後始末屋の特異点   作:緋寺

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寛大な王とて

 出洲のメッセンジャーによる監査という、何とも気に入らない後始末が始まった。

 平和の観点は誰もが別。少なくとも、出洲の持つ平和の概念はうみどりとは相入れぬモノであることはわかっているにもかかわらず、そのうみどりが協力して復興している島の活動が平和であるかを監査しようとしている。

 

「メッセンジャート言ッタナ。貴様ラハ似タヨウナ格好デ差ガワカラン。仮ノ名ヲ付ケサセテモラウゾ。1ト2デイイカ。イリス、名札デモ用意シテヤレナイカ」

 

 現れたメッセンジャーはどちらも同じ服装。フルフェイスのヘルメットのせいで顔も見えず、身長も大体同じくらいの。艤装の形状も近いため、ぱっと見で判断が出来ない。

 朝食のベーコンエッグをもぐもぐしながら、テミスは服飾が得意なイリスに名札を準備出来ないか問う。

 

 見た目は戦艦などの強力な艦というわけではなく、ぱっと見では駆逐艦程度。深雪と同じか、それより小さいかというくらい。とはいえカテゴリーKなので、戦闘力は未知数。急な戦闘は出来ることなら避けたい。

 勝てる勝てないの問題ではなく、戦えばどうであれ後始末の量が増える。長い時間かけてようやくここまで来たのに、部外者にまた散らかされたら堪ったモノではない。最悪、鮫の時のように伊203の手が出る。

 

「そんなのすぐには用意出来ないわ。だから、今はこれで我慢してちょうだい」

 

 いきなりそんなこと言われても困ると、イリスが用意したのは何と養生テープである。二色用意した挙句、メッセンジャー2人の右の二の腕にベリッと貼り付け、雑に『1』『2』とペンで書き殴った。

 乱暴な口を利く方が1、まだやんわりとした話し方の方を2として、ひとまずの呼称とする。

 

「……なんて扱いだ」

「貴女達、自分が私達の敵であることを今だけ忘れてるのかしら。しかもほとんどアポ無しで来ておいて、まともな待遇でいられると思ってる? 名乗りもしないのに。扱いが悪い? ならちゃんと正式な手続きを踏んでちょうだい。こちらだって貴女達に構ってる暇は無いのよ」

 

 イリスからの正論パンチに、メッセンジャー1は舌打ち。でっち上げた文句ではなく、今まさに起きていることへの文句なので、反論など出来るわけがない。

 そして、これによってうみどりも島も平和では無いという判定も出来るわけがない。ただでさえ上から目線の敵がいるのに、戦闘もせずに、いることを許可しているだけでもありがたいと思ってもらいたい。

 

「まあまあ、これは仕方ないわ。私達が急に押しかけたんだもの。文句を言われても仕方ないわ。でも、私達は公正な目で平和かどうかを見させてもらうわね」

「どうだか。出洲の配下というだけで色眼鏡で見るんじゃないかしらね」

「誓ってそんなことはしないわ。信じろと言う方が無理だとは思うけれど」

 

 メッセンジャー2は悪びれもせず言ってのける。敵の配下という、公正という言葉が最も似合わない存在にそんなことを言われても、誰も信じるわけがない。

 

「マァ構ワン。余ノ島ガ平和デアルコトヲ示シテヤレバイイノダロウ。見テイレバ何モ文句ナド出セヤシマイ。ダガ、コレダケハ先ニ言ッテオコウ」

 

 朝食終わりの紅茶を嗜んでいるテミスがカップをソーサーに置いて、真正面から言い放つ。

 

「手伝ワンノナラ邪魔ダケハスルナ。我々ハ楽シク生キルタメニ島ヲ片付ケテイル。生活ガカカッテイルノダ。ボーット突ッ立ッテイルダケナノダロウ貴様ラハ。ナラバ、構ッテモラエルト思ワナイコトダ」

 

