深雪達が掴んだ情報から、大本営の裏側、戦闘には関係のない艦娘の採用担当や各鎮守府への配属を決定する部門などにも、出洲の配下が潜んでいることは確実だと考えた。
そうでなければ、襟帆鎮守府に黒深雪と雷が配属されるようなことはなく、遠征と称して島に監視に来たり、特異点Wに来たりなんて出来やしない。管理している側に出洲の息がかかっていないと、ここまで自由に行動出来るわけがないのだ。
現在それに気付くことが出来ているのはうみどりのみ。あちら側がうみどりにしか接触を仕掛けてきていないというのもあって、機密の最前線を行く部隊となってしまっている。
「元帥閣下、ご報告が」
『胃薬案件?』
「はい」
その結果を全体に展開するために、伊豆提督は早速対談の場を設ける。通信傍受の可能性はあるが、それはあくまでも襟帆鎮守府に対して通信を仕掛けた時だけであろう。
常にうみどりの通信を盗み聞きするようなことはしていないと考えられるのは、既にうみどりと瀬石元帥がテミスを筆頭とした穏やかな深海棲艦の件で連絡をしているにもかかわらず、それに対して黒深雪と雷が初見の反応をしているところから。
とはいえ、大本営の裏側に出洲の配下がいるというのなら、それらが通信傍受をしている可能性は充分にある話である。そうでなくても、元帥との対話なんて普通に議事録が残るレベル。それをリークすることは容易であろう。
そうされてもいいように、むしろこれが宣戦布告とでも言うように、その情報をしっかりと展開する。聞かれていないなら尚良し。
「他にも関係者と打ち合わせがしたいのですが、よろしかったですか?」
『そこまで大事になるのか。よかろう、すぐに準備をしようかの』
「はい。よろしくお願いします。こちらでもある程度は揃えますので」
参加メンバーは、今回の事件に関わった全提督。おおわしの昼目提督は勿論、保前提督や有栖提督も参加してもらう。こだかのタシュケントにも聞いてもらう価値はあるだろう。ここに純粋種のボスである丹陽がいたとしても、今後のことを考えれば、こだかもいろいろ知っておいて損はない。
『では、1時間ほどでもう一度集まろうかの』
「はい、それでお願いします」
久しぶりのトップ会談。今回は、出洲に一気に詰め寄りたいところ。
提督達の集まるオンライン会議、まずは伊豆提督から現在の島の状況、これまでのおさらいを語る。
「阿手が占拠していた島の後始末は、現在18日目。みずなぎ、うみねこの2部隊の手助けもあり、かなり進んでいます。終わりが見えてきたと言っても過言ではありません。後始末の最中に現れた穏やかな深海棲艦……今は『穏健派』と呼称しますが、そちらも率先して手伝ってくれているため、作業は非常にスピーディーになっています」
『うむ、儂も島の王とは話をしたが、彼女にならばその島を任せられよう』
「ですが先日、出洲の遣い、メッセンジャーとして2人の艦娘がやってきました。その時は素性を隠す姿をしており、我々に今の出洲の拠点の位置を伝るため、そして、島が平和であるかを監査するためと」
話していても、伊豆提督はあの2人が少々上から目線だったことを思い出す。誰かに許可をしてもらう必要はあるだろうが、少なくともそれは出洲ではない。それなのに、平和かどうかを監査するというのは、自惚れが過ぎるのではと。
『うちの響が気持ちよく論破したそうっすね。あの後、滅茶苦茶笑顔でしたぜ』
「でしょうね。うちの時雨ちゃんもだし、黒井のお母様もスッキリしたように見えたわ。溜まっていた鬱憤を吐き出すことが出来たみたいな感じ」
昼目提督が少し楽しそうに語る。あの後の響は、何処かキラキラしていたらしい。コンディションが上がったとも言う。
その態度から、舌戦によってボコボコにされているのが黒深雪と雷である。ここだけでなく、特異点Wでも同様に言い返すことが出来ないレベルで正論パンチを受け続けている。
「それは一旦置いておいて、そのメッセンジャー達が寄越したデータには、確かに出洲の本拠地であろう無人島の在処が記されていました。その場所が、ここになります」
タブレットを操作して、全員に共有する。身を乗り出すように見ている保前提督、遠目だが目を細めて凝視している有栖提督、そして、一瞥しただけで何を言いたいのか察した瀬石元帥。
『ふむ……近場の鎮守府は?』
「それが本日の本題につながります。この無人島に最も近い鎮守府は、襟帆鎮守府です」
その名前を聞いてピンと来たのは保前提督だ。何せ、つい最近とは言わずとも、理由があってその名を見ることになったのだから。
『襟帆って、うちの街で迷子になった艦娘の所属してる鎮守府か』
「ええ、先日うみどりが休暇で長く滞在させてもらった時に発見された、別個体の深雪ちゃんと雷ちゃんが所属している鎮守府。そして、このデータを持ってきたメッセンジャーがまさに、軍港都市で迷子になっていたあの2人だった」
