後始末屋の特異点   作:緋寺

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それがいたとしても

 後始末15日目の朝。うみどりはイリスの総員起こしによって活動を始めるのだが、その声は珍しくいつもと違った。

 

『ごめんなさい、朝食前に工廠に来てちょうだい。緊急事態よ』

 

 総員起こしを早めるでもなく、いつもの時間に起こしておいて、緊急事態とはどういうことか。余裕のある緊急性なのかと深雪達は首を傾げて工廠に向かう。

 

 何があったのかと訊ねれば、伊豆提督も緊張感のある表情で外を見ていた。既に工廠に来ていた者達も、それを見ていた。

 

「……なんだ、アイツら」

 

 そこにいたのは、表情の見えないフルフェイスのヘルメットを被った、艦娘か深海棲艦かもわからない2人のメッセンジャー。何処を見ているか判断はつかなかったが、深雪の姿が工廠に現れた瞬間、明らかに身体を強張らせた。

 

「特異点……来たな」

「おう、テメェらが出洲の遣いかよ。あの通信からやたら早かったじゃねぇか」

「……こちとら動きっぱなしだ。うちの大将が話をしたってのも、向かってる途中に聞いたことだ」

 

 あの時の通信が誰かの耳に入っていようが入っていまいが、このメッセンジャー達は今この時間にここにいたらしい。真夜中に到着してしまったため、早く着き過ぎたかとぼやいたものの、計画的には明るい時間に到着を予定していたからである。

 

 ともかく、ここにメッセンジャーが来ているのは間違いない。誰もが警戒を怠らない中、イリスから衝撃の言葉が出る。

 

「その2人、()()()()()K()よ。純粋な、ね」

 

 さらにはムーサからも一言。

 

「忌雷、寄生シテナイヨ。ナノニ、高波ト同ジ色ミタイ」

 

 現在、うみどりには全てのカテゴリーが揃っている。純粋な人間のG、純粋な艦娘のB、純粋な深海棲艦のR、人工的な艦娘のC、呪いを持つ艦娘のM、改造された元人間深海棲艦のY、そして特異点のWに、こちらもまた改造により変えられた人工的な艦娘の擬似K。

 擬似Kは高波にのみ該当し、『羅針盤』により正気を取り戻し、ムーサのために忌雷を提供出来る『増産』を維持するために治療されることなくそのままにされているためのカテゴリー。

 

 だが、目の前にいるのは、カテゴリーCに忌雷が寄生したことによる変化では無く、純粋なK。出洲達と同じ存在ということである。

 

「……出洲の遣い、メッセンジャーであることはわかったわ。それで、貴女達はここに争いに来たわけではなさそうだけれど、何をしに来たのか、貴女達の口でハッキリと説明してちょうだい」

 

 伊豆提督も流石に警戒を解かず、少し攻撃的な語調で問い質す。うみどりを攻撃するならば容赦は出来ない。出洲の仲間ならば、今でこそこうして何もしてこないにしても、何かきっかけがあれば攻撃をしてくる可能性は高い。

 

「この島が本当に平和かどうかの確認。そして、私達の上司からの言伝を持ってきたのよ」

「言伝?」

「ええ。前に言ってたでしょう? 拠点の場所を教えるって。そのデータがコレ」

 

 メッセンジャーの片方が取り出したのは、USBメモリ。中にその拠点の情報が入っているとのこと。

 通信で口頭で伝えることもしながら、メッセンジャーに正確な場所を示すデータまで渡している要領の良さ。元々は通信が出来るとは思っていなかったからこそとは考えられる。

 あの戦いが終わり、後始末が始まって2週間経つのだから、もういいだろうと行動を開始したような、そんな手際である。

 

「はい、どうぞ。でも、来るなら事前に伝えてもらえると嬉しいわ。正々堂々とやりましょ」

「……正々堂々、ね。これまでのやり方から、そんな言葉が出るとは思わなかったわ」

「まぁ……信じてもらえないわよね。元々島を占拠していたあのおバカが、毎回毎回酷いやり方してたものね。私達だって笑えないわよ。ちゃんと潜むことも出来ない裏切り者の司令官とかね」

 

 裏切り者鎮守府との戦いのことを言っているのだろう。出洲派の者達からすれば、あの戦いは笑えないモノだったようだ。

 わざわざ物言いがつかないように隠れ潜んで研究を続けており、特異点の始末に関しても頃合いを待っていたというのに、阿手が何度も何度もちょっかいをかけるせいで警戒され続け、頃合いがどんどん遅れて、トドメは特異点の成長である。

 そういう意味でも、出洲は阿手に痺れを切らしたようである。勝てもしないのに、特異点を強化することばかりされるのは、流石に気に入らない。そして、この島のように望まない者の命すらも使う研究は、その性分に合わない。

 

「昨日の夜、この島には供養を生業にする巫女をやってる深海棲艦がいると聞いたわ。どの人?」

「何カ用カ」

 

 メッセンジャーの言葉に、最初は興味なさそうにしていたクロトが前に出る。巫女服を着る深海棲艦という人間らしい姿を見せられて、表情は見えずとも驚いているような動きを見せる。

 

「……マジかよ、本当に巫女がいるぞ」

「ここではこれが普通なのよ。多分、これで驚いてたら身体がもたないわ」

 

 息を整えて、メッセンジャーの片方が一歩前へ。

 

「ここで失われた魂を供養してくれているのよね、貴女は。種族の壁を越えて、とても優しいことをしてくれている。貴女もまた、平和の礎の1人なのね」

「アア、少ナクトモ、私ハコノ島ニアル魂ヲ鎮メルタメニココニイル。オ前達ハ、ソノ仲間ダト認識シテイルガ?」

「……そうね、それは否定出来ない。袂を分かったけれど、元々は仲間だったんだもの。否定はしないわ。うちの上司も、恩があるから見逃していたって話していたけれど、今回ばかりはもうダメだって考えたもの」

