後始末屋の特異点   作:緋寺

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遠洋航海

 準備が整ったのはお昼過ぎ。深雪達はついに、特異点Wに向けての長期遠征をスタートした。

 第三世代はおろか、第二世代も初めての、想定5日の大遠征。夜は出来ることなら野営も可能な無人島を探して、そこで休息を取る予定である。

 

 旗艦は神風。万が一のことを考え、うみどりとやり取りが出来る通信機材を完備。通信妨害が無いとは限らないが、常に近況を報告出来るようにしておいて損はない。むしろ、島の様子を把握しながらの遠征の方が心にゆとりが出来るだろう。

 

「休憩を挟みながらの航行になるわ。特異点Wに到着するまでに予想されるのは丸一日と追加で半日。しっかりとした休憩は出来ないかもしれないけれど、食事と仮眠くらいの時間はしっかり取るつもりだから、そのつもりでいてね」

 

 神風が説明する。ここから特異点Wまではそれなりに距離がある。一切の休憩無し、燃料を考慮せずに真っ直ぐ進めば、1日あれば到着するのではという予想だが、真夜中も常に進み続けるというのは流石に危険であるし、休憩無しはいざ野良の深海棲艦と邂逅してしまったという時に戦闘するのが難しくなる。出洲の配下との戦闘となったら尚更だ。

 時間をかけてでも確実に進んでいくのが今回の目的。情報は早々に手に入れたいのはあるのだが、急いては事を仕損じるとも言うため、そこは焦らずに進める。

 

「まずは少しだけ遠回りになるんだけれど、無人島を目指すわ。そこはこれまで誰も住んでいない……というか住むのも難しいくらいに狭い、木とかも生えていないような場所なんだけど、野営には使いやすそうなのよね」

 

 島というのも少し難しい、そこだけ陸が迫り出していると表現した方が良さそうな、専用の地図でなければ載ってもいないような無人島。まずはそこを目的地として向かう。

 三隈の操る特大発動艇をそこに乗り上げさせ、物資をそこから少しだけ持ち出して、島の上での野営となる。周囲からは丸見えではあるのだが、そこは何処かの鎮守府の領海というわけではないため、注意しなくてはならないのは、野良の深海棲艦くらい。むしろ、艦娘が現れたそれは出洲一派かカテゴリーMと考えた方がいいくらい。

 

「早速野宿かー。あ、でもキャンプって思ったらちょっと楽しみかもー」

 

 グレカーレは空気を和ませるように話す。

 

 うみどりから離れたところで活動するということ自体が初めてな深雪達。軍港都市で遊び歩いても、戻ってくるのはうみどりか軍港鎮守府。野宿なんて当然初めてのことである。

 それはそれで楽しみとして変えることが出来れば、少し気が重い今を乗り越えることも出来るだろう。

 

「妖精さんにも来てもらったのって、少しだけでも艤装が外せるように?」

「そういうことね。艤装つけたまま眠るのはちょっと難しいし。と言っても、全員が寝るってことはないわ。周辺警戒は必要だから、交代しながら休むって感じね。真っ先に休んで欲しいのは三隈さんよ」

 

 理由は簡単。他の者は、最悪特大発動艇に乗り込んで休むことが出来るが、それを操っている三隈にはその休息の方法が出来ないからである。深雪と電が取り扱えるというのもあるが、どちらも完璧な操縦が出来るとは限らない。休息が休息では無くなる可能性もある。

 そのため、次の無人島での休息は、三隈への配慮ということになっている。ここで休んだ後は、夜通し移動することにもなりかねないのだ。

 

「三隈さん、それでよかったかしら」

「はい、配慮ありがとうございますね。無人島に辿り着いたら、少し仮眠を取らせてもらいますわ。その後は、交代しながら大発の中で眠ってくださいまし」

「三隈さんの大発の操縦、物凄く丁寧なのです。多分、普通に眠れると思うのです」

 

 話しながらも、部隊の航行についてきている特大発動艇は全くと言っていいほどブレていない。積み込まれている物資も、殆ど揺れていないと来た。一緒に乗り込んでいる妖精さん達も、非常に快適な旅を満喫している。風景はまるで何も変化が無いのだが。

 

「その島には大体どれくらいかかりそうなんだ?」

「陽が落ちるくらいかしらね。だから、数時間はこのまま進みっぱなしになるわ。そこはまぁ、遠征っていう時点で仕方ないことよ」

「はー……遠征って大変なのな」

「他の鎮守府だったら、後始末の方が大変って言われるヤツね」

 

 グレカーレが強く頷いた。遠征と後始末、大変さで言うなら、間違いなく後者の方がしんどいと。ただ進んで事を成す遠征と、綺麗になるまで徹底的に掃除すること、どちらがと言われれば、後始末の方が断然大変な仕事だと、後始末屋以外は満場一致で答える。

 

「そういえば、うみどりは遠征というモノに無縁だと思ったのですが、神風様も三隈様も、遠征に携わったことはあるのですか?」

 

 白雲の素朴な疑問に、神風と三隈は、勿論と頷く。うみどりは遠征という作業が無いように思われる。現場には鎮守府そのものが向かうことが出来るのだから、わざわざ艦娘が単独で移動する必要がないのだ。現に、深雪達はうみどりに所属してから、遠征というモノに縁がなかった。

 だが、後始末屋の黎明期は、試行錯誤を繰り返している時期でもある。うみどりも遠征というカタチで別の現場に向かったり、臨時に物資が必要になったりということもあったという。今でこそ効率の問題で取りやめになっているが、最初から後始末屋に所属していた神風と三隈は、その経験もしているようである。

