深雪達の長期遠征。無人島での数時間の休息は無事に終了。まだ日が変わっていないくらいの段階で、遠征部隊は先へと急ぐ。
「仮眠で結構スッキリ出来たわ。次の休憩は結構先になるけど大丈夫?」
「ああ、寝ちゃいねぇけど、割と休まったぜ。周辺警戒くらいじゃ疲れないしな」
「ならよかった。ここからは、割と単調で眠たくなる航行になるわ。居眠り航行は事故の元だから、支障が出そうになったらすぐに言うこと。わかったわね」
完全に保護者な神風。だが、深雪達は素直にそれを受け入れる。経験者、先輩に言われたこと、それに今回は旗艦として任命されていることもあるので、その言葉に反する理由もない。
「それではまいりましょうか。三隈も万全となりました」
「ええ、進みましょう。次の休憩はまた似たような無人島よ。そこも誰もいないことがわかってるところだから。そこで日の出を見ることになるかもね」
つまり、ここから夜通し航行するということである。夜ということで、風景は昼以上に変わらず、単調になるというのはそういうところからもわかる。これまでに眠っていたわけでもないため、眠気に襲われる可能性は確かにあるなと深雪達は察した。
そんな時は、三隈の操る特大発動艇に乗り込み、移動中でも仮眠を取る。流石に全員がそれをするわけにはいかないが、1人2人なら不可能では無い。
「んじゃあ、次の休憩の時に朝飯になるかな」
「かもしれないわね。ゆっくりとはしていられないけれど、確実に進んでいきましょう」
長い遠征は、まだ始まったばかりである。
神風の予想通り、そこから長く航行を続けて、2つ目の島に到着した時には、空が少し白んできていた。
数時間航行し続けるというのは、1人ならなかなかに苦痛だっただろう。風景も何も変わらない、夜なのでただ闇の中を駆け抜けるだけ。ひたすら眠くなる道のり。しかし、少数とはいえ仲間がいるおかげで、話しながら進むことは出来る。
「お、話してるうちに空が少し明るくなってきたな」
「なのです。いつの間にか結構進んでいたみたいなのです」
予定としてはそろそろ島が見えてくる頃。そして、予定通り、小さな島が見えてくる。ぱっと見で全長がわかるくらいの小さな島は、最初に休憩を取った島と同じくらいかむしろ小さいと感じるほどか。
「カミカゼー、あとどれくらいなんだっけ?」
「まだ半分も行ってないわよ。休憩は今回合わせてあと3回取る予定だもの」
「朝昼晩ってことかな。まだまだ長いねぇ」
「特異点Wの到着が夜になりそうだもの。吹雪には悪いけど、夜分遅く失礼しますになるわ」
最初に言われていたのは片道1日半。見事に予想通り。今のところは妨害もなく、野良の深海棲艦を見ることもない。順当に進むことが出来ているため、変に気疲れすることもない。
「それじゃあ、休憩に入るわよ。前回と同じように、2時間くらいを予定してるわ。誰か仮眠を取ってもいいからね」
「んじゃあ、白雲とグレカーレが仮眠取っとけばいいぜ。あたしと電は最後でいい。吹雪んところで夜通しって可能性もあるからな」
「なのです。そのためにも、眠るのは最後にしておくのです」
「ん、そうね、それがいいかもしれないわ。特異点は特異点でしか話せないこともあるものね」
朝食後は白雲とグレカーレが仮眠を取ることが決定。ここまで来るのに疲れていないわけではないのだが、やはり後始末の作業をしているわけでもないため、疲れはただひたすら進み続けていることだけで済んでいる。
「本来なら後始末も17日目ね。休憩中に一度向こうに報告を入れることにするわ」
「あいよ。あたし達が順調であることは伝えといて損はないもんな」
「ええ。あちらにも安心してもらわないとね」
そうこうしているうちに島に到着。一度やっていることなので、朝食の準備はテキパキと済まされる。
朝は軽くとサンドイッチ。さっくり終わらせて満腹にはならず、次の行動に支障がないくらいに努める。
「それじゃ、あたし達は寝させてもらうねー」
「お姉様、皆様、ありがとう存じます。それでは、お休みなさいませ」
軽く食べた後、グレカーレと白雲は特大発動艇に乗り込み、仮眠へ。時間は日の出がまだ見えないくらいの時間である。
「向こうはまだ活動していないくらいね。それじゃあ、少しの間は周辺警戒。頃合いを見て連絡を入れるわ」
「おう、頼んだ。このまま何事もなく行けてほしいもんだぜ」
朝の休憩も順調に進む。予定は今のところは違えていない。
そこから、航行と休息を挟み、確実に向かっていく。途中、深海棲艦との戦いもない。今は空気を読んでくれているのだと喜び、しかし警戒は怠らず、風景の変わらない道のりを進んでいく。
昼食は少し力が入るようにとラ級姉妹特製の時雨煮。肉が食べられるということで喜び、ガッツリ食べるわけではないが染み渡るように感じた。
