「久しぶり、深雪ちゃん。あの時よりも成長したみたいだね。海の中まで来れちゃうなんて、お姉ちゃん嬉しいよ」
特異点Wでの吹雪との再会。深雪はその顔が見られたことで、パッと明るい顔を見せた。
「吹雪! 久しぶりだな! ひとまず上にいる仲間にもう安全だって伝えてきていいか?」
「そうだね。この子のせいで、今物凄く警戒してるよね。下手したら爆雷降ってくるよね」
「あたしが潜ってるから放ってこないとは思うけど、グレカーレならやりかねない」
「うん、だよね。じゃあ浮上しよう。しいちゃん、ちゃんと謝るんだよ?」
「へいへい……わぁーってるよ」
少し不服そうな表情のしいちゃんと呼ばれている潜水艦。深雪はその存在に疑問を持っているが、紹介は浮上してからということで、まずは素直に従った。
深雪達の記憶では、特異点Wを護っているのは吹雪1人だけ。ここでの戦いで共闘し、最初から最後まで吹雪以外の特異点は現れなかった。
なのに、今は見知らぬ存在がそこにいる。おそらく特異点だとわかるが、いつ何処でどのようにしてここにいるのかがさっぱりわからない。それもまた説明してもらえると思い、ひとまず流れのままに。
3人揃って浮上し、吹雪が現れたことによって、海上の面々は驚きつつも久しぶりと笑顔で迎え入れる。そして、吹雪と共にいる潜水艦を見て、グレカーレが全員の心境を言葉にしてくれた。
「え、誰!?」
当たり前である。これまでの戦いの中で、一度たりとも見たことがない艦娘がそこにいれば、誰だってこう思う。
「しいちゃん、まずみんなに謝ろうね」
「うぐ……侵入者と思って、攻撃しちまった……すまん」
渋々と言った感じで頭を下げる。どちらかといえば、吹雪が頭を押して下げさせている。
「この子は、伊41。呼びづらいだろうから、しいちゃんかよっぴーって呼んであげて」
「よっぴーはやめろ! しいでいい」
「オッケー。よろしくねよっぴー♪」
「やめろっつってんだろ!」
グレカーレならそう言うと思ったと、吹雪がケラケラと笑う。伊41は溜息を吐いて諦めた。
「で、しいちゃん、貴女が喧嘩を売ったこの子は、私の妹。願いの実の端末。だから、しいちゃんのお姉ちゃんにもカウント出来るんだよね」
「は? あたしの姉ちゃんだぁ?」
「は? あたしの妹だぁ?」
全く同じ反応をしてしまった深雪と伊41。その言葉も似たようなものであったため、グレカーレが吹き出し、電も苦笑。白雲は少しだけ首を傾げる。深雪の妹はこの白雲であると言わんばかりに腕を組む。うみどりには叢雲もいるが、この伊41はそれとは話が違う。
「ああ、白雲ちゃん、安心して。この子は艦種とか型とかは全く関係ないから。白雲ちゃんの姉妹になるわけじゃないからね」
「む、わ、わかっておりますとも」
「ただ、特異点としての姉妹になるね。私もこの子のお姉ちゃんみたいなもの、というか、これまでの特異点全員のお姉ちゃんに位置することになるわけだし」
吹雪は説明する。伊41も願いの実の力で生み出された存在。新たに生を受けた特異点。生まれた経緯は違えど、生まれた方法は深雪と同じ。役割も違うが、特異点であることには変わりない。
同じく特異点に覚醒している電は、さらに経緯が違うため、繋がりがあるかと言われると何とも言えない様子。伊41は吹雪の補助装置というわけではなく、純粋に特異点として存在しているようなので、やはりいろいろと変わってくるようだ。
「ふぅん……あたしの妹分ってことか」
「そうなるね。ただ、私と同じで、役割はこの海域、願いの実を守ることだから、深雪ちゃんとも少し違うところはあるかな。ほら、私が幹で、深雪ちゃんは枝みたいなモノなんだけど、しいちゃんはどちらかと言えば幹寄りだから」
「なるほどな。吹雪とは姉妹と言えるけど、あたしとは少し違うわけだ。んじゃあ、電は」
「電ちゃんは枝に出来た実みたいなモノだよ。だから端末の補助装置って感じだね」
自分は幹だと言われて、伊41はニヤリと笑って胸を張る。そして吹雪に小突かれる。偉い偉くないなんて無いんだと、身体にわからせるかのように。
事実、上下関係なんてない。吹雪は原点にして頂点みたいなモノなので格が違うが、伊41は新人特異点として今は下積み状態であり、むしろ深雪よりも若いことから下としてもおかしくはないが、深雪がそんな見方をしないため、対等な関係としている。
それは電にも同じこと。幹と枝と実という表現となったが、吹雪以外は全て対等である。なので、伊41が電のことを馬鹿にしそうになったら、小突くどころかぶん殴るだろう。
