後始末屋の特異点   作:緋寺

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黒煙

 時雨に続き、被害者達の代表として、黒井母がその思いの丈をぶつける。阿手の、出洲の仲間のせいで、家族全員が酷い目に遭っている。旦那は死に、自分も子供達も身体を勝手に書き換えられてしまった。この落とし前はどうつけてくれるのかと詰め寄る。

 知らぬ存ぜぬでは許せない。そんなこと言われても困るなんて言われても、ならば何も知らなかった特異点に詰め寄るお前達は何なのだという疑問になる。出洲の配下として動いている時点で同罪。それだって何も文句は言えない。

 

「アンタ達は命を奪われて、今後こんな犠牲者が出ないようにしたいって気持ちはわかる。それは高尚な願いさね。アタシだってそんな悲しいことは起きてほしくはないよ。でもね、その世界を作るためって理由で、うちの旦那が殺されるんじゃあ、堪ったもんじゃないんだよ。こうして文句言ってるアタシだって、アンタら基準では殺されるんだろ。自分達の平和にそぐわないってね。未来の命のために、今の命を奪うことに躊躇はないのかいアンタ達は」

「確かにそうだね。これだけ異議を唱えているなら、僕達は処刑対象だろうな。平和を求めていない者は死ねってことだろう。つまり、命を失わないようにするために命を奪っているわけだ。まぁそれはこちらもギャアギャア言えた話じゃあないけれど、本来守るべき者を殺すようなことはしていない。あくまでもやられたからやり返さざるを得なかっただけ。君達みたいに、自ら率先して人殺しをするようなモンじゃないよ僕達は」

 

 黒井母を援護するかのように時雨も言葉を紡ぎ出す。もう別個体の深雪と雷には言い訳すらさせないと捲し立てていく。

 

「それで、ここにその高尚な願いのせいで家族を奪われたヒトがそれなりにいるんだけれど、君達はそれについてどう説明してくれるのかな。そもそも本人は人生を奪われている。その上で、血の繋がった親や兄弟姉妹も奪われている。それについてどう思っているのかな。虚言でなく、本心で教えてほしいものだ。上っ面だけの謝罪はいらないよ。むしろ、奪われた者はそんなことじゃあ許せるはずがないだろう」

「自分が命を奪われたってなら、その犯人のことは今でも恨んでるんだろう? もしかしたら、もうアンタ達の手でこの世から消されてるかもしれないねぇ。そういう考えが出来るのなら、何故他人様の気持ちを汲むことが出来ないんだい。アンタ達は教えられなかったかい。やられたら嫌なことをやっちゃいけないって。アタシ達は、アンタ達……まぁ百歩譲ってアンタ達の与り知らぬところで、アンタ達の仲間に、ここまで酷いことをされてきたんだ。仲間なら、何か言うことくらいあってもいいと思うんだけど、どうだい」

「僕も君達の仲間には酷い目に遭わされたからね。敵であるとはいえ、一度も何も言われたことがないね。まぁ、僕には何もいらないけど、このおばさんや、他にもいろいろいる巻き込まれたヒト達には、君達が頭を下げて回ってもいいくらいだよ。君達は多少は話がわかるんじゃないかい」

 

 怒涛のように並べられる言葉。罵詈雑言ではなく、正論をただただ並べているだけ。付け入る隙はあるかもしれないが、少なくともこの2人にそんな余裕はない。

 特に雷は、別個体の深雪を支えるためにここに来ているのだが、ここまでの議論で手が震えるほどにまで圧倒されてしまっていた。時雨も、黒井母も、何も間違ったことは言っていない。

 やられたからやり返している。何もしていないのに被害に受けた。心に傷を負っている。治せるかもわからない改造を受けている。ここまでにあらゆる時間を失っている。ただここまでに起きてきたことを伝えているだけ。

 

「もういい」

 

 そんな2人の訴えに対して、別個体の深雪はぶっきらぼうに言い放った。その言葉に、時雨は眉を顰める。

 

「もういい? 何がもういいんだい? 正論を聞いていたくないのかい? それとも心の底から謝ることが出来そうなのかい? この話を切り上げようとしたということは、何かしらの答えが出たということになるんだけれど、君は僕達に何を見せてくれるんだい? 僕には君達のせいで刻み付けられた呪いがあるからね、君が罪の意識から命を絶ったところで、何も思わないよ」

 

 別個体の深雪は、これまでとは逆に雷の手を取る。

 

「監視は止めだ。ここにいたら、気分が悪くなる」

「なるほど、君達は自分達の感情が揺さぶられるのが気に入らず、ただ気分が悪いという理由だけで任務を全うすることも出来ず、ここからのうのうと逃げ果せることが出来ると本気で思っているゴミ虫ということだ。そもそも、君はここに来た時から深雪のことを煽っていたよね。やり返されたら気分が悪いと不貞腐れながら逃げ帰るわけだ。覚悟が全く足りていない。艦娘かどうかは知らないけれど、君は艦娘として、軍の一員として、人として、何もかもが足りない。何度も何度も言っているけれど、何故君達はやってよくて、僕達がやっちゃいけないのかな。倍返しにされることだって考えられるだろう。まさか、こちらは何も言い返さないで全部聞いてくれると本気で思っていたのかい? そんなわけないじゃないか。君は頭大丈夫かい?」

