後始末屋の特異点   作:緋寺

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心の余裕

 後始末15日目は終盤。屋上のライブも終わり、装置へのエネルギーも充分。そして、ライブ自体も大きな盛り上がりを見せたため、島はさらにいい方向へと向かう。島民達はこの島がさらに好きになり、明日への活力が生まれるのだ。

 

 メッセンジャー達もそのライブを観覧し、そして最後まで静かに見届けた。野次を飛ばすのはマナー違反。メッセンジャー2の言葉に1も倣い黙っていたようだ。

 ライブを楽しんでいたかはわからない。しかし、終わった後にも何も口を開かなかった。

 

「ドウダッタ、余ノ島ノ娯楽ハ」

 

 同じように観覧をしていたテミスに聞かれると、メッセンジャー2が反応。

 

「正直、最初はなめてたわ。こんなところで歌や踊りなんて、何考えてるんだって。楽しいエネルギーって何なのって感じだし。でも、娯楽としてはとてもいいモノだと思った。私としては、平和の象徴と言ってもいいくらいに」

「ソウカソウカ、ナラバヨイ。コノライブマデ貶サレタラ、余ハ答エニ困ッテイタトコロダ」

 

 メッセンジャー2の回答にテミスも安心と同時にご満悦。フルフェイスのヘルメットのせいで表情は見えず、ライブの最中も無言に徹していたことから、ライブを見せてもこの島は平和ではないと言い出すのではと思っていたのだが、そうではなかったようだ。

 最初はなめていた、の本音を言いつつも、このライブを肯定する。何故なら──

 

「こういうことが出来るっていう時間の使い方が平和だもの」

 

 これに尽きる。この島は今でも復興中であり、予断を許さない状況は終わったモノの、まだまだ仕事は山積み。そんな中でも、島民の一部を順に招いて、アイドルというカタチで楽しんでもらう時間を作っているのだから、それは精神的な平和を体現しているとも言えるだろう。

 メッセンジャー2は、そういうところから、この島は平和だと考えたようだ。切羽詰まっていない。心に余裕がある。未だ戦争中のこの海にある島であっても、娯楽を優先出来るという精神的な余裕が平和だと。

 

「ウム、余ノ島ハ民ノ笑顔デ成リ立ッテイル。皆ガ楽シクナケレバ意味ガ無イ。常ニ仕事ヲシ続ケテイテモ、参ッテシマウダロウ。故ニ、コレガ一番効率モイイ。マァ、ソレ以上ニ余モ楽シミタイノダ。常ニ気ヲ張ッテイタクナイダロウ」

「ええ、そうね、私もそう思う。そのおかげで、この島には争いもないのね」

「ソウダ。民ノ心ニ余裕ガアルカラ、島ニハ争イハ無イ。イヤ、断言ハ出来ンガ、許容出来ル範囲ダロウ」

 

 完全に争いがないわけでは無い。ちょっとした諍いくらいならあるだろう。だがむしろ、それが平和の証である。自由な意思を持っているということにも繋がるのだから。小さな喧嘩は、むしろ平和だからこそ起きる。

 

「貴様ハドウ感ジタ。マサカ、良イト思ッタラ負ケト思ッテイルワケデモアルマイ。貴様ハ公正ナ立場デ、余ノ島ヲ値踏ミニ来テイルノダ。多少ハ感想ナリアルダロウ」

 

 メッセンジャー1に感想を求めるテミスだが、一瞥するくらいで無言。言葉を選んでいるというよりは、言葉もないというイメージが強い。

 否定的な言葉ばかりを残しているメッセンジャー1は、逆に肯定的な言葉を出すことに躊躇しているようにも思える。典型的な、謝れない人間。

 

 だが、テミスはそんなメッセンジャー1にも寛大な、しかし容赦のない裁定を下す。

 

「無言ハ肯定ト考エヨウ。貴様ニモ響イテクレタヨウデ何ヨリダ」

「なっ、てめ」

「否定的ナ感想ガ作レナイノダロウ。ソレダケ、貴様ノ心モ揺サブラレタノダ。認メヨ」

 

 反論は許さず。そして、反論は本当に出来ず。口も態度も悪いメッセンジャー1も、このライブに対しては、何も言えなかった。強いて言えるならば、

 

「……この戦争の真っ只中に、能天気なイベントをよくやってられるな」

 

 コレくらいの逆張りだけ。それ以上に言葉は紡げず。

 コレに対しての答えは既に伝えている。このライブによる楽しいエネルギーが、島の平和──新たな深海棲艦の発生の抑制──に繋がるのだから、ただ楽しむだけではなく実用性のあるイベントなのだと。

 

「ダカラヤルノダ。気バカリ張ッテイテモ、心ガ苦シクナルダケダカラナ。()()()()()()

 

 テミスの言葉に、メッセンジャー1はピクリと反応する。

 

「焦ッテイルノカ? 貴様ハ常ニ心ニ余裕ガ無イヨウニ思エルガ」

「……テメェにどうこう言われる筋合いはねぇよ」

「王トシテ、外交官トハ正面カラ話ヲシタイダケダ。貴様ハ斜ニ構エテイルガナ」

 

