後始末屋の特異点   作:緋寺

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終わりがけの謎

 午後からは作業していた電に代わり深雪が後始末へ。電は逆に執務室で時雨を監視──ではなく、()()()係に。

 深雪の時と違うのは、質問の内容が『何をやっているか』ではなく『やった感想』になったこと。先程まで作業をしていた電だからこそ、リアルな感想が聞ける。

 

「どうしても、最初は慣れなかったのです。でも、ここで命を落とした方々のことを思いながら、安らかに眠ることが出来るように祈って、作業をしていたのです」

 

 深雪がいないこの場でも、電は自分の意見をハッキリと口にした。何かを隠しているわけでもなく、ただ思ったことを言っているだけなので、時雨も何かを疑うことなく聞き続けた。

 深雪のように余計なことを言ったら頭を殴ってくるようなこともないため、時雨としては少しだけ安心していたりする。勿論、もう相手を悪として決めつけるような発言をすることはないのだが。

 

「なるほどね。かなり疲れているようにも見えるけど」

「疲れるのです……こればっかりは、電の体力が足りないだけなので、もっと鍛えなくちゃなのです」

 

 鍛えると聞いて、時雨はまた疑問が出てきた。こうやって話せば話すほど疑問が浮かび、後始末作業を見れば見るほど疑問が浮かぶ。

 ずっと敵対心を持ったままここにいた最初とは違う、ある程度心を許した状態であるため、興味や好奇心が少しずつ芽生えていた。心が軽くなったとも言える。

 

「ここでは艦娘を鍛えているのかい。ああ、考えてみれば当然か。元は人間、本来戦うべき存在じゃない」

「なのです。トレーニング、いっぱいするのですよ」

「へぇ……そのうち僕もやることになるのかな。元凶を始末するためには、僕の力はまだ足りない」

 

 呪いによる憎しみはまだ残ったままであるため、人間を始末したいという気持ちも勿論そのまま。信頼のおけるうみどりの仲間達がその対象から外れただけで、他の人間、特に元凶に関しては、今でも絶対に自分の手で縊り殺してやるという気持ちが強い。

 それをするためには、生まれたばかりの自分では力が足りないのではと考える。ある程度戦える力を持っていることは自覚出来ているのだが、それだけではまだまだ。絶対的な恐怖を与えて、それまでやってきたことを後悔するくらいに滅茶苦茶にしてやりたいと考えてしまう。

 これが呪いの力と言える。本来の時雨は、そんなことを考えることはない。しかし、()()()()()M()()時雨であるため、心の中にはその黒い部分が必ず蠢いている。

 

「時雨ちゃん、怖い顔しているのです」

 

 それに気付かない電ではない。表情を見て、すかさずツッコミを入れた。

 深雪ほど乱暴ではないが、ダメだと思ったことはすぐに言ってやれと、深雪から伝えられていたため、言われた通りに思ったことをすぐさま口に出す。

 

「おっと、どうしても顔に出てしまうようだ」

「電も元凶は許せないのです。でも、そのために鍛えるんじゃなくて、後始末がちゃんと出来るように鍛えるのです」

 

 体力が少なかったら長く作業が出来ないし、筋力が少なかったら重たいものを持ち上げることが難しくなる。どちらも艤装のアシストがあるとはいえ、身体を動かしていることには変わりないため、疲労は溜まるものである。今の電は半日の作業、かつ合間合間に短めの休憩をとっているとはいえ、まだ体力不足が否めない。それをバネに、電はもっと鍛えなくてはと張り切っていた。

 それは電自身が言う通り、戦うためではなく後始末に支障が出ないように。疲労で作業効率が落ちるのは誰にだってあることだが、それが早く起きてしまうと仲間達の足を引っ張ることになる。みんなそんなこと気にしないように言ってくれるが、電がそれを許すことが出来ない。

 

「時雨ちゃんもそのうち、後始末の作業をするのです?」

「……どうだろうね。僕がここにいるのは、人間を見るためだからね」

 

