後始末屋の特異点   作:緋寺

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真の堕落

 深雪と吹雪が黒深雪と対話──とも言えない一方的な舌戦を繰り広げている中、その裏で艦娘のリーダー格の伊勢とグレカーレが、第二世代のハンドサインで堂々と密会するというとんでもないことをしていた。

 グレカーレは、伊勢から出された『温品』という名前から、その言葉を信じることとしており、あちらからは何も連絡が出来ないという点から、どうにかするとしか言えない状態ではあった。

 

 さて、そんなことが起きているとは知らない深雪達だが、平行線というよりは、聞く耳持たずというだけになった黒深雪に対して、失望に次ぐ失望。矛盾がわかっているのに、何も考えを変えない。話を続けるつもりもないのに、否定もしなければ肯定もしない。だからと言って戦闘にもならず、覚悟はあっても信念がない。

 

「はぁ、もういいや。君達、もうここから出て行ってくれない? 何しに来たのか知らないけどさ、何もしないなら邪魔なだけ。私が特異点で、深雪ちゃんのお姉ちゃん、自慢するみたいになるけど、深雪ちゃんより強くて、君達の言葉を借りるなら元凶になるわけだけど、だからといって手も出してこないなら、ただひたすらに鬱陶しいだけなんだけど」

 

 吹雪はもう、苛立ちも呆れもなく、淡々と処理するつもりで言い放つ。どうしても特異点側から手を出させたいという気持ちがありありと伝わってくる。しかし、深雪達は手を出すつもりなんて毛頭無い。

 吹雪は殺す気満々ではあるが、深雪からのお願いがある手前、慢心はせずとも余裕を見せて、腕を組んで黒深雪を見つめるのみ。

 

「ほら、早く帰りなよ。何、もしかしてそこでじっとしてたら、私達が君達に頭を下げるかもしれないとか考えてる? そんなことするわけないでしょ。いい? 君達は勝手にここにやってきて、意味不明な主義主張を言って、こっちの言葉は聞いたところで反応もない。自分達の言いたいことだけを言って、こちらの主張は聞く耳持たず。なんて我儘で、ガキンチョなんだろうね。いくら子供でも、もう少し利口だと思うけど?」

 

 逆に神経を逆撫でするような言葉を選択して口に出していく吹雪。

 

「深雪ちゃんの偽物はもういいや、何も話さないなら、ここで二度と口を開かないでもらえる? どうせ中身のない覚悟をその場凌ぎで言うだけだから、聞けば聞くほど何もないなって思えるだけだし。隣の雷ちゃん、今度は君に聞こうか。それの保護者気取りなのか、被害者ヅラなのか、そこで手を握ってジッとしてるけど、何か言うことはないの?」

 

 ターゲットを雷に変える吹雪。ここまで黒深雪があまりにも中身がないため、それ以上に自分の意思を出していない雷に問い質す。吹雪に声をかけられ、小さく震えるが、その視線は何も変わらない。黒深雪を落ち着かせるために手を握っているだけで、何処かを見ているというわけではない。

 

 吹雪や深雪は、黒深雪では埒が明かないとして、雷をターゲットにしたが、電としては雷の方が気になっていたりする。ポジションとして自分の同じ。黒深雪も特異点の力を得たと言うのならば、雷は電と同様に補助装置として機能している可能性を感じている。

 しかし、行動からして、そこまで黒深雪をサポートしているようには見えない。今この場でも、一言も口にせずに静観を保っている。話が振られない限り、話すつもりは無いのではないだろうか。島の時とはスタンスが違い、全て黒深雪に任せているようにすら思える。

 

「雷ちゃんも、同じように思っているのですか? 特異点は悪で、人間を堕落させるって」

 

 電からそれを問う。雷はすぐには反応しない。聞く耳を持たないのではなく、何かを考えているかのような表情。

 

「雷ちゃんも、同じ、なのです? 矛盾に気付いてる。でも、こうしないといけない理由があるんじゃ」

「……わかってるわよ、矛盾してることなんて」

 

 雷がついに口を開いた。それは、黒深雪が口を噤んでしまったことを素直に語るような言葉。出洲のやり方は矛盾している。それでも、そちらの方が望む未来に近付けるから従っている。

 

「でもね、私も深雪も、私達みたいな犠牲者がこれ以上増えてほしくないって、本当に思っているの。でも、何をしたって、それこそ戦争が起きたって人間は変わらない。だったら、全員管理するしかないじゃない」

「そうするために、今生きている人達を蔑ろにしてもいいのです!?」

「ダメよ! でも、今を乗り越えれば明るい未来は確約されてる。だったら、私は今より未来を見るわ」

「今が未来に繋がっているのです。今が良くなきゃ、未来が良いわけないのです!」

「……この世界はそんな綺麗事じゃ済まないのよ。電、貴女はまだ生まれたばかりの、世界の新人でしょう。私達は違う。この世界の暗いところを沢山見てきた。だから、貴女よりも、この世界の構造を知ってるつもり」

 

 悲しそうな、しかし、黒深雪と同じように覚悟を持ったような、昏い瞳を電に向けた。

 