 

「とはいえ、数時間のおつかいみたいなモノよ。ここまで長期の遠征っていうのは、普通の鎮守府でもないわね。野営とかは、艦娘になる時に訓練があるのよ。深海棲艦との長期戦になった時に、生き残るための訓練ってことでね」

「はい、三隈もそちらで経験済みですわ。神風さんの仰る通り、野営までするような遠征は初めてですけれど、数時間の遠征と、野営演習は実施済みですわね」

「今の艦娘というのは、正しく訓練を成し遂げねば、まずこの海に立つことすら出来ないのですね」

 

 納得した白雲。今の艦娘は、こうして任務に着くまでの間に、出来る事を全て訓練によってこなしているからこそ、突発的に今回のような遠征が発生しても苦もなく緊張もほぼなく実施出来るのだと。

 

「まぁ、貴女達には初めてのことだから、楽しんでちょうだいな。気負わず、情報を手に入れるというだけの簡単な作業よ。むしろ、後始末から離れるなんて新鮮なことでしょ。仕事かもしれないけど、メンタル面のリフレッシュに使いましょ。後始末から嫌だったわけじゃないけど、流石に16日も同じことをしてるんだもの。たまにはこういうのもありがたいわ」

「違いねぇや。あたし達にゃ里帰りみたいなところもあるからな」

「なのです。久しぶりに吹雪ちゃんに会えますしね」

 

 深雪と電にとってはそれが大きい。特異点として、故郷に戻ってリフレッシュ出来るのは、かなりありがたいこと。長居出来るわけではないにしろ、また顔を合わせることが出来るだけでも充分な心の休息になる。

 

「でもさぁ、あたし達があそこに行くことでさぁ、デスとかにあの場所バレたりしないかなぁ」

 

 グレカーレの危惧はごもっともである。一度戦闘があったとはいえ、あの場所には出洲にとって頭を使わずに敵と断じる特異点のそのトップがいるようなもの。出洲は知らずとも、願いの実という特異点製造機があるとも考えられるのだ。

 そこを知ったら、間違いなく破壊しに来るだろう。話すらせず。そして、吹雪は間違いなく応戦するだろう。一切の容赦なく。

 

「吹雪なら返り討ちに出来るんじゃないかって思えるけど、多勢に無勢はしんどいっつってたしなぁ」

「あまり悪いことにはならないといいのですけど……」

「本当にな。あたし達が辿り着いて、出て行ったら襲撃受けるとかだと、目も当てられないしな……」

 

 そこはどうしても心配になるところである。だが、行かねば先にも進めない。吹雪を信じる他ないところもある。

 

 

 

 

 しばらく進み、第一の休憩ポイント、無人島に到着。時間としては、夕暮れ時を越えて、周囲が薄暗くなっているような時間帯。

 

「食事としましょう。この順番に食べてくれとありますので、それに準じていただきましょうね」

 

 特大発動艇に積み込まれていた弁当を人数分取り出す。最初の食事はまだ賞味期限などを気にする必要がないので、少しだけ豪華。

 弁当箱に多種多様なおかずが散りばめられ、ご飯は食べやすい俵形のおにぎり。冷えても美味しく食べられるという、セレスの食への研究の一環がここに詰め込まれている。

 

「セレス、ついに弁当も作り始めたな。この前寿司作ってたし、進化が止まらねぇ」

「なのです。冷えても美味しいってすごいのです」

「代わりに、飲み物は温かくされていますわ。はい、お味噌汁です」

 

 ステンレスの水筒に入れられた味噌汁を紙コップに入れて分配していく。温かな味に一息つくことが出来る。

 座っているのは何もない島の地べたなのだが、深雪達には初めての体験。暗くなるのも回避するために、探照灯で明るくもしている。

 

「本当なら火でも炊いた方がいいんだけれど、後始末が面倒だから、今はこれで我慢してちょうだい」

「ハルカちゃんに七輪は持たされていますから、明日以降はそちらで温めることは出来るのですが、あれは周りを明るくするものではありませんからね」

 

 こんな島の真ん中でまったりとするなんて、考えたことが無かった深雪は、腹を満たしながらここまでの疲労を取っていた。燃料はまだ大丈夫。戦闘も無かったため、ただ航行をした疲労のみ。これならば、三隈の仮眠を守るだけの余裕はいくらでもある。

 

「神風も寝とけよ。ここならあたし達だけでも充分守れるし」

「そうさせてもらうわ。絶対安全とは言えないけれど、今なら貴女達に警戒してもらうだけで多分大丈夫ね。2時間ちょうだい」

「あいよ。ゆっくりしてくれよな」

 

 三隈に続いて、神風も特大発動艇に乗り込み、仮眠を取ることに。その間は、深雪達がこの場所を守る。

 

「……なんかすげぇ新鮮だな、ホント。普通の鎮守府にいてもこんなこと殆ど無いんだろ?」

「だねぇ。あたしも第二次の時にここまでのことはしてないから、結構楽しいんだよね」

「グレカーレでそれなら、あたし達は本当に貴重な体験させてもらってんだな。ありがてぇよ」

 

 探照灯を消し、夜目だけで周辺警戒を開始。殆ど音もない夜を、部隊で楽しむ。

 

 

 

 

 天を見上げれば、綺麗な夜空。この星空の下、深雪達の遠征は続く。

 




セレス特製幕内弁当
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