後始末屋の特異点   作:緋寺

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メッセンジャー

 後始末14日目、夕方。電達は少し早めに切り上げてうみどりに戻ったため、暗くなる前には到着。今日の作業を早退してメンタルケアに勤しんでいた深雪もここで合流。

 

「悪いな、急に抜けちまって」

「仕方ないよ、あんなことあったばっかだしね」

 

 少し申し訳なさそうな深雪に、グレカーレが明るく返す。誰も深雪の急な休みを咎めることなんてしない。精神的な消耗はついて回るモノだが、特異点というだけで圧をかけられる深雪の心労は、普通を遥かに超えているのだから。

 

「深雪ちゃんは休まったのです?」

「ああ、そりゃあもうたっぷりとな。神威さんの『排煙』で落ち着いて、お茶してまったりって感じだ。あと久しぶりに昼寝もしたぜ。子供達と一緒に」

 

 メンタルケアのためとして、明るいうちは義務的にぐーたらしたようである。子供達とお昼寝という癒し空間でぐっすりと眠ったことで、逆に夜に眠れるかどうか不安になるほど。

 

「出洲は何言っても何やっても考え方変えねぇんだから、もう気にするのはやめやめ。あんなヤツのことで気が重くなるのは、あたしの時間が勿体無ぇよ」

「はい、お姉様の仰る通りでございます。あのような愚か者の言葉を覚えているだけでも、脳の容量の無駄ですから、ただの悪と切り捨ててしまうのがよろしいかと」

「だな。少なくとも、アイツの言ってることは平和でも何でも無ぇからな」

 

 休まった身体をほぐし、体調がしっかり戻ったことを示した。精神的な怠さももう無い。明日からはしっかりと作業が出来る。

 

 とはいえ、今日はもう終わりだ。仲間達との夜を迎え、いつものように明日を待つ。後始末という作業も、日課となれば楽しいモノ。明日は何処を掃除しよう、学校かな、などと話しながら1日を終えていく。

 

 

 

 

 日を跨ぎ、後始末は15日目。2週間と言っていたのも束の間、半月という方がよくなった日数。ここまで長々と進めている後始末は類を見ない。勿論、外部から来てもらったうみねことみずなぎもだ。

 合間に休息を取れるようにしたが、それでもここまで長期の後始末はこの戦いの歴史の中では初めてのこと。ただ深海棲艦と戦っているだけではこんなことは起きず、人為的に行われた悪意ある実験の積み重ねが、周囲にここまでの迷惑をかけている例として、これから一生教訓にされるだろう。

 

 作業も行なわれていないこの夜の間に、その者達はこの島に訪れた。時間が遅ければ誰も何も出来ない、してこないことは理解した上で、この時間に到着した。

 

「……誰もいないな」

「時間が時間だもの。仕方ないわ」

 

 出洲のメッセンジャー2人。夜の帷が下りた海に佇み、その島を眺める。そこに敵意があるかはわからない。

 何故なら、2人とも仮面──いや、髪すらわからないヘルメットを着けていたから。それはラ級のζ型のようなフルフェイス。表情も見えない、声もくぐもっている上に、ボイスチェンジャーが備え付けられているのか、それが何者かわからないように細工されている。

 

 服装も普通の艦娘や深海棲艦とは思えない存在だった。フードのついたウィンドブレーカーを羽織り、その下には制服とも言いにくい作業着。見た目からすると動きにくそうだが、素性を隠すという点では非常に効果的な見た目。肌を一切見せていないところから、イリスでなければ相手の種族が確実に判断できない。

 その上で、何やら歪んだ艤装を背負っていた。それもまた、艦娘とも深海棲艦とも言えない融合艤装。黒く歪で、ところどころに深海棲艦の意匠を織り交ぜつつも、基部は艦娘のそれにも見える。それが誰の艤装かは判断がつかない。

 

「……どう思う」

「綺麗なモノね。後始末していたって話だし。最初はもっとゴミだらけだったんでしょ? でも、ぱっと見は普通に人間が住んでる島って言われても疑わないわ」

 

 今は夜のため、電気がついている家は何処にも無い。夜は寝るモノとして、深海棲艦だけでなく、カテゴリーY達もしっかり就寝中。明日の作業のために、しっかり休んでいる。

 故に島は完全な暗闇。電力が復旧する前と同じである。焚き火も消されているため、灯りらしい灯りは存在しない。

 

「いい場所だと思うわ。島のヒト達と話したわけじゃないから、平和かどうかは判断つかないけど」

「……だな。朝まで待つか」

「それしかないわね。あーあ、早く動きすぎたわよ」

 

 ゆっくりと島に近付く。入るのならば港からだと、うみどりがある港側に向かった。

 

 そこで待っているにしても時間はかなりある。誰かと話すわけでもなく、ただここでうみどりを見ている。それでもいいかと考えたようだが、メッセンジャーでもすぐには考えつかないことが起きるのがこの島。

 

「アレー? 知ラナイヒトガイルネー」

 

 急に声をかけられて、メッセンジャー2人はビクッと震えた後、持っている主砲を構える。警戒を怠っていないのは褒められるべき部分だろうが、突然の攻撃の姿勢はよろしくない。

 

 そこにいたのは、夜の散歩を満喫していたヌ級である。完全な非武装。ただただ、夜空を眺めながら、月夜に照らされて軽快な足取りで歩いているだけ。

 深海棲艦が現れたのだから容赦なく攻撃というのもわからなくもないが、ヌ級にそんなことをする理由がない。見たことのない相手を値踏みするわけでもなく、ただのお客様くらいにしか考えていない。

