後始末屋の特異点   作:緋寺

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特異点の元凶

 特異点Wでの休息中、姉である吹雪や、新たな特異点伊41と和やかな対談、そして願いの実に直接対面し、実家に帰省するような安心感を得ていたところで、この海域に謎の侵入者が現れたことを知る。

 吹雪は深雪の左腕を使って深雪の居場所を探っているのではないかも考えたが、それが本当かはまだわからない。そのため、まずはその侵入者を出迎えるところからである。

 

「あたしの左腕を使ってるってことは……やっぱ、別個体が来てるってこと、になんのか?」

「そうだね。来てるならその可能性は高いかな。深雪ちゃんの感じがするし」

「……吹雪にはそこまでわかるのな」

「そりゃあね、幹ですから」

 

 大急ぎで浮上していこうとする際、そこには数人の潜水艦の姿も見える。それが艦娘が深海棲艦なのかはまだわからない。ただ散歩に来ただけでなく、明確に深雪に狙いを定めて来ているようにしか見えない。とはいえ、あちらはまだこちらに気付いていないように見えた。

 むしろ、この探知の能力だけは、オリジナルである深雪よりも強くなっているようにも感じた。深雪は遠方から黒深雪を認識することは出来ないが、逆は可能となれば、今後も常に居場所を認識され続けるという厄介な状態になる。

 

 軍港都市では酷いレベルの迷子になっていたのに、島には一直線に来れているところから、やはり深雪の居場所だけは完璧に把握しているのではないかと思われる。

 

「アイツら……蹴散らしてやらぁ!」

「しいちゃん、ストップ。まだ攻撃しちゃダメ。深雪ちゃんにも話聞かないで攻撃したばかりでしょ。一応、念のため、意味はないかもしれないけど、話だけは聞いてみないと」

「姐御、そんな甘いこと言ってていいのかよ」

「代わりに、聞いてからなら何してもいいから」

 

 猪突猛進な伊41を制し、まずは話だけでも聞いてやろうと、吹雪はほんの少しだけ情をかけている。深雪がここにいることから、無闇矢鱈に始末するのは一旦控えておこうというちょっとした配慮。

 相手がどうであれ、深雪は一度話し合うところから始めているのだから、吹雪もそれに則って対応しようというだけ。深雪達がいないならば、一切の容赦無く、問答無用で叩き潰しているだろう。

 

「しい、悪い。あっちが攻撃してきてからにしてくれ」

「それでいいのかよ」

「あたし達から攻撃したら、あいつら被害者ヅラするんだよ」

「……クソすぎねぇか」

「クソすぎるんだよ」

 

 阿手配下なら確実、出洲配下でも信用は出来ない。ただでさえ、まともに話すらしていないのに、特異点を害悪認定している程だ。深雪から先手必勝と攻撃を仕掛けた場合、特異点にやられたという免罪符を手に入れてしまう。

 逆に深雪側は、あちらからの攻撃が無ければ対話だけで済ませる気持ちがあるのだ。手を出されたら、正当防衛でやり返すというだけ。コレで文句を言われても、お前らが先にやってきたんだろうと断言出来る。

 

 お互いに、手を出さないというのが一番穏便に済ませることが出来る。そしてこの深雪、舌戦ならばかなり強い。

 

「まずは話し合いだ。それで頼む。こちらが不利にならないように」

「……仕方ねぇ」

 

 伊41はそれで納得してくれたが、手綱は握っておかねばならない。

 

 

 

 

 海上に浮上した深雪達は、待機していた神風達と合流。そちらも、今この海域に何者かが接近してきていることは勘付いていたようで、強く警戒をしていた。むしろ、障害物も何もない海域だ。水平線の向こう側から来ているのなら、その時点で何かわかる。

 現在最もやられては困るのは、帰りのための荷物を持つ三隈である。三隈だけは他の仲間よりも一歩下がった状態で状況を見ている。

 

「深雪、そっちでも見えてた?」

「いや、吹雪が勘付いたから浮上してきた。潜水艦も何人かいやがる」

 

 神風は刀に手を添え、遠目にやってくるおそらく敵であろう部隊を睨みつけていた。

 このタイミングでやってくるのならば、出洲一派としか思えない。黒深雪のような仲間がいることもわかっているのだから、出洲達は少数の精鋭だけではないことは容易に想像出来る。

 そもそも襟帆鎮守府所属の艦娘であるはずの黒深雪と雷がカテゴリーKなのだ。その鎮守家に所属する艦娘全員が出洲配下であることも考えられる。それらが今、牙を剥こうとしている可能性は否定出来ない。

 

「相手が艦娘だとしたら、一応峰打ちにしておくわ。イリスにカテゴリーは見てもらうつもりだけど」

「だな。解体すりゃあ元の人間に戻るんだろ。だったら、始末するのはダメだ」

「でも、カテゴリーKなら……少し手荒いことも辞さないわよ」

 

 カテゴリーKとならずとも、カテゴリーCのまま、出洲の平和論に賛同しているというのも考えられる。そこから特異点に対して敵意を向け、艦娘としての在り方で敵対するとなると、対処は非常に難しい。

 そんな相手の場合は、叩きのめすことはするかもしれないが、命を奪うまではいかない。強制送還させた後、然るべき処置を受けて、艦娘としての人生を終えてもらうことになるだろう。