 

 仲間ではあるが思想が違うという言い訳にしか聞こえない。しかし、ここで声を荒げても話が進まないため、深雪は拳を握り締めて耐えた。電もその拳に手を添えて、落ち着いてもらおう、そして自分も落ち着こうと息を整える。

 

「私達には出来ないことをしてくれてありがとう。感謝するわ」

「感謝スルノハ構ワン。ダガ、死者ヲ作ルコトヲ反省シロ」

「耳が痛いわね。肝に銘じておくわ」

 

 何処かズレている。そう思わせる対話である。

 

「……ここが平和かどうかは、こちらで見て決める。だが……特異点が絡んでいる割には、この島は……堕落してねぇな」

 

 メッセンジャーのもう片方が、今の段階の評価を語る。まだ話している島民はヌ級だけ。その時の言葉は、2人にも強く刻まれている。

 こちらからは絶対に攻撃しない。だが、攻撃してくるなら容赦しない。必ず抵抗する。それが島の総意である。この島がどう見てもおかしなことになっているとしても、誰にも迷惑をかけずに、好きに楽しく生きているのは間違いないのだ。

 

「誰もあたしに頼っちゃいねぇよ。自分の意思で何をするか決めて、あたしになんて目も向けずにやりたいようにやってる。それを堕落って言うなら、お前らの目が腐ってるとしか言えねぇよ」

「……やりたいようにやってる、好き勝手に振る舞うことが、平和だってことか?」

 

 顔は見えずとも、深雪を射抜くような視線で見つめるメッセンジャー。ここで平和を説くことが出洲の意思とするならば、深雪はここで正しく返さなければならない。

 

「お前らの親分みたいにな、望んでもいないのに人様を高次に押し上げようなんて考える輩より、よっぽど平和だ。ここの奴らはな、好き勝手やってるけど、諍いが起きてねぇ。やりたいようにやってても、それがいい流れを作ってる。島を元に戻すっていう一点に向かって力を合わせて生きてる。種族も何も関係ねぇ。共存が出来てんだよ。平和だろうが」

 

 そう、この島は平和そのものだ。元々滅茶苦茶にされた島を復興させるために、楽しく生きている。

 

「権力者が統治することも平和と言うのか?」

「それをお前らが言うんじゃねぇよ。出洲が全部決めようとしてる時点で何も変わらねぇ。それに、この島で一番権力持ってる奴は、その権力をひけらかさねぇ。自分は高次だとか名乗らねぇよ。民と一緒に島のために動く。先頭に立ってやるべきことを示す。それがこの島の権力者、王だ。まずは見てから言え」

「……そうだな、その王とやらは見ておく。特異点、お前に頼って堕落していなくても、平和の解釈違いをしているかもしれないからな」

「はっ、見てからモノ言え。それに、その王様は、()()()()()()()()()()

 

 深雪の言葉にハッとして振り向くと、そこには朝食のためにうみどりにやってきた深海棲艦達がズラリと並んでいた。

 普通の鎮守府ならば、総出で対処にあたる程の大軍団。イベント海域もかくやと言うほどの人数が大挙として訪れているのに、誰もが不意打ちを仕掛けるどころか、うみどりとの対話が終わるまで無言で待っていてくれている。それだけでも、かなりの異常性。

 

「フム、ヌキューガ言ッテイタ来島者カ。何ヤラコノ島ガ平和カ否カヲ問ウテイタヨウダガ?」

「……ああ、お前は?」

「余ハコノ島ヲ統ベル王、テミスデアル。見知リ置ケ、外部ノ者達ヨ」

 

 尊大な態度は変えず、しかし来島を受け入れるように笑みを浮かべるテミス。まだ敵とは考えておらず、平和とは何ぞやという問いに対しての答えを返そうとしていた。

 

「余ノ考エル平和ハ、コノ島ヲ見テイレバワカル。諍イヲ起コスノナラバ、貴様ラガ平和ヲ望ンデイナイト見做スガ、良カッタカ?」

「……そうだな。こちらは戦うために来たわけじゃねぇ。ここを見に来ただけだ。でも、取り繕うなよ。普段通りに生活しろ」

「ハッハハ、面白イコトヲ言ウナ貴様ハ。取リ繕ウ? ソンナ暇ナドアルカ。コノ島ハ、マダマダ復興デ忙シイノダ。ムシロ、貴様ラニモ手伝ッテモライタイクライダゾ。一応ハ客人ダカラナ、強イルコトハセン。ダガ、手伝イタクナッテラ、イツデモ参加スルガイイ。サァ、朝食ノ時間ダ!」

 

 テミスは言うことを言って、うみどりでの朝食を希望。メッセンジャーがいるにもかかわらず、工廠厨房へと流れ込んだ。

 こうやって話している間も、セレスとラ級姉妹は当然のように準備していた。故に、くればすぐに食事が出せる。

 

「え、えー……何それ……」

「理解が追いつかん……」

 

 メッセンジャーは2人ともテミス達のこの行動が呑み込みきれなかった。

 

 

 

 

 後始末15日目は、出洲の配下、メッセンジャーの監視の下での作業となる。

 だが、やることは何一つ変わらない。この島の平和のために、ただひたすらに後始末を続けるだけ。それを邪魔するのならば、このメッセンジャーは平和を求めていない悪として認識されるだけである。

 




メッセンジャーがいたとしても、テミス王は何も変わらない。食べたい時に飯を食い、そしてやりたいように島を復興するのだ。
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