黒深雪に対する嫌な感覚の正体を突き止めるため、知っているかもしれない特異点Wの吹雪に再び会いに行くことが決まった。
しかし現在は島の後始末中。仕事を止めて他に任せてうみどりがそこに行くわけには行かない。
結果、深雪と電を含めた少数の人で、後始末から抜けてそちらへと向かうこととなった。
体裁としては、遠洋航海演習。長い時間をかけての航海を実施し、目的地まで行って帰る。ただそれだけ。
今回の目的地が海のど真ん中ということもあり、大発動艇に食糧などを積み、合間合間に休息を取りながらの移動となる。可能ならば睡眠なども取れるといいのだが、それは何処かの無人島などを使うしかない。
「部隊の選定はするけど、どうしようかしらね。少数精鋭で行くことになるけれど、戦力を過剰に持っていくことは厳しいし……ああ、そうだわ。まず大発動艇の操作は三隈ちゃんにやってもらいましょう。その上で、いつものメンバーということでどうかしら」
いつものと言われるとすぐに思い浮かぶのは、グレカーレと白雲である。なんだかんだで戦闘能力も上々。戦いやすさもあるため、部隊としては非常に組みやすい。そこに三隈というコミュ力の塊もいるので、安心感が段違いである。
「5人で行くってことでいいのか?」
「いえ、そこにもう1人つけるわ。万が一のことを考えると、いた方がいいもの、神風ちゃん」
「ああ……まぁ、うん、そうだよな。ここから誰が来るかわからねぇし」
そして6人目として神風を抜擢。これは、特異点Wに向かう最中に、出洲一派に襲われた時のことを考えてのこと。
普通の相手なら問題ないかもしれないが、ここで満を持して小柄や中柄が出撃してきた場合、いくら特異点と言えど、非常に危険であることには変わりない。それを考えての布陣である。
少し悩みどころなのは、深雪達が島から離れている間に、この島が襲撃された場合である。無いとは言い切れない現状、ここには多すぎるくらいに戦力が揃っているのだが、それで本当に抑え切れるかという点である。
ただ、出洲のこれまでのやり方からして、平和な島にわざわざ攻め込んでくることはない。
「僕としては、黒深雪が嘘をついて、この島は危険だって報告する可能性もあると思ってるよ」
「……正直、あたしもそうするかもとは思ってんだよな……」
「逆恨みするくらいには僕もめっためたに言い負かしたからね。だから、僕は責任を持ってこの島を守らせてもらうよ」
時雨は自分が黒深雪を滅多打ちにしたことは自覚しているので、もし島を虚偽の報告で危険視されるようになっても、ここを守ることに従事すると語る。
一応の信念があるのだから、出洲は平和な島を襲うようなことはしないと思うし、黒深雪はともかく、雷はこの島を平和な島であると認識はしているため、余計なことはしないとは思われるが、時雨の言う通り、黒深雪が逆恨みから島を嵌めようとする可能性も捨てきれない。
「深雪ちゃん達は、安心して向かってちょうだい。ただ、結構距離があるから、それだけは気をつけて」
「あ、そうか、当たり前だけどそれなりに離れてるもんな……ここから大体どれくらいになってるんだ?」
「そうね……距離だけでいえば、うみどりで大体真っ直ぐ丸一日くらい。艦娘の足で行くことになるから、休憩含めて1日半と言ったところになるわね。しかも、夜通し航行してのそれだから、向こうで何かをやるとしたら、戻ってくるまでに5日くらいを想定しているわ」
その時間に、深雪は愕然とした。この島の後始末はまだまだそれくらいかかるだろうが、部隊から抜けてそれだけの期間を単独行動するのは当たり前だが初めてのこと。
実際、後始末が終わるまでここにいてから特異点Wに向かったら、それ以上の時間は間違いなくかかる。
「電ちゃんには洋上補給の設備を積んでもらうわ。それだけ長々と動き続けるんだもの、確実に必要になるからね」
「なのです、電しか出来ないことですから、任せてほしいのです」
「大発には多めに資材も載せておくわ。安全に必ず戻って来れるように、ね」
準備は万端に整えて、この長期の遠征を実現させる。深雪達には初めてのことではあるが、今後のためには必要なことでもある。緊張もあるが、久しぶりに吹雪に会えるというワクワクもあった。
「それじゃあ、準備を始めましょう。行って帰るだけかもしれないけれど、長く離れることになるから、がんばってね」
「ああ、絶対やり遂げるからさ、任せてくれよな」
ここから、遠洋航海演習が開始される。6人の艦娘達はうみどりから離れ、あの最強の特異点、吹雪との再会と対話に向かうことになった。
準備は手早く、確実に進んでいく。装備の準備もそうだが、長期にうみどりを離れるということもあって、工廠厨房でも相応に弁当を作っている。