「この世界は明るいところと暗いところが作られ続けるわ。でも、誰かが管理すれば、それが無くなる。人が高次に上がれば、そんなことをしたいとも思わなくなる。そうすれば、今みたいな犯罪ばかりの世界は無くなるの。貴女達はそれを否定するのよね。罪が横行跋扈しているような世界の方がいいって、言ってるのよね」

「そういうことじゃないのです! 誰も罪を肯定してるわけじゃないのです! なんでそう極論しか語れないのです!?」

 

 電が声を荒げらが、雷は何も変わらない。一度口を開いたことで、淡々と自分の考えを述べるようになる。これまでは黒深雪に全て任せていたようだが、自分に振られたから、ここからは自分のターンだと言わんばかりに。

 逆に黒深雪は少し悔しそうな表情に。雷に任せず、自分でこの場を乗り切りたかった説はある。しかし、今こうして見ていても、精神年齢だけで言えば、黒深雪より雷の方が上に見える。

 

 だとしても、雷が語ることは黒深雪と何も変わらない。矛盾に気付いていても、未来のためにはそれに縋るしかない。だから、明るくない未来を目指している、人間を堕落させる特異点とは相入れることが出来ない。

 

「今も大事よ。でも、今の人間は事件が起きても何も変わらない。だったら、その身を未来に捧げる覚悟がある私達の仲間と一緒に、今しか見ていない貴女達を打倒する。今が良く出来ないんだもの」

「……諦めたのですね」

 

 電の言葉に、雷の眉がピクリと動く。

 

「自分の手が届く範囲ですら、良くすることを諦めたから、世界の全部を諦めて、見えない未来に縋り付いているだけなのです。だったら、今を良くしようと動けばいいのに、希望しか持たないで今をのらりくらりと歩いているだけ。人のせいにすればいいだけなのですから、さぞかし楽な生き様なのです」

 

 電から思った以上に強い言葉が出てきている。しかし、涙目だ。こんなことは言いたくないけれど、それが溢れ出てしまうくらいに、今の雷には失望していた。

 

「夢を語るだけで、まともに行動が出来ていないのです。平和を望んでいるのに、今の平和を壊しているのです。それを矛盾だと気付いていても、諦めてるから何もしないのです。ううん、諦めてるんじゃない、怠けてるのです。本当に未来を明るくしたいなら、今の動き方からして違うのです」

 

 電が拳を握り締めると、抑えられない怒りと悲しみが煙幕となって溢れ出していた。

 いつもとは立場が違うが、その手を深雪が握って落ち着かせてやる。深雪も同じ考えを持っていたから、後押しをするように、しかしあまり感情を荒ぶらせないように。

 

「今のそちらのやり方は未来を見ているかもしれません。雷ちゃんはそれに未来を見て、今こうして動いているかもしれません。でもそこに、本当に自分の意思はあるのでしょうか。言われた通りにやれば、自然と未来は明るくなるんだと、諦めて、結果考えることをやめた。怠けて全部、出洲の言いなり。これ、電は堕落だと思うのです」

 

 黒深雪と雷は、考えることを放棄している。電はそれを突きつけた。矛盾だとわかっているのに、それをどうにかしようとしない。考えるのをやめている。だって、()()()()()()()()

 

「特異点のこと、何も言えないのです。雷ちゃん達が、自分で証明してくれてます。出洲のやり方は、人様に危害を加えながら、雷ちゃんみたいに堕落してるヒトも作り出す、より悪い存在だと思うのです」

「……言ってくれるわね、電」

「ええ、言ったのです。でも、どうせ電の言葉は響きませんよね。だって、考えることをやめていますから。敵の言うことは聞かない。自分の考えていることが正しい。そうした方が楽ですもん。それが許されるなら、電だってその道を選ぶかもしれません。でも……それは許されないことなのです」

 

 自分で考えることをやめた者に何を言われたところで響かない。こちらの言葉が響かないのだから。

 

「軍港都市で一緒に遊んだ時も、今みたいに考えていたのです? 電は、あの時のお二人は、そんな愚かな主義主張もない、大らかな生き方をしていたと思うのですが」

「……」

「もう、話せませんか。街の中で迷子になって、電達とたまたま出会って……本当にたまたまかは知りませんけど、一緒に行動して……あの時は、世界の平和とか考えずに、そこにある娯楽をただ純粋に、目一杯楽しんでいたと思うのです。あの時だけはしがらみから解き放たれて、自由だった。アレは、嘘だったのです?」

 

 雷は答えない。もう、言葉は紡げない。

 

 

 

 

 矛盾に気付きながらも、考えるのをやめてしまっている。それこそが、真の堕落。出洲のやり方は、特異点の存在以上に、堕落した存在を作り出しているとしか思えない。

 電がそれを言葉にしたことで、深雪も合点がいった。そして、怒りも湧き上がる。人様を生きているだけで罪と抜かした連中が、一番の堕落者を作り上げているのだから。

 




ぶっちゃけ阿手よりタチが悪い。
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