後始末屋の特異点   作:緋寺

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意思持つ花

 畑に植えた、穢れを吸い取る特異点の彼岸花。それが、たった数時間で咲いてしまったという報告を受け、一同はそれを確認しに来ていた。

 

「……マジで咲いてるな」

 

 持ってきた張本人である深雪も、流石にこの光景は予想していなかった。植えたら物凄い速さで成長すると渡される時に言われているが、ここまでとは思わない。せめて数日後、いや、翌日くらいかと考えていた。だが、そんなことはなく、僅か数時間である。

 

「これ、成長するところ見ていた子はいる?」

「いや、いないっす。みんなが目を離した隙に気付いたらコレで」

 

 伊豆提督の質問に春星が答え、他のカテゴリーY達もしきりに頷いていた。夕暮れ時になって、そろそろ終わるかと農具を片付けに行った後、不意に誰かが畑がどれくらいになったか見ようと思ったら、この有様だったらしい。

 そのため、作業中は成長をしているようには見えなかったが、視線が切れたことで溜め込んだ穢れを成長に変えて一気に開花した、と言える。

 実際はずっと見ていたら成長する様子も見えたかもしれないが、今回はそういうことは無し。その辺りも一度実験すべきかもしれない。

 

「にしても……すげぇ蒼いな」

「蒼なのです……帰り道で話していた、青い彼岸花の話が現実に……」

「神風は不気味に見えるかもしれないっつってたけど、そこまでだな。一気に咲く方が怖ぇよ」

「なのです……」

 

 しかし、この速度で咲いたということは、この畑の穢れがとんでもなかったということである。

 穢れの量で咲き方が変わるとも吹雪は話しており、その結果がコレ。ほんの少しの穢れなら、ここまで早く咲くことは無かったろうが、ここはそれほどまでに濃い。これだけ早く咲き、かつ既に増殖まで始まっているのだから、それくらいしなければこの土地の穢れが取れないということを如実に表しているということに繋がる。

 

「まだ畑の穢れが全部取り切れているわけじゃないわね」

 

 やってきたイリスがいつもの眼鏡を使って穢れを確認したが、そこにはどうしても穢れが見えているようだ。全てが終わったわけではなく、まだまだ吸わなくてはいけない穢れはある。

 

 そして、それを伝えるかのように、それが起きた。咲き誇っている彼岸花の根元、そこから新たな茎が伸び始めているのが見えた。まるで高速で早回ししているかのようにニョキニョキと伸びているのが目の前で起きている。

 おそらく、彼岸花の中で穢れが飽和したのだろう。成長するための栄養素にしているというわけではないらしいが、この地を綺麗にするために、穢れを別の物質──この場合は蒼い彼岸花──へと変換して、外に出していると考えるのが妥当。

 この彼岸花自体には穢れもないため、単純に出せるだけの穢れを彼岸花というカタチに変えている。そして、1輪で吸える穢れに限界が来ると、次の花が育つという仕組みだろうか。最初の時間は穢れを充填している時間とも取れる。

 

「これは、また……」

「増えてる……わね……」

 

 目の前でこれが起きてしまうのは、流石に誰もが驚く。伊豆提督やイリスは勿論、ついてきた丹陽ですら唖然としてしまっている程。長生きしていて知識量は凄まじくとも、常識外から見せつけられたら、言葉もないようである。

 

「いや、流石の私だって驚きますよ。こんな未来視えませんから」

「だよねぇ。いくらボスでもこれは、ねぇ」

 

 丹陽の反応にグレカーレがケラケラ笑う。しかし、そんなグレカーレもこの様子には何も言えない。

 

「畑側には入り込もうとしてないわね。それなら、作物は育てられそうかしら」

「だと思うけれど、ちゃんと管理しないと増えすぎて畑や道にまで侵食しかねないわよ」

「ひとまず、ここの彼岸花は一晩様子見、かしら。畑の内側まで入り込むようなら、残念だけれど引っこ抜いて別の場所に移植になるわね」

 

 春星達は、そうはならないでほしいと願っていた。今日までの作業が、穢れ取りのせいで台無しになりかねない。自給自足の一歩目を、こんなことで潰してほしくはなかった。

 それは深雪達も願うことだ。良かれと思って穢れを吸い取ろうとしているのに、そのせいで作物が育たなくなるだなんてことが起きたら困る。

 

「吹雪は穢れを取りたいってことしか知らなかったもんな……何処にどうやって咲くかなんて考えねぇよ」

「吹雪様の彼岸花畑は、好きなように咲かせているのでしょう。ここからここまでは咲かないようにとは考えておられないのでは」

「ああ、あたしもそう思う。だから、あたし達でしっかり育ち方を管理してやらないとだ」

 

 元はと言えば、そうなるほどに穢れを溜め込んでいたのが悪いのだが、今はそんなこと言っていられない。

 まずは一晩。畑の穢れを吸って成長する彼岸花が、少し置いておいてどうなるかを確認してからである。

 

 

 

 

 少しそわそわしながらもこの日は終わり、全員が休んでから一晩。そして朝になり、後始末屋21日目が開始される。この日も大詰めとなっているため、休息を取る部隊はいない。全員が力を合わせて後始末を続けている。

 

「畑はどうなったよ……」

 

 深雪達は伊豆提督に言われて彼岸花を植えた畑の様子を見に向かう。特異点の花には特異点に向かってもらうということで満場一致。何事もないことを願いながら一晩過ごしたが、それが功を奏しているか否か。

