後始末屋の特異点   作:緋寺

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いざ学校掃除へ

 メッセンジャーがどうであれ、後始末屋はこの島の片付けを率先して行っていく。後始末15日目は、敵の監視という嫌な環境によって開始された。

 本日のお休みはうみねこ。あちらとみずなぎ、そしておおわしにもメッセンジャーが来ていることは伝えられており、今だけはこの2人に何もしないようにとお願いしている。

 敵ではあるが、現在は争うつもりがないのならば、わざわざ攻撃する必要はないという判断である。あちらも攻撃ではなく、ただ平和かどうかを見に来ただけだというのだから、今はそのようにしていた。

 

「今日は学校の掃除でいいか。王様もそろそろ自分の城が欲しいんじゃないか?」

「なのです。それに、地下施設が終わりかけているので、そのままの流れでまだまだ汚い学校を綺麗にするのです」

 

 深雪達は学校へ。地下施設に行くためではなく、学校そのものを綺麗にするためである。

 

 本日の後始末、うみどりの面々は学校の掃除をメインとする。地下施設を掃除するよりも難易度は低く、電力が復旧した今ならばいろいろと機材も持ち込める。しかも、深雪達が一度手をつけ、内部の邪魔なモノを外に出し、一部の教室は洗浄も出来ているというのもあるのだ。

 壁にはケルヒャーが使えるし、内部も掃除機が使える。今回は最初から天井のことも視野に入れているため、天井を拭くための大きなモップなども持参。

 地下施設よりは狭いところが多いため、今回は仕事が捗るぞと足取り軽く向かっている。

 

「音楽室さっさとやっときたいよねー。あ、あの培養管とか、ウメに『解体』してもらうとか良いかも」

「それはよろしいですね。一度壊して外に出してしまった方がよろしいかと。前回の時には、あの場所は触れておりませんし」

 

 前回手をつけられたのは1階の教室であり、2階よりも上の階層は全くと言っていいほど手がつけられていない。そして、あの音楽室は1階ではない。今でも穢れが酷いことになっていそうだし、そもそも培養管はそのままである。

 アレの片付けは、梅に頼んで綺麗に破壊してもらい、残骸は持ち出して廃棄、部屋自体は洗浄。あとは上手くリフォーム出来ればいいだろう。それについては、この学校を使うことが決まっているテミスと要相談。

 

「前に綺麗にした教室、また穢れが溜まってるとかないよな。一応確認しとくか」

「その方が良さそうですね。そうしましょう」

 

 深雪達は掃除の話をしながら学校へと突き進む。深雪達だけでなく、うみどりの他の面々も同じように。今回は空母隊も薬剤散布のために同行し、学校を内外問わず綺麗にすることを目的としている。

 

 それから離れて、メッセンジャーの2人は、後始末……むしろ特異点の監視を徹底していた。ここでどのように活動しているのか、特異点がどのようにしてこの島には平和を齎そうとしているのかを見るため。

 さらにその後ろには、腕を組んでついてきているテミスの姿も。本来ならば、テミスも集落や学校の後始末をしたい。しかし、この闖入者を深雪達に関わらせないように監視するのが目的。

 

「ソレ以上近付クナ。先程モ言ッタガ、後始末ヲ邪魔スルノダケハヤメテクレ」

「ええ、大丈夫、わかってるわ。私達はあくまでも見てるだけ。後始末がどんなものか、この島がどう平和になっているかを知りたいだけだもの。遠目で眺めるだけにするから」

「ソレデイイ。マァ、建物ノ中デノ作業ハ見エナイダロウガ、仕方アルマイ」

 

 建物の中に入られたら、それこそ邪魔である。ただでさえ狭い場所に、何もしない者がいるというだけで作業効率はダダ落ち。

 

「余モ本来ナラバ、後始末ニ参加シテイル。ココハ余ガ暮ラス居城トナル。我ガ城ヲ我ガ手デ片付ケルノハ当然ノコト。ダガ、客人ガ来タノナラバ、ソチラヲ対応セネバナルマイ」

「監視じゃねーか。ビビってんのか」

「当然ダ。特ニ貴様ノソノ態度、目ヲ離シタラ何ヲシデカスカワカラン。ソンナ輩ヲ監視シナイデドウスル」

 

 煽りに対して煽りで返す。

 

「ソレニ、()()()()()()ハヤメテオケ」

「あ?」

「ワザト煽ッテ対立サセ、コチラニ手ヲ出サセテ、平和デハナイト断言スルツモリダロウ。平和主義者ヲ怒ラセルノガ目的ナラバ、アマリニモ趣味ガ悪イ」

 

 冷ややかな目でメッセンジャー1を見るテミス。やたらと喧嘩腰なメッセンジャー1の真意──マッチポンプを見抜いていた。

 

 全方向に煽り散らかすのは、敵だからというのもあるが、怒らせて手を出させることを狙っているから。こちらからは口しか出していないのに、手を出されたと被害者ヅラする気だろうとテミスに言われて、メッセンジャー1は大きく舌打ちをした。

 

「ああ、そうだよ。温厚な特異点サマが、掴み掛かってきたら、これ見よがしに言ってやるつもりだった」

「ヤメテオケ。深雪ハソンナコトデハ手ヲ出サン。ムシロ貴様、口デモ負ケテイルダロウ。ダカラ、慣レナイコトハヤメテオケト言ウノダ。王ノ助言ハ聞イテオクコトダナ」

 

 口でも負けている。事実を突きつけられると苛立ちを感じるモノであり、メッセンジャー1はその歩みが止まる。メッセンジャー2もそれに合わせて隣に立ち、落ち着きなさいなと宥めた。

