後始末屋の特異点   作:緋寺

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待ち望まれる花

 特異点の彼岸花を集落の畑に植えてみたことで、今後の穢れの吸い出しに期待しつつ、深雪達は遠征中に島で何が起きていたかを知るために、散歩がてら島内を歩き回っていた。畑での作業を終えた後に、役場跡地では慰霊碑広場を造ろうとしていることを春星から聞いているため、今はそちらに向かっている。

 役場での戦いは参加していないものの、全てが終わった後に飛行場姫などの処置をしに行ったり、その後休みの時間で散歩をしたりしているので、その場所がどういう場所かは把握している。それなりに広い場所であるため、公園にするには適しているなと納得していた。

 

 公園もそうだが、この島、集落にも、これといって心を休められそうな場所が無い。絶景があるにもかかわらず、それを楽しめる場所が用意されていないのだ。

 島民なら日頃から見られるから飽きが来るかもしれないが、あるかないかならあった方がいい。

 

「お、工事中?」

 

 その場所に向かう道すがら、少しずつ妖精さんが増えているのがわかる。この島で発生した民間企業妖精さんだ。

 それらが深雪達の姿を見た途端、頭を下げてジェスチャーをしてくる。この先は現在、作業中であるため、足下に気をつけてね、という感じだ。

 

「広場でやってるならまだしも、道から注意されるってことは、もしかして道も弄ってんのか?」

「ここら辺、雨でグッチャグチャになるからじゃない? それにほら、道もボコボコだったし」

「あー、広場があっても、行きにくかったら意味がないってことになんのか。じゃあ整備は必要だな」

 

 まだ整ってはいないが、整えようとしているのはよくわかる。進めば進むほど、妖精さんは増えていき、さらには深海棲艦もところどころで見かけるようになってきた。

 そして、特に進んだ場所では、そこそこ大掛かりなことが始まろうとしている様子。

 

「わぁ、通行止めってあるのです」

「まともに工事してんのな。って、ヌキューか?」

「ア、オ久ー」

 

 役場跡地に近い道には、ついに通行止めの立て看板が立っていた。そしてその先の道は、これまでとは違う姿になっていた。

 ボコボコだったアスファルトは剥がされ、それを『工廠』の力で『改造』された状態で置かれており、道を均しては敷くという作業が始まっていたのだ。

 また、道を歩く際に邪魔になりそうな草や木などは除去され、かなり綺麗な景色となっており、道だけでもかなり楽しめるようになっている。

 

「ココノ道、ヌキューガ任サレタンダヨネー」

「え、マジかよ。じゃあ、ヌキューが歩きやすいように改造してるってことか?」

「ソーユーコトー。オ散歩スルヒトガ増エルカモダカラネー」

 

 自然を完全に破壊することはなく、しかし歩きやすさは重視して。木によってうっすら影が作られつつも、太陽はしっかり見えるような場所。足下はアスファルトで整備されて、側溝も造られることで水捌けもよく、万が一の土砂なども防ぐことが出来るように小さめだが塀なども造る予定のようだ。

 

 担当となったヌ級を筆頭に、案をいろいろと出して、その中で上手いこと折衷案を決定して、全員が納得行くカタチで進めている。工事もリ級と民間企業妖精さんか協力しており、また、平面に踏み固めるのも原始的ではあるが木槌などで頑張っているところだ。手伝える者はみんなで手伝い、種族など関係なしに共同作業で楽しんでいた。

 発展作業は復興と違い自由度が高い。その分、笑顔が絶えない環境となっている。表情が読めない深海棲艦達も、これには楽しんでいるのがわかった。

 

「今ハ通レナイカラネー。ゴメンネー」

「いえ、お邪魔するわけには参りませぬ。我々は今、ただの現状把握のための散歩中。迷惑をかけるつもりはございませぬ故」

「ソーナンダー。ア、ソーイエバ、オ花持ッテキタンダヨネ。ソレ、道ニモ植エラレルカナ」

「おそらく。現在は集落の畑にて、どのように育つかを試しているのです。上手く育つのならば、この道にも植えてみることがよろしいでしょう」

「見映エ良クナルネー。アルナラアッタ方ガイイカラネー」

 

 道が殺風景というわけではないが、華やかになるのなら、それに越したことはない。ヌ級も彼岸花を植えることには積極的である。

 彼岸花が植えられる予定である慰霊碑広場に向かう道にも彼岸花が生えているのは、悪いことではない。むしろ、景色の統一感が出て、より良く見えるかもしれない。そうでなくても、その界隈の穢れを軒並み吸い取ってくれるのはありがたいことだ。

 今でこそ深海棲艦発生抑制装置が機能しているとはいえ、せっかく整備した道に新たな深海棲艦が生まれ、それを破壊するなんてことがあったら悲しい。それを装置でなく穢れを取るというカタチで阻止出来るのなら万々歳であろう。

 

