後始末屋の特異点   作:緋寺

1050 / 1166
仕組まれた配属

 伊豆提督が襟帆提督とフリだけの舌戦を繰り広げる裏側で、丹陽と日向によるハンドサインでの対話は続いている。盗聴されている中で、2人の手は雄弁に現状を語っていた。

 襟帆提督は本当に出洲にはついていない。そして、この鎮守府は完全に内部で分裂しており、半数がカテゴリーK、そして半数は襟帆提督につくカテゴリーCである。さらに、整備士として襟帆提督の息子が所属しており、協力者として活動している上に、鎮守府外部では襟帆提督の旦那がジャーナリストとして秘密裏に情報を得ていた。

 

『艦娘達は、不満が無いのか』

 

 丹陽は問う。この鎮守府の現状は、明らかにおかしい。とはいえ、目立たない鎮守府という大本営からの評価があるように、活動内容はあくまでも普通だった。

 出洲のために全員が尽くすようなことはしていない。艦娘として、世界の平和を守っていればいい。やっていることは、他の鎮守府と何ら変わりない、領海の平和を守ることである。

 当たり前だが、この海域だって深海棲艦は生まれるのだ。むしろ、出洲の研究のせいで他より穢れが濃いまである。鎮守府としては、平和のためにやらねばならないことをキチンとやっているというイメージは強い。

 

 しかし、要所要所で鎮守府の運営とは離れたことをやらされている。それこそ、平和を守るために撃破した深海棲艦の亡骸は、後始末屋ではなくて無人島の()()に持っていくことになっている、とかだ。

 何も知らないならば、近くに業者があるおかげで後始末屋に依頼する必要もなくラッキーくらいに感じるかもしれないが、その材料を使って研究を続けていると知っているのならば、何故こんなことをしなくてはならないと感じるはずである。

 他にもいろいろと、鎮守府ではやらないようなことをやらされている。そして、それがカテゴリーKから監視されているような状態で。

 

『無いわけでは無い』

『だが、納得はしている』

 

 日向からの返答は、やはりというもの。不満を持たない艦娘はいないというのが現実である。

 それでも、襟帆提督が上手く宥め、そして諍いが起きないように取り纏めている。その際に、カテゴリーCをこちら側に誘い、そして協力者として活動してもらっているようだ。

 

 そもそも、カテゴリーKも鎮守府内で大きな顔をしているわけではない。普通の艦娘のように、他の艦娘との交流もしている。あの黒深雪や雷だって、鎮守府の中で孤立しているようなことはない。カテゴリーCのことを見下しているわけでもなく、しかし自分達とは違う存在なのだと、関係性に線引きしているという程度。仲が悪いわけではない。

 それもあって、襟帆提督も、その仲間となっているカテゴリーCも、出洲に従うのはやめてほしいと切に願っている。それを口に出すことはしないし出来ないが。

 

『彼女らを、救いたい』

 

 日向から、こんなことが語られる。カテゴリーKも救えるものなら救いたいと。出洲という存在に利用されているようなモノであり、しかし信念はあちら側。救われたことにより恩を感じ、彼の力になりたいと本気で思っている。それが矛盾だらけであっても、どうしても恩が呪いのように付き纏う。命という人間にとって最も重たいモノを救ってくれた恩は、計り知れない。

 

 故に、救いたいと願った。どういうカタチででも。この鎮守府で共に行動をしているのも、この世界のいいところを見てもらうためだ。

 カテゴリーKは、誰も彼もが、世界に理不尽な扱いを受けた者ばかりなのだという。黒深雪と雷は、幼い頃に狂気の犯罪者に理不尽な死を与えられた上に、その亡骸を犯されるという屈辱的な事件に巻き込まれている。他も同じように、望まない死を与えられた者だそうだ。出洲はそれを救い、命を取り戻した。

 

『明るい世界を、知ってもらいたい』

 

 故に、襟帆提督は軍港都市での休息を与えている。人間の世界の、本来の明るさを知ってもらうために。出洲自身にも進言し、鎮守府に閉じ込めておくだけではダメだと。

 出洲自身も、それを拒むことなく、否定することもなかった。カテゴリーKに今の世界を知ってもらうことはいいことだと判断し、襟帆提督の進言を許可している。

 

 そういうところは不思議と大らかなのが出洲である。阿手のように完全に支配し、自分の思い通りにならないと気が済まないというわけではない。自分に協力はしてもらっているが、邪魔さえしなければ好きにしてくれればいいという放任主義。時々対面し、普通に話をする程度。

 縛りつけるわけでもなく、やりたいことが平和を求めていることであるため、カテゴリーK達は出洲のことを悪い存在とは思わない。

 

『歪んだ平和は、あってはならない』

『同意する』

 