「積もる話もあると思うけれど、深雪ちゃん達がここに来たの、何か理由があるんだよね」
「ああ、そうだった。再会を喜ぶために来たんじゃねぇや。いや、普通に嬉しいけども」
「何かのついでに来るなら、こんな時間にはならないだろうし、うみどりで来るでしょ。緊急事態でも起きたのかな」
「全部話すよ。海のど真ん中だけど、別に問題ないよな」
腰を落ち着けて話すことは出来ないかもしれないが、せめて楽になれるようにと、三隈が特大発動艇を海域に寄せ直して、乗れそうなら乗ってから話そうということになった。
吹雪に説明するのは深雪と電。他の者達は念の為の周辺警戒として四方を陣取る。伊41は吹雪を守るために隣に立った。
「じゃあ、聞かせて。何があったの?」
「ああ、実は……
その言葉に、吹雪は明らかに眉を顰めた。
「……続けて。ちょっと思い当たるところはあるけど、深雪ちゃんがどう感じたかは聞いておきたいから」
「ああ。まずここまでのことも話しておく」
特異点Wでの戦いの後に起きた戦い──裏切り者鎮守府との戦いや、阿手の島での最終決戦、島での後始末の最中に生まれた穏やかな深海棲艦との出会い──を経て、最後に顔を合わせたメッセンジャーであるカテゴリーK、黒深雪と雷のこと。
阿手との決着がついたことは心から喜んでいたようだが、やはり黒深雪のことに入った途端に押し黙る。そして、出洲のことを詳しく聞き始めた。
「出洲は特異点のことを、人類を堕落させる悪だとか抜かしやがった。これまでに3人始末してるとも言ってた」
「……うん、その3人、覚えてるよ。戦場で失われたのかと思っていたけれど、まさかそんな理由があったなんて」
「やっぱ、吹雪にはわかんのか」
「わかるよ。かつての3人だって、願いの実の端末、私という幹から分かれた枝なんだから。深雪ちゃんだって生きているかどうかだけなら、遠く離れていてもわかるよ私には」
その分、手助け出来ない歯痒さを味わうことになるのだがと付け加える。ピンチになったとしても、吹雪はこの場から動けないのだから、その命の灯火が消える瞬間をただ見ているしかないのだ。
「何処かの鎮守府に入ったことは知ってた。でも、人類を堕落させるとは思わなかったけどなぁ……深雪ちゃんみたいな覚醒はしてないし。でも確かに、本来の艦娘よりはやれることは多いんだよ。深雪ちゃんも、電ちゃんも、そうでしょ?」
「ああ、ケッカリしてから拡張されたな」
「なのです。特に電は、何でも装備出来るようになったのです」
「人によっては、毎回戦闘は特異点に頼んじゃおうってするよ。何処にでも重宝するなら、考えるのやめて運用するはあり得ることだし」
それはわからなくもない。うみどりがあまりにも特殊であるため、深雪や電にも出来ないことばかりで、頼り切られないことはあるが、ただ鎮守府に所属しているのなら、吹雪と電は戦場に出突っ張りになっていた可能性もある。出洲や阿手と戦っていなければ、ここまでの覚醒はしていなかったかもしれないが。
「それを堕落というのは間違ってるけどね。で、そんなことをしていたおバカの仲間に、特異点の力を使うのが出てきた、と」
「そうなんだ。そいつは、あたしと同じ煙幕が使えた。発煙装置無しで、手から黒い煙が出てきて」
「それ、
吹雪の質問に、なんでそんなことを聞かれたんだろうと思いつつも頷く。
「なるほどね。うん、それ、確かに深雪ちゃんの力を使ってるよ。だから、特異点の煙幕で間違いない」
「マジかよ! なんでわかるんだ?」
「なんでって、まぁ、ね。だって
聞き捨てならないことを言われて、深雪が身を乗り出す。
「どういうことだよ」
「深雪ちゃん、前にさ、左腕捥ぎ取られたでしょ」
あっと深雪は声が出た。それは、海賊船の戦いの前、小柄と中柄の襲撃の際に現れた、深海千島棲姫との戦いの最中。『燃焼』の力を込められた鎖に巻き付かれ、そのままちぎり飛ばされたことを思い出した。電も両脚を同じようにやられているので、その時の嫌な思い出が頭を過る。
「その時の左腕、回収した?」
「……してねぇ。覚えがないけど、何も言われなかったってことは」
「あの時、置いてあったままなのです」
「あっちの連中が拾ってお持ち帰りしちゃってるね。で、それを使ってその別の特異点を作り出しちゃってる。多分だけど……うん、左腕、そのまま使われてるね」
深雪はもう、何も言えなかった。吹雪は結論を口にする。
「その黒い特異点の左腕、そのまま深雪ちゃんの左腕じゃないかな」
約2年越しの伏線回収