後始末屋の特異点   作:緋寺

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島の楽しみ

 昼休みも終わり、後始末屋は作業に戻る。響も言いたいことは言ったということで、メッセンジャー達を置いてさっさと作業に戻っていった。

 

「……クソ腹立つな……あの野郎……」

 

 メッセンジャー1は響に帰れとまで言われたこともあり、苛立ちを隠すことすらしていない。

 だが、そこはメッセンジャー2がすかさずフォロー。握っていた手は離さず、少し撫でるようにしている。

 

「少し態度が悪すぎたわね。私達はこの島を公平に公正に見るためにここに遣わされてるのよ。もう少し抑えた方がよかったわ」

「……腹が立つんだよ、特異点が」

「気持ちはわかるけど、今はそうじゃないの。島自体は、とても平和だと思うわ。私は、だけれど」

 

 その光景を監視役のテミスはじっと見ている。響は、メッセンジャー達のことをワガママな子供とそれに振り回される母親のように表現していたが、テミスには母という感覚がわからない。そのため、この2人のことを上下関係が少しある仲間というように感じていた。

 メッセンジャー2の方が上であり、下であるメッセンジャー1の成長を促しているような、わざと自分で考えた幼いやり方を容認し、しかしやらせた後に悪いところを教えることで学ばせるような、そんな雰囲気を感じ取った。

 

 言い方が、語気が、それを如実に表している。経験せねばわからない。学びを得るためにまずはやらせる。失敗しなければ刻まれない。だから注意はしない。先程は途中で口を挟もうとしたものの、制されたら素直に引き下がる。その方が1の成長に繋がると判断したからか。

 

「ドウスル貴様ラ。帰レト言ワレタガ」

 

 テミスはひとまず問う。これで素直に引き下がるわけがないのだが、意思を聞いておかなければ、ここからの行動に繋がらない。

 

「アホか。これで引き下がったら余計に言われる」

「ごめんなさい、まだ私達はこの島を見ていきたいの。私は今の段階ではいい島だって思っているわ。でも、この子がまだ納得出来ていないの。私怨が交じってるのは否定しないわ」

「ソウカ。ダガ、先程ノヨウナコトハ控エテクレ」

「ええ、言われても仕方ないことをしたと思ってるわ。怒りを引き出してから否定するなんて、褒められた行為ではないものね」

 

 物分かりが非常に良い。故に、響も言っていた通り、このメッセンジャー2は得体の知れない存在。

 それだけわかっているのなら、成長を促すためとはいえ、何故最後までやらせようとするのか。メッセンジャー1が煽りに慣れていないことはテミスでも看破していることだ。なのに、ボロが出るようなことを何故やらせたのか。

 

「マダココヲ見ルノカ? 中ガ見エナイカラ平和カドウカ判断出来ナイト言ッテイタガ、午後カラモ変ワラナイゾ。……イヤ、変ワル。ムシロ今カラコソガ、余ノ島ノ真骨頂カ」

「何かあるの?」

「アア、我々ハコノ島デ過剰ニ同胞ガ発生スルコトヲ抑エテイル。ソノ装置ハ、妖精ガ楽シイト感ジル時ニ発生スルエネルギーヲ使ッテ稼働シテイルノダ。今ハ毎日動カシテイルカラ、コレカラソレガ行ワレル」

 

 来イとテミスはメッセンジャー達を促し、学校の中へと足を踏み入れる。作業をする後始末屋からはあまり良い目では見られないかもしれないが、だとしても追い出すようなことはしない。作業をしないなら邪魔だけはするなというだけ。

 それに、この島の王が先導しているのなら、何か理由があるのだろうと察する。軽く話し、屋上に行くと言われたら、誰だってその理由がわかる。

 

「ココダ。貴様ラハ一度、コノ島ノ文化ヲ知ッテオケ」

「……え、ライブ会場? さっきアイドルとか言ってたけど……え、本当に?」

「アア、ソウダガ。我々ハコレデ楽シミ、ソシテソレハ実用性ノアルコトデモアル」

 

 屋上のライブ会場は、より快適に妖精さんが楽しめるようにされている。座席は失敗ペンギンの綿から作られたフカフカな触り心地。機材のセッティングは必要であってもそれを感じさせないくらいに着け心地のいい仕様にされ、何も気にせず楽しめる。

 あくまでも妖精さんに楽しんでもらうのであって、艦娘や深海棲艦は立ち見。それでも全てに配慮され、見るのも()()()()()()快適に過ごせるように設計されていた。

 

「これが学校の屋上……平和とか以前に、わけがわからないわ……」

「ワカラズトモ、良イモノナラバ心ニ響ク」

 

 島の監視が仕事なのに、この会場に連れてこられて何を見せられるのか。メッセンジャー達は不審感のようなモノすら抱いている。

 

「わ、王様、その子達連れてきたんだねー♪」

 

 そんな2人の元にやってきたのは、このライブ会場を最も使う者、那珂。当然ながら、舞風と深海玉棲姫も一緒である。

 

「新シイ、オ客様?」

「みたいだね。那珂ちゃん達のファンになってくれるかな?」

「ソウナッテモラエルト、嬉シイ」

 

 純粋に、健気に、深海玉棲姫はメッセンジャー2人に穏やかな笑みを向ける。その姿は、見た目こそ深海棲艦かもしれないが、人間と何ら変わらない、むしろ人間よりも平和に繋がったモノに見える。

