後始末屋の特異点   作:緋寺

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別モノの特異点

 メッセンジャーであった別個体の深雪と雷は、さんざん正論パンチを喰らい続けた結果、痺れを切らして撤退。その時に、深雪と同様だが色の違う、黒い煙幕を使っての逃走を成功させた。

 左手を掲げてからの、装置を使わないダイレクトな煙の発生。まさに深雪と同様の特異点の煙幕。それの直撃を受けそうになった時雨も、オーバークロックを使ってそこから緊急回避をしているため、事なきを得ている。

 

「深雪、念の為、君の煙幕で燻してくれないかい。あの穢れにまみれていそうな黒い煙より、君の白い煙の方がマシだろう」

「ああ、それでお前に倒れられたら、後々面倒臭いからな」

 

 深雪は軽く煙幕を時雨に浴びせる。その時の願いは、非常に単純。『何事もないように』という少し大雑把な優しい願い。

 時雨も深雪の煙幕をかけられたことで、少し安心はしていた。そして、逃したことを悔しがりつつも、あれだけ好き勝手に文句を言い続けることが出来たことで、幾分かスッキリはしていた模様。

 

 時雨と同じようにこれまで溜め込んでいた鬱憤を吐き出しに吐き出した黒井母も、逃げられたことは釈然としないようだが、何処か落ち着いたような面持ちに。

 

「母さん無茶しないでよ……」

「何、一度はアレくらい言ってやりたいと思ってたんだ。アンタ達の分まで乗せてやったさね」

「そうかもしれないし、私も結構スッキリしたけどさぁ、攻撃されてたらどうしてたのさ」

「ま、その時はその時だよ。それに、攻撃しないって確信持ってたからね」

 

 黒井兄妹も母のとんでもない行動にハラハラしていたものの、無事に戻ってきてくれたので安堵の息を漏らしていた。

 身体は深海棲艦にされているが、一般人は一般人。誰も止める余裕が無かったというのもあり、アレだけ啖呵を切らせてしまった。

 

「……深雪ちゃん、電ちゃん、ちょっと今日は後始末の前に話したいことがあるわ。よかったかしら」

 

 一連の状況に口を挟むことが出来ず、少し悔しい思いをしている伊豆提督は、起きてしまったことはもう仕方ないと、次のことを考えることにした。

 

 それは、最後に別個体の深雪が放った煙幕のこと。深雪とは真逆の、黒い煙幕。カテゴリーWである深雪が放つ煙幕が白い煙だからか、カテゴリーKである別個体の煙幕は黒い煙になったのかという疑問もあるが、あの煙幕に特異点の力が込められているかどうかというのは気になるところ。

 煙幕は成分解析も出来ない、特異点ならではの特殊な力。そこの空気を掬い取ったところで、それはただの空気。それをどうこう出来ることはない。そのため、煙幕の第一人者として、深雪に話を聞こうとしている。

 

「ああ、あたしもちょっと気になることがある。アイツが殺されてるとかそういうのは一回置いておくことにする。ハルカちゃんにもいろいろ聞きたいっつーか、許可してもらいたいことあるし」

「ええ、なら少し話をしましょう。いろんな子に聞いた方がいいわね。時雨ちゃん、貴女も間近で見てるから、思ったことを聞かせてちょうだい」

「わかった。僕も当事者だからね。さんざん煽らせてもらって気分がいい。アレに関しては、僕を標的にしてくる可能性もあるからね。共有は必要だろう」

「お願い。対策も考えないといけないわ」

 

 今後の戦いに新たに現れた脅威。その対策は、早急に立てなくてはならない。

 

 

 

 

 工廠の奥、別室に、深雪達は移動した。話をするのは、特異点である深雪と電、最も近くでその存在を確認していた時雨、うみどりの長として伊豆提督とイリス、そこに経験からアドバイスをしやすい丹陽が入る。

 