 日向は、出洲の求める平和は歪んでいると認識している。管理社会なんて、まともに出来るわけがなく、特異点に対してのやり方も、求めている平和とはかけ離れているのだから。

 

『どうして、今のようになってしまった?』

 

 丹陽は続けて問う。最初から出洲配下として活動していたわけではないのではと考えた。

 日向は襟帆鎮守府設立の段階からいる、初期艦のようなモノである。この鎮守府がどのように運営されてきたかを、これまでずっと見てきているはずだ。

 

()()()()、仕組まれていた』

 

 日向の返答に、丹陽はピクリと眉を動かす。

 

『鎮守府が出来た時から、出洲の手の者が配属されていた』

 

 つまり、この鎮守府は最初から出洲のために作られており、軍の内部事情をリークするために設立されたようなモノだったということになる。

 しかし、ここで少し興味深いことも出てくる。

 

『提督は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 第三次深海戦争が始まる前から、襟帆提督は出洲のことを知っていた。どちらが先かはわからない。少なくとも、()()()()()()()()()()()()()、提督となったとされている。

 故に、この鎮守府を取り纏めることになって、出洲に最も近い位置にいることが出来た。そもそもが出洲の息がかかった者が、どの鎮守府に誰を置くかを決めていたようである。出洲の拠点がある無人島の近くには、同志を置くように細工していたということだ。

 他にもあるであろう拠点の近くにある鎮守府は、基本的に最初から息がかかっていると考えた方がいい。そしてそれは、()()()()()()()()()。阿手の拠点の近くには普通の提督を置いていたようで、軍港都市はどちらかといえば阿手寄りだったことで、息がかかっていない提督──保前提督が置かれたようである。

 

『何故』

『すまない。わからない』

 

 襟帆提督が既に出洲を知っていた理由は、伊勢や日向、その他の艦娘達にも明かされていない。だが、わかっているのは、最初から同じ平和を求める者として演じ続けているということだ。一家総出で。

 これは、そのうち聞けることかもしれないし、襟帆提督が最後まで沈黙を続けて墓まで持っていくかもしれない。それをしつこく聞くことはするつもりは無い様子。

 

『私は、現状打破の手伝いをしている。出洲のやり方は気に入らない。だから、提督を手伝う。それだけ』

『了解した。健闘を祈る』

 

 最後は、そうとしか言えなかった。

 

 

 

 

「……そこまで彼を立てる理由がわかりません」

『では、堂々巡りということですね。貴方達に我々が理解出来ないように、我々に貴方達が理解出来ないのです。求める平和のカタチが違うことは、これでよくわかったでしょう』

「ええ……嫌という程に」

 

 伊豆提督と襟帆提督の対話はクライマックス。どれだけ話しても噛み合わない、平行線上の議論は、伊豆提督側から切り上げるかのように終わりを迎える。

 会話がキャッチボールにならない、ように見せかけた、嘘のぶつけ合い。しかし、襟帆提督の語る上っ面だけの平和論は、出洲の持つ平和論を的確に表していた。その歪んだ信念だけはよくわかった。

 

『これからどうするつもりです。我が鎮守府を襲撃でもしますか。彼との戦いに、我々は邪魔になるでしょう』

「……出洲との戦いを邪魔するつもりならば、そうせざるを得ません。こちらには、大本営からの許可も出る。アナタ達も……以前の事件と同じように、裏切り者と認定されるでしょう。そうしたら、戦うための理由が出来てしまう」

『ならば、受けて立ちましょう。最後は結局、そうなってしまうのですから。彼もそれを見越して、自ら拠点の位置をそちらに渡したのでしょうね』

 

 そうしなければ、この戦いは終わらない。最終決戦の際には、襟帆鎮守府との戦いも避けては通れないモノである。

 

 勿論、戦わなくて済むのならば、それでどうにかする。襟帆提督を解放する手段が見つかれば、それを真っ先に実践するだろう。

 しかし、最も近くに出洲がいることがよろしくない。何かしたら、確実に粛清されるだろう。特異点に絆され、堕落したと、とんでもない難癖をつけられて。

 

『では、また。屈することがあるのなら、連絡をください』

「……有り得ませんね。我々は、理不尽な平和を拒み、特異点とも共に生きる世界を目指しているので」

『残念です』

 

 最後に襟帆提督は、小さなメモ書きをチラリと見せた。

 

『わたしのむすこにこえをかけて』

 

 今は丹陽しか知らない情報、整備士であるという襟帆提督の息子が、何かを知っていると仄めかす言葉。そして、そのまま通信が切れた。

 

 

 

 

 次に話を聞かねばならないのは、襟帆提督の息子、鎮守府で整備士をしている者である。だが、どうやって声をかけるべきか。

 




鎮守府の整備士に声をかける方法なんて、非常に限られているんですよね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。