、ここから外に連絡取れるなら、そのシステム使って集落に電話とかも置けそうだもんね。必要かどうかはさておき」
「外部との連絡は今後必要となるでしょう。民には不要でも、王には必要かと」
「じゃあ絶対壊せないな」
無茶な掃除は流石に出来ない。手も届かないとなれば、やはり妖精さんのための掃除用具を作ってやってもらうしかない。
「まぁ、今日のところはここはやめておくか。出来ないなら無理してやる必要もないってもんだ」
「なのです。ここのやり方は、ハルカちゃんさんに聞いてみましょう。きっと何かアイディアを出してくれるはずなのです」
「だな。んじゃあ、あたし達はやれそうなところだけやって、別のところ掃除すっか」
それがいいと満場一致の意見となり、妖精さん達もこの部屋から離れる。
しかし、
「……え?」
その通信設備が突如、音を立て始めた。
「お、おい、誰か何か触ったか?」
部屋の外にいる深雪達は触りようがない。何かするなら妖精さんくらいなのだが、今回は無理だとわかった時点で触れることもせずに離れている。
なので、この音は設備が
「……マジかよ、どういうことだよ」
「ここの連絡先を知っているヒトなんて、限られているのです」
「だよな……これ、どうすりゃいい。もしこの通信に出たとしても、あたし達だけでどうにかしていいモンなのか?」
普通ならこれは放置の方がいい。許可を取らずにやっちゃえと出来るのは、現地に現れた何者かへの対応くらいだ。だが、これは明らかに相手側からの連絡。簡単に触れられるようなところではない。
「あたしは、取っちゃってもいいと思うな。だって、阿手に連絡が取りたいヤツがかけてきてんでしょ。なら、大体あたし達の敵だよ」
「グレ様の仰る通りです。こちらからかけることが出来そうにありませんし、ここで取ってしまってもよろしいのでは。情報を得ることにも繋がります故」
グレカーレと白雲は、先のことを考えて取ってしまった方がいいと語る。深雪と電はまだ悩んでいるが、ここで手放すのは悩ましい。
だが、ここで動いたのは、グレカーレのサポート妖精さんだった。ニンマリと笑った挙句、通信設備に向かい、光っているボタンを勝手に押してしまった。
「あ、おい!」
「流石にあたしの妖精さん、そーゆーとこわかってるなぁ」
そして、設備からは
『そこに、特異点はいるのかな?』
出洲である。
出洲「そろそろ2週間だし、あの後始末屋ならなんとか出来てるっしょ。よーし、電話電話」