 

 時雨の言葉を無視して、雷を引っ張りそこから帰ろうとした。雷は少しだけ動揺したが、別個体の深雪がそうするならと受け入れ、これまでの平和であるかどうかの監視はここで終了とする。

 

 当然、ここで逃げられたら困る。これまでのただ監視をするだけならまだしも、これだけ情報を勝手にベラベラ喋っておいて、はいそれまでとは行くわけがない。

 少なくとも、この2人は出洲と同罪。そして、襟帆鎮守府との繋がりから、捜査に入るきっかけとなる情報を持つ者。来たばかりの時とは勝手が違う。

 

「オーバークロック」

 

 しかし、時雨はその撤退を許すわけがない。『タービン』の力をフル稼働させ、その退路を即座に断つ。どのような行動を取ろうが、瞬時に動いてその行動を邪魔する。

 今の時雨は、雷の手を引いている別個体の深雪の退路、その真正面に立っていた。そして、握り拳を突き出して、寸止め。

 

「僕はまだ当てない。でも、攻撃の意思があることだけは示す。君達がここから逃げるというのなら、叩きのめしてでも捕まえさせてもらうよ」

「テメェ……」

「何だい? 君は自分から僕達の敵だと言っていただろう。敵なら別に痛めつけても文句を言われる筋合いは無いんだ。むしろ、君達は今まで譲歩してもらっていたと思わないのかい。来た時点で縛ってもよかったのに、自由にさせていた時点で感謝してもらいたいくらいなんだ。その上で余計なことばかり喋って作業に影響も与えている。まだ僕達で良かったね。どうせならフーミィ辺りを君につければよかったよ。そうしたら君は今頃、粗挽き肉団子になっていただろうけどね」

 

 うみどり側は相当に譲歩していることをちゃんと理解しろと時雨は突きつける。この島がさらに穢れることを嫌い、敵と明言している存在が何を言おうと我慢して作業を続けていたのだ。食事も摂らず、寝床も拒否したことは評価出来るが、それ以外はただの邪魔である。

 いくらこの島が平和だと認識したとしても、上から目線の認定であり、うみどりの優しさをまるで理解していない。好き勝手にやれるのが当たり前だと思われても困る。時雨はそれを今この段階で突きつけているだけ。

 

「退け」

「理由がない。君達は何も答えていないじゃないか。僕達に対して、どう責任を取ってくれるんだと聞いたんだ。まさか、責任を取る必要もないと思っているのかい。自分達はやりたい放題しておいて。もう一度聞くよ。未来の命を守るために、今の命を蔑ろにした君達は、その命に対してどう思っている。そして、今悲しんでいる人達に、どう責任を取る。答えなよ」

 

 別個体の深雪は苛立ちを隠すことなく、徐に時雨に対して手を翳した。武器は持っていない。何もない、()()

 

「退けっつってんだよ」

 

 そして──

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 

「なっ……」

「もううんざりだ。こんなところに来るんじゃなかった。あたしは最初から否定していたんだ。どうせ特異点とその仲間は、あたし達のことを理解するつもりなんて無ぇってな」

 

 黒煙は見る見るうちにその場を包み込む。それはまるで、深雪の扱う特異点の煙幕のようだった。急激に視界が封じられた時雨は、オーバークロックによりすぐさまその場を離れる。直感的に、深雪の煙幕と同等だと察し、何も見えないところで攻撃をされたら困ると、自ら道を開くしかなかった。

 だが、それでも口は閉じない。

 

「君達がこちらを理解するつもりがないだろうに。何故自分達だけを理解させるんだい。それはただの強制だ。自分の言うことを聞かない奴は全員敵であり愚かだと言っているようなモノだよ。なんて傲慢なんだい」

 

 それに対して言葉は返さない。黒い煙幕の中に紛れた別個体の深雪は、時雨のことを無視して、最後に叫ぶ。

 

「特異点! 次はテメェと決着をつけてやる! 首洗って待ってろ!」

 

 何様のつもりだと時雨は言うが、深雪はそれどころではなかった。特異点だからこそわかるその事実。この煙幕は、()()()()()()()()()()()()()()と。

 

「アイツ……カテゴリーKの特異点だってのかよ」

「深雪ちゃんと……正反対の特異点……」

 

 血が滲みそうなくらい拳を握り締め、その黒煙を見ている深雪。そして、自分のことを嫌う理由もこれでよくわかった。同じだからこそ、優劣がつく。深雪が活躍すれば、他の鎮守府の深雪に期待が寄せられるように、あの別個体の深雪にも、同じようなことが起きているに違いない。特異点の力を持つなら尚更だ。同族嫌悪もあるか。

 

 深雪はギリッと、歯軋りした後、別個体の深雪に聞こえるくらいの声で叫ぶ。

 

「首洗うのはお前の方だ! 覚悟しろ!」

 

 深雪の叫びを聞いていたかはわからない。だが、黒煙が晴れた時には、2人の姿は無かった。

 

 

 

 

 新たなる脅威、カテゴリーKの特異点。深雪にとっては、これまでとは違う敵となるだろう。

 

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