後始末屋の特異点   作:緋寺

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歪んだ覚悟

 特異点Wに侵入してきた、黒深雪を筆頭とした出洲一派の部隊。深雪の左腕を持つ黒深雪は、その深雪の居場所がわかるようになっており、そこからさらに強い特異点である吹雪の存在を認知したことで、彼女を特異点の元凶と判断、ここを潰せば今後特異点が現れないとして、自分達の目指す平和のために戦いに来たと豪語する。

 

 それを全て聞いた吹雪は、呆れたように溜息を吐いた後、既に苛立ちすら通り越した表情で告げる。

 

「あっそ。わかった。それじゃあ……君達の言い分は聞いたから、私の言葉も聞いてもらおうかな」

 

 見た目は普通の艦娘吹雪。海中に潜るために深海棲艦化している深雪と電とは違い、こちらはどのような姿であっても自由自在に海域を動き回れる。黒深雪はそういうところからも、吹雪が深雪よりも強い特異点なのだろうと判断しているところがある。

 むしろ、島で見た時の深雪と雷とは姿形が違うところから、表には出さないものの、特異点の力をより一層感じてしまい、苛立ちを持っているようだった。そんな黒深雪の感情に気付いたか、雷がそっと手を握る。

 

「まず、深雪ちゃんも君達に言っていると思うけれど、特異点のことを勝手に敵視しているのはそちら。私の妹達を3人も殺しておいて、まだ足りないっていうサイコパスであることは理解してくれてるよね。で、動機がなんだっけ? 人間を堕落させる、だっけ? それ、堕落した人間側に問題があるんだけど、都合が悪くなったら特異点に全部押し付けてるってことでいいかな」

 

 吹雪の声は、普段深雪と話す時よりいくらか低い声色になっていた。悪いことをした子供に言い聞かせるように、取り返しのつかないことを繰り返している犯罪者を咎めるように、ゆっくりとしっかり理解出来るように伝える。

 

「私から言わせて貰えば、君達の言ってることはこうも言い換えられるんだよね」

 

 一息吐いてから、黒深雪に淡々と語る。

 

「艦娘という存在が現れて、本来深海棲艦相手に四苦八苦していた人間達は、艦娘に頼りきってこの戦争を終わらせようとしている。一般人は戦争の苦しみさえ知らずに、平々凡々に暮らしている。これは、普通の人間が戦争を終わらせるための努力をするのを辞めたってことになるね。艦娘のせいで人間は戦いを避けて堕落した。だから艦娘は皆殺しにしていい。そう言ってるのと同じなんだけど、反論は?」

 

 黒深雪は明らかに苛立ちの表情を見せた。それとこれとは話が違うだろうと言いたそうにしていた。

 吹雪自身、これは極論だと思いながらも、お前達の言っていることはそういうことだぞと伝えたかった。無茶苦茶な論法だと理解して。むしろ、だからこそ、それはおかしいと思えるからこそ、今の出洲のやり方はおかしいのだと言い切れる。

 

 対する黒深雪は、ギュッと手を強く握った。

 

「人間は楽をするために艦娘に頼ってんじゃねぇよ。戦えないんだから、戦える奴に任せてるだけだ」

「へぇ、そんなこと言っちゃうんだ。じゃあ、特異点だって他の艦娘達より少し戦えるってだけだよね。それに任せることって、何も問題ないんじゃないかな。あ、もしかして、戦える力があるのに、それ以上に戦える人に頼って仕事しなくなるとかそういうこと? だったらそれ、戦わなくなった人間が悪いでしょ。特異点には何も問題はないね」

 

 口を開けば、退路が絶たれる。何を言っても、空虚な言い訳にしかならない。黒深雪も、その辺りはもうわかっていそうだった。

 特異点を否定する理由が、何処にもない。しかし、その特異点が自分達の道を邪魔しているのは確か。だから、難癖をつけるように、その在り方を否定したい。しなければ、モチベーションが保てない。

 

「力を持つ者が悪いっていうなら、艦娘は人間を堕落させてることになる。力を持たない者が悪いとなれば、特異点は悪くない。どっちに転んでも、そちらがやってることがおかしいに繋がるけど、反論は?」

 

 黒深雪からは反論がない。ギリッと歯軋りが聞こえた。その反応からして、黒深雪は──

 

()()()()()()()、君。自分が言ってること、すごく矛盾してるって」

 

 吹雪は事実を突きつける。この黒深雪は、もしかしたら話せばわかる相手なのではないかと思い、深雪のやり方──一度話し合ってから考える──を実践した。その結果、問答無用で始末するより、悪くない方向に進めるかもしれないと、淡い期待を持った。

 そこから出た言葉がコレだ。黒深雪はわかっている。だが、引くに引けない理由がある。言われっぱなしになって、子供のようにムキになって話を切り上げたのも、ここに来て吹雪と話して何も言えないのも、出洲のような歪んだ信念がないからだ。

 

 確かに過去、人間の手で命を落とし、そんなことがもう起きないようにと管理社会を目指すことは、当然の帰結かもしれない。だが、そこに誰が悪いという点を入れると、間違いなく私刑になる。

