遠征部隊が帰ってくるまでの間、島で始まったのは慰霊碑の建立に向けた作業。後始末も終わりに近付き、外観上の穢れはかなり失われたため、ついにその計画が始動する。
この島で失われた魂を鎮め、そしてその犠牲を忘れないためにも、誰もがそこに来られるような、いつでも手を合わせられるような、そんな場所に在ってほしいと考えている。そしてその場所はすでに見当をつけていた。
「ココカ」
早速その場所に赴いたのは、供養という行事に必ず参加するクロト。雨の中であるため、今回は傘を差しながらその場所を吟味していた。深海棲艦ではあるのだが、こういう時は人間の文化をキチンと取り入れ、使用する。
現在の在り方として、死者を憐れみ、その苦しみを少しでも楽にするために、日々祈りを捧げ、時には玉串を振るう、敬虔なる巫女。全てが独自のモノではあるが、その思いはホンモノであり、ここで失われた妖精さんの魂なども、うみどりの立入禁止区域にて全力の供養を捧げている。
「アア、ココナラバ見晴ラシモイイ。港ガ一望出来ルシ、来ルマデモ、ソコマデ険シクハナカッタダロウ」
案内したのはやはりテミスである。同じく傘を差し、
事前にその場所を知っていたこともあり、ここならば慰霊碑を建てるにうってつけだと、自信を持って案内した。
「雨ノ中デモ、問題ナク来ルコトハ出来タナ。確カニ、ココナラバ海モ見エル。辛イ思イヲ、少シハ晴ラスコトガ出来ルダロウ」
その場所は、前々から決められていた、三隈達が飛行場姫と戦闘を行なった、組合の役所跡地。その戦闘でQE姉妹が役所を完膚なきまでに破壊したため、一角が綺麗な更地になっている。
ここには艤装を運び込むような奈落のリフトがあるのだが、それは現在完全に壊れており、今後も使う予定はない。そのため、景観のことも考えて、全てを土で埋めてしまう。周囲の土やら木やらを使っては、その地は海を臨むことが出来るそこそこ広い高台広場として成立しようとしていた。
なお、奈落の埋め立てなどは、民間企業妖精さん達がやってくれていた。実は初めて発生した日から、毎日のように人数が増えていたりする。深海棲艦発生抑制装置へのエネルギーの余剰分が、今は大分有り余っている証拠である。
島のインフラ整備を続けながらも、可能な場所はどんどん直し、そして新たな技術をどんどん取り入れていく。この地の整備に関しても、他のカテゴリーYや深海棲艦の手を借りながらも、確実に進めてくれていた。流石に重機を使うというところまでは行けていないが、だとしても便利なアイテムが開発されて、割と力業も使って進められていた。
「デモ、コノ近クニ建物ハ無イヨネ。クロトハ何処ニ住ム?」
テミスに同行しているテイアからの問いに、クロトはふむと少しだけ悩む。
「一番近イ家ヲ貰ウカ、コノ近クニ一軒建テテモラウカダナ」
「建テルト景観ガ損ナワレルノデハナイカ。悪イガ、近イ家ヲ使ッテクレ」
「アア、言ッテオイテナンダガ、私モソウ思ッタ。魂ヲ鎮メルノニ、私ガ邪魔ヲシテシマッテドウスルトイウ話ダ。シカシ、コノ島ニハ、神社仏閣ハ無イノカ。アルナラ私ハソコニ住ム気デイタノダガ」
「無イヨウダナ、残念ナガラ」
深海棲艦とは思えない会話である。何処に居を構えるか、この島に神社仏閣はないのか、近場の家を住まいにするしかないか。深海に潜む者であるはずの存在とは考えられない。
だが、それがこの島の凄いところでもあり、見習うべきところでもある。種族なんて関係ない、ただ共に生き、共に楽しむだけの、美しい島である。
「ダガ、ドノヨウナ慰霊碑ヲココニ置クカハ、マダ決マッテイナイノダロウ?」
「ウム。ソコハヤハリ、人間ノ力ヲ借リネバナラヌ。我々ニハナイ発想ダカラナ。貴様ハ、ソノ慰霊碑ニ刻ム碑文トヤラヲ考エテオクトイイ」
「弔イノ言葉カ。確カニ必要ダ。私ノ出来ル限リノ言葉ヲ
慰霊碑には碑文が欲しいモノ。だが、深海棲艦は文字の読み書きは難しいだろう。やるのならば、刻みたい文章を考えて、実際に慰霊碑を作ることになるであろう明石やダウナー飛行場姫に伝え、それを入れてもらうということになりそうである。
場所を決めている間に、明石とダウナー飛行場姫は、工廠で慰霊碑の設計を考え始める。伊豆提督や丹陽から、この後彼岸花が届くということも聞いているため、役所跡地の土地を最大限に活かすための設計だ。
インフラ整備に関しては、今は民間企業妖精さんに任せることが出来ているため、少しそこから離れることは出来ていた。たまにはこういう気晴らしも必要だろうという配慮もある。
「そんな派手派手しいモノは作らなくてもイイですからね。モノリスみたいなモノをドンでもいいですよ」
「飾り付けとかする方が、そういう気持ちが薄れそうだしねぇ。そんじゃあ、ちょっとデッカいお墓みたいなデザイン?」
「仰々しくない方がいいと思うので、お墓ってほどドカンと建てなくてもいいんじゃないですかね。カッコつけすぎるのもよろしくないですし」