 あくまでも体裁はそれである。人間は信用出来ないが、ここの者達ならばまだ信用出来そう。だから、人間がどういったモノかをキチンと理解するためにうみどりに滞在する。もしこれでやっぱりとなったら、伊豆提督が何と言おうがその力を振るうつもりでいた。

 今は艤装が剥がされてしまっているが、そのまま奪われたままにはしないと、伊豆提督がそこにいるにもかかわらず言い放つ。あくまでも人類に対しては敵対の意志は持っていた。

 

「大丈夫なのです。ここにいたら、きっとそんなことは無いのです」

「言い切るね。根拠はあるのかい?」

「根拠はないのです」

 

 きっぱりと言う電に、時雨はキョトンとしつつも、クスリと笑みを浮かべた。

 

 それは、カテゴリーMが初めて浮かべた笑み。やはり、短時間とはいえここでの生活──()()()()()()が、時雨に変化を齎していた。

 

 

 

 

 夕方まで作業が続き、残骸は8割方無くなった。それでもまだ終わっていないところが大規模である。とはいえ、このままいけば日を跨ぐ前には作業が完了するだろう。

 

「ふぃー、あたしだけ午後から始めてるとはいえ、やっぱ疲れるな」

「お疲れ様なのです」

 

 夕食も昼食と同様、工廠で食べられるように腹に溜まるタイプの軽食。代わりに作業中の休憩でも甘いものなどを食べているため、極端な空腹に苛まれるようなことはない。

 だが、疲労は別である。午後から作業開始した深雪ですら疲労を感じているのに、朝から作業し続けている他の仲間達が疲れていないわけがない。あまり疲労の色を見せていないのは、うみどりの仲間の中でも特にスタミナがある那珂くらいである。

 

「大詰めは電も参加するのです。もう時雨ちゃんは大丈夫だと思うので」

「あいよ。ハルカちゃんも許可出してくれたのか」

「なのです」

 

 時雨もそれでいいということなので、最後は電も加わってフルメンバーに。1人増えたからといって大きく変わるわけではないかもしれないが、少しでも早く終わらせることが出来るのなら、それに越したことはない。

 

「艤装を奪われているんだから、僕は何も出来やしないよ」

 

 その話が聞こえたか、時雨が2人の側までやってきた。伊豆提督を除けば、時雨が最も話をすることが出来ているのは間違いなくこの2人。人間ではなく純粋種であることもあり、気兼ねなく話せるのも深雪と電くらいである。

 

「ずっと後始末の様子を見させてもらっているけど、正直、凄いと思うよ。よくあの作業を淡々と出来るなってね」

 

 歯に衣着せぬ物言いではあるが、その言い分は間違ってはいない。

 一般的に後始末は忌避されるようなモノであり、自分から率先してやりたいと思う者はなかなかいないだろう。そんな作業を、何の文句も言わずに続けられることは、それだけでも()()だ。時雨はそう語った。

 時雨なりの褒め言葉であるとわかるため、深雪も電も満面の笑み。こうやって時雨の本質──艦娘としての根幹の部分を引き出していけたら、そのうち呪いも完全に克服出来るのではないかと思えた。

 

 

 

 

 うみどりからの探照灯によるライトアップで、夜間作業も始まる。残された作業もあと僅か。ラストスパートで一気に片付けていく。

 伊豆提督が危惧していた海中の残骸も、潜水艦達がほぼ全て綺麗に片付けたということで、この海域での作業は見えている範囲だけとなっていた。それがわかると、より気合が入るというものである。

 

「うっし、拾えそうなモノは大概拾ったよな」

「電の目からも見えないのです。こっちの方は全部終わったと思うのです」

 

 深雪と電の残骸集めは終了。大物も見えず、酒匂を筆頭にした海水の濾過がまだ残っているというくらい。

 こうして作業をしている間も、常に清浄化の薬剤が散布され続けているため、黒ずんだ海もかなり綺麗な海へと戻っていた。

 