 テミスもこれまでとは違い、メッセンジャー達に対しては少し攻撃的である。いつもならば最強艦隊への勧誘をするし、笑いながら相手を受け入れようとするのだが、この相手に対してだけは、まず心を許さない。嫌悪は抱いていないが、警戒は非常に強い。

 

「お前がこの島の統率者なんだよな。なら、支配者がいるこの島の何処が平和か教えてくれよ。民はお前の命令で動いてるんじゃないのか?」

 

 ここでメッセンジャー1がテミスに食ってかかる。この態度に、テミスを慕っている深海棲艦やカテゴリーYはコイツと身を乗り出そうとする。特に姉御肌なリ級や元ヤンキーの春星、荒っぽい軽巡棲姫は、その行動が迅速だった。

 しかし、テミスは手を上げ、構うなと制する。テミスがそうするなら、その怒りは鞘に納めるしかない。

 

「貴様ハ何モ見エテイナイ。ソノヘルメットデハ、見エルモノモ見エナイノデハナイカ?」

 

 テミスは笑みを一つも見せず、メッセンジャー1の正面に立つ。

 

「余ハコノ島ノ王。ダガ、余ハ民ヲ支配ナドシテオラン。余ハ従エテイルノデハナイ。民ガ自ラ余ノ道ヲ共ニ歩イテクレテイル。余ハ命令シテイルノデハナイ。民ガ自ラヨリヨクスルタメニ動クコトヲ許可シテイルニ過ギン。マサカ貴様ハ、指示ト命令ノ区別モツカンノカ」

「どうだか。今がそう見えるだけじゃねぇのか」

「今シカ見テオランカラ、ソンナコトヲ言ッタノカ。貴様ノ平和ノ判定ハ、僅カナ時間デ出来ルノダナ。我々ハマダ、後始末ヲ始メタスライナイゾ。ココニ来テ、朝食ヲ摂ッテイルダケ。ソレヲ見テ、余ノ在リ方ガ判断出来タノカ。貴様ノ目ハ節穴ダナ」

 

 ここまで攻撃的なテミスはこれまでに見たことがない。深雪達もそれには驚きつつも感心していた。

 テミスは自分が侮辱されるならばおそらく笑ってスルーする。しかし、島を、民を侮辱し、未来を絶とうとするなら容赦はしない。メッセンジャー達がここにいることが島の復興を遅らせることに繋がり、メッセンジャー1の言い分は、テミスが支配者で平和を乱しているのではというところから、民が奴隷のように扱われていると話していると感じたのだろう。

 

「自分ガ気ニ入ラナイカラ平和デハナイ、ダナンテ、言ワナイナ? コノ島ノルールハ、我々島民ノモノダ。うみどり、後始末屋、調査隊ハ協力者ダガ、貴様ラハ部外者ダ。ルールモ守レヌ者、礼節ヲ知ラヌ者ニ、余ハ正シク接スルコトハセン」

「はっ、それでも王かよ」

「王ダカラコソダ。民ノ模範トナルノガ王ダ。余ハ、民ノ言イタイコトヲ今、ココデ背負ッテ、貴様ニブツケテイル。貴様ノヨウナ自分本位ナ部外者ニハ、理解モ出来ナカロウ」

 

 島民達はうんうんと頷く。本当なら部外者は出て行けと言いたいところだが、それを我慢しているのに、その部外者が大きな顔をするのが気に入らない。その意思を汲み取り、テミスがかなり穏便に言葉にしている。

 

「ダガ、余ハ貴様ノ存在ハ否定セン。コノ世界ニ生キル者ナノダカラ、必ズ余ト同ジデアルトハ限ランコトクライハ理解シテイル。ソノ内、互イヲ理解スルコトモ出来ルト信ジテイルゾ。愚カナ者ハ、マダ学ブ余地ガアルトイウコト。コノ島デ学ベ、メッセンジャー共ヨ」

 