予想では5日分、3食全てを糧食で済ませなくてはならないため、セレスを筆頭に料理が出来る者達が出来る限り早く、そして美味しく食べられるモノを作ってくれていた。
「長期間保存ガ出来テ、味ガ落チナイモノガイイワネ。食ベル順番モアルシ、冷エテモ美味シク食ベラレルトナレバ、オニギリトパンノ類ハ必須トシテ、漬物ハ漬ケテイルカラ持ッテイッテモラウトシテ、アトハ煮物モ……」
「セレス様、シグレ煮、アル」
「サラダチキン、作ッテアル」
「ウン、イイワネ。ソノ辺リモ持ッテイッテモライマショウ」
「アッチデ温メラレナイ?」
「簡易コンロガ持ッテイケルナラ、オ味噌汁モイイワネ。難シクテモ、保温出来ル水筒ニ入レテアゲレバイイワ」
ラ級姉妹も動き回り、どんどん料理が用意されていく。その光景を見ながら、深雪は大事になってきたなと苦笑する。
本来ならば、うみどりそのもので特異点Wに行くことになるはずだったのだが、急を要することになってしまったため、思った以上にバタバタしてしまっているようだ。
工廠厨房だけでなく、主任を筆頭とした工廠班も長期の遠征のための準備でバタバタしている。深雪達の艤装には適切な装備が与えられ、しばらくうみどりに戻ってこれなくても大丈夫なように、万全な整備を施され、完璧な状態に仕立て上げられる。
「大発では足りなそうなので、特大発で行きましょう。洋上補給も念の為多めに積んでおいて、数人は妖精さんにも同行していただければよろしいかと」
そこには遠征の同行者である三隈も少しだけ口を出していた。遠征かもしれないが、物資を運ぶわけではないモノ。手に入れるのは情報だ。そのため、大発動艇には最初から物資が沢山である。
セレス達が考えていた、食事を温められそうなモノ、小型のガスコンロなども積み込んでいるため、あまり大きなモノでなければ、汁物なども用意出来そうである。ただし、運ぶ際にこぼさないようにしないといけないので、そこはまた考えなくてはならないところ。
「工廠から2名、同行してもらいますね。あとは、特機も数体いればいいですか」
「はい、それで充分かと」
「特大発を簡易的な工廠にしてしまうようなモノですね。私達のどちらかが同行出来れば良かったのですが、島のインフラ構築が急務なため、ごめんなさい」
「問題ありませんよ。普通の遠征なら、もっとハードなんですもの。むしろ、ここまで用意していただける方が贅沢なのではないですか?」
「まぁ、そうですね」
そうこうしていく内に、特大発動艇の準備も整っていく。妖精さんが乗り込み、必要なモノが積み込まれ、長旅を耐えられるくらいに多種多様なモノが取り揃えられた。
「戦闘が無いことが一番だけど、島から離れるってことは何があるかわからないわ。敵は出洲一派だけじゃない。自然発生した深海棲艦だってあり得るもの。それに、何処かの鎮守府が戦っている場に入ることもあるかもしれないしね」
「確かにな……どうとでも考えられるか」
「燃料弾薬はなるべく節約しながら、航行速度も速すぎず遅すぎず、一番節約出来るように動いていくわ。その辺りは私がどうにかする。深雪が主体だけど、旗艦は私が務めるから安心して」
神風が深雪達に説明する。グレカーレはともかく、白雲も長期の遠征は初めてのこと。その心持ちは必要であるため、深雪や電と同じように真剣に話を聞く。
「グレカーレは経験あり?」
「第二次の時にちょっとね〜。でも、推定5日の遠征は流石に無いかな。3日はあるけど」
「長い上に、休憩ポイントが全然無いから、ぶっちゃけ私も三隈さんも初めてよ。でも、今回はやらないといけないこと。ま、そこまで気負わずいきましょ」
気負わないのは難しいことではあるのだが、深雪としては自分から言い出したこと。後押しされたとはいえ、気合を入れてやらねばならない仕事である。
「ピクニックとは言ってられないけど、本当にいざという時は、大発の上で休んでもらうわ。具合が悪くなったらすぐに言うこと。あと、電は最優先で守ること。洋上補給と修理設備を持てるのは電だけだからね。妖精さんも頼りすぎるのは良くないわ。なるべく誰も傷付かないように行くわよ」
「おう、やってやるぜ」
「頑張るのです!」
意気込んだところで、準備が完了。全員が改めて艤装を装備して、うみどりから出る。
「それじゃあ、しばらくここを出ます。後始末は出来なくなるけれど、いい情報を手に入れてくるから」
「よろしくお願いね。吹雪ちゃんにもよろしく言っておいてちょうだい」
「ええ、みんなで来れなくてごめんなさいから話しておくわ」
少し大掛かりになったものの、遠征を完遂させるために、6人は改めて気合を入れる。
「では、旗艦神風、遠征部隊、出発します」
深雪達にとって初めての長期遠征。何事も起きないことを願いながら、長い旅路に出た。
あけましておめでとうございます(投稿日時)
改めて、ここからは特異点W帰還編開始。