後始末屋の特異点   作:緋寺

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襟帆という女

『この襟帆提督とやら、()()()()()()()()()()()()?』

 

 丹陽が打ち立てた、驚くべき推測。それは、現在出洲と仲間関係を持っていると思われる襟帆提督が、第二次深海戦争時の技術部門の主任、温品の娘ではないかということ。

 実際に娘と会ったことがある伊豆提督は、それを言われて咄嗟に名簿の写真を凝視する。

 

「ハルカちゃん、その娘さんに会ったのはいつ頃なの?」

『今から……そうね、15年は前かしら。アタシそのときまだ学生だったもの』

『15年前ですと、この襟帆提督は、当時30歳は過ぎていそうですね。もしかして、体型とか違ったりしてます?』

『……そうだわ、それで気付かなかったんだ』

 

 伊豆提督は当時バリバリの学生。その時には母である鳳翔は既に他界しており、父に連れられて参列していたが、娘夫婦とは少しだけ会話をした。挨拶を交わす程度だが、それでも。

 その時に伊豆提督が持った温品の娘のイメージは、聞こえは悪いが()()()()()()()というモノ。旦那が長身で筋肉質、息子はまだ子供で、小学生くらいだったと記憶している。

 

 しかし、この襟帆提督は、痩せ細っているというわけではないが、当時からは少し離れた外見をしていた。その15年で何があったかは知らない。しかし、何かがきっかけで体型を変えたか、それとも()()()()()()()()()()()()()()

 だが、よく見てみれば当時と変わらないところがある。それこそ、目元などは当時のままだし、何より温品とそっくりだと今更気付く。意識しなければわからないモノである。

 

『そもそも、15年も経てば、人間は結構変わるモノでしょう。私達には馴染みのない話ですが、ほら、深雪さんとか大人の身体になれるわけですし、似てるけど印象違うみたいなことありますよね。意識しないとわからないモノですよ』

『そう、ね。まぁ、その、アタシの周りはあんまり変化がない子ばかりで何とも言えないんだけれど』

 

 チラリとイリスの方を見た様子。丹陽はなるほどと小さく納得した。イリスは外見的にも若く見られがちなので、何処かのタイミングから今の姿で止まっているように感じられるのだろう。妖精さんの力が入ってしまっているためか。

 また、昼目提督もあのテンションのまま今の歳になったようなモノであるため、伊豆提督からしたら、学生の時から何も変わっていないというイメージが強いようである。

 逆にイリスから言わせれば、伊豆提督は結構変わったとのこと。歳を取ったと言ったらぷんすか怒りそうなので黙っているようだが。

 

『話を戻すわ。襟帆提督は温品さんの娘さんだとしましょう。だとして、ここから知っておかなければならないのは、どうして今、出洲の仲間のように振る舞っているか、よね。実際は大本営にすら気付かれないように潜伏していたわけだけど』

「それは直接本人に聞かないとわからなそうね……グレカーレ、あの伊勢さんからは何も聞いてないんでしょ?」

「残念だけどねー。話してる感じ、鎮守府の全員が従ってるわけじゃなくて、あの黒いミユキやイカズチみたいなのはあっち側で、純粋に鎮守府に所属してる艦娘はこっち側って感じみたい」

 

 カテゴリーKは出洲側、カテゴリーCは襟帆提督側という考え方になるようである。その上で、カテゴリーCも、襟帆提督自身も、出洲に従っている()を出しているだけのようである。

 襟帆提督を筆頭に、忍んで忍んで忍び続けている。本来ならやりたくないようなことも、胸に重りを抱えながら反撃の機会を待っているのだろう。その経緯はまだわからないが。

 

 亡き父の遺志を継いで世界を護る職に就こうとしたら、たまたま出洲に巻き込まれたのか、最初から出洲の配下となるべく行動をしていたのか。前者ならまだしも、後者の場合は、いつ頃からそれを画策していたのか。どちらにしろ、相当な忍耐力が必要である。しかも、部下となる艦娘達に、第二世代の手信号を教えながらだ。部下達が全員同志であり、それを違えないくらいまでの信頼があることも重要。

 

『アタシ達がこうして議論している間にも、襟帆提督は危険に晒されているかもしれない。なるべくなら早く合流したいところだけれど……』

『急に動き出す方が、却って違和感に繋がるかもしれないですよね。襟帆提督が長年かけて作ってきた今の立ち位置を崩すわけにもいきません。恐ろしく細い糸を、どうにかこうにか手繰り寄せてきたようなモノですから』

『そう、なのよね。だからこそ、今は慎重に行かなくちゃいけないわ。マークちゃんにも、あくまでも敵提督として探りを入れてもらった方がいいわ』

 

