後始末屋の特異点   作:緋寺

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管理したところで

 黒深雪も雷も、未来のためにと言いながら、今を蔑ろにしていることは変わらなかった。さらには、訴える電に対しても、生まれたばかりで世間を知らないだけだと自分達のやり方を穿った方向から肯定するようなことまで話し出す。そして、電は怒りまで露わにし、滅多にやらないような強い言葉で叱責するに至った。

 黒深雪はおろか、雷も口を噤む。これ以上の対話は出来ないのではとすら感じた。

 

「電ちゃん、もう大丈夫。あっちはもう話も出来なそうだし、電ちゃんの考え方もわかってもらえたと思うからね」

 

 泣きそうな電の頭を撫でながら、吹雪は深雪と共に下がらせた。ここからはもう自分だけが矢面に立てばいいと、堂々と前に出る。

 

「話すことはもう無いでしょ。私は優しいから、君達に選択肢をあげる。深雪ちゃんの顔に免じてね」

 

 睨みつけるのは変わらず、後ろの艦娘達が何かをやっているのに気付きながらも、黒深雪と雷に対して言い放つ。

 

「死ぬ覚悟でここで戦いを選ぶか、泣きながら逃げ帰るか、選ばせてあげる。君達みたいな汚い血で私の手とこの海域を汚したくないから、逃げ帰ってくれることが一番だけどね。何をやっても君達の考え方は変わらないんでしょう。矛盾に気付いていても変えるつもりがないんだから。私は準備万端。むしろ、そろそろ我慢出来なくなりそう。ほら、選んでよ。今私に殺されるか、近いうちに別の誰かに殺されるか」

 

 非常に攻撃的な吹雪に、黒深雪も雷も顔を顰める。だが、深雪達は、そんな顔をされる筋合いはないと満場一致。

 

「そもそも、君達がここにいる目的は何? 深雪ちゃんを秘密裏に殺すこと? それとも、元凶がわかったから潰すこと? さっきの言い分だと、私を殺すことが目的だよね。いいよ、ほら、かかってきなよ。私は逃げも隠れもしないし、言い訳もしない。だって私がやっていることは間違う間違わない以前の問題。ここにいるだけ。そこに押入り強盗をしに来たのは君達。誰が悪いかなんて一目瞭然。平和のためにと掲げておきながら、やってることはただの罪。言い返せないから自覚ありってところも罪深いよね。で、何か言うことないの?」

 

 吹雪の挑発は続く。こちらからは手を出さない。だが、いい加減帰ってほしい。だから口で延々と言い続けているだけ。何も答えを出さずに、じっとここにいる黒深雪達は、今は確実に招かれざる客。

 吹雪は根負けなんて絶対にしない。そもそもこの海域から移動出来ないのだから、逃げることだって出来ない。故に、じっとされていても本当に邪魔なだけ。

 

「……言わせておけば……」

「言わせてくれるのは君達だって。自分の意見もまともに持ってないんでしょ。歪んだ平和を望むただのお人形如きが、何かに文句言う筋合いはないの。そろそろわかってもらえる? 時間の無駄。聞いてて気分も悪かったし、いざ反論されるとだんまりで聞く耳持たないとか、なんなの本当に。人の神経逆撫ですることが生業?」

「だったら、聞かせてくれよ。先も見ずに今ばかり良くして、明るい未来が待ってるってのかよ」

 

 黒深雪の言葉に、吹雪はほんの少しだけ目を開いた。なるほど、そう来るかと。

 自分のやり方が正しいということは、相手のやり方が間違っているということ。そのやり方の正当性を教えてもらおうかと、黒深雪はギリギリのメンタルで紡ぎ出した。

 

 実際、深雪と電にはそれが一番面倒な質問である。何せ、未来なんて今からどう転ぶかわからないモノへの保証を、今の段階で出来ているかという質問なのだ。そして、見えていないモノに対して、確証の持てる言葉は作れない。何を言ったところで否定出来てしまう。

 

「深雪ちゃん、アレ、あんなこと言ってるけど?」

 

 吹雪も少し面倒だなと思いつつ、自分は後始末屋をしているわけでもなく、この場所から動けないことから、世界の未来を語ることは出来ない。故に、深雪に話を振った。

 

「前にお前に言ったよな。あたしは、目指してる先が絶対に正しいかわからねぇって」

「ああ、言ったな」

「正直な話、今でもわからねぇよ。少なくとも、お前らのやり方は間違ってると言い切れるけど、じゃああたし達が合ってるのかと言われたら何とも言えねぇ。確かに、今だけを見てるよな。誰かが汚した海を掃除して、綺麗にして、次の戦いを生み出さないようにする。戦いのない明日を作るための仕事をずっとやってるだけだ」

 

 そら見たことがと、黒深雪は深雪を睨みつけた。だが、深雪はそれで止まらない。

 

「お前の言うような暗い世界のことは、理解が足りてないんだろうよ。あたしは世界の楽しさをまず知ったからな。お前の知ってるっていう世界を知らないのも確かだ。だから、あたし達はそこを知るために努力をする。そこまで言うならあたし達だって勉強くらいするぞ。あたし達は、まだ生まれたばかりの世界のひよっこだからな。時間をくれよ。知る時間を」

