後始末屋の特異点   作:緋寺

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陰口しか出ず

 出洲からの連絡は、あの後はもう無い。そのため、後始末屋一同は、順当に片付けを進めることが出来た。

 一度戻ったおかげで、あの狭い通信設備の清掃も可能な道具を持っていき、妖精さんの力を借りることで穢れは取り除くことが出来ている。今では、あの隠し部屋は全て、穢れが見えないくらいに綺麗になっていた。

 

「ちゃんと道具を持ってきたら割とすぐだったねぇ」

「ええ、妖精さんに任せきりになりましたが、我々より行動に迷いがなく、手早く進めてくださいます」

「あたし達も広い場所は全部出来たしねー」

 

 深雪が抜けた3人で電力供給を管理している隠し部屋と、通信設備がある小さな隠し部屋を終わらせるのに、使った時間は約半日。昼食もここで終えて、那珂達のライブの音声も聴きながら、それが終わる頃には部屋から穢れの残滓は消えて無くなった。

 

「今日はこの辺で一回うみどり戻る?」

「なのです。深雪ちゃんも休まったか心配なので」

「大丈夫だとは思うけどねぇ。メンタルな疲れの特効薬使ってるわけだしさ」

 

 電は久しぶりに深雪と別行動をしているということで少しそわそわしていた。いつもとは違う後始末であったため、仕事が手につかない、なんてことは無いにしても、今頃どうしてるだろうと不安になったりはしている。

 そんな電の感情の浮き沈みを、グレカーレはニコニコしながら眺めている。時には声をかけ、時にはただ見て、いろいろな表情を愉しんでいた。白雲は趣味が悪いですよとツッコんでいたが、それもまたグレカーレらしさ。

 

「つーか、あたし達もこの部屋で作業するのは割とヒヤヒヤしたよね。また通信来るんじゃないかって」

「それは、否定出来ませぬ。あの者が何を思ってこちらに連絡を取るのかはわかりませぬ。しかし、お姉様の素晴らしい啖呵で黙らせることは出来ました」

「あいつに皮肉とかは効くと思えないけどねぇ。事が済んだからさっさと切ったって感じだし」

 

 グレカーレと白雲からの出洲評は、胡散臭いだけの科学者。しかし、その実力は深雪ですら一方的に嬲られる程のモノであることは理解している。あの当時はまだ特異点としての力も覚醒していない、ただの艦娘だったものの、単純に()()()()()()()()というのが現実だった。

 出洲だけではない。その隣に控える小柄と中柄。そちらもどうにもならないレベルの存在だ。特に中柄は、うみどりの中では最強の戦力と言える神風と互角、いや、それ以上の力を持っていることは確定している。神風に瀕死の重傷を負わせたのは、突如現れた三本目の腕ではあったが、それが無くても神風と余裕で拮抗している。

 

「……アレと、また戦わなくちゃいけないのです。今度は、勝たないといけない最後の戦いなのです」

 

 電の少し弱気な発言。どうしても後ろ向きになってしまうのは電の良くないところかもしれないが、慎重に事を考えていると思えば、これもまた長所と言える。

 

「少なくとも、次で始末しないと、これからずっと後始末屋について回ることになるよねぇ。鬱陶しいことこの上ないよ」

「グレ様の仰る通りでございます。次で終わりにしなければ、お姉様も安寧がありませぬ」

「あたし達だってだよ。特異点に与する者は全員始末する、なんて言いそうでしょ。それに、イナヅマだって危ないからね」

 

 特異点として覚醒している電も、今や出洲に狙われる存在と言っても過言ではないだろう。深雪と同じく、電が今の人類を堕落させるなんてことは考えられないが、出洲はその万能性に対して危機感を覚え、そしてこの世から消そうとしている。

 電も艦娘としてカウントするのなら超万能戦力だ。あらゆる装備が装備出来るという特異点の力を持ち、今は深雪と同質の煙幕も扱える。深雪ほど攻撃的ではないにしろ、その万能性は最も身近にいるグレカーレや白雲でも凄まじいモノとして判断している程だ。

 しかし、それを知っていても電に頼るということはしていない。自分で出来ることは自分で。それが基本。自分が出来ずに電が出来ることならば頼る。そして、無理はしないしさせない。これが一番である。

 

「あたし達、まだ直接顔を合わせてもいないんだよねデスとは。小さいのと、そのママは、人の生活してる場所をぶち壊しに来た時に見てるけどさ」

「はい、この島での最後も、我々は広間にいましたから、ここに来たとは聞きましたが見ておりませぬ。やはり、見た目からして不可解なのでしょうか」

「そう、ですね。見た目は陸上施設型なのに、海の上を進んできますし、普通に海の中にいますし……」

 

 話題は出洲の見た目に。中枢棲姫に近い姿をしているということを伝えると、グレカーレは『全裸じゃん!』と何処か嬉しそうに叫んだ。白雲は相変わらず呆れている。

 