「まだ日を跨いでいないくらいか。思ったより早く終わったんじゃないか?」

「その分朝が早かったのです。電はちょっと眠くなってきちゃいました」

「確かにな。気張ってたから今までそこまでだったけど、終わったって思ったら急にキツくなってきたぜ」

 

 作業時間だけで言えば、前回の大規模よりは短いかもしれないものの、中規模よりは長い。作業を半分ずつにしていた深雪と電も、朝が早かったというのもあって眠気を感じていた。欠伸を噛み殺しながらも、作業の終わりはちゃんと周囲を警戒して。

 

「すまない! 何人か手を貸してくれ!」

 

 そんな中、長門が現場に響く声で仲間達を集める。なんでも、潜水艦が現場よりも離れたところを確認しに行ったところで、海底に大物が沈んでいるのを発見したらしい。

 それの引き揚げをするために、既に睦月と梅が大発動艇を準備しているほどだった。

 

「お、これはあたし達も出番だな。あたしが初めてやった後始末でもああいうことがあったんだ」

「そうなのですね。なら、苦戦するみたいなことは無さそうなのです」

「ああ。みんなで力を合わせて一気に終わらせちまおう」

 

 そこから仲間達が力を合わせ、海底に鎮座した大物の残骸の対処にあたる。大発動艇を使った滑車と梃子、そして長門を筆頭にした引き揚げ部隊で一気に浮上させると、それはこの現場にあった空母棲姫の艤装と同じくらいの巨大な艤装。しかも、それにへばりつくように深海棲艦の亡骸も存在していた。

 流石に潜水艦2人でどうにか出来るサイズでもなければ、長門が1人で引き揚げられるサイズでもない。

 

「……潜水棲姫」

 

 引き揚げを手伝っていた伊203がボソリと呟く。

 

「ねえねえねえ、これ、何かおかしくない?」

 

 伊26はこの亡骸に違和感を覚えたようで、すぐにそのことを共有するために話し始めた。

 

 潜水艦と戦う場合、使われるのはソナーと爆雷。攻撃の手段は後者しかない。それによってダメージを受けた亡骸は、どうしても()()()()()()()()。これまでの後始末──深雪達がまだ仲間に加わる前──でも、それなりに確認することが多かったが、ここまで綺麗な亡骸は見たことが無いと、伊26と伊203は口を揃えて言った。

 

「この姫で3()()()。報告と違う」

 

 そして、伊203が決定的な発言。事前に報告を受けていたのは姫2体分。しかし、ここで現れた3体目の亡骸。

 

「ここに前からあったってこともない。ここは前に後始末に来てる場所」

「うんうん、ここ、深雪ちゃんを見つけた海域だもんね」

「え、あたし!?」

 

 いきなり名前が出てきて驚いている深雪だが、話は進む。深雪を発見した時も大規模な後始末であり、海上だけでなく海中もしっかり調査して綺麗になっていることを確認している。故に、その時から今までの間にここに現れた亡骸である。

 真っ暗闇の海底でも迷うことがないくらいに方向感覚に優れている潜水艦が口を揃えて言うのだから、これは間違いがない情報である。

 

 今回の後始末のきっかけとなる戦闘でやられたわけではなく、しかし誰からも報告なくここに存在する亡骸ともなれば、答えは限られてくるというもの。

 

「ひとまずこれを運んでから考えよう。このままにしておくのはまずい」

 

 長くそこに置かれていたというのなら、その亡骸が穢れを吐き出し続けていることになる。そうでなくても海に浮かべておくのは後始末をさらに増やすことになりかねない。

 

 

 

 

 最後の最後に見つかった謎の亡骸。この正体は、うみどりで判明することになるだろう。

 




後始末作業終了間際に発見された、3体目の姫。しかも損壊がほとんど無いとくれば、これは事件の予感しかないでしょう。
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