後始末屋の特異点   作:緋寺

1046 / 1165
裏側にはまだ

 襟帆提督との接触などは、基本的には伊豆提督を筆頭とした提督陣に任せるとして、深雪達はもう少ししたら特異点Wからの帰投を始めることになる。名残惜しいが、それなりに話も出来ているし、深雪と電は願いの実を直に見て触れることも出来たため、そういう点では有意義な時間となった。

 

「ここで起きたことは、ハルカちゃんには伝わったな。あたし達が出来ることは、今はここまでか」

「なのです。電達が変に首を突っ込むと、混乱を招きそうなので、今は任せた方がいいのです」

 

 深雪達は当事者かもしれないが、あくまでもうみどりという組織の一員なのだから、今後の行動は伊豆提督の指示に従ってになる。当たり前だが、独断専行なんて絶対に許されることはない。いくら特異点と言っても。

 こんな少数で敵の本拠地に殴り込むなんて出来やしないし、襟帆鎮守府に接触はもっとよろしくない。後者は鎮守府間でのやり取りで何か変えていかねばならないだろう。

 

「いろいろ話すことが出来たとはいえ、コレで終わるのは、なんつーか……勿体無ぇよなぁ」

「うん、それは私も思ってる。せっかく姉妹が再会出来たのに、急に泥棒が横槍入れてきてさ。ちょっとグダグダになっちゃったよね。あーホント空気読まないんだねぇアイツら」

 

 吹雪も同じような意見を持っているようだ。夜はグッスリ眠らせてもらっているが、その後は朝食と世間話を少しした程度で、後は黒深雪達からの横槍。ただひたすら舌戦をしたという思い出ばかりになってしまっている。

 

 遠征というモノは仕事をしたら帰るというモノであろう。本来なら世間話なんてなく、事を済ませたらさっさと帰るが普通なのかもしれない。

 だが、今回のコレは少し違う。思い出作りをしたいというわけではないにしろ、吹雪との再会を楽しみ、これまであったことを語り、気持ちの整理をつけて、最後の戦いへと挑む心構えを先んじて作るというところもあった。

 聞きたかったことは聞けた上に、その本人が目の前に現れるというのは、情報という観点ではかなり大きなモノ。しかも、相手側からは、特大の裏情報──襟帆提督はこちら側──が提供されているのだ。

 

 だが、心情だけで言うのならば、これは気分の良いモノではなかった。せっかく楽しいお茶会に、難癖をつける輩が乱入したのと同じ。

 

「あー、そうだ、神風。ここで昼飯食ってから帰るくらいの余裕ってあるかな」

 

 そこで、メンタルリセットまで考えて、深雪はもう少しここに滞在する事を提案する。

 今回の遠征は5日間の予定。うみどりを出て1日半でこの海域に到着し、深夜に到着したことで一晩を休息に使い、そして今まで少しの間を過ごしている。

 これまで使った時間はおおよそ2日半ほど。同じような日程で帰投するのなら、まだ時間はあるだろう。余計な時間を使っているわけでもない。

 

「ええ、大丈夫よ。むしろ、ここから帰るのに今のメンタルじゃあ、あまりよろしくないでしょう。もう少しここで癒されて行った方がいいわ」

「ありがとな。吹雪、まだいてもいいかな」

「勿論! 世間話はまだまだ尽きないからね。しいちゃんも知りたいこといっぱいでしょ」

「おうよ。普通の人間の社会っての、聞いてて面白ぇからさ。あ、悪いところは無くていいぜ。楽しい話ばかりでたのむ」

 

 こうして、昼食の時間までをまったり過ごす事で、心を落ち着けてから、帰投を始めることにした。

 

 

 

 

 一方、うみどり。深雪達からの報告もあり、どのように進めていくかが悩みどころとなった。

 

「通信傍受は襟帆提督のところとのモノだけをされていそうね。となれば、マークちゃんや元帥との話は出来るかしら」

「ですね。おそらくですが、出洲は襟帆提督を自分の管轄には置いていますが、研究などなどで他に頭を回したくないでしょうから、大本営の動きをただひたすら出洲に伝えるスピーカー役になっているのではと思いますね」

 

 丹陽の憶測では、襟帆提督はあくまでも出洲側の内通者、軍がどのように今の戦いを続けているかをリークし続ける存在ではないかとしている。

 時には何かしらの指示は来るだろう。協力者として、カテゴリーKを軍内で活動をさせることで、成長を促しているというのもあり得る話。

 黒深雪と雷が出洲配下であっても襟帆鎮守府に所属する艦娘扱いになっているのだから、その線が太い。

 

「でも、そうなると少し疑問は出てきますけどね」

「黒深雪ちゃんと雷ちゃん、どうやって襟帆鎮守府の所属艦娘として登録されたか、よね」

「はい。今の軍……私達の頃でもそうでしたけど、艦娘の登録は正規の手順がありましたよね」

 

 今の軍が保持する艦娘戦力は、元は人間。そのため、戸籍謄本や、各種身分証明、そして仕事ということもあって履歴書などなど、社会人としての一般的な書類が多種必要となってくる。