「電達も海の中には行けるようになりましたが、それでも何処にも逃げ場はありません。潜水艦のように潜っても攻撃はされます。海の上なら当然、建物の中でも関係ないでしょう。下手をしたら、うみどりを沈めるまでしかねないのです」

「人ん()ぶっ壊しに来るのどうなのさホント」

「特異点と与する者は堕落しているとでも考えているのでしょう。全く嘆かわしい。語ることなく一方的に自身の意見を押し付けるなんて、愚か者のすることでしょうに。それで高次を名乗るとは、やはり出洲も阿手と変わらぬ」

 

 辛辣な意見ばかり出るが、陰口にしかならないのが悔しいところ。本人が表に出てこないというのもあるが、勝ち目のない相手にただ愚痴るだけというのが、こうも残念に感じるとは。

 

「ま、でもその時はその時だよ。精一杯抵抗して、返り討ちにしてやろう。調子に乗ってる奴は、そういう時に隙を見せるもんさ」

「だとよろしいのですがね」

 

 負けるビジョンは見ない。グレカーレの語り方には、電も安心出来た。

 

 

 

 

 掃除用具を持って一度地下施設から出た電一同。保健室のリフトが移動しやすいためそちらから出ていくと、外はまだ明るい方。那珂による時報がまだ流れていないところから考えると、いつもよりも時間は早い。

 

「いやぁ、地下の掃除は大分終わってたねぇ」

「なのです。ここまで来るのに穢れが殆ど見えなかったのです」

「人海戦術が上手く決まっているのでしょう。王の采配も素晴らしいと言えますね」

 

 地下の一番深い場所から、地上に上がってくるまで、部屋も廊下も穢れが見当たらなかった。そして道中に深海棲艦達と何人もすれ違い、頭を下げたり手を振ったり、中には軽く言葉を交わしたりもしている。

 それだけ多くの人数を使い、ここまでのことを一気に成し遂げた。人海戦術と、その指揮者の実力があってこそである。

 

 それでもまだ、学校の方には殆ど触れられていない。地下施設は深海棲艦発生リスクから、清掃が急務であったが、学校は装置の範囲内であったため後回しにしていた。

 地下が終われば学校の片付けになるだろう。ここはテミスの居城となる場所だ。これまで自分のことを後回しにし続けてきたテミスに報いるために、カテゴリーYの子供達もこぞって片付けに参加することだろう。

 

「この島での後始末も、後少しってくらいになってきたのです」

「だね。でもあと1週間くらいはやってそうな気がする」

「まぁ、それは、確かに……」

 

 細かいことをしていこうとすれば、その分時間はかかる。それは当然のこと。建物の穢れを取るだけなら、残り数日くらいに感じるが、島が独立して生活出来るようにするのなら、1週間ではまず終わらない。

 それこそ、最も時間が掛かるであろう土壌改善の件がある。木の幹にまで浸透してしまっている穢れは、もしここで農業を始めたとしても、作物に悪影響を与えることが確定してしまっている。

 それの改善は、1週間1ヶ月ではまず不可能だ。年単位のプロジェクトとなるのは間違いない。ならば、それを島民だけでやれるようにしなくてはならない。それを考え、教えることに時間が費やされることになる。

 

「その前に、出洲の遣いもここにやってくるのでしょう。この期に及んで、巫山戯たことはしないと思いますが、心配ではあります」

 

 そしてメッセンジャーの存在もある。出洲の配下ならば、ここで突然暴れ出し、島を滅茶苦茶にするなんてことはしなそうだが、しかし油断はならない。平和を目指している割には、気に入らないところには手を出す傾向はあるのだから、それこそ島民に危害を加える可能性だってゼロとは言えないのだ。

 そんなことをしたら、テミスだって全力で迎え討つだろう。島が突如全面戦争に陥るのは一つも嬉しいことは無い。

 

「自分から手を出しておいて、この島は平和じゃないとか言い出したら、滅茶苦茶煽ってやろ。アデ以下のクズだって泣かせちゃお」

「それで泣いたら逆に怖いのです……」

「被害者ヅラだもんね。アデ以上の藪蛇クズになるよホント」

 

 ケラケラ笑いながら語るグレカーレに、少しだけ癒された。冗談交じりくらいで事に構えたいくらいである。

 

「さ、ミユキも待ってるだろうし、帰ろうかね」

「なのです。今日も頑張ったのです」

「はい、では、参りましょう」

 

 3人はそのまま帰路へ。いつもより少し早いくらいだが、キリがついたのならそれでもいいだろう。

 

 

 

 

 そんな作業が進むうみどりに向かって進む人影が、2人。出洲のメッセンジャーとして、この海に入ろうとしていた。

 




さぁやってきたぞメッセンジャー。一番怖いのはテミスとの対面だ。
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