 それは平和とは程遠い行為だ。自分が嫌だから許さない、なんて我儘が通用するほど、世の中甘くはない。

 

「私はある程度話を聞いてるから何となくで話すけど、少なくともそんな理由で、特異点を否定してもらいたくないかな。覚悟は持ってるみたいだけど、それって何に対する覚悟? ああ、特異点はいらないから、全部終わったら自分も死ぬっていう覚悟かな。それはそうだよね。君は歪んでるとはいえ特異点なんだし」

 

 吹雪が鋭い目で見据える。特異点を敵視するのに、自分が特異点の力を使っていることに、真正面から嫌悪感をぶつけ、そして間接的にお前も死ぬんだよなという脅しもかける。

 対する黒深雪、その吹雪の言葉を受け、小さく頷いた。この力を持った時点で、自分の役割は平和の礎となることだと覚悟を決めている。そう示した。

 

「……お前、マジか」

「ああ、特異点を全部潰したら、あたしは死ぬ。こんな力、捨てられるなら捨てるが、そりゃ無理な話だ。あたしには完全に植えつけられてるからな。それで世界は平和になる。特異点の力に頼り切る堕落もない。それでいいだろ」

「いいわけないだろ。お前が死ぬことありきで、出洲のクソ野郎はお前に特異点の力をくれてやったってことだろ」

「……でも、次の被害者は無くなる。そもそもあたしは一度死んでる。だから、構わねぇよ」

 

 深雪は絶句していた。自ら命を絶つ覚悟を持つだなんて、並大抵のことでは出来ない。今の矛盾に気付いており、迷いはあっても、そこだけは全くブレていない。

 隣にいる、黒深雪を支えるためにそこにいるカテゴリーKである雷も、その言葉を否定しない。やめてほしいとも言わない。いや、むしろ()()()()覚悟すら孕んでいる。

 

 吹雪はそれを聞いて、笑みを浮かべた。むしろ、ケラケラと笑い始めた。

 

「あっははは、そっかそっか、人様の力を奪って、毒を以て毒を制するとか言って、私達を滅ぼしたら君も死んでおしまいってことかぁ。面白いことに言うねぇ。君も、それに君にその力を植えつけた出洲とかいう人間も」

 

 笑いすぎて涙を拭う吹雪。自分の覚悟を笑われて、黒深雪は明確な苛立ちを見せる。

 

「何がおかしい」

「命を柱にしてる時点で、そんなお城は脆くて崩れるの。それを平和とか言っちゃってるのが、もう馬鹿みたいで面白いよ。ギャグのセンスあるんじゃない? 巻き込まれた側は堪ったもんじゃないけどさ」

 

 突然笑いを止めて吹雪は睨みつける。

 

「でも、君には迷いがある。従ってるお馬鹿さんの矛盾に気付いてる。死ぬことに覚悟を持ってる割には、口論も出来ない。まるで殺されたいみたいだよ。ああ、特異点に殺されたいんだ。そうすれば、特異点は悪だって言い切れるもんね。周りにいる一般人の皆さんは、君が死ぬところを見に来たのかな?」

 

 黒深雪ではなく、周囲の艦娘達に視線を配る。カテゴリーKでもない、ただの艦娘。襟帆鎮守府からやってきたであろう者達は、ここまでずっと沈黙を保ってきた。その言動を咎めることもなく、攻撃をするつもりもなく、ただ黒深雪の動向を見守っているようにすら見える。

 

「……コイツらは関係ねぇよ。お前みたいな、特異点がどんな奴かを、鎮守府の艦娘に知らしめるために連れてきただけだ」

「ああ、君の言うことは信じてないから。そうだねぇ……君が変なことをしないか監視しているか、それとも……君を出し抜いて何かするとか。私からしてみたら、君とはちょっと違う。だって、普通の艦娘だったらこんなところに来ない。深雪ちゃんがどれだけ強くなってるか知ってるのに、それでも自分達なら勝てるって思ってるなら、思い上がりにも程がある」

 

 黒深雪のことはもう見ていない。艦娘達の方の品定めに入っている。まるで、黒深雪には興味を失ったかのよう。

 

「本当の目的、教えてもらえない? ()()と同じように、特異点は敵だから始末しに来たの? それとも本当にただ見に来ただけ?」

 

 吹雪の凄みが強くなる。睨まれただけで失禁しそうな程の迫力。本当に普通の艦娘なら、気を失って倒れかねない。

 

 だが、誰も彼もが微動だにしない。何かに寄生されているわけでもなく、改造されているわけでもない。ただの艦娘が、黒深雪よりも強く見える。

 真っ直ぐな眼で、吹雪……ではなく、深雪を見つめていた。そこに敵意は存在せず、だからと言って仲間だと言いたいわけでもない。

 

「……ん?」

 

 そして、それに気付いた。気付いたのは、グレカーレ。声に出したら気付かれるため、小さく頷いた。

 艦娘のうちの1人、おそらくリーダー格であろう戦艦の艦娘、伊勢が小さくハンドサインを見せていた。黒深雪にも雷にも気付かれないように。

 

 

 

 

 そのハンドサインは、非常にシンプルだった。

 

『私達は、敵じゃない』

 

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