その時は事前に話していた通り、深雪と電が仮眠。休憩は挟みつつも、一晩まるっと完徹で航行を続けているため、疲労はどうしても出ている。眠ろうと思えばすぐに睡魔に襲われ、時間となった時はスッキリはしつつもすっと起きることは出来なかった。2時間はそこそこ長い時間ではあるのだが、本来ならばこんな生活はしていないため、どうしても辛いところはある。
さらに進んで4回目の休憩。今回はそろそろ到着ということもあり、誰も仮眠は取らない。
夕食はセレス謹製の干物を七輪で焼いての食事。温かいモノを食べられるというところもそうだが、これがまた味付けも非常によく、ラ級謹製塩むすびと合わせて最高の晩御飯だと喜びながら食べていた。
ここまで来ると流石に慣れてきており、誰も仮眠を取らないというところから、食事後に少し一服してからすぐに動き出すことにした。疲れもそこそこ溜まってきているが、もう嫌だと思うようなこともない。
片道でもこれだけのことがあったわけだが、野良深海棲艦の襲撃などを受けることなく、ここまで順調に来ることが出来ている。
特異点の優しい願いがそこに影響を与えているのか、それとも何だかんだ深海棲艦の母数が減ってきているのか。そこは神のみぞ知る。
ともかく、邪魔なく目的地に到着出来るのならば問題はないだろう。
そして、ついに──
「そろそろ特異点Wに到着よ。かなり近付いてきているけれど、深雪や電は何か感じるモノはある?」
「あー……なんか近付いてるんだろうなって感じはするんだよ。騒つくっつーか」
「なのです。嫌な感じは全然しなくて、ここが電達のいる場所なのかなって、思えるのです」
長い時間を6人で踏破し、目的地である特異点Wが見えてきていた。周りには何もない、海のど真ん中ではあるのだが、そこだけは少し特別感のある海域。
「吹雪、あたし達に気付いて出てきてくれるかな。前みたいなこの海域には誰も入るなって願いがあるかもしれねぇけど」
「どうかしらね……前みたいなこともあるし、自衛していてもおかしくはないけど」
おおよその場所に辿り着いても、そこに吹雪が立っていなければ、本当にここでいいのかはわからない。
願いの実の真上に立とうとは思ってはいないが、もう少し近くに行かなければ、気づいてもらえないかもしれない。
だが、ここで予想外のことが起きる。
「……っ、魚雷の反応!? 潜水艦がいるのです!」
警戒をしながら進んでいた一行、その中で、電が潜水艦から魚雷が放たれたことを察知する。狙いは、深雪だ。
「ンだと!? 敵がここにいるってのかよ!」
すぐさま戦闘態勢に。雷撃は真っ直ぐ深雪の方へと向かってきているため、回避行動を取る。
「大発に当たっちまったらヤバい!」
「お任せくださいまし。全て避け切ってみせましょう」
帰りの食糧や燃料が積み込まれている特大発動艇が破壊されたら、ここから動けなくなってしまう。戦闘に勝てたとしても、うみどりに戻ることも出来ず、そのまま……などと考えたらぞっとしてしまう。
三隈はそんなことが起きないように、最優先に考えて行動を開始した。前には進まず、なるべく後ろへ。戦闘海域からは離れるように。
「ンの野郎……こんなところで待ち構えてやがって……! 野良か!? それとも出洲の仲間か!?」
すぐさま深雪は深海棲艦化。そして、後始末の最中に覚えた、海中への潜航を開始。魚雷を放ってきた張本人の顔を見るため、猛スピードで潜っていく。
この高速潜航は、伊201と共に後始末を実施していたことによって学んでいる。ここでも、後始末が生きている。
「何処だ!」
「あぁ!? テメェ何モンだ!
そこにいたのは、少々話し方が荒い潜水艦である。そこに前の戦い──海中での戦いに参加した者がいたならば、間違いなくそれが誰かがわかっていただろう。あの時に現れた敵、深海伊号水姫。それに酷似した潜水艦であると。
しかし深雪は知らない。だが、深海棲艦ではなく、艦娘がここにいるというところから、少し疑問を持つ。カテゴリーMとして生まれているならわかるが、今確実に
「お前、もしかして願いの実のこと知ってるのか!?」
「なっ、テメェそこまで……まさか盗人か!? 絶対持っていかせねぇぞ!」
「そんなつもりは無ぇ! あたしは吹雪に会いに来ただけだ!」
「
瞬間、その潜水艦が何者かに引っ叩かれた。
「ああもう、喧嘩っ早いのよくないよしいちゃん。私のお客様なんでしょ。というか、私はわかってたのに、待てって言ったのに猪みたいに向かってちゃってまったくもう……」
しいちゃんと呼んだ潜水艦を払いのけて、深雪の前に姿を現したのは、勿論。
「久しぶり、深雪ちゃん。あの時よりも成長したみたいだね。海の中まで来れちゃうなんて、お姉ちゃん嬉しいよ」
最強の特異点、吹雪である。
2人目もここでご紹介になります。
明日、1/4はお休みをいただきます。現在新春ライブに向かって移動中。