「上手く出来そうなら、ここにも持ってくるよ。場所作っておいてね」

「アーイ。ヤッパリ外側ニパーット咲イテル方ガイイヨネー」

 

 グレカーレがヌ級の頭をペタペタと叩きながら労う。出会った当初は酷い臭いを漂わせていたヌ級も、今や清潔感のある装甲と、その穏やかで間延びした話し方で、この島のマスコットのような楽しい生物と化していた。

 誰もその存在を否定せず、むしろみんなで協力してヌ級を中心としたプロジェクトを成功させようとしている。その光景が、あまりにも平和。深雪達は自然と表情が綻んだ。

 

 工事中ということで回れ右をしたわけだが、話題はあの道の話に。

 

「畑で増えた彼岸花をあっちにも持っていくとするだろ? やっぱ、道の横っ腹をバーッと埋め尽くしてるのがいいかな」

「点々と咲いているより、所狭しの方が綺麗かもなのです」

「あんまり咲きすぎてると、道の方にも来ちゃわない?」

「そこは手入れをすればよろしいのでは。増えすぎても確かに歩くことに困るかもしれませぬが」

「そこは限度ってのはあるよな」

 

 彼岸花を見ながら歩く散歩道に思いを馳せ、その成功を願う。しかし、ギチギチになるまで咲くとなると、あの場所の穢れがとんでもないということを如実に表してしまうことにもなりそうだ。

 

「汚ければ汚いほど綺麗になるってのも、なんつーか、なぁ」

「それは……仕方がないのです。でも、汚いよりは綺麗な方がいいのです」

「だな。あとはどんな色になるかだ。道の横が彼岸花で染まるってのも、なかなかのモンだぜ」

 

 裏事情を知らないなら、それはただ綺麗な風景というだけ。そんな風景が見られる日も近いだろう。

 

 

 

 

 散歩を終えて、現状を把握し、そして遠征班はそのまま半日のお休みを貰うことになる。

 腰を落ち着けて休むことが出来なかったということもあり、自室に戻ってベッドに横になった途端、すぐに眠気に襲われることになった。少しくらい昼寝するのもいいかと微睡み、そして時間は夕暮れ時に。

 

 ここで、とんでもない報告を受けることになる。

 

 昼寝から目を覚ました深雪達は緊急事態だということで工廠に呼び出される。こんな時に緊急とは、まさかまた黒深雪などが襲撃に来たかと不安になり、すぐに準備して向かった。

 

「あ、き、来た来た。姐さん、ちょっといいっすか!?」

 

 そこで声を荒げていたのはジャージ姿の春星だ。何処か焦っているような、しかし驚きが隠せないような、どちらかといえば笑えるような表情で、深雪達が工廠に来るのを待っていたような雰囲気。

 

「ど、どうしたよ」

「さっき姐さんがくれた花の球根あったじゃないっすか。アレが、大変なことに」

「大変なこと?」

 

 特異点の彼岸花を植えたのは、まだおおよそ半日も経っていないくらいだ。いくらなんでも、それがここで何か引き起こすとは考えにくい。

 とはいえ、海底に咲く彼岸花畑は、外敵を肥料にして育つような人喰い植物。吹雪が穢れ認定した場合、触手を伸ばして引き摺り込むようなことまでする。

 花のカタチをした()()()()と称しても、誰も否定が出来ないモノ。

 

「あー、とにかく見に来てください! 悪いことにはなってないんですけど!」

 

 春星の勢いに押され、深雪達は大急ぎで畑へと向かうことにした。悪いことにはなっていないのなら、ここまで焦ることはないだろう。だが、普通ではないことが起きているということには変わりない。

 

「な、何があったんだ? 説明してくれよ」

「それが……あの花、()()()()()()()()()!」

 

 耳を疑う話であった。

 

 

 

 

 急いで向かった集落の畑。深雪達だけでなく、伊豆提督やイリス、丹陽もそれを見るために同行している。

 近付くにつれて、カテゴリーYの島民達が増えてきた。深海棲艦の一部も来ており、なんと道の整備をしていたヌ級までやってきている始末。ここにいる者達がみんな、その光景を見ようと集まっているかのようだった。

 

「植えた球根は5つ。畑に邪魔しないように、2方向に3つと2つで分けて植えてる。そもそも畑って結構な穢れがあったのか?」

「アタシは報告しか受けていないけれど、そこら中が穢れまみれで、作物を育てるのも難しいと聞いているわ。そこにも相当な穢れがあったのかもしれない」

 

 伊豆提督もその事態には驚きを隠せない。今後のために直に見に来ているものの、それをどうしていくかはまだ考えられていないくらいだ。

 

 そして、耳を疑った話を見たことで、今度は目を疑うことになる。

 

 

 

 

「……本当に、咲いてる」

 

 植えた畑の畦には、植えた5つ以上に増えた彼岸花──()()()()()()神秘的な花──が、咲き誇っていた。

 




わずか数時間で花開くどころか増えたっていう。
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