 

 雷は電に対して言った、世界の新人であることに乗っかった、学ぶ時間を寄越せという意見である。知らないことを罪と言いながらも、ちゃんと教えないで罪ばかりを取り上げるのは違うだろとも。

 

「……いや、あたしは良くない人間のことも知らないわけじゃあない。本当にダメなヤツってなると、阿手とか、その仲間とかになるけどな。なんだかんだ、あたしの知るクズは、お前んところの上司に繋がっちまう。偏っちまって悪いな」

「……」

「前の戦いでな、自分はか弱い人間なんだから艦娘が手を出すんじゃねぇよとマジで言われた。弱さを盾にして好き勝手やってるクズだ。お前の恨んでるような奴ってのは、多分そういう連中なんだと思う。でも、そういう奴らはこの世界で一握りなんだよな」

 

 あんな人間ばかりだったら、この世界は確かに真っ暗だろう。だが、そんな連中は世の中に一握りであることは昼目提督から聞いている。

 そういう暗い世界も、少しだけは知ったのが深雪だ。人間のいいところ悪いところは、一応見ている。

 

「世界がお前の恨んでるような人間ばかりなら、管理してやった方がいいだろうよ。でもな、そうじゃない人間も巻き込むのは間違ってる。あたしは、そういういい人間達の未来のために、せめて戦争を終わらせて、不安を取り除くために、後始末屋を続ける。具体的なことは言えねぇ。でも、時間がある時には世界のことを勉強する。それじゃあ、ダメなのか。あたし達には圧倒的に時間が足りてないんだが」

 

 人生経験が足りないのならば、今を未来のための学びを得るために使う。それが生きていくということ。

 

「足りねぇ。未来をまるで見てねぇ」

「じゃあ、お前達の望んでる未来が、本当に正しい結果になるか教えてくれよ。あたしはそういうクズも見た。ああいう連中は、管理社会になったとしても、胡座をかいて図々しくするぞ。そういうのはどうするつもりだ。粛清か? 命を掌に乗せて、無理矢理言うこと聞かせるのか? それでも変わらない奴は変わらないんじゃないのか? そういう意味では、お前らの望んでる未来だってあやふやだ。何も見えていないあたしが言うのも違うかもしれないけどな、なんでお前は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自分の悪い思い出ばかりを見続けて、世界はそれで染まっているように語って、平和な世界があることを見ておきながらも、出洲の作ろうとする管理社会を是とする。

 それを、未来を見据えていると言うが、実際その未来が来た場合に平和だと言えるかどうかを、今断言することは出来ない。

 

 だからこそ、今のやり方を尊重する。どうなるかわからない未来だけを見るのではなく。

 

「今を良くしていけば、自然と未来も良くなると思うんだよあたしは。悪いところをそのままに、未来を掴むことは出来ないからな。逆に、今を何もしなかったら、それが未来にも行っちまうだろ。だからあたしは、まず今を良くする。お前の言ってるような人間を見かけたら、どんな状況であっても見て見ぬフリなんてするつもりはない。でも、未来のクズを今どうにかすることは今は出来ねぇよ」

 

 今の深雪には、黒深雪や雷に対して怒りは少し薄れていた。言い聞かせるように、ただ自分の考えていることを語るのみ。それは強制でもなく、そう信じていることを伝える。

 

「後始末だってそうだ。戦争があるから人間の心が荒んじまうっていうなら、まずそれを無くさないとどうにもならねぇ。じゃあ、戦争が終わったらどうなるかって話だろうけど、そうなったら今度は、あたし達が陸に活動を拡げていけばいい。後始末は、海だけのモンじゃないんだろ。あたしは、海の後始末屋から、()()()()()()()になってやる」

 

 未来があやふやでも、そうして今を具体的にしていけば、おのずと世界は拡がるだろう。狭い視野は広くなり、見えていなかった場所も見えるようになる。暗い世界があるのなら、そうやって照らしに向かえばいい。

 

「まぁ、結局は人間のいいところに頼ってる考え方なんだろうよ。お前にはそれが気に食わないんだろうけど、あたしはもう、ここから考えは変えねぇぞ。管理したところで、結局は何も変わらない。それがあたしの意見だ。だったら、今を良くして、繋がってる未来もある程度良くした方がいいと思うぜ。今の平和を未来に維持する。それじゃあ、ダメなのか?」

 

 最後は少し訴えるように、黒深雪に問うた。管理社会になったとて、世界は今とは変わらない。今が平和で無いというのなら、これから先も平和では無い。

 

 黒深雪は、深雪に反論が出来なかった。管理社会になったら、自分の恨むような人間が管理され、罪もなくなると信じている。だが、今からその未来が見えるかと言われれば、わかるはずがない。その未来を見てきたわけでもないのだから。

 

 

 

 

 あやふやな未来なのは、黒深雪達も同じである。見定めていても、その時になったらズレている可能性は大いにあるのだから。

 




良くなると思って変えたら、蓋を開けてみたらむしろ悪化するなんてことはザラですからね。現実でもかつてあったように。
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