 

「春星、おはようさん。見に行ったか?」

「姐さん、おはようございます。まだなんで、みんなで行くつもりっす」

 

 春星率いる昨日畑を開墾していた者達も少しそわそわしていた。畑すら埋め尽くすことになっていませんようにと願い続けていたという。

 特異点は優しい願いを叶える存在だ。しかし、植物のようなモノでもあるため、深雪達や島民の願いを聞き入れてくれるかどうかはわからない。

 

 ハラハラしながら畑へと進み、そしてその光景を見た途端、一同は息を呑む。

 

「……すげぇ……」

 

 そんな言葉が出たのは春星である。蒼い彼岸花が一面に咲き誇っているが、畑には一切侵入していない。それどころか、畑に人が入ることすら妨げないように、育つ場所が管理されているかのようだった。

 

 2方向に植えた彼岸花は畑の2辺を埋め、まるで防波堤の如く立ち並んでいる。だが、もう2辺に関しては、全く咲いていない。人がそこを歩くため、踏んでもいい場所をキチンと作っているのだ。

 当然ながら、畑の内側に入るようなこともない。むしろ、ほんの少し離れた位置までしか生えていないため、根が畑を掠めるようなことすらしていなかった。

 田舎のお彼岸の田園風景のような、多く咲いているが人間と共存しているかのような光景。それが、日もない夜のうちに作り出されていた。

 

「こりゃすげぇや……この彼岸花、もしかして意思があるのか?」

「かもしれないのです。意思があるから、電達の願いを理解してくれたのかもなのです」

「自分で生える位置決められる花とか、ありがたいねぇ。だとしたら、道に植えれば道に入らないように生えてくれるのかな。ここには生えないでってところ、全部自分で理解してやってくれるのかな」

「かもしれませぬ。ここまで賢く、美しい花とは……流石は特異点の花、と言えましょうか」

 

 意思ある花であるが故、願いの通りに咲き誇る。そんな感じに思えて、この光景を見た者は、ただただ感嘆の息を吐くことしか出来なかった。

 

「話ニハ聞イテイタガ、素晴ラシイ光景デハナイカ!」

 

 そして、この島の王であるテミスも、畑の様子を見に来ている。彼岸花の話は既に聞いており、いくら特異点から授かった穢れを取るアイテムだとしても、生活を乱すことだけはしてくれるなよと真剣に願っていた。その願いが叶っている光景を見て、いつもの豪快な笑みを浮かべている。

 

「コノ島ノ象徴ノ花トシテ定メヨウ。穢レヲ消シ、我々ノ未来ヲ美シイモノヘト導イテクレル、アリガタイ花ダ」

「そっすね……ここまでオレ達に寄り添ってくれる花っすもんね。ちゃんとオレ達で手入れもして、ずっと咲いてくれるようなしていきますよ」

「ウム、ソレガイイ。コノ素晴ラシイ風景ヲ、イツマデモ維持シテイコウ」

 

 テミスもこれにはご機嫌である。この島の土壌改善にも貢献してくれている彼岸花に感謝を込めて、側で膝をついて撫でるように愛でた。実に素晴らしいと、満面の笑みである。

 意思があるのならば、テミスにとって、この彼岸花も島民、つまりは自分の配下扱いとなるのだろう。配下には手を尽くし、楽しく日々を過ごせるように尽力する王は、相手が花であってもその態度は変えることは無かった。

 

「深雪ヨ、コノ花ハマダアルノカ? 植エタイ場所ハマダマダアル」

「ああ、ここに植えたのは試しだったからな。他にも植えられるぜ。慰霊碑広場にも植えるって聞いてたしな」

「ウム。ナラバ、サラニ試シタイ場所ガアル。クロトニ聞イテイテナ、奴ガ生マレタ場所ハ、特ニ穢レガ多イノデハトイウ話ダ。コノ花デ、清メルコトガ出来レバト話シテイタノダ」

「クロトが生まれた場所……ああ、山のてっぺんの方か。クロトが亡骸を土に埋めようとしてたところな。確かにあそこは植えた方がいいと思う」

 

 クロトの埋葬が原因というわけではなく、そもそもが投棄場にされていたということもあり、あの場所の穢れは畑などとは比べ物にならないくらい深刻だろう。

 彼岸花で、全てを吸い尽くすにはどれだけの時間がかかるかはわからないし、それこそ際限なく増えていくようにも思える。だが、テミスは少し考えを持っていた。

 

「ソノ場所ハ、大キクコノ花ヲ咲カセル場所トシタイ。広ク場所ヲ使イ、花ニヨル土壌改善ヲ、山ノ上カラ進メテイキタイト思ウ」

「いいんじゃないか? 下にも植えりゃいいけど、上からどんどん下に育っていってくれてもいいもんな」

「広場ニモ勿論植エルガ、コノ花ハ島ノ象徴ト定メタ。其処彼処ニ生エテイテモ、問題アルマイ」

 

 この繁殖性で島中の穢れを根こそぎ吸い取っていく。そして、時間をかけてでも島をより良いモノにする。テミスは彼岸花による、さらに明るい未来を見据えていた。

 

 

 

 

 特異点の彼岸花は、島の象徴へ。そして、島の未来を担う、島民の一員となる。

 




蒼い彼岸花畑が山頂から拡がっていく光景が、離れた場所から島を見た風景の基本となるでしょう。
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