「それじゃあ、あの別個体の深雪ちゃん……長くて呼びづらいわね、通称として『黒深雪』としましょう。あの黒深雪ちゃんについて、何か気付いたことがあったら言ってちょうだい」

 

 黒い煙幕を放つところから、黒深雪。安直ではあるが、最もわかりやすい通称ということで、今後はそれで話を進めていくと伊豆提督が提案。

 深雪と電だけは今後も変わらず『別個体』と呼ぶことになりそうではあるが、詳報に書く名前は必要ということで、ここでそれが決まった。

 

「まず僕から話そう。一番話しているし、滅多打ちにしてやったからね」

「あれは言い過ぎだと思うわよ……止められなかったアタシも悪いけど」

「止めなかったということは、少なからず君も同じことを思ってたんじゃないかい? 僕は代弁者としてこの上なく素晴らしい働きをしたと思うよ」

 

 ドヤ顔の時雨に、伊豆提督は苦笑。

 

「あの黒深雪だけど、うちの深雪とはまるで違うモノだと思ったね。ただ、あの煙幕だけは話が違う。直にそれに覆われたからわかるんだけれど、あれ、()()()()()()()()よ」

 

 時雨が語るのは、その煙の質。白の煙幕と黒の煙幕を両方自らの身に受けているのは時雨だけであり、それが話せるのも当然時雨のみ。

 

 普通の煙幕、その煙ならば、匂いや質量などを感じる事が出来るのだが、それは完全な無味無臭。深雪のそれも同じであるため、この煙幕は同じモノであるとして判断している。

 成分は違うかもしれないが、だとしても本来の煙幕とはまるで違う性質を持っているのは間違いない。それもあるため、時雨は深雪に煙幕による念のための治療を願った。

 知らず知らずのうちに影響を与えるのは、深雪の煙幕でよくわかっていること。今も何かの影響があったら困る。

 

「そういうところからも、あの黒深雪は特異点と同じか、それらしい力を持ってるナニカだと、僕は思うね」

「……そうね、それは遠目に見ていることしか出来なかったアタシもそう思うわ。発煙装置無しで煙幕を出していたもの。明らかに特異点を意識しているやり方だもの。自分も特異点だって見せつけてきたようにも見えたわ」

「特異点は堕落をさせるっつってたのにな。自分が使うのはいいのかよ」

 

 特異点のことを目の敵にしているような出洲が、さも当然のように特異点の力を運用するとなれば、明らかにおかしい。毛嫌いしている力を自分の手足にしているのはいいのかと問い詰められる要因である。

 

「自分なら堕落しないからいいように使えるとでも思ってるんじゃないかい。ほら、最初に顔を合わせた時も、実験台になるならうみどりを助けてやるみたいなこと言ってただろう」

「確かにそんなこと言ってたな。すげぇなアイツ、自分なら大丈夫っていう自信が。頭おかしいんじゃねぇか」

「頭はおかしいね、間違いなく。やっぱり出洲も頭のネジが抜けてるのさ」

 

 ダブルスタンダードの権化である。自分は良くて、相手は悪い。阿手もそうだが出洲もそう。派閥に分かれていても、根本は何も変わっちゃいない。

 確かに阿手は人を騙してまで研究をしようとするが、出洲は自主的に来る者しか手をつけない。しかし、それ以外は全部同じ。人権も何もあったものではなく、それをしても正しいとしか考えていないため容赦も無い。

 

 時雨はそれを、頭のネジが抜けていると言う。一度死んだことで、頭がおかしくなっているのだと。阿手は素でそうだったとは思われるが、出洲はわからない。

 

「あたしと電は、ちゃんとした確証は無いけど、アイツがあたし達と同じ特異点……()()()()()なんじゃないかとは思った。感覚的に、だけどさ」

「なのです。電も、あちらの深雪ちゃんも特異点なんじゃって、思ったのです。煙幕の感じが、そう思えるモノだったのです」

「あくまでも、そう思えるってだけなんだけどな」

 