 

「ドチラサマ? トリアエズ、ヌキューハ悪イ深海棲艦ジャナイヨ。コノ島ニ住ンデル、タダノ()()()ダヨ」

「……一般、人……?」

「人ではないわね……でも、攻撃の意思は無いようね」

「平和ニ暮ラシテルノニ、攻撃スル必要、アルカナー」

 

 あまりにも呑気な言い分に、メッセンジャー達は主砲を下ろした。ヌ級も少し安心したように身体を動かして、のっしのっしと近付く。

 

「迷子? ソレトモ、コノ辺デ生マレタ人? 今ハ夜ダカラ、王様モ寝チャッテルンダヨネ。ダカラ、待ッテテモラウシカナイヨー」

 

 まるで案内人である。今この時間を活動しているのは、おそらくヌ級のみ。もしくは、うみどりの誰か。イリス辺りは深夜でも周辺警戒のために活動していることがあるため、今この時をその目で見ているかもしれない。当然、ヌ級はそんなこと知らないのだが。

 

「……どうする」

「無闇矢鱈に攻撃するのは違うわ。私達は、そういうことをしにここに来たわけじゃないもの。待たせてもらいましょう。島の民に話を聞けるチャンスだし」

「……わかった」

 

 警戒を解いたわけではない。目の前に深海棲艦がいる状態で、気を休めろという方が間違っている。

 

「アナタは、ずっとこの島に?」

「ソウダヨー。後始末ヲ手伝ッテ、王様達ト一緒ニ暮ラシテルヨー。ア、デモ生マレタノハ、王様ヨリ、ヌキューノ方ガ先ダヨー」

「……つい最近生まれたのか?」

「ソウダヨー。何日前ダッタカ忘レチャッタケド、ココデ生マレテ、ココデ生キテルヨー。うみどりニモ助ケテモラッタンダヨネー」

 

 うみどりに救われたと言える存在。特異点を内包した、出洲にとっては敵といえるモノに与するモノ。

 しかし、だからと言って始末と考えないのがこのメッセンジャー。あくまでも出洲の言葉を伝え、そして出洲の指示を受けたことで、この島が平和であるかどうかを見に来ただけの者である。

 

「美味シイゴ飯モ貰エルシ、コノ島ハスゴク綺麗ニナッタシ、ヌキューガコウヤッテオ散歩シテテモ、何モ文句言ワレナイシネー」

「……アナタ、散歩が趣味なの?」

「ソウダヨー。広イ場所ヲ歩クノガ好キナンダヨネー」

 

 そんな深海棲艦は聞いたことがない。攻撃の意思など一切なく、ただ広い世界をマイペースに歩くのが好き。人間ならともかく、深海棲艦がコレである。

 

「……他の連中も、お前みたいなヤツなのか?」

「ソウダネー、ミンナコンナ感ジカナー。オ料理ガ好キナ子モイルシ、アイドル目指シテル子モイル。アト、供養ヲシタイッテ巫女サンヤッテル子モイルヨー」

 

 メッセンジャー達は呆気に取られていた。特異点と接触したからかどうかはわからないが、深海棲艦が深海棲艦とは思えない生活をしている上に、訳のわからない趣味まで持ち始めている。

 見る者が見れば、これは明らかな混乱の予兆。深海棲艦が文化を学び、島内だけとはいえ、それを楽しんでいるのは、何処からどう見てもおかしいと言える。

 

「アイドル……巫女……なんだそりゃ……わけわかんねぇ」

「理解を超えてるわね……本当に平和なのかわからないわ」

「平和ダヨ」

 

 ヌ級は断言した。

 

「戦イモナイ、怖イコトモナイ、ミンナ仲良シ、コレデ平和ジャナイッテ思エルノ?」

 

 これまでとは少し違うヌ級の声色に、メッセンジャー2人は小さく反応した。

 

 ヌ級もまた、この島の一員。楽しく過ごしているこの島に対して害を齎す者相手ならば、それを非難するくらいはする。

 この島の在り方は、島民からしてみれば間違いなく平和だ。脅かすモノが何もない、自由に生きることが出来る場所。それなのに、これが平和ではないと言われたら、何処が違うのか問いただすくらいはする。

 

「……そちらの平和がこちらの平和ではない可能性はあるだろ」

 

 ヌ級の質問に対して、メッセンジャーの片方の答えがこれである。自分でも苦しい言い分だと思ったようだが、表情もわからなければ、声色もわからない。

 

「ウーン、ソウイウモノナノカナー。デモ、ヌキュー達ハコレヲ平和ダッテ思ッテル。楽シイ毎日ヲ過ゴシテル。ダカラ」

 

 ヌ級はしっかりとメッセンジャー達の方を見た。

 

「壊ソウトスルナラ、絶対ニ抵抗スルヨ。コチラカラハ何モシナイケドネ」

 

 

 

 

 早くもメッセンジャー達との邂逅を果たした者は、この島の総意を王に代わって説いた。出洲の配下であり、その意思を伝えに来た者であっても、この言葉はしっかりと胸に刻んだ。

 




ヌ級はマイペースなだけで、内側はしっかりと島民。この島の平和を破壊しようとする者が現れたら、間違いなく参戦する。
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