保前提督はマジかと頭を抱えて溜息を吐く。またもや敵の侵入を見逃したようなモノである。しかし、それについては瀬石元帥からすぐさまフォローが入る。
『敵かもしれんが、軍港にはそのためにおったわけではないんじゃろう。情報収集か、それとも本当に遊びに来ていたか』
「わかりませんね。直接会った深雪ちゃん達が、敵対の意思を感じていませんでしたから。今は余りある程の敵意を持っていますが」
軍港都市は、内部で事件を起こさなければ、どんな者でもやってきていい、いわば
そのため、保前提督には罰則などなどは考えられていない。むしろ、それで気付けという方が難しい話である。カテゴリーKではあったが、それを確認することなんて出来るわけがない。『迷彩』避けはしていても、真正面から堂々やってこられたら、逆に何も出来ない。
「そこで、襟帆鎮守府は出洲配下の鎮守府であろうという憶測が出てきました」
『まぁ、それは当然じゃの』
「ですが、そのメッセンジャーである2人は、カテゴリーK……しかも、本人から直に、自分達は一度死んでおり、蘇って今の姿になっていると聞いています。その場合、戸籍などは失われているのに、さも当然のように鎮守府所属の艦娘として運用されている。身分証明無しの、謎の人物ですよ。そんなこと、普通は出来ませんよね」
『出来るわけがない。そこは厳格に取り決められている。命を扱う仕事なのだから、慎重に進めている』
有栖提督もそこは保証する。戸籍のない者は艦娘にはなれない。一応裏ワザ的なやり方もあるようだが、そこは今はノイズとなるため語らない。
『……なるほど、そういうことか。艦娘の採用担当に、出洲の息がかかった者がいる、ということだ』
「ええ、そういうこと。そうで無ければ出来ないことが沢山あり過ぎる。
すっと瀬石元帥が胃薬を飲んだのがわかった。阿手の息がかかった裏切り者の提督を一掃した時に、軍内にいる裏切り者は一掃したつもりだったのだが、それでも足りなかったという事実に、瀬石元帥の胃が悲鳴を上げ始めている。
『表ばかり気にしておったが、表におるのならば裏にいてもおかしくはないのう。確認していたつもりじゃったが、出洲の配下は隠れ潜むことが上手すぎるわい』
「はい……当人も、どうせ研究を邪魔されるだろうから、隠れてこっそりと続けると言っていましたからね」
『軍港の地下とかな……』
保前提督もその時のことを思い出して大きく溜息。とにかく隠れ潜み、その手を着実に拡げている。
「元帥閣下、再び軍内の掃除が必要かと思います。提督もそうですが、我々の手が届かない裏方、事務職の者まで、一通り目を通すべきです」
『うむ、それがよかろう。こちらで手を回しておく』
「よろしくお願いします」
これ以降は不要かもしれないが、少なくとも、軍内の情報のリークは止まるだろう。
自分達の拠点の情報を教えれば、こうなることくらい、出洲なら予想が出来ていたとは思われる。もう軍の情報はいらないという自信の表れか、それとも特異点さえ斃してしまえばこれからはさらに前向きに平和のための行動を始めるのか。
どちらにしろ、厄介であることは変わりない。明確な宣戦布告であり、今の世を混乱させることになるのだから。
『我々も裏で動こう。元帥閣下、よろしいですね?』
『うむ。有栖君に一部依頼するつもりじゃったよ。よろしく頼むぞ』
『お任せを』
裏側のことならばと、有栖提督も乗り気だ。キレる頭を存分に使い、内部に蔓延る出洲の配下を根こそぎ洗い流そうと画策している。
それもこれも、愛する娘達のため。未だに元に戻る手段が見つからない桜のことを思うと、その関係者となり得る者達には全員罪を償ってもらわねばならないと感情が先立ちそうになる程である。
「そして……襟帆提督についてです」
『うむ……出洲の配下を所属させていることを知っておるんじゃな』
「はい。そうなのですが、ここから話が複雑になりそうなのです。この通信、傍受されていないと確証が持てるでしょうか」
『そう言われると、何とも言えんのう。内通者がおるんじゃったら、これも今は筒抜けかもしれん』
「話しにくいですね……何処までがあちらの思惑なのか」
少なくとも、襟帆鎮守府の艦娘がハンドサインを使ってこちらに情報を流してきていることは言葉で伝えることが難しい。ならば、画面に書いて見せるしかないか。
そのため、まずはお茶を濁すようなことで話を纏めに向かう。
「襟帆鎮守府に、直接接触することを考えています。艦娘を送り込むわけではなく、通信というカタチですが」
『ふむ……まぁ、出洲の拠点の情報を手に入れたのならば、疑いをかけるのは当然のことじゃろう。それも見越しているだろうから、直接というのも悪くはない、か』
「むしろ動かなすぎることが怪しまれる気がします。慎重に行くにしても、そろそろ動かなくては」
襟帆提督との直接の対話。これによって、何が動くか。
襟帆鎮守府の情報がリアルタイムで漏れていないことを祈るしかない。