 

「ライブは後30分で始まるから、少し待っててね。監視がお仕事なのはわかるけど、ツンケンしてたら正しい判断なんて出来ないよ。だから、一度那珂ちゃん達のライブで楽しくなってね♪」

 

 少し強引にその手を取って、握手。メッセンジャー1は小さく舌打ちをしたが、2の方はよろしくとまだ穏やかである。そして、那珂達は最終調整に向かった。

 

「……呑気なもんだな」

「それが平和なのよ、この島の」

「ここに閉じ込めて、その間に裏で何かやってんじゃねぇのかよ」

 

 ライブ会場に入れられたら、そう考えるのも無理はない。故に、テミスはちゃんと説明する。

 

「後始末ハ、コノ最中デモ続イテイル。ココノ音声ハ、島ニモ流レルヨウニモナッテイテナ、皆ガ心穏ヤカニナレルヨウニ配慮サレテイルノダ」

「そういうことじゃねぇよ」

「我々ガ裏デ悪巧ミヲシテイルトデモ思ウカ? ソレハナイ。何故ナラ、余ガココニイル」

 

 自信満々に答えるテミスに、メッセンジャー達は何も言えなくなった。テミスがここにいることで、裏で何も起きないという保証は何処にもない。しかし、何故かそれを信じさせるだけの圧がある。

 実際、悪巧みなんてする余裕もないし、そんなことをしているくらいなら島の後始末を進めたいというのが実情である。そもそも深海棲艦達は次にやること、今後やるコトをテミスに指示を受けて実行している。自由に過ごす時間は、そんなことより今を楽しむことだ。テミスがいないなら、むしろメッセンジャーのことすら気にしない、いないモノとして扱い、今楽しめることで楽しむ。

 

「後始末屋ニモ、ココノ音ハ届ケル。ソレデ作業ノ効率ガ上ガルヨウダカラナ」

「ラジオみたいなことをしているのね……」

「ソレハヨクワカランガ、我々ノコトヲ考エテ、イロイロトヤッテクレテイル。オカゲデ、我々ハ楽シク過ゴスコトガ出来テイル」

 

 あくまでも楽しく生きることがメイン。テミスはそう語った。

 

「……わけわかんねぇ」

「ワカラズトモヨイ。今ハ見テオケ。タダシ──」

 

 テミスはメッセンジャー1を見据える。

 

「野次ダケハ、絶対ニ飛バスナ。貴様ハ空気ヲ読マズニヤリソウダカラ、先ニ言ッテオクカラナ」

「……はっ」

「それくらいの礼儀は弁えるわ。監視以前のマナーだもの。私達が楽しさを壊しておいて、平和じゃないなんて言えないものね」

「ワカレバイイ。貴様ラニモ、文化ヲ楽シム心クライアルダロウニ。存分ニ楽シメ。コレガ、余ノ島デアル」

 

 そして、ライブが始まった。

 

 

 

 

「いやぁ、やっぱ那珂ちゃん達のライブは聴いてて盛り上がるな」

「なのです。仕事中に聴くことが出来るなんて、とっても贅沢なのです」

「玉もどんどん上達してるよね。あのバラード、なんかグッと来ちゃったよ」

「まこと素晴らしい歌声でした。艦娘も深海棲艦も関係ありませんね」

 

 作業中の深雪達も、ライブの音源をしっかり聴いており、大満足したようである。それだけでなく、学校の中で作業している者達は、全員がこの贅沢なラジオに耳を傾けて、手を止めず共に会場にいる者達と一緒に盛り上がった。

 このライブによる鼓舞のおかげで、教室はどんどん片付いていき、また、『解体』の入った音楽室や理科準備室も、穢れ一つない完璧な清掃が完了している。

 その教室をどうしていくかはまだ決まっていなくても、部屋が綺麗ならば後でいくらでも考えられるだろう。

 

「作業の効率も上がるし、みんなが楽しいしで、何も文句無ぇや。アイツらもコレ聴いてりゃ、考え方変えるんじゃねぇかな?」

「どうでしょう……そうであってほしいですけど」

「曲がった性根を叩き直してくれればいいけどねぇ」

「歌を楽しむ程の感性を持ち合わせているか、ですね」

 

 こればっかりはわからない。出洲の配下であるメッセンジャーに聴かせたところで、何も変わらない可能性は非常に高いだろう。だとしても、この島が平和である象徴でもあるのだから、少なくともこれで平和では無いと断言することは無くなるはず。

 

「……まぁ、これでライブをこき下ろすようなら、流石にあたしがぶっ飛ばしてやる。人様の楽しみをわざわざ壊す必要は無いんだ。監視っつってんだから見るのは仕事だろうが、それを否定するのは仕事じゃなくてそいつの性格の問題だと思うからな」

「いくら捻くれ者でも、そこまでしたらヒトとしておかしいと思うよあたしも。ただ、相手が相手だからねぇ。急に那珂ちゃんのファンになりますとか言い出しても少し怖いモノはあるけどさ」

 

 実際、これでメッセンジャー達がどういう考え方になったかはわからない。しかし、変な騒ぎになっていないところからして、ライブ自体は受け入れていると考えられた。

 

 

 

 

 島の平和の象徴たるライブを観ることとなり、メッセンジャー達はこの島をどう考えるのか。




これでメッセンジャー達がサイリウムと半被来て出てきたら、NGシーンとか言ってられないくらいのことよ。
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