後始末屋の特異点   作:緋寺

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彼岸花

 深雪達が休息を終えた時には、周りはかなり暗くなっていた。ここから少し進み、日が変わって少ししたくらいに到着する無人島で休息。予報よりも早く雨が降らないことを祈り、暗いうちに出発、そして帰路をゆっくりと確実に進む。

 

「どれくらい寝てた?」

「大体2時間くらいかしらね。往路の時と同じくらいよ。仮眠としては充分じゃないかしら」

「なのです。少しスッキリしたのです」

 

 軽くストレッチしつつ、夕食の後始末をしてから移動開始。暗い中をひたすら航行というのは眠くなる道のりであることは往路の時点でよく理解させられているが、今回も適当に話をしていることで、その単調な航路を華やかなモノにする。

 全員が起きている時に話すことは、それなりにまだある。グレカーレの持つ第二次の記録や、神風や三隈の知る人間の社会の話、あとはうみどりで起きた楽しい出来事などなど。悲観的な話はせず、笑って済むような話ばかりをすることで、航行中のテンションを落とさないように気を付けていた。

 

「そういやさ、吹雪から球根貰っただろ。彼岸花の。やっぱ全部真っ赤に咲くのかな」

「どうかしら。彼岸花にも多少は色があるもの。赤だけじゃなくて、ピンクやオレンジのもあるらしいわよ。白いのもあるけど、ちょっと品種として弱いみたい。特異点の彼岸花だからどれも強いと思うけどね」

「どうせならさ、全部真っ赤ってより、ところどころ色が違うとかもいいよなーって」

「深海の要素が混じると、青くなるっていう噂もありますわ。かつて戦場で青い彼岸花を見た方もいるのだとか。それはそれで幻想的な雰囲気になりますね」

「不気味に見えるかもしれないけれどね。一面真っ青な彼岸花畑はちょっと怖いわよ」

 

 今の話題は、吹雪から貰った穢れを吸い取る彼岸花のこと。数は多いが、だとしても植えられる場所なんて限られてくる。そこから徐々に増やしていき、島全体の穢れを取っていきたい。

 最終的にどんな風景になるかはわからないが、港から見える場所に一面枯れない彼岸花が咲いているとかあったら、絶景になりそうではある。そういう風景は、心の闇を洗い流すことにも一役買ってくれるだろう。

 島で協力的になったカテゴリーY達は、正しく反省をしているからこそ、心に大きなダメージを受けている。それを、花を育てることで、花を観ることで、少しでも癒されるなら幸いだ。

 

「育てるのって簡単なのか?」

「どうかしらね。特異点の彼岸花だから、普通の彼岸花とは違うとは思うんだけれど、ある程度はお世話をしないと枯れてしまうだろうし、放っておいていいモノでもないとは思うわ。そこのところはやってみないとわからないかもしれないわね」

「吹雪のことだから、お手軽にしてくれてる感じはするよな、うん」

 

 実際はいろいろとやり方はあるのだろうが、今回は穢れを取るというのが最優先。彼岸花というカタチをしているが、これは特異点から穢れを無くすために提供された装置みたいなモノ。植えれば穢れを吸い取ってひたすら成長する、みたいな性能は持っていそうである。

 とはいえ、その気持ちが無ければ育たない。手入れして、綺麗に咲かせようとしなければ、いずれ穢れを吸い取ってくれなくなるだろう。丹精込めて育てなくてはならないと伝えておいて、しっかりやってくれることを願う。

 

「特に穢れが多いのは、あの学校の辺か」

「そうね。だからまずは、あの辺りに植えてみることになるかしら。それか、亡骸を投棄されていた山の上もあるわね。植えやすいところから植えていって、少しずつ増やしていくことになるでしょうね」

 

 あと植えそうなところは、と考えていると、そういえばと思い出すことがあった。

 

「そうだ、慰霊碑。慰霊碑作るんだよな。そろそろやっててもおかしくないんじゃないか?」

 

 あの島で犠牲になった者達を供養する慰霊碑。それを作るという計画は、後始末の早い段階から出ていた話だ。

 

「慰霊碑の周り、彼岸花で埋め尽くしてもいいんじゃないか? 物騒かな」

「いや、それはそれでいいことだと思うわ。供えられる花が簡単には手に入らないんだもの。それに、慰霊碑の周りは穢れなんて無い方がいいと思うわね。なら、植えてあげるのもいいことよ」

「だよな。なら、最初に植えるのは、慰霊碑の側ってことで、ハルカちゃんに話をしてみよう」

 

 その慰霊碑も、建立する場所は既に決まっている。かつて戦闘があり、今はほぼ何も無い状態となった、役場の場所だ。

 