 深雪と電からしたら、直感的にその煙幕を自分達と同じモノと感じるだけ。しかし、特異点の直感だ。絶対にそうとは限らないため、2人はそこを強調する。

 

「その考え方も重要よ。アタシ達には無い感性があるかもしれないもの。特異点だからこそわかることもあるかもしれない。今まさにそれが発揮されたのかもしれないんだから」

「だよなぁ。なんか本当にアイツは変な感覚だった。それまでは何とも思わなかったのに、煙幕使われた途端になんか感じたんだよな……別モンの特異点の力だからか?」

「どうなのかしらね……あ」

 

 何かに気付いたように伊豆提督は思い立ったような表情を見せる。

 

「別モノの特異点と言えば、吹雪ちゃんと顔を合わせた時にも同じように感じたのかしら」

 

 深雪や電とは違う特異点といえば、かつて特異点Wで邂逅した願いの実の守護者、端末を見守る者、吹雪。同じように特異点の力を行使している姿も目の前で見ているのだから、別の特異点に対する感覚というのは持っていてもおかしくはない。

 だが、深雪は今初めて知ったような感覚だと話す。それこそ、同族嫌悪が起こるような嫌な感覚だったと。

 

「あれは吹雪とは違うな、うん。つーかさ、特異点の力使ってるなら、もしかしたら吹雪が何かわかるかもしれねぇ。今のあたしのことだって見えてるっぽいんだよな」

「あー……多分、聞いたら何か教えてくれそうなのです。特異点のことを一番知ってるのが吹雪ちゃんですし」

 

 黒深雪が何者なのか、本当に特異点なのかを知るなら、最も特異点に詳しい存在、吹雪に何かを聞いてみるのはアリかもしれない。深雪と電はそれを提案する。

 最終決戦前に阿手には勝利したことを伝えに行くつもりではあったのだ。その時でもいいし、それから少し早めてもいい。あの黒深雪についてどうなのかは、一度聞いておきたい。

 

「ハルカちゃん、どうしたらいいかな。あたしとしては、今すぐ向かって聞いてきてもいいと思う。あんまり時間も無いだろうし。いや、後始末がやりたくないってわけじゃあないんだ。ただ……アイツの正体が、早く知りたくて、さ」

 

 徐々に声が小さくなっていく深雪。しかし、こんな感覚になったのは初めてのようで、それを解決するために、少しだけ焦りを見せているようだった。

 

 そんな深雪に声をかけたのは丹陽だった。

 

「私は別にいいと思いますよ。今から吹雪さんに会いに行くのも。後始末を放棄するのではなく、これからのことのために行動を始めるというだけですから、全然アリじゃないですかね」

「丹陽……」

「ただ、うみどりを動かすことは出来ないと思うんですよ。工廠厨房のこともありますし。なので、この島から始まる遠洋航海演習みたいなことになるのかなって思いますね。大発に荷物積んで、野宿も視野に入れて、吹雪さんに会いに行って、またここに戻ってくる。出来れば戦える少人数で向かうって感じじゃないですか?」

 

 丹陽の提案に、深雪と電は少し悩む。本当にそんなことをしていいのか。出来るのか。不安はある。

 だが、知りたい、やりたいという気持ちの方が強い。胸につっかえているような感情を、少しでも解消したい。

 

「わかったわ。少し考えてみましょう。セレスちゃんにもお弁当とか用意してもらわないといけないしね」

「ま、マジか! ありがとうハルカちゃん! 吹雪にいろいろ聞いてくる!」

 

 

 

 

 ひょんなことから、深雪達は少数の部隊で特異点Wを目指すこととなる。黒深雪の正体を突き止めるため、動き出す。




後始末も大きく進んでいるので、ここで新たな話、特異点W帰還編のスタートになります。こちらはそんなに長々とやらないとは思いますがね。
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