襟帆鎮守府の整備士である彼女の息子と話をする手段を考えるうみどりの面々。あの場でわざわざ、話してほしいと伝えてくる程なのだから、きっと手段があるのだろうと考えている。しかし、それが簡単には思い浮かばないから困っていた。
そして、そういうことは専門家に聞くということに落ち着き、調査隊と相談する方向となる。調べることについて最も詳しいのは当然のこと。
「いやぁ、ホント息抜きは重要っすね! うちの飯が不味いわけじゃあねぇけど、ここの飯は絶品すぎますわ」
「ええ、本当に。ここ数日、ずっと根を詰めていましたからね。染みるようです」
うみどりに迎え入れられてすぐ、工廠厨房で食事を提供してもらっている昼目提督と鳥海。やはり阿手の遺した研究成果の読破には相当な神経を使っているらしく、そこから見えてくる映像なども凄惨なモノが多く含まれているために、メンタルダメージが酷いモノだった。食事を摂らずに進めていたわけではないが、ここ最近はずっと軽めに済ましていたらしく、ガツッとしたモノを食べるのは久方ぶりだという。
モリモリと食べる姿に、セレスやラ級姉妹は満足げ。あまり見ない者が嬉しそうに食べる姿は、提供する者として嬉しいようである。特にラ級姉妹は、同胞だけでなく人間に喜んでもらえていることが喜ばしいようだ。
「コレモ食ベテ」
「コッチモアル」
「コレモ美味シイ」
「おう、ありがとな。マジで美味ぇよ、よく頑張ったな」
ラ級姉妹が昼目提督に次々と出していき、それに応じて昼目提督は笑顔で食べ、美味しいと感想を溢す。言葉は通じていないが、ニュアンスは伝わっているようで、ラ級姉妹はより一層、食事を作り、提供することに対して喜びを持つようになったようだ。
セレスのように食の探究をしているわけではない。作り、仲間を笑顔にすることに興味を持っているのだ。純粋な深海棲艦とは思えないような性質を得ているのは一目瞭然。
そんな深海棲艦達からの食事の提供を、伊豆提督達も受け取り、休憩をしつつ話を進める。
「マークちゃん、落ち着いたら話をしましょうか」
「うす。イリスから多少聞いてますよ。敵の懐に入ってる整備士と話がしたいんですよね。なかなか難しいことじゃねぇですか」
「ええ、後始末屋のアタシ達にはどうすればいいのかわからなくて」
手渡された昼食を食べて、美味しいと表情とサムズアップで応えると、やはりラ級姉妹は喜びながら厨房に戻る。非常に穏やかな風景に、心も癒されるというものである。
食事を終え、一旦執務室へ。昼目提督と鳥海も腰を落ち着け、改めてここからの流れを相談することになる。
「襟帆提督は、通信は盗聴されているけど、映像は見られてないっつってたんすよね」
「ええ、そのおかげで、筆談とハンドサインで情報提供をしてもらえたわ」
「じゃあ、
盗聴だけはされているとしても、そもそも外部と通信していることも知られていると考えるのが妥当。そのため、使える手段が一気に限られる。
「多分整備士んトコの通信もダメっすよね。全部が聞かれてるって思った方がいい。モールス信号とかワンチャンと思ったけど、不審な通信、電波は、違和感覚えさせるのに充分すぎます」
「ええ、それはアタシも考えたわ。それこそ、通信の感覚でモールス信号にしたりとかね。でも、あまりにも不自然だもの。何話してるかもバレるレベルよね」
「うす。だからそもそも通信を使うのはよした方がいいっすね」
そこは素人考えでもわかること。通信はダメ。わかりやすくバレる。襟帆鎮守府の安全のためにも、まずその手段は除外。
「白雪のハッキングも流石にバレますかね。アクセス履歴を消せても、アクセスしたということを現在進行形で見られてたら意味が無ぇですから」
「そう、よね。誰も見ていないならまだしも、履歴が無くても、見られてるのは回避出来ないわ」
ハッキングは確かに痕跡は無くそうと思えばいくらでも無くせる。だが、痕跡を作る瞬間だけはハッカーでも無防備だ。いくら白雪が凄腕であっても、犯行の瞬間を見られていたら意味が無い。
「そうなると、アナログの手段になりますよね。手紙とか、潜入とか。調査隊も、時には潜入工作とかすることもあります」
「ああ、調査隊の調査は罪にならない、だったわよね」
「うす。今回はテロ行為に対しての調査になるんで、オレ達の行動は罪に問われることはありません。ぶっちゃけ、真正面からぶち当たっても文句を言われないくらいは出来ます。法を超越してるんで」