 今うみどりが持っている情報は、襟帆鎮守府の近くに、出洲の今の拠点があるということのみ。襟帆提督に対して疑いをかけている段階からは変わっておらず、そもそも出洲とはどういう関係なのだと疑問を持っている状況だ。

 うみどりはあくまでも島の後始末、調査はそれを本業としている調査隊に任せるというスタンスを変えない方が、危険度は少ないのではと考えられる。

 襟帆提督が既に従っていないことを出洲が勘付いているかもしれないが、今何もしていないということは泳がせているということ。状況が変われば、途端に襟帆鎮守府が危険に晒されるということにも繋がる。それも当然ながら避けたい。

 

「私達は黒深雪の煙幕に対して探りを入れているって感じになるかしらね。あちらには吹雪の存在も知られてしまったわけだし」

『元々知っていてもおかしくないのだけれどね。一度そちらで大きな戦いがあったわけだし』

「そうですね。ただ、私としいちゃんがこうして何もなっていないところからして、お察しいただけますよね」

『ええ、何も起きていない。もしくは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 深雪が急にうみどりから移動を始め、辿り着いた場所に特異点のボスがいる。黒深雪からしてみれば、そのように感じ取ったであろうこの海域ではあるが、かつての戦闘のことを考えれば、この海域で何かおかしなことが起きたことは言うまでもない。

 とはいえ出洲はすぐに動く方ではない上に、阿手は自分の失態と感じ取り隠蔽を考えそうではある。何せ、この海域に現れた者達は、半数死亡、半数()()くらいの屈辱的な敗北である。出洲にも下手をしたら伝えていないまである。

 

 そしてさらに言えば、この場所が特異点Wであることからして、一種の聖域のような場所となっている。願いがあれば、敵すらも寄せ付けない海域。出洲という存在をまともに知らない吹雪であっても、『敵対する者』という認識があるため、余計なことをされたくないという点から、かつての特異点Wの時のように、『何も起きないでほしい』という願いを叶え続けることも可能である。

 

「実際、何も起きていませんよ。前の戦いで、数で来られると厳しいなという気持ちはありました。なので、私としいちゃんでいざという時に願うことにしているんですよ。侵入を禁ずる、とね」

「ああ、姐御からそう頼まれてる。願いの実を守るために力を尽くせってな。だから、今回は願わずにあたしが突っ込んだけど、数が多いってなったら、そもそもここから追い出すつもりだ。『ここが穢れませんように』って願うように、姐御から何度も言われてんだぜ」

「私1人では願いをそうやって叶えることは出来なかったんですけどね。しいちゃんが生まれてくれたおかけで、お互いの願いを叶えることが出来るようになったんです。願いの実も、()()()()をしてくれました」

 

 仲間が増えたことによって可能になった、互いの願いを叶え合うというちょっとした裏技。これにより、願いの実をより強く守ることが可能になっている。

 寂しさというモノを知ったことにより、吹雪はより強くなったと言えるだろう。

 

 特異点のボスは、精神面での成長をここで見せたのだ。それでも敵に対しては容赦はないが。

 

「少なくとも、この海域と願いの実に関しては私達で守ります。あちらにはまだ、願いの実のことは知られていないでしょうし、知られたとしてもどうにか出来ます。なので皆さん、あの不届者との決着はお任せしますね」

「つっても、ここに来やがった連中はあたしらでぶっ潰すからな」

「これは特異点としての在り方ですからね。そこはお任せください。殺すなと言われても、そこは保証出来ませんのでご容赦を」

『その海域で起きることには、アタシ達は何も言えないわ。そこはアナタ達の領海だもの』

 

 深雪達が去った後に敵が攻め込んできた場合は迎え討つと堂々と話す。入ってこれないように妨害はするが、あちらには困ったことに特異点の力が扱えるため、侵入してくる可能性は大いにあるのだ。その場合は確実にやる。

 数が多いとなると、吹雪でも苦戦を強いられるだろう。戦力として伊41が増えたとしても、出洲の実力は未知数。最強の特異点であろうと、圧倒される可能性がないとは言えない。現に、吹雪の拘束は伊203に効かなかったという前例がある。

 

「最悪、戦闘を回避することも考えていますよ。出来るかはわかりませんが、願いの実だけは確実に死守します。アレは誰にも破壊は出来ませんが」

『そうならないことを祈る……ううん、()()わ。みんなで』

「ありがたいですね。そんな優しい願いなら、きっと、いえ、必ず叶うでしょう」

 

 

 

 

 今は慎重に現状維持。やれることを確実にやり、そして、襟帆提督と連携を取りたいところだ。

 

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