 

「貴様ラノ狙イガドウデアレ、島ヲ騒ガスナ。我々ハタダ、静カニ楽シク生キテイク。ソノタメニ、うみどりカラ文化ヲ教エテモラッタ。マサカ貴様ハ、我々ガタダ、自分ノ居場所ヲ掃除スルコトスラ咎メルノカ? 貴様モ自分ノ部屋クライ掃除スルダロウ。ソレヲ邪魔サレタラ、腹ガ立ツダロウ。自分ノ身ニ降リカカッタト思エバ、ココデハ何モ言エンハズダ」

「そうね、その通りよ。ごめんなさいね、少しこの子の口が過ぎたわ。わざと煽って怒りを引き出すのは、大人気ないし狡いやり方よね。正面からこの目で見させてもらうためにも、ここからは言葉も控えるわ」

「ウム、質問ハ受ケ付ケルゾ。ソレニ、我ガ軍門ニ下リタイトイウノナラバ、余ハ喜ンデ受ケ入レヨウ」

「それは無理な話ね。私と貴女とでは、目指している平和のカタチが違うもの」

「ソウカ。ナラバヨイ」

 

 いつものように残念だと言わない辺り、テミスはメッセンジャーのことを仲間にしようとは考えていないようである。特に1の方は、テミスにすら若干嫌われている節がある。

 

「サァ、見ヨ。コレガ我々ノ平和ダ。貴様トハ違ウカモシレヌガ、地道デ、確実ナ、誰ニモ迷惑ヲカケナイ平和ノ道ダ」

 

 胸を張ってメッセンジャー達に見せる、その後始末の様子。地道かもしれないが、確実に平和が訪れるであろう、安全な道のり。それは、素人でも実現可能なやり方である。

 

 

 

 

「やはり電源が使えるのはありがたいな。壁も徹底的にやっていくぞ」

「はーい! でも高いところはどうやってやるんですかー?」

「うむ……どうしような」

 

 学校の外観でケルヒャーを使って汚れを落としているのは、戦艦組の長門と清霜。長門が本体を持ち運び、清霜が放水をすることで、壁が見る見る内に本来の色を取り戻していく。

 少し高いところは、長門が清霜を肩車して進めることが出来るのだが、学校は三階建。絶対に届かないところはある。となると欲しいのは足場。

 流石に何人もが肩車をして高さを出すというのは危険極まりない。いくら艦娘でも、倒壊したらタダでは済まないだろう。

 

 今更ながら、黒井母の持っていた艤装と力が欲しくなるところだが、彼女の艤装は現在うみどりの立ち入り禁止区域で厳重に保管中。『拡張』によるタコ脚はきっと足場になっただろうが、むしろタコ脚だからこそ少し危ない。

 

「上の階の窓から命綱を使って外に出るしかあるまい。だが、かなり危険ではあるな……。すぐに足場が組めればいいのだが、ここはそうもいかないだろう」

「ハシゴ車とかクレーンとかあれば簡単なんだろうけどなぁ」

「流石に無い物ねだりだな。地道に行こう。それとも、明石やあの飛行場姫に作ってもらうか?」

「そっちの方が早いかも!」

 

 ケラケラ笑いながらも楽しく後始末をしていく2人。

 

 また、グラウンドの土を見ながら悩んでいるのは妙高と三隈。

 

「土壌汚染はどうしましょうか。一度掘り返すなりしなければ、奥まで薬を浸透させることも出来ないのでは?」

 

 建物が穢れまみれならば、地面も穢れまみれ。いつもの眼鏡を通してみれば、染み込んだかのような穢れが其処彼処。海なら簡単に取れるのだが、陸だとそうはいかない。

 これはこの島の後始末が始まってから常々言われていることだが、今日からは学校の後始末という観点から本格的に考えていかねばならないこととなった。

 

「ここを上手く耕して、薬を馴染ませ、最終的には畑に変えてしまうのはどうでしょうか。地質は違うかもしれませんが、上手くやれば作物も育つかもしれませんわ」

「確かに。麦を育てられるようにすれば、パンも作れるようになります。米より周期も早いですし。ただ、土が硬いですね。無理矢理にでも抉るしかないでしょうか……」

 

 今後の島の生活、自給自足のことを考えて、この学校にも畑を作るという案。ここならば海からの潮風にやられることも少なく出来そうで、集落にある畑とは別物を育てることも可能かもしれない。

 

 厄介なのは、この下に地下施設があるということ。しばらく掘り進めれば、その天井にぶつかることになるだろう。それが何処まで深くなのかもわからない。

 雑に抉ると傷をつけてしまい、地下施設に影響を与えかねないため、それは避けたいところである。砲撃で抉るという一番手っ取り早い方法は使えない。

 

「ここは地道に行きますか。艤装のパワーアシストを活かして」

「艤装のパワーに耐えられる農具も必要ですわね。重機があれば一発ですけれど」

「難しいでしょう。人海戦術で手作業でやるのが、最も早く効率的かと思います」

「大変ですけども、やり甲斐がありますわ」

 

 グラウンドの案はまたテミスに提出するとして、今度は校内だと中に入っていく。その背中には、作業に対しての嫌悪感などは何一つ無かった。

 

 

 

 

「……呑気なもんだ」

「誰ノセイデコウナッテイルノカハ理解シテオケ」

 

 メッセンジャー1の呟きは、テミスが即座に訂正させる。

 

「楽しそうね。確かに、平和な感じがするわ」

 

 メッセンジャー2は今のところはこの島の在り方は肯定的なようである。

 




多分ケルヒャーは五台くらい用意してある。
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