調査隊の強みはここだ。本来ならば不法侵入、器物破損、最悪傷害まで行くことがあっても、相手が
だが、本当に真正面から行ったら、襟帆鎮守府の安全が保障出来なくなる。今回の作戦は、襟帆鎮守府の安全をそのままに、情報を抜き取りたい。
「でも、オレらは目立ちすぎる。顔が知れてるとかじゃあなく、単純にうみどりとつるんでるから、最大級に警戒されてるのは目に見えてること。だから、オレ達はちょいと普通とは違う策を使います」
「違う策? そういえば、機密とかもあるから、アタシ達は大胆な調査方法以外はあまり聞いたことが無かったけれど」
ここで、昼目提督は思いつきそうで思いつかなかった手段を提示する。合図を送ると、鳥海が被っている小さな帽子の中から、1人の妖精さんが姿を現した。
その妖精さんは、見た目からして少々特殊。工廠の妖精さんでもなく、艤装の妖精さんでもない。というより、
「この子は……?」
「調査隊で育った特別な妖精さん、『諜報妖精』っす。ハルカ先輩は今回の協力者なんで話しますけど、これ、かなりヤバいレベルの機密なんで、他言無用でお願いします」
諜報妖精さんがビシッと敬礼をする。これはこれはご丁寧にと伊豆提督も敬礼で返した。
「名前からして、そういうことをする子、ということよね」
「はい。諜報活動をコレでもかと叩き込まれた精鋭っす。少し特別なことも出来るんすよ」
「特別なこと?」
すると、諜報妖精さんが、何やらボタンのようなモノを懐から取り出した。そして、それをカチカチと操作する。
その音からして、何をしたいのかがすぐにわかった。
「……モールス信号?」
「はい。というか、それでも解読される可能性があるんで、コイツがやってんのは上杉暗号っすね。なので、解読出来る方が少ないはずっす」
「アタシは知らないわね……丹陽ちゃんは?」
「流石に私も知りませんね。和製モールス信号ならわかったんですが」
丹陽の知識すら隙間を突かれる、調査隊ならではの暗号通信。それを持ち出してきた。
「そちらの主任は筆談が出来ますよね。うちのコイツは、これでオレ達と会話が出来るんすよ。当然、こちらもそれを知っていないと何をやってんのかはわかりません。界隈でこれが理解出来るのは、多分うちだけです」
「でしょうね。出洲も知らないと信じたいけれど」
「それはオレもっすね。もしバレたとしても、何を送っていたかがバレなきゃまだマシっすから」
そればっかりは出洲の知識がそちら側に向いていないことを祈るしか無い。そもそもバレないようにするのだが。
「コイツを送り込みます。潜入技術も叩き込まれている上に、妖精さんである利点もあります」
「もしかして、変装?」
「うす。工廠仕事なら出来るようにされてるんで、変装して工廠妖精として潜り込んで、万が一の時は堂々と鎮守府の中を見て回ることが出来ますね」
妖精さん同士ならどうかはわからないが、少なくとも艦娘には判断が難しい存在となっている。
鎮守府に出洲がいるわけでもなさそうだが、厄介なのはカテゴリーKにその辺りが細かく理解出来る存在がいた場合だ。諜報活動を得意とする妖精さんの存在は、一般に明かされていないどころか、伊豆提督ですら今初めて知ったレベル。提督間でも秘匿されている存在ではあるが、だからこそ、不信感を持たれてもおかしくない。
「あとは、コイツをどうやって襟帆鎮守府に潜り込ませるかっすね」
「近くまで運ぶしか無いのかしらね……」
「ええ、流石に空挺部隊の如く空から降ろすのは危ないとか以前にバレますからね。近場まで運んで、自分の足で行ってもらうしか無いと思います。どれだけ時間がかかるかはわかりませんが」
「そうね。なら、調査隊はその件について動いてくれるってことでいいかしら」
「うす、任せてください。阿手のデータ解析しながら、そっちも進めますよ」
調査隊の負荷がさらに上がるのだが、昼目提督は大丈夫だと胸を張る。艦娘代表の鳥海も、その程度ならばこれまでにもあったことなのでと微笑む程だ。
「それじゃあ、よろしくお願いね」
「うす」
ここからは調査隊が島を離れ、襟帆鎮守府への潜入工作を開始する。これにより、内部情報を確実に手に入れることが出来るはずだ。
時間をかけてでも、全員が安全に事を成すことが重要。出来ること総動員で進めていく。
調査隊は島での仕事がおおよそ終わっているため、ここからは別行動になります。むしろそちらの方が重要。