後始末屋の特異点   作:緋寺

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責任はとらず

 地下施設の最下層、広間から枝分かれした通路の先にある、阿手が潜んでいた隠し部屋。そこにさらに隠されていた通信設備は、小綺麗ではあったものの、何処よりも穢れにまみれていた、非常に汚い空間だった。

 そこの後始末は一旦断念し、伊豆提督に話をしてから考えようとした矢先、その通信設備が突如、音を立て始めた。外部から何者かが通信をこの設備に入れた証拠である。

 最初は無視をしてもいいかとも考えたが、グレカーレのサポート妖精さんが、設備を操作してその通信を受け取ってしまう。

 

『そこに、特異点はいるのかな?』

 

 そこから放たれた声は、出洲のモノだった。

 

「出洲……!?」

『2週間ぶりになるね、特異点』

 

 深雪の動揺などいざ知らず、出洲はマイペースに久々の対話を進めようとしていた。

 

『何故通信をしてきたのか、わからないような顔をしていそうだね。君達が島の後始末を進めてくれたおかげで、そちらの通信設備が修復されたようだからね。突然オンラインになったのは、少々驚かされたよ』

 

 この通信設備、民間企業妖精さんが集落への電力供給を管理していた制御盤を修復するまでは、電力が落ちていたらしい。場所が場所だけに、深雪による攻撃で電力供給部分が故障していたのだ。

 だが、そこを修復したことにより、外部との通信が突如可能となったらしく、その通信先である出洲は、死んだはずの阿手が連絡可能になったと驚いたようである。

 

 今ならば連絡が可能である。ということは、島の後始末も佳境に入っているのだろうと判断した出洲は、一度連絡をしてみたらしい。

 

『後始末は順調かな?』

「テメェのとこのクズのやらかしだぞ。テメェも手伝いに来やがれ」

 

 巫山戯たことを言われたため、深雪は思わず荒く言い返してしまう。だが、その言葉はここにいる者達全員が思っていることである。

 

 阿手のやらかしたことの責任が取れるのは、最早仲間であった出洲くらいしか存在しない。それなのに、何もかもを後始末屋に押し付けている。自分達はのうのうと音沙汰無しになったかと思えば、こんな微妙なタイミングで連絡をしてきた。腹立たしいのも当然である。

 

「こちとら2週間、後始末と尻拭いを続けてきてやってんだ。感謝の言葉くらいないのか」

『ふむ、確かにそうだね。阿手さんの馬鹿げた実験の後始末をしてくれて、どうもありがとう、後始末屋。おかげでその島は綺麗になっているのだろう。感謝はしているさ。流石はプロフェッショナルだ』

 

 何を言ってもなめているとしか思えない口の利き方である。深雪は苛立ちを抑えるため、一度深呼吸をした。冷静に、冷静に、ここで怒り狂って暴言ばかりになったら、出洲の思うツボだ。

 

『電力の復旧は終わったようだね。まだ諸々やることはあるのだろうけれど、約束通り、我々の拠点の位置を教えてあげようかと連絡させてもらったが……特異点、君の声は遠いようだね。その通信設備、今現在何処に設置されているのかな』

 

 いくら出洲であっても、この地下施設の構造まで知り尽くしているようなことはない。阿手が小鬼の姿をしていたことを知っていても、通信設備が人の入らないようなところにあるなんて考えてもいない。

 故に、素直に深雪に聞いてきている。知らないことは調べるだろうが、地下施設の構造など興味がないモノには労力を割かない。

 

「……あのクソ小せぇ阿手の大きさに合わせた、人も入れねぇような部屋に作られてんだよ。ンなことどうでもいいだろ」

『確かに、それはどうでもいいことだ。こうして問答が出来ているのなら、近い遠いは些細なことだね』

 

 ちゃんと答えてやったのにこの態度である。深雪の冷静さを奪い取ろうとしているようにしか思えない、圧倒的な上から目線。阿手ほど自分本位ではないが、それでも特異点に対しての嫌悪感を隠していない態度。

 同じように尊大な態度のテミスとは雲泥の差。あちらは本当に大らかな性格をしているが、出洲からはそれを感じ取れない。平和を目指しているという意思はホンモノなのだが、深雪に対してだけは絶対的に排除するという漆黒の意思を感じる。

 

『それで、本題に移ろうか』

「……いや、移らなくてもいい。まだテメェと戦ってる暇なんて無ぇんだよ。クズのやらかしでぶっ壊れた島の復興で忙しいんだ」

 

 ここで深雪は、戦わないという選択を取る。いや、いつかは戦うことになるのだが、それは今では無いと。

 

『ほう、なるほど。その島は確か阿手さんがやりたい放題した島だね。平和を目指していると話していたのに、その実、自分の平和しか考えていなかった。それによって、その島は汚染されていると』