 

「……出やがったな……別個体」

 

 敵の部隊が確認出来た。その中心にいたのは、予想通りの黒深雪。左腕の力により、深雪の場所を確実に把握しているのなら、先導するためにも部隊にいておかしくない。

 そして、黒深雪がいるのなら、当然雷も隣にいる。黒深雪を守るように、そして守られるように、共にこの海域へとやってきている。

 

「……ふぅん、本当に深雪ちゃんの姿なんだね。まぁ、艦娘だから当たり前か。とはいえ、こっちの深雪ちゃんの方が可愛いね」

「吹雪、今はあんまり冗談言ってる余裕は無いぞ」

「冗談のつもりはないよ。私にそう見えるってだけ。でもさ、ぱっと見だとあんまり差がないよね。深雪ちゃん、今後は目印とかつけた方がいいかも。まぁ、ここでアレを始末するつもりだけどさ」

 

 今回の黒深雪と雷は、島の偵察の時のような重装備ではない。見た目は普通の艦娘と同じである。黒深雪の方は、本来の制服であるセーラー服だけでなく、トレードマークのようにフード付きのウィンドブレーカーを羽織っているようだが、それだけ。

 ここで始末する気満々ではあるのだが、もし撤退され、再び戦うことになった時、同じ姿であることが戦いを困難にする可能性はある。

 

 そこで思い出す、軍港都市の時に購入したカフス。ここにいる仲間、電、白雲、グレカーレと揃いで身につけられるようにと買っておいたモノが、ここで役に立ちそうだと考えた。

 

「戻ったら、アレ、着けようぜ」

「なのです。その方がみんなのためになりそうなのです」

「耳だとあまり目立たないけど、無いよりマシだし、何より」

「お姉様と同じモノを身につけているという昂揚感が、我々を強くするでしょう」

「そう、それ!」

 

 電も強く頷く。お揃いのアクセサリーによりテンションを上げつつ、深雪を見間違えないようにするマークになるというのだから、使わない理由はない。

 

「ま、それはまた後からよろしくね。私もちょっと言い分聞いておこうと思うよ。聞く耳持てるかは知らないけどね」

 

 ここまで見えていても攻撃はしてこない。そういう意味では、あちらも話をしようとしてきているのか、それともあちらもこちらの攻撃を引き出そうとしてあるのか。

 殴りかかってきた方が悪とするなら、まずは()()()()必要がある。あちらはそれをも考えて行動しているのかもしれない。

 

「いきなり攻撃しておいて、やり返したら被害者ヅラした阿手ん時よりマシか」

「なのです……アレはちょっと酷すぎるので」

「だとしてもアレだろ、こっちが悪人認定してる状態から始まるんだから、どっちもどっちだ」

「……なのです」

 

 島での最初の攻撃のことを思い出して少しげんなりするものの、出洲はそれとは違うやり方でこちらを攻撃してきそうということで、今は身構える。海中にいる潜水艦にも目を向けつつ、今は目の前の別個体を注視。

 

「……特異点……」

 

 声が届く距離にまで近付いて、足を止める。後ろにいる者達も、ここで一度動きを止めた。

 見た感じでは確実に艦娘。深海棲艦が混じっているようなこともなく、艤装が何かおかしいというわけでもない。そして、イリスの判定も──

 

『確認した。カテゴリーC。第三世代の艦娘ね』

 

 予想通り、普通に艦娘である。

 

「何しに来やがった。散歩か? それとも遠征か?」

「……特異点の元凶がここにいるんだろ」

 

 深雪ではなく、吹雪を睨みつける黒深雪。吹雪はその視線を受け、にっこり笑う。

 

「よくわかったねぇ。どうしてわかったのかな」

「……あたしの左腕が、複数の特異点を感知した。お前の方が、力が強いだろ」

 

 やはり、黒深雪の特異点としての力は、察知に関しては深雪よりかなり強力になっているようである。

 だが、これまで攻めてこず、今になってから来たのには理由がありそうである。それこそ、左腕の力を使いこなせるようになったのがつい最近、とか。

 

「まぁ、どうであれ私が特異点の元凶って言い方は、あながち間違ってはないかな。なんでそうなのかは言わないけど。で? 元凶をどうしたいのかな?」

「んなモン、お前がわかってんだろ。元凶から潰す。お前がいなくなれば、二度と特異点が生まれないんだろ。それで終わりだ。あたし達の望む、平和な未来のためには、特異点は必要無ぇ」

「ふぅん……そう。じゃあ、君も必要無いわけだね」

 

 特異点の力を持つのは、黒深雪も同じだ。特異点が不要ならば、当然、黒深雪も不要。

 そんな吹雪の言葉に対して、黒深雪は──

 

「ああ、特異点が二度と生まれなくなれば、あたしもこの力を捨てる。毒を以て毒を制するだけだ」

 

 覚悟が決まった目を向けた。

 

 

 

 

「あっそ。わかった。それじゃあ……君達の言い分は聞いたから、私の言葉も聞いてもらおうかな」

 

 苛立ちはない。ただ、吹雪はこの特異点の力の盗人を、どうしてやろうかをもう考えていた。

 




深雪「左腕が疼くっての、あれだろ、ちゅーにびょーとかいう奴だろ。恵理が好きそうなヤツ」
黒深雪「違ぇよアホ」
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