うみどりでの夕食。メッセンジャー達は相変わらずうみどりの食事は食べない。どうしてもあのヘルメットを脱ぎたくないというところが見えており、メッセンジャー1に関しては、敵の飯が食えるかという気持ちが強く出ている。
メッセンジャー2が、スティック状の栄養食品を持ってきているのを見せ、夜になったらうみどりにも近付かなくなるため、取り付く島もない。
結局、工廠厨房には顔を出すことすらせずに、夜の闇に消えていった。
「マァ、アノ子達ニモ事情ガアルノヨ。無理強イハ出来ナイワ」
というのはセレス。自分の料理を敵に食べてもらうというレアな体験が出来ないのは残念そうだが、食べられない理由があるのならば仕方がないこと。ラ級姉妹も、わざわざ食べさせに行くようなことはやめている。
「夜はどうするつもりなんだろうな。適当な空き家に身を潜めるのか、それとも野宿でもすんのか」
「使ッテイナイ家ハアルガ、野宿ヲスルラシイ。余ガ使エト言ッタノダガ、丁重ニ断ラレテシマッタヨ」
「屋根のあるとこで休んだ方がいいと思うんだけどな。むしろ、夜のうちに何かしでかさねぇだろうな……」
夜中だけは目を離すことになってしまうのは、少々危険。そのため、監視役の監視として行動を始めたのが、この島で最初に発生してしまったと思われるあの肥大化した深海忌雷である。
リ級が連れていた小さな忌雷達も含めて忌雷部隊として結成し、爆発するでもなく取り憑くでもなく、ただついていって見ているだけ。
当然メッセンジャー達に拒否権はない。監視する側が監視されてはいけないわけがないのだ。敵地に乗り込んできておいて、そこまで優遇してもらおうとは、メッセンジャー側も思っていない。
「……出洲は何考えてあの2人を送り込んできたんだろうな」
「ねー。特に1の方、あんなに喧嘩腰でさ、監視とか絶対下手でしょ。向いてなさすぎ」
深雪とグレカーレは、あのメッセンジャーが監視役として不適合であることを語る。ただ見ているだけでいいのに、わざわざ噛み付いてくるというのは、いくら敵同士であるとはいえ、与えられた任務をまともに全う出来ていない。
出洲もそうなることくらいはわかっているはずである。なのに、ここであの面子を使ったのは何故か。
うみどり側を煽って平和ではないことを作り出そうとしているのならば、あまりにもマッチポンプが過ぎる。出洲はそういうことをやるとはあまり思えない。
「例えば……まだ生まれたばかりだから世間を知ってもらうために送ったとか、ですか?」
電の意見に、深雪はそういうのもあるかもと小さく頷く。
「なんかガキみたいなヤツだもんなアイツ。でも勉強のためなら別のところ行かせそうだけどな」
「うみどりは何かあっても攻撃しないからって信じてるとか……なのです?」
「嫌な信用だな。でも、出洲ってそういうことやりそうだよな、巫山戯た言い回ししやがるし」
思い出す、初めて顔を合わせた時のこと。後始末屋が集めた残骸を手に入れて研究をしているというところから、うみどりへの感謝の言葉を図々しくも本気で伝えてきた。
同様に、今回もうみどりを利用するためにメッセンジャーを送り込んできている可能性は充分にあり得る。平和かどうかの監視と言いながらも、利になることしかしていないはずだ。
「この白雲が保証いたしますが、うみどりは社会勉強としてはうってつけの場所であるとは感じます。皆々様がお優しい。受け入れてくれる方々しかおりません故、呪いに苛まれていてもこの通りでございます。未熟さを知るには、最も適した場所かと」
「そんなもんかね……まぁ白雲もすげぇ良くなったってのはわかるけどな」
「勿体なきお言葉。白雲は今後も日々精進いたしまする」
白雲がそう言いたいのもわかると、グレカーレは頷いた。うみどりと関わった者達は、全員が仲良くなっている。最初は少しいざこざがあったとしても、最終的には仲良しだ。
あのメッセンジャー達にもそういう関係を教えるために、わざわざ送り込んできたというのならば、出洲はあまりにも趣味が悪い。敵同士、殺し合いに発展する戦いの相手と交流するとか、正気ではない。
出洲が正気ではないことは、最初からわかっていることだが。
「奴ニハ心ノ余裕ガ無イヨウニ見エタ。ソレハ、早ク成長セネバナラナイト考エテノモノナノカモシレン」
テミスが感じたメッセンジャー1の焦り。それは、この環境に適応しろという指示を貰っているのならば、それが上手く出来ないことへの感情なのか、それとも別にあるのか。
ともかく、あの出洲がわざわざあんな人材を送り込んできたのだ。何の理由も無いわけがない。
「……メッセンジャーが持ってきたUSBメモリを解析したけれど……あまり嬉しくない情報が入っていたわ」