「今頃……いやまぁ今は夜だから作業は終わってんだろうけど、慰霊碑のことも考え始めてっかな。ほら、クロトがやりたいって言いそうじゃん」

「ええ、大分後始末も終わりに近付いてきたし、明日くらいから始めてるかもしれないわね。ただ……」

「明日は雨、ですわ。少し作業が大変になってしまいますわね。そもそも碑をどのように作るのか」

 

 時期も時期であるため、島全体の供養を進めるために、クロトが慰霊碑の建立を本格的に進めようとするのはわかる。しかし、雨天の中でそれがやれるかと言われたら何とも言えない。それに、何を碑とするか、碑文などはどうするかなど、作ると決めてもどう作るかは何も決まってはいなかった。

 もしかしたら今頃、そこをどうするかを決めているかもしれない。雨の中でもクロトならやると言い出しそうなところもある。

 

「どうであれ、彼岸花は慰霊碑のところに植えましょう。まだ無いなら、別の場所で育ててから移植してもいいわ」

「だな。せっかくなんだから、綺麗にしてやりたいもんな」

 

 そんな計画を考えながら、遠征部隊は着実にうみどりへと向かっていった。今は順調、往路と同じように、復路も何事もないことを願いながら。

 

 

 

 

 翌日は予報通り、朝から雨が降っていた。島では後始末19日目が開始され、順調に島は綺麗になっていく。

 そんな中、うみどりに遠征部隊からの通信が入る。帰投中の現状報告のためだ。

 

「おはよう、お疲れ様。そちらは順調かしら」

『こちら遠征部隊、神風よ。今のところは順調。今は少し雨足が強くなってきたから、たまたま見つけた無人島の岩場で休憩をしながら報告しているところ』

 

 遠征部隊は休憩時間を少し多めに取りつつ、危険を回避しながら進行中。雨の中突っ切りたいというのがあったが、少し風が強くなってきており、波が高くなっているということもあって、安全を期して雨宿りできそうな場所で休憩中。

 夜のうちに全員が雨にやられることなく休息を取れていたおかげで、今は誰かが眠るということなく、間食しながら体力を温存しているところだ。

 

『予報では、雨は今日一日中という話だったから、事故が起きないように安全に帰投する。波がずっと高いようなら、もっと安全な場所で待機した方がいいかもしれないわね』

「ん、わかったわ。そもそもそこを考慮して日程を考えていたもの。大丈夫よ。安全第一に帰ってきてちょうだい」

『ええ、そうさせてもらうわ。あ、そうそう』

 

 ここで神風が、昨晩話題に出たことを振ってみる。

 

『吹雪のところから、彼岸花の球根を貰ったの。それを植えれば、地面の中の穢れも吸い取ってくれるらしいわ。で、それを作るって話だった慰霊碑の近くからにするのはどうだろう、なんて話してたのだけれど、どうかしら』

「へぇ、穢れを吸い取ってくれる彼岸花……ありがたいプレゼントをくれたわね。慰霊碑の近くというのもいいアイディアだと思うわ。慰霊碑もそろそろ建立しなくちゃって思っていたところだもの」

 

 うみどりの方でもやはり話題には出ていたようだ。外観では穢れがかなり薄れてきており、後始末も終盤まで来ていることを見た目からもわかるようになってきた今、島の被害者を供養することは必須だと、クロトが伊豆提督に直談判を始めたらしい。

 あまりにも完璧なタイミング。思い出したことがトリガーとなったようにすら感じた。

 

「場所も決まっているし、そこの整備をすることも必要だから、雨の中だけどそれを始めてもいいかもしれないわね。彼岸花を植えるなら、そう出来るように作り始めることも必要かしら」

『そうしてもらえるとありがたいわ。吹雪からはそれなりの量を貰っているから、球根1つでどれくらい綺麗に出来るかはわからないけど、ある程度広い範囲では埋められると思うわ』

「そうなのね。じゃあ、その辺りも計画に入れて、慰霊碑建立を始めたいと思うわ。情報ありがとう」

 

 遠征部隊の無事を知ってホッとしつつ、島の今後を担う新たな行事のために動き出すことになるだろう。

 新たに穢れを吸い取る彼岸花という今本当に必要なアイテムまで入手してくれているのだから、非常にありがたい。

 

「それじゃあ、時間をかけてもいいから、安全に無事に帰ってきてちょうだいね」

『了解。明日中には戻れると思うので、またその時に。帰投中は、定期的に連絡させてもらうわ』

 

 通信終了。そして、伊豆提督はすぐに行動を開始する。

 

「慰霊碑の設計、始めましょうか。島での後始末も、総仕上げよ」

 

 

 

 

 終わりに向かいつつある後始末。その最後に取り掛かるのは、この島で犠牲となった者達の魂を鎮め、供養するための慰霊碑の建立。

 うみどりだけでなく、島の者達全員で取り掛かることになる、一大プロジェクトとなるだろう。

 




石碑というわけにはいかないかもしれないけど、そういうのを作り上げるならば、やはり明石とダウナーの力が必要になるか。
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