「テメェだってわかってんだろ。アイツが穢れの元凶だ。ここでクソみたいな実験を繰り返して、人間も艦娘も深海棲艦も、妖精さんすら弄くり回して、自分以外の命を何とも思わずに楽しんでやがった。そのせいで、島中穢れまみれだ。海の中も残骸で埋め尽くされてやがる。それを片付けるために、もう2週間もかかってんだぞ」

 

 深雪の声色に苛立ちが混じっているのを、出洲が聞き逃さないわけがない。

 

「まだ終わらねぇ。ようやく電力が復旧したところで、次は水道だ。それでも、穢れが多すぎてここで農業が出来るかもわからねぇ。それだけ取り返しのつかないことになってるんだぞ。わかってんのか」

 

 全ての元凶は阿手だ。だが、その仲間であり、平和を考えていないからと切り捨てた出洲も、放置し続けたことで同罪だと言える。この責任をどう取ってくれるのかと、深雪は叩きつける。

 

 しかし、出洲は飄々とした声で返す。

 

『気の毒なことだ。阿手さんのやらかしがそこまでの大きな被害を齎していることはとても悲しい。人々の平和のための研究を、我欲のためにしか使っていなかったことは許されるはずがないだろう。しかし、私達のような素人に後始末など出来やしない。余計に穢れを拡げてしまうのがオチだ。君達も迷惑だろうに。だから、専門家に任せることにするよ』

 

 そこで犠牲になった者達は追悼の意を見せる。人の死は悲しいものであり、本来ならばそんなことが起きてはならないこと。自らの意思でその道を歩いているのならまだしも、阿手の私利私欲に巻き込まれて命を失ったことは、とてもとても悲しい。

 だが、そこから責任を追及されても困るというのが、出洲の心境なのだろう。自分の手から離れた後、好き勝手やっていた阿手に全ての責任があり、それは始末するというカタチで取らせた。ならば、残った者達が後始末をする他ない。

 自分がやることはない。そもそも、阿手に対しては既に興味がない。それが根幹ではなかろうか。

 

 だからこそ、深雪は気に入らなかった。

 

「……そうやってテメェも責任から逃げるのな。こんだけの被害が出てるのに、自分が手を下したわけじゃあないから、知らぬ存ぜぬで何もしねぇ。阿手の責任はテメェの責任でもあるんだぞ。本当に平和を求めてるなら、少なくとも阿手を放置するようなこともしねぇ。最後にちょろっと出てきただけじゃ足りねぇよ。最初から止めろ、アホかテメェは」

 

 深雪の口からは、これまでの鬱憤が溢れ出てくる。

 

「この島の惨状も、些細な犠牲だなんて思ってんじゃねぇだろうな。人間が高次に至るためのだったか。至るわけがねぇだろこんなことで。死んでんだぞ。自分からそうなりたいと思ってもいねぇのに。そうなる前に止めろよ。平和のために」

 

 平和という言葉を口にする出洲だからこそ、深雪は平和のために動けと、殆ど説教のようにぶつける。

 平和のための犠牲なんて、そもそも平和に向かっているとか思えない。自分が死んで成し遂げるのではなく、他人の命を捧げているのならば尚更だ。それを是としている時点で、そんなもの平和でも何でもないと、心の限りを口にした。

 

『その島での犠牲を些細なモノとは思わない。阿手さんは許されないことをした。平和とは決して言えないことだ』

「わかってたなら、何で止めなかった」

『私も忙しかったのでね』

「丹陽達の潜水艦にガキ共送り込んでおいて忙しいだ? 全部後始末屋にやらせておいて、それを高みの見物しておいて、忙しいの一言で片付けるのかよテメェは」

 

 溜め息交じりに深雪は出洲に問う。しかし、出洲は何も動じずに語る。

 

『私の求める平和のために動いていた。君達とまた顔を合わせたあの時は、ようやく一段落ついたタイミングでね』

「そんなこと聞いてんじゃねぇよ」

『私には私の大義があるということさ。それで君が成長してしまったのは悔やまれることだがね』

 

 話にならない。話が出来ない。言葉はわかっても、会話になっていない。故に、もう話すのをやめた。

 

「もういい、テメェと話していると疲れる。こちらはまだまだ忙しいんだ。テメェと同じでな、テメェに構ってる暇は、今は無いんだよ。後始末屋だからな」

『そうかい、理解したよ。ならば、君達の都合がついたら、ここから連絡でもしてくれたまえ。それよりも前にメッセンジャーを送ろうか。そちらの島の様子も見ておいた方がいいからね。ちなみにだが……その島は平和かな?』

「当然だ。この島を滅ぼすだの言い出したら、テメェの望む平和は阿手と同じだったことになるからな」

『それは困る。だが、見てから決めさせてもらおう。では、また』

 

 通信が勝手に途切れる。結局のところ、出洲が自分のいいようにこちらに接触してきただけ。

 

 

 

 

 

 深雪達は、ただひたすら疲れるだけだった。

 




出洲も大概である。
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