 しかも、それでもこの部外者を受け入れようとする姿勢まで見せつけた。尊大だが寛大な王、それがテミスだ。邪魔さえしなければここにいてもいい。民を傷付けるのならば許さない。たったそれだけのルールを課しだけ。アポ無しで来ておいて優遇しろとは言わせない。

 

「やめときなさい、私達は本当に部外者だもの。王様の言うことも一理あるわ」

「お前は今、この王にバカにされたんだぞ」

「その前にバカにしたのは貴女よ。ダメ、公正な目で見るの」

 

 メッセンジャー2は1より物分かりがいいようで、1の前に出てテミスに頭を下げる。

 

「ごめんなさい、王様。気分を害したのなら謝るわ」

「ウム、許ソウ。民ヲ傷付ケルコトハ、クレグレモシナイヨウニシテモラワネバナ。身体デハナク、心ヲ言ッテイルノダゾ」

「ええ、承知してる。私達は一定の距離から近付かない。でも誰かの目が届く場所にいる。貴女か、特異点の監視を受けることにする。それでいいかしら」

 

 急に話を振られた深雪は眉を顰める。しかし、出洲の配下が急に何かしないかは見ておいた方がいい。

 

「あたしは悪いけど色眼鏡で見ちまいそうだ。そいつらが正しく平和の監査とやらをするにしても、腹が立つほど敵なのは変わらねぇ。何をしても突っかかっちまいそうだからな。王様、アンタに任せていいか?」

「ウム、ソウイウコトナラバ、余ガ受ケ持トウ。貴様モ正直、気ガ気デナイノダロウ。昨日ハ心労デ後始末ヲ休ンデイタノダカラナ」

「ああ、ぶっちゃけ、そいつらと一緒にいたら、あたしはまた心労で倒れかねない」

 

 それを聞いたメッセンジャー1は、深雪の方に顔を向ける。

 

「繊細じゃねぇか特異点」

「話の通じない自分勝手なクソ野郎と話をしたんでな。しかも、まともにあたしのことを知らないくせに、上から目線で罪人とか抜かしてきやがる。わかるか、何もしてねぇのに悪人呼ばわりされて、ひたすら攻撃を受けるの。わからねぇか、そいつの仲間だもんなお前らは」

 

 一触即発の空気。喧嘩腰の対話はもう対話ではない。

 

「やめなさい。私達が不利になるだけよ」

「……チッ……」

 

 メッセンジャー2に止められ、メッセンジャー1は一歩下がった。深雪は溜息を吐く。

 煽られたから煽り返しただけで、ここから追撃しようとまでは考えない。自分のことは下げない。

 

「モシカシテ、オ腹ガ空イテイルカラ気ガ立ッテイルノカシラ。朝食、マダアルカラ少シ食ベル?」

 

 そんなメッセンジャー達に、セレスが朝食のお誘い。ラ級姉妹も察したか、おにぎりを持って近付く。その中でもζ型は、自分と同じようなヘルメットを被っていることに親近感を持っているかのよう。

 メッセンジャー1はいらないと手で追い払う。メッセンジャー2は大丈夫と優しく断っていた。ラ級姉妹は言葉はわからずとも相手の態度で判断して、ちぇっと少し拗ねたように離れた。

 

「ごめんなさいね、私達は先に食べてるの。貴女達に素性を知られるわけにはいかないから」

「ソウ、残念。美味シイモノハ、心ヲ開クキッカケニナルノダケド」

「その心だけ受け取らせてもらうわ。ありがとう」

 

 メッセンジャー2はあくまでも礼儀正しい。メッセンジャー1があれな分、それが際立っていた。

 

 

 

 

 敵の監査という状況は、独特な緊張感を生む。しかし、後始末屋がやることは変わらない。普段通りに仕事をするだけだ。そこに邪魔者がいたとしても。

 




喧嘩腰なメッセンジャー1が一番のトラブルメーカー。
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