うみどりの面々が工廠厨房での夕食をおおよそ終えたあたりで、伊豆提督が朝イチに手に入れたメッセンジャーのデータの解析を終えたことを伝える。
中に入っていたデータがうみどりの中枢を壊してしまわないかを危惧して、スタンドアローンなタブレットを用意し、外部にデータが漏れないようにして確認をしている。
それで何も起きていないため、出洲は本気でうみどりの邪魔をすることなく自分達の居場所についての情報を渡してきたようである。どれだけ自信があるのだと頭を抱えることになるのだが。
「表示された座標は、とある無人島。この島とは違って、誰かが住んでいたような痕跡がない、本当の無人島ね。そこに、阿手と同じように研究施設を作っていると考えるのが良さそう」
有人島を乗っ取って、研究材料をも確保する、なんてことはしていない。純粋に、誰にも邪魔をされない空間を作り上げ、そこにずっと居座っているというのが妥当。
見た目は無人島でも、やたらと近代化されている可能性はある。また、ぱっと見では気付かないのならば、ここのように地下施設を作っている可能性も。
「でもそれなら、研究の材料や、ここまでどうやって生きてきたのかって問題が出てくるわよね。いくら高次と自称出来るカテゴリーKでも、飲まず食わずで研究ばかり続けてるとは到底思えないもの」
それが顕著なのが、あのゲーム脳の小柄。そもそもゲームを知っている時点で、その無人島は電力もあれば娯楽もある。そして、有意義に過ごせているのならば生活環境は非常に整っているとも言えよう。
それを成立させるためにはどうすればいいか。それはやはり、協力者の存在である。ここまでの時間を誰にも察されることなく生きてきているのは、隠蔽を手伝っている者がいるとしか言いようがないだろう。
それにまだ考えねばならないことはある。
「軍港都市の地下施設に居を構えていたこともあるわけだし、あれから無人島に施設を作ったとは到底思えないわ。各所に点々と拠点を置いていたと言われたらそれまでだけれど。阿手ならやってそうだし、そこを使ってるのかしらね」
初めて出洲達と顔を合わせたのはあの軍港。その存在がバレたことで、出洲達はそこから出て行った。その時に既に行く先があるから出て行けたとも考えられる。
ということは、その無人島はとっくに出洲のモノとなっていた。もしくは、そこも阿手が使っていた仮拠点か何かで、出洲はそれを間借りしている、ないし乗っ取ったということも考えられる。
阿手との連絡手段が常設されている辺り、通信設備に阿手が何かしら手を加えていてもおかしくないため、やはり拠点だけで言うなら阿手が使ったと考えるのは間違っていなそうである。
出洲の話していた阿手への恩は、その辺りも関わっていそうである。
「近くに鎮守府とかないのか?」
深雪の素朴な疑問。無人島、海の上に拠点があるのならば、それは何処かの鎮守府の領海だったりしないだろうか。テミスの島が有道鎮守府の近くにあるというのもあるため、同じようなことはないのかと。
「あるわ。領海というわけではないけれど、有道ちゃんのところみたいに、行こうと思えば行けるという鎮守府が」
阿手の時のように、忌雷を垂れ流して害を与えてくるようなこともないため、その存在を知らずとも、被害を受けるようなことはない。
しかし、近場にあるというだけでも、少々疑いを持ってしまうというものである。有道鎮守府は全面的な被害者ではあったのだが、こちらはどうであるかはわからない。
「目立たない鎮守府ではあったけれど、こうなってくると途端に不気味に思えてくるわね……わざと目立たないようにしていたんじゃないかって疑っちゃうくらいに」
伊豆提督でもそんな疑いを持ってしまうような鎮守府。一同は不安を募らせていく。
ここまでやっても、まだ裏切り者鎮守府は無くならない。そう思うと、元帥が胃を痛めるのもわかるというもの。
「その鎮守府は──襟帆鎮守府。阿手の生徒ではないと判明はしているけれど、謎が多いのよね。マークちゃん、調査隊が調べたんだけれど埃は出てこないし、戦果は可もなく不可もなし。あまりにも目立たなくて驚いてるところよ」
襟帆という名前に、深雪は聞き覚えがあった。なんだっけかと頭を悩ませていると、電やグレカーレがピンと来た。
「軍港で休んでる時に聞いた名前なのです」
「あー、そうだ。アレだ。
あのダウナー気質でやたらと道に迷っていた深雪と、その相方の雷。あの2人が所属している鎮守府。それが、襟帆鎮守府である。
あえて名前が出てきた時に書かなかったわけですが、襟帆という名前の由来は、エレボス。少しハデスを連想させる名前ではありました。