 テミスに、深海棲艦に心を見透かされているという現状に、メッセンジャー1は苛立ちを隠せなくなっている。そのため、メッセンジャー2がその手を取って握った。

 

「落ち着きましょう。確かに、余裕が無いことは認められるでしょう。ここには特異点がいるんだもの」

「……ああ、敵がいるこの島で、緊張を解くことなんて出来やしねぇ。いつ戦いになってもおかしくないからな」

「深雪ハコノ島デ貴様ト戦オウダナンテ思ッテオラン。仕事ヲ増ヤスコトハ論外ダカラダ」

 

 せっかく片付いた島を散らかすような真似をするわけがないだろうと、テミスは溜め息交じりに語る。

 

「……どうだか」

「勿論、貴様ガ無礼ナ真似ヲスレバワカランガナ。何ニセヨ、コチラカラハ絶対ニ動カン。戦イガ起キル時ハ、貴様ガ引キ金ヲ引イタ時ダ。ドウイウ意味カ、ワカルナ?」

 

 島も、特異点も、あくまでも受け身であるということ。やられたからやり返しているに過ぎない。

 

 これは、この戦いが始まった当初からずっとそうである。深雪はただ後始末屋として働いていただけ。それに対して特異点だからという理由だけで、深雪にもわけがわからない状態で襲われ、そこからずっとこの戦いに巻き込まれっぱなしだ。

 今回だってそうだ。メッセンジャー1が難癖をつけたから、数倍返しで言い返されただけ。手も出していない。言葉で来られたから、言葉で返した。ただそれだけである。

 何度も何度も言われているのに学ばない。『自分が良くて相手が悪い』というダブスタが許されるわけがないにいうことに。

 

「流石ニ理解シタダロウ。イヤ、シテクレ」

 

 テミスの最後の言葉は、切実なモノだった。

 

 

 

 

 時間は夕方に。結局メッセンジャー達はライブの後も後始末屋の片付けを遠目に見ているだけで今日を終えている。学校の中での作業を知ることは出来ないが、そこで響く声などはちゃんと聞いている。

 

「よう、あたし達はこれで今日の仕事は終わりだ。頑張って働いてたけど、お前らの目にはどう映ったよ」

 

 終わり際、深雪からメッセンジャー達に話しかける。ストレスが溜まるのは承知で、しかしこれまでずっと監視していたのだから、何か言うことは無いのかと。

 

「……今日だけ取り繕ってたわけじゃねぇだろうな」

「当たり前だ。ずっとこうだよずっと」

「……なら、いい」

 

 思ったより素直に引き下がったメッセンジャー1に、深雪は内心驚いていた。たった1日だけかもしれないが、自分が何をしているか、どういう思いで後始末屋を続けているかを、少しだけでも理解してもらえたのではと感じた。

 

「だとしても、テメェは特異点だ。相入れない敵であることは変わらない。今はこうだが……決着をつけなくちゃいけない時は来る」

「わかってる。でも、少なくとも、この島は平和じゃないと襲うことは無いだろ」

「……ああ、この島は平和だ。テメェが絡んでるから認めたくはねぇけど」

「捻くれてんなぁ。でも、それでいい。あたしは誰も堕落させてない。みんなが率先して自分から働いてる。充分じゃねぇか」

 

 深雪は笑顔を見せる。メッセンジャー1はその笑顔から目を背けた。

 

「特異点が絡んだからって平和じゃないなんて言われたら、こちらも同じことが言えるからな。出洲が絡んでるお前らの言うことなんて信じねぇぞって」

「……」

「もうどっちが正しいとか言ってる段階じゃないのはわかってる。でもな、あたしはあくまでも、やり返してるだけだ。勝手につついてきたのはそちら。やられてやり返したら、やり返した側だけが悪なわけが無ぇよ。あたしが悪なら、お前らも悪だ。お前らが正義なら、あたしも正義だ」

 

 それが深雪の考える真理である。メッセンジャー1は、それに対して何も言い返さなかった。理解したのか、余計なことを言わないようにしたのかは定かでは無い。

 

「で、平和だってわかったなら、もう監視なんて必要ないよな」

「……いや、まだ見て回る。今日はテメェのことばかりで、ここの巫山戯た王様に講釈垂れ流されていただけだからな。他の連中のことも見ておかないと断言は出来ねぇ」

「素直じゃないねぇ。あたしのことばかり見てたのはお前のやり方だろうに。特異点が気に入らないのはわかるけど、目の敵にされるこっちの身にもなれってんだ」

 

 苦笑する深雪に、こいつは何故この状況でも笑っていられるのだと信じられないメッセンジャー1。コレが心の余裕である。

 

「まぁ見て回るなら好きにしろ。後始末を邪魔しないなら、誰も咎めねぇよ。あたしだって受け入れてやる」

「そうかい……なら遠慮なく監査してやるよ」

「遠慮してたのかよお前。図々しく居座ってたくせによ」

 

 こんな会話の中でも、メッセンジャー1が少しだけ、ほんの少しだけ変わったことがわかった。

 

 

 

 

 とはいえ、出洲の配下であることは変わらない。警戒すべき相手であることはそのままである。

 




メッセンジャー1はずっと余裕が無かったのは確かである。何故と言われなら、それはわからないけれど。
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