「あー、そういうことか。だからモノリスって言ったんだ。私さぁ、あんまり公園とか知らないんだよねー」
「あ、では少し見てみますか?」
2人はインターネットを駆使して、好みな慰霊碑広場を調べていく。あの空間──ダウナー飛行場姫はあの場所で戦闘していたこともあり、おおよその広さも把握出来ている──にうってつけな空間の使い方を調べては、ああでもないこうでもないと考えていた。
コレまでとは違い、生活の基盤とか、今後のためとかを考えることもない、ただそこにあってほしいという、一種の娯楽にも繋がる場所。その設計は、これまで戦闘のことが殆どだった明石にも、島のことばかりで娯楽なんて無かったダウナー飛行場姫にも、非常に興味深い楽しい作業に繋がった。
「海が見える場所だから、そういうのを売りにした公園にしてみるのがイイんじゃないかなー」
「そうですね。どんなヒトでも穏やかに過ごせる空間がいいでしょう。ああ、それこそ散歩好きなヌキューさんがイイと言えるような広場にしましょう。ベンチとかも置いて、石畳で整地して」
「彼岸花の花畑はその周りに置いて、そこに向かう道にも植えられたら植えてみる?」
「いいですねぇ。穢れ取りの一環になりますし、慰霊碑を中心に自然を残しながら整地して、その道に彼岸花を生やして、うん、イイ感じに絶景になるんじゃないですか?」
「山頂にも登れるようにするとかね。ほら、あそここそ彼岸花いるでしょ。ゴミ捨て場にされてたしさ」
「ここのヒト達でどんどん育てていってもらって、彼岸花を増やしてもらいたいですね。それを植える場所を提供して、次々拡げていく。それでこの島は彩られますよ」
アイディアはどんどん出てくる。ベクトルの違う設計が楽しくて仕方がない。特にダウナー飛行場姫は、元よりこの島民だ。これまで洗脳もされて縛り付けられ、文化からも隔絶された地にいたこともあり、いろいろと知れることは本当に楽しいようだ。
だるいだるいと言いながらも、この島をいいモノにしようと考えていることは、他の民にも伝わっていた。だからこそ、民間企業妖精さんもダウナー飛行場姫に従うしついてくる。今も各々で島のために素晴らしい仕事をし続けている。民間企業の
「道の整備はあった方がいいよなぁ。そういや、その彼岸花って木の中の穢れも吸い取ってくれるのかな。あの穢れが残ったままだと、後々また穢れが湧いてきそうだし。最悪木も植え替えとか必要かもしれないねぇ」
「やってみないとわかりませんね。なので、球根のいくつかは、最初からその辺りに使ってみたいところです。特異点の力を実験に使うっていうのが、なんというか、やってることが彼方みたいで少し背徳的ではあるんですけど」
「島をみんなで生きていきやすい場所にするだからーって言い訳するのもちょっと違うかなぁ。仕方ないって言葉で片付けちゃいけないとは思うよ、うん」
そこが正しく理解出来ているのなら、まだマシではあろうと考えるモノの、そこは特異点からの許可をもらいたいところである。
「なるべく自然はそのままにして、でも使えそうなところは使って……あれ、こういうの、結構楽しくない……?」
「そうですね。戦いとは関係ない、みんなのための事業ですからね」
「……だるいって思わないんだもんなぁ」
苦笑するダウナー飛行場姫に、明石は温かい笑みを送る。いいことじゃないかと、その気持ちを肯定する。
仕方なく作業をするのではなく、やりたいからやる。それが一番のモチベーションに繋がるのだ。
「まぁ、みんなに力を借りつつ、こんな感じにやっていきたいんだけどって説明すっかね。王様や巫女さんにも許可は取らにゃいかんでしょ」
「そうですね。最終的な決定権はテミス王にありますし、クロトさんが供養に繋がるかという判断もしますから。私達はあくまでもアイディアを出すだけ。あとはまぁ、慰霊碑そのものの建立に手を出すくらいですねー
「そうだよそれだよ。何を使って慰霊碑作んのさ」
「廃材……というわけにはいきませんね。それこそ冒涜です。何処かにいい感じの石材があれば、私達の力で加工してやれば良さそうでしょう。ちなみに、石で開発や改造って出来そうですか?」
「いや試してないし。やってみないと」
必要なことは次々と出てくるが、それが嫌だと感じることはなかった。
慰霊碑建立にいろんな者達が動き始める。そこに悲観的なモノはない。島をよりよくするための作業なのだから。皆が前向きであり、誰も否定しない。
廃材集めて改造して慰霊碑ですと言われても、ゴミで作ったお墓とか何考えてんだって怒られますからね。岩場から純粋な島の石を回収して加工するとかが良さそう。
明日1/31は投稿をお休みさせていただきます。少し混み合った予定が入りまして。次回の更新は2/1となります。よろしくお願いします。