 深雪や電のカテゴリーW、時雨や白雲などのカテゴリーMは、本来ならば切って捨てる必要がある現在の純粋種ではあるが、伊豆提督がかつての手順を踏んで、正式にうみどりの所属艦娘として登録している。例外的処置ではあるが、それでも規律に則った手段を使っているのだ。勿論、グレカーレのような第二世代だって、秘密裏に接触はしたかもしれないが、今は正しく軍のお抱え。登録もし直されている。

 

 だが、黒深雪と雷は、証言を全て鵜呑みにするのならば、一度死んでいるということでこの世界にいない存在扱いになる。そこからカテゴリーKとなって艦娘扱いで鎮守府に所属することになったとしても、そもそも艦娘ならば、所属する際に大本営に何かしらの登録が行っているはずだ。

 そこの書類なども、相当な誤魔化し、偽の戸籍などを使っている可能性が高い。そして──

 

「襟帆鎮守府に捻じ込めることもおかしな話よね。艦娘はまず軍への登録があるはず。大本営の機関に認可を貰った艦娘であるはずよ。アタシ達みたいな例外があったなら、何処の鎮守府にもそれが通達されるはずだもの。なのに、これまでずっと潜伏出来ていたということは、あの子達は通常の期間を通してやってきたということになる」

 

 黒深雪と雷が死を乗り越えて今の姿となった時、既に人間では無く、外見が艦娘となっていたのならば、今の艦娘のように人間だった頃というモノが証明出来なくなってしまっているはずだ。

 それなのに、何も無く襟帆鎮守府に配属されたということは。そう考えていくと、より恐ろしい考えに行き着く。

 

「採用担当にも出洲配下がいるわね……最初から艦娘の姿であっても捩じ込むことが出来てるんだもの」

「はい、私もそれは考えました。何処かの機関で艦娘化しましたという報告も、そこから襟帆鎮守府に配属させますという流れも、全部が仕組まれていたモノと考えられますよね」

「……大本営にはまだまだ内通者がいるってこと、よね。いや、大本営というよりは、もう少し専門職に入ったところに」

「困ったことに、人間の敵もまだまだ多いようです。阿手のようにあまりにも酷いやり方をしているわけでなく、今の社会に溶け込むように、しかし世界を自分達の都合のいいように動かすように」

 

 かつて出洲は、研究の邪魔をされたくないから地下に篭ったというようなことも話している。とにかく邪魔をされたくない。だから、自分達の平和が正しいと信じていながらも、極限まで隠れ潜むというのは得意だし、手段としてはアリと考えている節がある。

 今はもう、阿手のせいでしっちゃかめっちゃかになってしまっていることもあるため、堂々と正面から宣戦布告をしてきたようだが。しかも居場所まで曝け出して。

 だとしても、出洲以外の配下は、襟帆鎮守府以外は、まだまだ潜伏させるという意志が見える。ここで特異点を排除すれば元通り。コレまでの通りに続けていかねばならないのだから。

 

「探すのは大変そうね……これまでずっと痕跡が無いんだもの。まぁ、襟帆鎮守府への採用担当が誰かとか、そういうところから芋蔓式に探し当てるしかないわよね」

「ですね。昼目さんならその辺りを軽々やってのけるんじゃないですか?」

「ええ、マークちゃんのそこは信用出来るわ。でも、これでまた仕事が増えちゃうわ。もう結構長いこと、阿手の残した研究成果を調査してると思うけれど」

 

 昼目提督もまだまだやることが多い。この島で発見された、悪虐非道な研究の成果。そこから、深海棲艦の姿に変えられた人間を元に戻す方法などを調査している真っ最中。

 研究職ではないにしろ、断片的な部分が拾えれば、そこから専門職に投げるということも可能になる。それを調べ上げ、纏めることで、今後に繋げることが出来るだろう。

 

「でも、話さないよりは話しておいた方がいいわよね。元帥も交えて、また話をした方がいいわ」

「ですね。大本営側の闇を暴くなら、他にも適任な人がいますから。有栖さんにも出てもらいましょう」

 

 キレモノの有栖提督も、協力を求めたならば、確実に手を貸してくれるだろう。今でも島の後始末にQE姉妹を貸し出したままということもあり、出洲との戦いに関しては、積極的に協力してくれるはずだ。

 これが愛娘である桜を元の姿に戻すきっかけとなるかもしれないのだから。

 

「ここからは、アタシ達提督の戦いよ。どうにかして、出洲を追い詰めていきましょう」

「そうですね。私も勿論お手伝いしますから」

「よろしくお願いね。第一世代の知見、当てにさせてもらうこともあるかもしれないから」

「ええ、内側すぎるところはちょっと手が出せないかもですが、長年の経験値が役に立ってくれると信じますよ」

 

 

 

 

 ここからは、艦娘ではなく人間の戦い。頭脳戦と言えるかは定かではないが、裏側でどれだけ詰められるかになる。

 




黒深雪と雷が鎮守府に配属されるまでに、いっぱい通る道があるはずなので、その道にいる者達全員が容疑者になります。その全員がこちら側ならいいんですがね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。